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第9回 CPUを支える舞台装置

CPUやメモリ、入出力装置、外部記憶装置など、コンピュータを構成する機能とそれを実現する部品の説明をしてきました。それらの動作を、コンピュータのはたらきとして実現する舞台装置がマザーボードです。母なる板、CPUにとってはまさに母なる大地に相当します。今回はこのマザーボードのお話しです。

マザーボードはCPUと、メモリ、入出力機器、外部記憶装置を物理的に接続するだけでなく、各装置や機器からの情報をCPUが働きやすい形で伝え、CPUからの情報を、各装置や機器の動作、規格、速度に合わせて送り出します。


マザーボードとは

マザーボードはコンピュータ構成部品の機能を統合し、コンピュータの働きを実現する重要な役目を担っています。CPUをはじめとする主要な構成部品は、マザーボードに搭載されたソケットやスロットに取り付けられます。電源もマザーボードから供給されます。さらに、周辺機器など外部入出力機器も直接的または間接的にマザーボードに接続されます。マザーボード上ではそれらの機器や部品からの情報をチップセットと呼ばれる制御用のLSIが加工し、調整してCPUに渡します。CPUの処理結果も同様にマザーボード上のチップセットで各機器用に加工され送り出されます。例えば、キーボードからの入力は、マザーボード上のキーボードコネクターからキーボードコントローラーを経由してチップセットに送り込まれます。チップセットはそれをCPUに送り込み、結果はCPUからチップセット、I/Oコネクターを経由してディスプレイやプリンタに送られます。すべてはマザーボードに送り込まれ、マザーボードから送り出されます。

ATX規格

市販のマザーボードのほとんどがATX(最大305×244mm)またはmicroATX(244×244mm)規格に準じています。ATX規格は、1995年にIntel社によって策定されました。それ以前にはBabyATなどの規格はありましたが、詳細な部分まで規定されておらず、メーカーによって設計はバラバラでした。ATX規格は、PC背面のポートの位置からボードの固定するネジの位置、主要パーツの配置、寸法、電源電圧など、細かく規定することで、統一性と互換性が生じ、原則的にどのパーツメーカーの製品でも組み合わせ可能になりました。市販のケース、マザーボード、電源のほとんどがATX規格に準拠しています。
マザーボードには、他に省スペースタイプのNLXやFlexATX、MiniITX、逆に大型のエクステンデッドATXなどがありますが、一般的とはいえません。
現在、Intel社はBTX規格マザーボードを提唱しています。コンピュータの高速化に伴う発熱量の増大に対応して、基板上の部品の放熱をトータルに考慮した規格です。一部では商品化されていますが、対応するBTXケースなどの品揃えはまだこれからです。

マザーボード上のコンポーネンツ

マザーボード上には数多くのチップやソケット、スロット、コネクターが装備されています。 次の図は、マザーボードの概観図です。

  1. ATX電源コネクター
    電源ユニットと接続してマザーボードに電源を供給します。電源もATX規格のものを使用します。このコネクターから、CPUをはじめとしてマザーボードに搭載されているコンポーネンツに電源が供給されます。
  2. IDEコネクター
    IDE HDDやCD-ROMやDVDドライブなどの補助記憶装置に接続します。
    CH0とCH1の2系統が装備されており、それぞれのコネクターに2台ずつ接続することができます。通常は、CH0にHDDを、CH1には光学ドライブなどを接続します。最近では、SerialATAという新しい接続形態ができたことから、IDEコネクターを1個しか装備しないものもあります。その場合はHDDをSerial ATAに、光学系ドライブをIDEに接続することになります。
  3. サウスブリッジコントローラー
    チップセットと言われるLSIです。2個で構成されるうちの1個です。キーボードやマウス、USBなどのようにCPUと情報のやりとりをする機器をコントロールします。
  4. Serial ATAコネクター
    Serial ATA HDDなどのSerial ATAインターフェースを持つ機器を接続します。データ転送はIDEに比べて高速です。通常、IDEとSerial ATAの両方にHDDが接続されている場合はSerial ATAに接続されたHDDが優先されます。
  5. FDD用コネクター
    フロッピィディスクドライブを接続します。
  6. BIOS ROM
    BIOS(Basic Input and Output System)プログラムとそのセットアップ内容を記憶しておくためのROM。かつては電気的に消去・書き換えが可能なEEPROMが使われていましたが、現在は書き換えが容易で不揮発性のフラッシュメモリが使われています。
  7. PCIスロット
    PCI対応の拡張ボードを取り付けるためのスロットです。 最近では、PCIに代わってPCI Expressスロットを搭載したものが増えてきました。ただ、市場に出まわっている拡張ボードは圧倒的にPCI対応製品で、当面はPCIスロットが消えることはなさそうです。
  8. AGPスロット
    ビデオカード専用のスロット。PCIバスよりも高速なバスでCPUと接続されており、AGP対応のビデオカードを取り付けます。ビデオカードは高速動作が必須なので、高速なPCI Express x16スロットへの世代交代が進んでいます。
  9. 外部I/Oコネクター
    外部機器を接続するためのコネクター類です。キーボード、マウス、USB、サウンド、シリアル、パラレル、LANに加えて、IEEE1394(i-Link)やSP/DIF(デジタルオーディオ)、ビデオ出力などを装備したものがあります。
  10. CPUソケット
    CPUを取り付けるためのソケットです。Pentium4ならSocket478、AthlonならSocketAというようにCPUごとに対応するソケットは決まっています。ソケットを囲むように取り付けられている黒い台座をリテンショナーといい、重たいCPUクーラーを固定するためのガイドです。
  11. ノースブリッジコントローラー
    チップセットと言われるLSIです。2個で構成されるうちの1個です。メインメモリやグラフィックスのようにCPUと高速に情報をやりとりする機器をコントロールします。
  12. メモリソケット
    メモリを取り付けるためのソケットです。DDR2規格への対応と、2本のメモリを並列にして使用するデュアルチャネル動作が主流で、デュアルチャネルの場合増設は2本単位となります。
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マザーボードのはたらき

マザーボード独自のコンポーネンツのうち、これまでに説明していないCPUソケット、チップセット、拡張スロットについて概説します。

CPUとCPUソケット

CPUソケットは、CPUをマザーボードに取り付けるための重要なパーツです。CPUごとに対応するソケットは決まっています。


※Socket A

CPUとソケットの対応を一覧表にしました。
CPUの性能向上に伴ってピン数が増えて行くのがよく分かります。
従来i486CPUの頃からの連番で付けられていたソケットの名称は、現在ではピン数で表されます。

ソケットタイプ ピン数 対応するCPU
Socket1 169 486SX/DX
Socket2 238 486SX/DX/DX2
Socket3 237 486SX/DX/DX2/DX4
Socket4 273 Pentium 60MHz/66MHz
Socket5 320 Pentium 75MHz〜
Socket6 235 486DX4
Socket7 321 Pentium/MMX Pentium/WinChip2/MII/K6-2/K6-III
Socket370 370 Pentium III/Celeron/CyrixIII/C3
Socket8 387 Penitum Pro/Pentium II
Socket423 423 Pentium4
SocketA 462 Athlon/Duron
Socket478 478 Pentium4/Celeron
Socket479 479 Pentium M/Celeron M
Socket563 563 Mobile Athlon XP
Socket604 563 Xeon
Socket754 754 Athlon 64 Single Channel
LGA775 775 Pentium D/Pentium4/Celeron
Socket939 939 Athlon 64 Dual Channel
Socket940 940 Opteron
※グレーで表示しているソケットを搭載しているマザーボードは市販されていません。
※Slot1などのスロットタイプは掲載していません。

多機能化するチップセット

さまざまなコントローラーや拡張ボードの機能を、2個または1個のLSIにまとめたのがチップセットです。PC/ATの時代には、シリアルインターフェースやFDDコントローラーなどは、ISAバスに拡張ボードとして挿していました。しかし、こうしたインターフェースやコントローラーはほとんどがオンボード化され、1個か2個のLSIにまとめられました。
標準的な2個の構成では、1つはノースブリッジ(North Bridge)、もう1つはサウスブリッジ(South Bridge)と呼ばれます。ノースとサウスはマザーボードのブロックダイヤグラム上の位置関係でCPUを最上位にして、それに近い方が上(地図上の北)でノースとしています。ブリッジはCPUと各機器との橋渡しという意味です。ノースブリッジは、CPUバス、メモリバス、AGP、PCIバスをコントロールします。サウスブリッジは、IDE、USB、LAN、オーディオです。

上図のように、ノースブリッジ相当のチップをMCH(Memory Controller Hub)、サウスブリッジ相当をICH(I/O Control Hub)と呼ぶことが多くなってきました。MCHはAGPバス、メモリ、CPUをコントロールし、ICHとは専用のバスで接続されています。ICHが担当する機能はPCI・IDE・USB・LAN・オーディオです。PCI Expressはチップセットにより、MCHの場合もICHの場合もあります。
最近ではビデオ機能だけでなく、RAIDや無線LANを搭載したものも登場しています。
対応するCPUはもとよりオンボードにどんな機能が搭載されているかがマザーボードの選択基準になってきました。チップセットの役割が重要になってきています。

拡張スロットの主流はPCIからPCI Expressへ

PC/ATのころのコンピュータでは、ビデオカードはもちろん、シリアルインターフェース、パラレルインターフェース、サウンド、LANなどのインターフェースは、すべてISAバスに拡張ボードとしてスロットに挿して使用していました。現在ではそのほとんどがマザーボードに搭載されています。しかし、コンピュータにはない機能の拡張やオンボードよりも高度な性能を求めるときには、拡張ボードを使用することになります。そのためにマザーボードには拡張スロットが装備されています。


PCI Express x1スロット

拡張スロットは、拡張ボードを挿すための差し込み口のことです。その差し込み口はバスと呼ばれる伝送路でチップセットと結ばれ、その先でCPUに接続されています。
バスは、コンピュータ内部でデータをやり取りするための配線のことです。何本かの信号線が平行して配線されており、それらの配線で同時に複数のビットを転送しています。1回の転送で同時に送られるデータの量を「バス幅」と呼び、バス幅は大きければ大きいほど高速に動作することになります。
拡張バスにはNECのPC-9800シリーズで使われているCバス、PC/AT互換機で使われるISAバスやPCIバスなど、時代とともに様々な規格があり、より高速に、バス幅をより広く、を実現しながら今日に至っています。また、それぞれに対応した拡張スロットの規格があります。

これまでの代表的なバス規格には次のようなものがあります。

名称・発表または発売年 説明
XT
(1983)
IBM社「PC/XT」に採用されたバス。「ISAバス」の元になった仕様で、クロック周波数4.77MHzで動作する。最大転送速度は2MB/s。「8ビット ISAバス」と呼ばれることもある。
SA
(Industrial Standard Architecture) (1984)
バスクロックは8MHz、バス幅は16ビットでデータ転送速度は8MB/s。PC/ATで採用されIEEEが正式に標準化。一世を風靡したといってよいバス規格。2001年頃にはPCIバスに置き換えられた。
VL
(VESA Local bus) (1992)
パソコン向けグラフィックス機器メーカーの業界団体VESAによって策定された。主にグラフィックスの性能を高めるために策定された拡張バス。ISAまたはEISAスロットの延長線上に配置される。最大データ転送速度は132MB/sで、他の有名なバス規格と共存できるという特徴を持つ反面、拡張スロットの数が少ない、動作が不安定になりやすいなどの欠点がある。
EISA
(Extended ISA) (1998)
ISAをベースに性能や機能を高めた規格で、データ・バス幅32ビット、最大転送速度33MB/s。ISAとは互換性があり、ISAカードを装着できる。IBM社のMCAバスに対抗してIntel社やCompaq Computer社が中心となって策定されたが、あまり普及しなかった。
PCI
(Peripheral Component Interconnect) (1992)
バス幅32ビットで動作周波数33MHz。最大データ転送速度は133MB/s。最新の規格ではバス幅64ビット、66MHz動作で最大533MB/sの高速な仕様も規定されている。もともとはコンピュータの内部バスだった。現在、拡張バスとしてもっとも普及しており、Macintoshにも採用されている。
AGP
(Accelerated Graphics Port) (1996)
AGPにはx1、x2、x4・・・と、動作モードにいくつかの種類がある。バス幅は32ビット。
通常モード(x1)で66MHz、転送速度は266MB/s、2倍(x2)では133MHz、転送速度は533MB/s、4倍(x4)では266MHzで10.6GB/s、8倍モード(x8)では2.13GB/sに達するが、最大8GbpsのPCI Express x16に置き換えられつつある。
PCI Express
(2002)
転送速度は2.5Gbps。複数本を束ねて使うことも可能なため、PCI Expressを2本(「2レーン」と呼ぶ)束ねて5Gbpsの転送速度を実現することができる。x16 PCI-ExpressはAGPバスに代わるグラフィックス・デバイスのインターフェースとして利用されている。PCI Express x1をベースとした新たなPCカードの規格であるExpress Cardも策定されている。転送プロトコルはPCIと共通だが、シリアル転送を行うので、PCIとの互換性はない。
AMR
(Audio Modem Riser) (1998)
拡張カードを追加するためのインターフェース規格。サウンドカードやモデムカードに対応したスロットでアナログ信号を扱うカードを追加するための仕様。
CNR
(Communication and Network Riser) (2000)
Intel社のライザーカードの規格。AMRを拡張したもの。LAN、オーディオ、モデム、USBなどの機能を搭載できる。マザーボードに手を加えず、ライザーカードだけで国ごとに異なる通信規格などに容易に対応できるなどのメリットがある。
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これからのマザーボードと拡張ボード

マザーボードを含め、ATX規格に代わるものとして、Intel社はBTX規格を提唱しています。
一部ですでに商品化されていますが、多くのメーカーがすぐにこの規格に追随するのは困難と考えられます。市場には、ノウハウを詰め込んだATX資産が豊富に揃っており、これを急激に切り換えなければならない切迫した事情に乏しく、各社とも様子見の雰囲気があります。しかし、いずれ高速CPUとビデオ機能まで抱え込んで高負荷になりがちなチップセットの放熱・冷却を真剣に考えざるを得なくなることは確かですので、BTXの本格普及も遠い話ではないかもしれません。ただ、最近では、普及に失敗したRDRAM、競合他社連合にEISA規格を立てられたIBMのMCAなどの事例があり、業界のリーダーシップを握るIntel社の規格といえども必ずしも標準になるとは言い切れません。
一方で、チップセットの高機能化によるオンボード化の進行と拡張ボードの高性能化の流れが止まることはないでしょう。

オンボード機能の充実

LAN、サウンド、USB、IEEE1394コントローラーなど、これらは、ほとんどのマザーボードに搭載されています。ビデオ機能を搭載したものが増え、無線LANやRAID、LANの二重化などオンボード機能は豪華になる一方です。PCI Express x16クラスのグラフィックを必要とするユーザーは別としても、オンボードでも一般的な用途には十分すぎるほどの性能を持つビデオ機能を搭載したマザーボードは珍しくありません。チップセットの機能強化・拡張はさらに継続されることになるでしょう。マザーボード単体でどこまでの機能を搭載しているかでマザーボードの優劣が決まるようになります。

拡張ボードは高機能化でオンボードと対決

従来、拡張機能であったインターフェースがオンボード化され、ビジネスや家庭での一般的な用途では、拡張ボードによる機能拡張は必要なくなったといってもよいでしょう。ボードメーカーは、オンボードのコントローラーでは満足できないユーザーにむけて、より高機能・高性能なボードを提供する方向に進むことになるでしょう。オンボードコントローラーでは実現できない機能や性能を搭載してパワーユーザーを取り込むことになります。

かつて、パソコン自作派を悩ませたのがパーツ間の相性でした。拡張スロット内で発生するボードの競合は、オンボード化によって見事に解消されました。しかし、CPUが3GBを超えるクロックで動作し、ビデオカードが8Gbpsの帯域を持つようになると、デバイスの発生する熱、回路内の信号遅延など、マザーボードが本格的な見直しを迫られる日は遠くないように感じられます。

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第9回   CPUを支える舞台装置
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