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第1回 CPUは数百本の足を持つトランジスタのかたまり第一回目は、CPUを物理的・電気的な部品として解説します。パソコンに使用されるCPUの外観は、数百本の足(ソケットに挿すピン)を持ち、1億個を超えるトランジスタを集積したICで、VLSI(大規模集積回路)と呼ばれます。今回は、このCPUを外側から眺めて、物理的な仕組みや電気的な働きを説明します。 CPUの構造CPUの解説の最初に、CPUの構造を概観します。そのために少し遠回りですが、ICの製造方法に触れておきます。 ICの製造方法ICの材料にもっとも多く使われるのはシリコンです。土や砂の主成分であり入手しやすい事や、動作が安定していること、その絶縁膜が半導体に適しているという理由からです。 (1)1枚のシリコンウェーハ上に碁盤の目のように並べられて複数のチップが一度に作られます。 (2)ウェーハを1個1個のチップの大きさに、高速に回転するダイヤモンドカッターで切り出します。 (3)初めてチップの大きさになったものをダイといい、ダイをボンディングフレームと呼ばれる基板に接着します。 (4)ダイの端子とボンディングフレームを20〜60μmの微細な金の線を使って配線します。 (5)ダイとピンの配線が終わるとチップを機械的、化学的に保護するためにパッケージに封入します。 (6)この上に型番や製品名、ロゴなどを印刷して完成です。 CPUの外形構造CPUもシリコン製ICの一種です。PentiumXEクラスでは、小さなダイの上に1億7千万個を超えるトランジスタが生成されています。ちなみに、世界最初のCPU4004の集積度は2300個でした。下図はCPUを分解したイメージ図です。
CPUのパッケージ自体は、数cm角ですが、ダイとよばれる本当のチップ部分は案外小さいのです。電源や信号を入出力するためには接続用の端子が必要で、そのためのピンや放熱の事情から現状の大きさになっています。
PentiumXEのトランジスタの数は、i4004の2万4千倍です。発熱量はクロック周波数とトランジスタの数に比例しますので、計算上はPentiumXEはi4004の1億8千万倍の熱を発することになります。これをロケットの噴射口と表現する学者もいるくらいです。微細化技術は同時に低消費電力への課題も伴っています。 ※μm(マイクロメートル)は10-6m、100万分の1m。 CPUは論理回路のかたまり前述したCPUのダイに形成される極小のトランジスタや抵抗やコンデンサはダイの上に無数の論理回路を形成しています。プログラムに従って動作するコンピュータの計算を実行しているのがこの論理回路です。 論理回路とは電気的な回路を使って論理的な演算を実現する回路です。論理演算には演算子(日常使用される「+」とか「−」、「÷」、「×」に相当するもの)として、検索でおなじみの「AND」、「OR」、「NOT」を使用します。「X AND Y」は「Z」というように、X、Yの値により出力されるZの値が一定のルールで決まるような機能を電子回路で実現するのが論理回路です。
これは、「X AND Y」は「L」という論理式で表せます。
トランジスタはスイッチの働きをすることはすでに基礎編で説明しました。電球とスイッチの回路をトランジスタに置き換えると、下図のようになります。
論理回路には、「AND」を含めて次の表のような種類があります。それぞれの論理演算の結果と合わせてご覧ください。NOTだけは、1なら0、0なら1と値を反転する働きをしますので入力は1つだけです。NANDとNORは、ANDまたはORとこのNOTを組み合わせて、出力の値を反転させたものです。実際の回路には、作りやすく制御しやすいので、ANDやORよりもNANDやNORの方が多く使われています。
論理回路で計算を実行するCPUには、以上のようなトランジスタを使った論理回路がダイ上に無数に形成されています。おおざっぱにトランジスタ10個で1つの論理回路が作られるとすると、その他の回路を差し引いてPentiumXEクラスのCPUには数百万個の論理回路が載っていることになります。1個の論理回路では1か0の出力が得られるだけですが、これを数百万個集めて組み合わせるとできないことがないと言ってよいほど複雑な論理を実現できるようになります。
入力と出力の関係は以下の通りです。右端の列が演算を日常使い慣れた算術演算子に置き換えたものです。二進数で計算が成り立っているのがわかります。
論理回路はこのようにして演算を実現します。 ところで、今ではCPUを使うのが当たり前の液晶表示やテレビゲーム、多機能なデジタル時計などは、CPUが一般的になる前は論理回路だけで作られていました。個別の論理IC(ロジックICともいいます。1個のICにNAND、NORなど1種類の論理回路が搭載されている)を組み合わせて、ゲームや時計の論理機能を実現します。従って回路はかなり複雑でした。やがて表示専用や時計専用などの専用ICが開発され、複雑さは解消されましたが、設計時に決めた動作のみで、プログラムを入れ替えて異なる動作をさせたり、機能を追加したりすることはできませんでした。ただ、こうしたハードウェアだけで論理を実現する回路は、スイッチオンで高速に一定の動作をさせたい場合に今でも使用されています。単機能個別の論理ICに代わって、CPLDやFPGA(※)と呼ばれる特殊なLSIが使用されます。大規模な論理回路を専用の言語で記述したプログラムを書き込んで使用するLSIです。コンピュータとよく似ていますが、基本的には論理回路ですから、決められた動作しかできませんが、1000〜10000個の論理素子を1個のLSIに作ることができますので、かなり複雑な動作が可能です。こうした素子は家電製品からコンピュータ周辺機器などに幅広く使用されています。 ※FPGA(Field Programmable Gate Array)、CPLD(Complex Programmable Logic Device) CPU内部の機能ブロック構成CPUはメモリを含め、ほとんどが論理回路で構成されています。論理回路は、機能ごとにいくつかのブロックにまとめられています。ダイ上のブロックごとの機能は次の図のようになっています。
最近のCPUの機能ブロックの中で、もっとも面積を占めるのが実はキャッシュです。 キャッシュメモリを多段搭載するCPUが多く、通常は2段まで搭載しています。複数のキャッシュを搭載している場合にはCPUに近い位置からL1(レベル1)キャッシュ、L2(レベル2)キャッシュ・・・と呼びます。L1キャッシュはデータ用と命令用に分かれています。下表はPentiumの一部の機種のキャッシュ搭載状況です。L1キャッシュは、16KBがデータ用、12KBが命令コード用です。
表右端のPentiumXEのようにL3キャッシュを搭載したものがありましたが、最近はL3キャッシュを搭載するよりもCPUに近いL1、L2キャッシュの容量を大きくする傾向にあります。CPUに近いキャッシュを増強した方が性能向上に有利です。表左端Pentium XE 955のようにCPUコアを複数個内蔵したCPUでは、コア数分のキャッシュを内蔵しています。しかし、キャッシュの容量拡大に伴ってCPUチップに占めるキャッシュの面積が大きくなっており、CPUに集積されるトランジスタの多くがこのキャッシュに使用されています。一例として、2MBのL2キャッシュを搭載するモバイル用CPU、Core Duo(開発コード、Yonah)の場合、1億5160万個のトランジスタが集積されていますが、そのうちの1億1300万個はL2キャッシュに使用されています。残りのトランジスタは3836万個で、これはPentium3クラスと大差ありません。 ノイマン型コンピュータの動作最後にCPU内部の機能ブロックと動作を説明しておきましょう。 外部のメモリ(キャッシュを含む)にプログラムを置き、(1)命令フェッチ、(2)デコード、(3)実行の3つの動作を行う方式を「ストアドプログラム方式」(プログラム蓄積方式)と呼び、この方式のコンピュータをノイマン型といいます。プログラムをハードウェアから独立させてデータとして外部から与え、汎用のハードウェアで実行させる方式です。 ノイマン型コンピュータの構造と動作 ノイマン型コンピュータの命令実行サイクルは次の3つの動作で構成されます。 (1)命令フェッチ (2)デコード (3)実行 ノイマン型コンピュータは、アメリカの数学者、ジョン・フォン・ノイマン(John von Neumann)氏によって1946年に提案されました。このときに、ソフトウェア(プログラム)という概念も誕生したといわれています。ちなみに、世界最初のノイマン型コンピュータは1949年にイギリスで開発された「EDSAC」です。ノイマン氏自身が開発に携わっていたEDVACは、その後塵を拝しています。それまでのコンピュータは1つ1つの論理回路を配線し直してプログラム通りに組み合わせて使用していたのです。 今回はCPUの電気的な動作や物理的な構造の話です。わずか8〜10cm角のパッケージに1億個以上のトランジスタが詰め込まれているなどとはにわかには信じがたいものがあります。次回は、その1億個以上のトランジスタがデータを読み込んだ後、どのように動作して目的の処理を実行するか、CPUの論理的な構造を説明します。 【参照サイト】 【参考書籍】
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