2009年 33号  発行日: 2009年6月5日 バックナンバー

2009年度FUJITSUファミリ会 春季大会
開催日:2009年5月15日 開催地:帝国ホテル

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アンケート

記念講演「積極的危機対応戦略を考える」
-100年に一度の危機に対応するには-

加護野 忠男 氏

加護野 忠男 氏

神戸大学大学院 経営学研究科 教授
加護野 忠男 氏

今回の記念講演では、100年に1回と言われる今日の危機と同時に大きな構造変化が進行しており、目先の危機に対応するだけでなく、これを機会に企業は大きく変わらなければならないこと、現代は商品の戦いではなく事業の仕組みの戦いであること、などを豊富な事例を挙げて講演され、参加者からは「目からウロコ」、「逆転の発想」に感動しましたとの声がありました。

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加護野 忠男 氏 プロフィール

経歴
1947年 大阪府生まれ
1970年 神戸大学経営学部卒業
1972年 神戸大学大学院 経営学研究科 修士課程修了
1973年 神戸大学 経営学部助手
1975年 神戸大学 経営学部講師
1979年 神戸大学 経営学部助教授
1979〜 ハーバード・ビジネス・スクール留学
1980年
1988年 神戸大学 経営学部教授
1989年 経営学博士取得
1998年 神戸大学 経営学部学部長
1999年 神戸大学 大学院経営学研究科教授
1999〜 神戸大学 大学院経営学研究科研究科長

著書
「取引制度から読みとく現代企業」(共著、有斐閣アルマ 2008年)
「事業システム戦略−事業の仕組みと競争優位」
(共著、有斐閣アルマ 2004年)
「日本型経営の復権」(PHP研究所 1997年) 等

未曾有の危機への積極的な対応

世の中が厳しくなっています。2008年度の最終クォーターの数字で見る限り、今年の年度計画が立たないという会社もあると思います。
しかし、100年に1回の大きな危機といわれているのに、そのレベルでの対応をまじめに考えている経営者が極めて少ないというのが私の印象です。この大きな危機に、10年、20年に1回規模の危機対応をしているだけのように見えます。今回のような大きな危機への対応について外部から見えてくることをお話しします。

今、世界中の企業が非常に大きく変わらざるを得ない状況です。典型的なのが自動車関係で、それなりに売れているのはハイブリッド車だけです。おそらく、あと10年すると完全に電気自動車になってしまうのではないかという予測もあります。電気自動車の時代にどう対応するかということこそ、今、本当に考えるべきポイントなのです。
買い物をしている間に駐車場で充電するようになれば、ガソリンスタンドは存在意義をなくします。自動車の周辺のビジネスは大きく変わるでしょう。100年に1回の大変な危機と同時に大きな構造変化が急激に加速しているのです。

かつて、本田技研工業株式会社(以下、ホンダ)は中国で自社のコピー車を作る会社と合弁会社を作りました。その会社は、ほとんどの部品をホンダの半額で仕入れていました。品質は到底ホンダの基準に合いません。そこで、部品メーカーを指導して品質を向上させ、基準の100%に達したときに、コストは75%。結果的に、この合弁事業では部品を25%もコストダウンしたわけです。
ホンダの当時の社長、吉野さんは雑誌のインタビューに、「中国はコピーするからけしからんと日本の経営者やエンジニアは言うが、あなたはコピーしたことはないのか、われわれもそうしてきた、みんなそうして成長する」とおっしゃっています。コピー車を作る会社と合弁するというタブーに挑戦することでホンダは大きく変わりました。単に、目の前の大変なことに対応するだけではなく、それをきっかけに大きく変わろうという発想を持っていたのです。それが、今の不況の中でのホンダの頑張りにもつながっているのです。
松下電器産業株式会社(現・パナソニック株式会社)も不況のたびに大きく飛躍してきました。1929年9月にアメリカで大恐慌が起こり、12月には売り上げが半分になりました。松下幸之助さんは、従業員を半分にしないと会社が潰れるという声に対して、仕事を半分にし、余った半分の時間で従業員を営業に立たせ、物を売るように指示したそうです。土日も返上して売った結果、倉庫に入りきれなかった在庫が2月には0になるまでに回復したそうです。

加護野 忠男 記念講演

こういう取り組みが積極的危機対応です。今、目に見えない競争相手との戦いが増えています。非常に大きな構造変化が起きているのです。そこに今回の大きな不況が来ました。ただ単に縮むだけでは、おそらく今の不況には対応できないでしょう。縮んでまた元へ戻ろうとしても、半分ぐらいにしか戻りません。

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