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第11回 PCを取り巻く規格の話「8回目 情報を持ち歩く」で紹介したUSBメモリに、アニメのキャラクターや食品サンプルのような奇抜なデザインのものが市販されています。もちろん、PCに接続するコネクタ部分は他のUSB機器と同じなので、USBメモリとして使用するのに何の問題もありません。このようにコネクタやプラグジャック、ケーブルなどさまざまな部品が一定の規格に基づいてPCに採用されています。PCの部品が問題なく交換できるのは、規格により電気的、物理的に統一されているからです。今回はそういった規格についてのお話しです。 1984年、米IBM社が16ビットパソコンIBM PC ATを発表しました。当時IBM社は周辺機器メーカー向けにPCの内部構造を積極的に公開し、その結果、IBM PC ATのソフトと周辺機器を利用できるようにするため、各パソコンメーカーはIBM PC ATの仕様に準拠したPC AT互換機を相次いで開発しました。このころからPCの規格がスタートしたと言ってよいでしょう。 その後、各種規格はメーカーや規格団体によって整備され、今日に至っています。
役割を終えつつあるレガシーインターフェースレガシー、つまり「遺産」と呼ばれるインターフェースがあります。より高機能・高性能な代替規格が登場し、過去に登場した機器との互換性を保つためだけに実装されるものや、PCの他の機器の性能向上に対して取り残されてしまったインターフェースのことを指します。 ●PS/2(ピーエスツー)ポート米IBM社がIBM PC ATの後継としてPS/2というシリーズ名でリリースしたパソコンがありました。このPS/2に採用されたインターフェース規格がPS/2ポートです。PC AT互換機で標準的なインターフェース規格として実装されることになり、マウスやキーボードの接続に使用されています。しかし、1996年に周辺機器用のインターフェースとしてUSB規格が策定され、入出力機器用コネクタの規格は徐々に汎用性の高いUSBへの置き換えが進んでいます。その結果、PS/2ポートは古い規格、つまりレガシーインターフェースとして扱われるようになっています。 PS/2ポート ●セントロニクスポートセントロニクスは、米Centronics Data Computer社が自社用のプリンターインターフェースとして開発し、他の多くのパソコンメーカーが採用したことで、事実上パラレルポートの標準インターフェースとなりました。 8ビットずつデータを並行に転送しますが、転送速度は最高100K〜150KB/秒と遅いため、1994年にはIEEEがセントロニクスを拡張する形でIEEE1284を制定し、標準化が行われました。その際、セントロニクス互換モードのほかに、高速なEPPモードやECPモードが追加されました。
●RS-232C(アールエスニサンニシー)ポートEIAによって標準化されたシリアル・インターフェースです。モデムやISDN用のターミナルアダプタ、スキャナなどの周辺機器とPC間のデータ転送に用いられます。PC側ではCOM1、COM2といった番号を付けて扱われます。 通信速度は、規格上、最高115.2kpps、ケーブルの最大長は約15mとされています。コネクタの形状には9ピンまたは25ピンのD-Subがあります。 シリアル通信方式としては最も普及したインターフェースですが、やはりUSBにとって代わられようとしています。
●SCSI(スカジー)ポートSCSI (Small Computer System Interface) は、ANSIによって規格化された高速データ転送のインターフェースです。Shugart社(現在のSeagate Technology社)の開発したSASI(サシ)が規格化されたものです。 SCSIポートには、外付けハードディスクやCD-ROMドライブ、MO、スキャナなどの周辺機器を最高7台まで接続可能で、一世を風靡した時代もありましたが、デジーチェーン(数珠つなぎ)でしか接続できず、各機器に対して個別IDの設定が必要、転送速度や接続できる長さの制限など制約が多く、取扱いが楽なUSBや転送速度の速いIEEE1394に移りつつあります。 50pinSCSIケーブル 拡張されるインターフェース規格レガシーインターフェースと呼ばれる規格がある一方で、使い勝手や機能面、転送速度に優れた技術を採用することで、機能的に拡張され続けるインターフェースがあります。その一つに、PCとハードディスクなどの記憶媒体を結ぶ規格があります。その代表格がIDEとSATAです。 ●IDE(アイディーイー)IDEはCompaq Computer社やWestern Digital社などが共同で開発し、1989年ANSIによって「ATA」として標準化された規格です。 BIOSによって直接制御することができるため、SCSIなどほかの規格方式に比べて簡易で低コストという特徴があります。しかし、接続できるのが同時に2台までであり、接続できる機器はハードディスクに限定され、さらに接続可能な容量が528MBまでに制限されているといった弱点があります。そのため、IDEを拡張したE-IDE(Enhanced IDE)という規格が開発されました。E-IDEでは接続可能なハードディスクの台数が4台までになり、CD-ROMドライブやDVDドライブなどの周辺機器も接続できるようになりました。また、転送速度も高速になり、E-IDEは現在では実質的に標準規格となっています。 IDEケーブル等の説明は「10回目 動作を支える舞台装置」でも紹介させていただいていますので、そちらを参照ください。 IDEケーブル ●SATA(エスエーティーエー、またはシリアルエーティーエー(Serial ATA))SATA(Serial Advanced Technology Attachment)は2000年11月に業界団体「Serial ATA Working Group」によって仕様が策定された規格です。 SATAは、現在のATAで採用されていたパラレル転送方式(データを複数の信号線を使って同時に複数のビットを転送する方式)を、シリアル転送方式(データを1本の信号線を使って1ビットずつ転送する方式)に変更したものです。従来のパラレル方式のATA仕様で転送速度が最も高速なのは、「Ultra ATA/133」の133MB/秒ですが、一方でSATAの最初の規格「Ultra SATA/1500」は1.5Gbps(約190MB/秒)と、約1.4倍の速度を実現します。 転送速度を大幅に向上させる一方、ソフト的には従来のATAと完全な互換性を維持しています。また、シリアル転送のメリットでもある、細いケーブルの採用、最大ケーブル長3フィート(約91cm、従来の約2倍)、ホットスワップ(通電中のケーブルの着脱)など、使いやすさと性能が大幅に向上しているのが特徴です。 SATAケーブル 進化するインターフェース規格従来の規格との互換性を保ちながら改良され、拡張される規格がある一方、物理的互換性を断ち切る形で進化する規格があります。その例として、バス規格であるPCI、AGP、RAMBUSについて説明します。 ●PCI(ピーシーアイ)PCI(Peripheral Component Interconnect)は、Intel社を中心としたPCI SIGにより策定された、PC内部の各パーツ間を結ぶバス規格です。 バス規格としては、PC ATが登場した時点から拡張バスとして広く使われていたISA(アイサ、Industry Standard Architecture Bus)バスがありました。しかし、CPUが高速化するにつれ、転送速度や機能面がシステム全体のボトルネックとなっていました。これを解消するためにEISA(イーアイサまたはエイサ、Enhanced Industry Standard Architecture )バスが登場しましたが、互換性やコストの問題で完全な代替とはなりませんでした。そういった中、内部バスとしての規格として登場したPCIバスは、1993年に仕様が定まった時点でPentium搭載以降のデスクトップPCで一般的に採用され、ISA/EISAなどの既存バスを置き換える標準バスとなりました。 最初のPCI規格は、バス幅(1回の転送で送れるデータ量)32ビット、バスクロックは最大33MHz(1秒あたりの転送回数)で最大データ転送速度は133MB/秒でした。最新の規格ではバス幅64ビット、バスクロックは最大66MHzで、最大データ転送速度は533MB/秒の高速な仕様のものがあります。またサーバ向けに拡大したPCI-X や小型 PCI カードのフォームファクター Mini PCI、省スペース設計の筐体に対応した Low-Profile PCI など、時代のニーズにあった規格も登場しています。 さらに、Intel社を中心に開発が進められたPCI Expressという次世代のPCIバス規格が登場しました。ソフトウェア的には従来のPCIの上位互換となりますが、ハードウェアは全く異なり、バス規格ながら実際にはデバイスごとにピア・ツー・ピア接続を行っています。PCIバスの最大転送速度が133MB/秒であるのに対し、PCI Expressでは1伝送路(レーンと呼びます)、片方向あたり250MB/秒へと引き上げられています。PCI Expressは、レーンを複数束ねた構成になっていることが多く、1レーンのポートを「PCI Express x1」、2レーンのポートを「x2」と呼びます。最大は32レーンの「x32」で、この時のデータ転送レートは「x32」で8GB/sにも達し、AGPポートに代わる高速ビデオカード用のバスとして利用されています。 ●AGP(エージーピー)ビデオチップと高速データ転送のために策定された専用バス規格です。3次元グラフィックや動画など、大容量のグラフィックデータを高速にやりとりするために、従来のPCIバスとは独立した専用のデータ伝送路として開発されました。バス幅は32ビットで、転送速度は266MB/秒の通常モード(AGP 1x)、533MB/秒の2倍モード(AGP 2x)、1.06GB/秒の4倍モード(AGP 4x)、2.13GB/秒の8倍モード(AGP 8x)の4種類が規格化されています。 ●RAMBUS(ラムバス)RAMBUS は、Rambus社が開発したメモリ用のシリアルバスの規格で、バス幅は8ビット、バスクロックは600〜700MHzで最大データ転送速度は600MB/秒と非常に高速です。DRAMの外部インターフェースをRambusに置き換えたRDRAM、より高速なDirect Rambus技術を採用したDirect RDRAM(DRDRAM)は、SDRAMにかわるPCのメインメモリに採用されることが計画されていましたが、安価なDDR SDRAMに押され、PC市場ではあまり普及していません。 そういった状況の中、RAMBUSは任天堂のゲーム機「NINTENDO 64」やソニーのゲーム機「PlayStation 2」などコンシューマ向けの機器に採用されました。またネットワーク通信分野でも次世代の規格として採用されています。 今、主流のインターフェース規格現在PC市場で最も普及している規格を説明します。どのパソコンのカタログでも見つけることができる規格です。 ●USB(ユーエスビー)USB(Universal Serial Bus)は、低速、中速向けのシリアルバスの規格です。キーボードやマウス、ジョイスティック、モデム、プリンタなどの周辺機器と接続できます。USB接続を正式に採用したのはWindowsは95OSR2からで、本格的に使われたのはWindows 98からになります。また、Macintoshでは1998年に発売されたiMacがシリーズを通して採用されました。USB 1.1は最大で12Mbpsというかなり低速転送の規格でしたが、高速転送のUSB 2.0(HI-SPEED USB)の480Mbpsが策定され、USBハブを介して最大127台までの周辺機器を接続可能で、電源を切らずに自由に抜き差しができること(ホットプラグ)などから、急速に普及しました。 ●IEEE1394(アイトリプルイーイチサンキュウヨン)IEEE1394はPC周辺機器に限らず、デジタルカメラやデジタルビデオカメラなど、デジタル機器同士の相互接続を可能にした高速シリアルバスの規格です。Apple Computer社がSCSIに代わる高速なインターフェースとして開発したFireWire規格を標準化しました。ソニーが「i.LINK(アイ・リンク)」という名称で、デジタルビデオカメラの外部出力端子(DV端子)に採用しています。最大伝送速度は400Mbps、ケーブルの最大長は約4.2mで、最大63台接続することができます。接続方式も、デイジーチェーンのほか、ハブを使ったツリー状の接続も可能です。 ●LAN・802.11a/b/g(ハチマルニテンイチイチエー、ビー、ジー)LAN(Local Area Network)は、接続方式、配線の種類、通信手段ごとに様々な規格がありますが、現在、最も普及しているのがEthernetに準拠する規格です。転送速度は年々高速化しており、100Mbps、1Gbps、10Gbpsまで高速化された規格が標準化されています。 近年ではIEEEが策定した無線通信でデータの送受信をする無線LAN(ワイヤレスLAN)も普及しています。 初期の無線LANの規格はIEEE802.11bで、2.4GHz帯の電波を使い、最大通信速度は11Mbpsで50m〜100mの距離にある端末間で通信できることになっています。同じ2.4GHz帯の電波を使う電化製品(電子レンジ、携帯電話など)や医療機器、Bluetoothが近くにあると干渉を受ける可能性が高く、実際の転送速度は落ちると言われています。最大通信速度がIEEE802.11bの11Mbpsより大幅に高速化されたのがIEEE802.11aです。周波数は5.2GHz帯を使用し、最大通信速度は54Mbpsとなっています。しかし、日本では5.2GHz付近の周波数が衛星電話やETCに利用されているために、電波法によって屋外での利用が禁止されており、あまり普及していませんが、諸外国ではIEEE802.11aが高速無線の主力と言われています。 IEEE802.11gは2.4GHz帯の周波数を使用し、最大通信速度はIEEE802.11a と同じく54Mbpsです。IEEE802.11aと異なりIEEE802.11bとの互換性があります。しかし、IEEE802.11bと同じ周波数帯を使用しているため、実際の転送速度はIEEE 802.11aよりも遅くなると言われています。 これから注目の規格次期OS「Windows Vista」が登場する2007年、内部バス、CPUパッケージ、メモリ、電源など、PCアーキテクチャがさらに新規格に切り替わろうとしています。最後にこれからキーワードとなる新規格を紹介します。 ●SLI(エスエルアイ)とCrossFire(クロスファイア)ビデオチップメーカーNVIDIA社はGeForce 6000シリーズにSLI(Scalable Line Interfacet)という新機能を搭載しました。2枚のビデオカードを使用し、画像表示を分散して処理させる技術です。デュアルコアCPUが複数のスレッドを分担して処理するのと同じように画面描画の処理速度を高めることができ、より高精細な描画を実現できるようになります。NVIDIA社のライバルATI社は、SLIに対してCrossFireを発表しました。2枚のビデオカードで高速高精細描画を実現するもので、機能的にはSLIと同等です。性能にはそれぞれに得手不得手があるようで決定的な差は報告されていません。SLIはSLI対応の同じビデオカード2枚が必要なのに対して、CrossFireはCrossFire対応のチップを搭載したビデオカードをマスターとし、他方のスレーブは非対応のビデオカードを利用できる点が異なります。どちらも、ビデオカード以外にSLIまたはCrossFireに対応するマザーボードが必要になります。また、デジタル対応のディスプレイ(DVI端子を備えたもの)も必要です。 現在は主に3Dゲーム用の技術ですが、次期Windows OS「Windows Vista」はデスクトップ画面が3D構成になると言われており、その分野での効能も期待できるでしょう。 ●BTX(ビーティーエックス)BTX(Balanced Technology Extended)は、Intel社が提唱するATX(エーティーエックス)に替わる新しいPCのフォームファクターです。BTX仕様のマザーボードはこれまでのATXと比べ、I/Oパネルや拡張スロット、CPUやチップセットの配置が異なります。これは、ケース内部のエアフローを考慮したレイアウトで、ATXに比べ、CPUファンと電源ファンの2つだけで効率よく放熱することができます。 以下にATXとBTXのボード上のレイアウトの違いと、ケース内エアフローの図を示します。 PCの普及を後押しした規格化と標準化かつて、PCの自作にはパーツ同士の相性という問題がありました。パーツ個々が勝手な拡張を行ったり、規格に規定されていない部分が多かったりしたために、機能や動作が競合し、動作しなかったり不安定になったりしたものです。 今日、そうした問題はほぼ解決されました。PCに関連するさまざまな部品は、標準化団体やメーカーによる規格化や標準化により、接続性・互換性が保証されています。こうした規格化・標準化と仕様の公開によって、多くのメーカーが参入し、パーツ個々の性能が向上してメーカーの量産効果が生まれました。その結果、高性能でしかも低価格なPCが登場し、今日のPCの普及の一因となっています。 一方で規格化・標準化がネックとなって技術発展を阻害する可能性を指摘する声もあります。しかし、コンピュータ業界には、デファクトスタンダードという標準化のされ方もあります。規格にはなくても、多くのユーザーが支持すれば、事実上の標準として、後から規格化された例は少なくありません。また逆に大手メーカーが提唱したからといって標準にならないことも少なくありません。その技術をユーザーが支持するかどうかが基本です。これから登場するさまざまな規格や標準においても、こうしたユーザーの視点を忘れてほしくないものです。
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