さまざまな録画メディア
デジタル放送を録画できる記録メディアには、前回紹介したBlu-ray Disc以外に、HDD(ハードディスク装置)、DVD-R、小型メモリカードがあります。それぞれの次の表のような特徴があります。
表1:記録メディアの種類
|
Blu-ray Disc |
HDD |
DVD-R |
小型メモリカード |
容量範囲 |
25GB〜50GB |
〜1TB |
4.7GB〜8.5GB |
〜32GB |
記録速度 |
高速 |
高速 |
遅い |
高速 |
コスト |
標準 |
安い |
安い |
高い |
長所 |
大容量 |
大容量・高速 |
ローコスト
入手しやすい |
小型・可搬性あり
対応機器が多い |
短所 |
メディアが高価 |
交換できない
長期保存は不安 |
容量が小さい
保存性が疑問視 |
多規格・多種
長期保存に不適 |
利用環境 |
Blu-ray Discレコーダ、BD内蔵テレビ |
BD/DVDレコーダやテレビに内蔵
HDD内蔵テレビ、DLNA対応サーバ |
DVD/HDDレコーダやパソコンに内蔵 |
携帯電話、携帯型のゲーム機、音楽プレーヤーで使用 |
Blu-ray Discについては前回をご覧いただくとして、HDD、DVD-R、小型メモリカードについて解説します。
Blu-ray Discの最強のライバル、HDD(ハードディスク装置)
パソコンでおなじみの磁気記録装置です。250GBから1TBの容量を持つものが主流です。ハイビジョン映像を数十時間も記録できる唯一のメディアです。
HDDはごく一部を除いて、単体の録画再生機器としてではなく、光学式メディアの録画再生装置と組み合わせてDVDレコーダやBlu-ray Discレコーダに内蔵される場合がほとんどです。
最大の特長は、読み書き動作が高速で、大容量であること、記憶容量あたりのコストが低いことです。容量を気にすることなく、思い立ったらすぐに録画・再生・消去できる操作性のよさはほかのメディアにはありません。
手軽に、高速に録画・再生できる特長を活かしたのがタイムシフト再生です。録画を続けながら、その番組の録画済みの部分を再生する機能です。また、来客などで視聴を中断しなければならないときなどに、ボタン操作1つで続きを録画することができます。
HDDに予約録画した番組を見た後、DVD/HDDレコーダのユーザーの41%がその番組を消してしまうというという統計があります。手軽に録画して、後から楽しみ、見終わった番組は消していくという視聴スタイルには、レコーダやテレビに内蔵されたHDDは大変便利です。
図1:ハイビジョン番組、「見たら消す」派が優勢
一方、短所として、回転する機械部品を含む装置ですから故障や寿命があることです。ほかメディアのように交換できないので、光学式メディアのような長期保存は望めません。そこで、DVD/HDDレコーダやBlu-ray Discレコーダのように光学式メディアと組み合わせることで、HDDで容量を気にせず手軽に録画、光学式メディアでは長期保存と、使い分けが可能になり、HDDの便利さを保ったまま短所を補うことができます。
根強い人気、DVD-R
手に入れやすく、低コストな光学式の追記型メディアがDVD-Rです。そして対応する録画再生機器やドライブ装置を内蔵したパソコンの普及が進んでいることが特長です。
アナログ放送の時代には4.7GBは大容量でしたが、デジタルハイビジョン番組の録画には容量不足です。2枚の保護層を貼り合わせる構造に、10年以上の長期保存を疑問視する声もあります。
次世代DVDと呼ばれるBlu-ray Discの登場で、急速に市場から消えるかとも思われましたが、対応機器の普及率の高さやコスト、入手性のよさから、2009年度の需要も前年比3%増と予測され、根強い人気が伺えます。
DVDの録画再生機器としては、すでに、Blu-ray DiscレコーダがDVDレコーダの出荷台数を上回っていますが、DVD-Rは、Blu-ray Discレコーダで記録・再生が可能なだけでなく、進歩した圧縮技術により、DVD-Rにハイビジョン映像を圧縮して記録できるレコーダも登場しています。また、以前に録画したDVDの映像を高解像度化する機能を持つテレビもあります。やや高価なBlu-ray DiscよりもDVD-Rにしておこうとする消費者の意向もあるようです。それでも、DVD-Rは、2009年が需要のピークで2010年以降は減少に転じると予測されています。
対応機器増殖、小型メモリカード
小型メモリカードとは、SDメモリカード、メモリスティック、コンパクトフラッシュ、xD−ピクチャーカード、スマートメディア、MMC(マルチメディアカード)のことをいいます。電源を切っても記録を保持する半導体メモリ(フラッシュメモリ)を、コンパクトなカード型パッケージに収め、取り外し・持ち運び可能にした記録メディアです。
デジタルカメラやモバイル機器の記録メディアとして普及が進んできましたが、近年、半導体技術と量産技術の進歩で、劇的に大容量化、低価格化が進みました。
図2:小型メモリカードの容量予測
記録メディアニュース11月号(日本記録メディア工業会)より
小型・軽量で、優れた可搬性はほかのメディアにはない大きな特長です。容量の増加とともに用途や対応機器が拡大し、携帯電話やカーナビ、携帯型音楽プレーヤー、携帯型ゲーム機などの記録メディアとして、また、データの受け渡し、音楽や画像、動画の記録など幅広い分野で利用されています。デジタルデータの圧縮技術の進化で、大容量を効率的に圧縮できるようになったことに加え、メディアへのデジタル放送の著作権保護技術の導入も進んでおり、デジタル放送などのハイビジョン映像の記録も可能になりました。
SDカードやメモリスティックは、専用のスロットを持つテレビやDVDレコーダもあり、放送番組を直接メモリカードに録画したり、HDDからダビングすることができます。
一方、短所として、小型メモリカードには多くの規格があり、互換性がほとんどありません。機器ごとに異なるカードを用意しなければならず、静電気や磁気による故障、電気的な接点が露出しており損耗や腐食の懸念もあり、長期的な記録には不適です。
しかし、半導体技術の進歩は著しく、さらなる大容量化が期待される記録メディアです。
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新しい楽しみ方
録画メディアの多様化に加えて、録画した番組を再生する機器にもさまざまなものが登場し、視聴スタイルを多様なものにしています。
携帯電話・携帯音楽プレーヤー、手持ちの機器で再生
従来、携帯機器用の小型メモリカードへの書き込みやUSBケーブルによる転送は、パソコンを経由して行うことが多く、パソコンに不慣れな人にはハードルの高い操作でした。しかし、録画したニュースを通勤電車の中で再生したり、音楽だけでなく映像も持ち歩いて外出先で楽しんだりする人が増えてきました。ワンセグ対応の携帯電話やiPodやウォークマンなどの携帯型音楽プレーヤーで映像を楽しむことができます。こうした機器は、小型メモリカード用のスロットやUSB端子を装備しており、そこに映像データを記録した小型メモリカードを電話機やプレーヤーに装着したり、USBケーブルで接続して映像を内蔵のメモリに転送します。
最近の多機能化した薄型テレビやDVDレコーダはUSB端子や小型メモリカードスロットを装備したものが多くなっています。こうした機器では、メモリカードをスロットに差し込み、DVDに記録するのと同じようにして直接小型メモリカードに番組を録画したり、HDDに録画した番組をUSB経由で携帯型プレーヤーに転送したりすることができます。
視聴スタイルの多様化で、スマートフォンやPDA(携帯情報端末)、カーナビ、ワンセグ専用テレビなど映像再生機器の種類はますます増加すると予測され、注目したい分野です。
まだまだこれから、地デジパソコン
一方、パソコンの地上デジタル放送対応は、地デジ受信機3471万台中、パソコンでの受信は109万台(2008年6月)と大きく出遅れている感があります。Windows Vistaが本格的に地上デジタル放送に対応するなど、パソコンでの地上デジタル放送視聴もここにきて活発になってきていますが、お手持ちのパソコンに外付けチューナーを取り付けて地上デジタル放送を視聴する場合には注意しなければならない点があります。
ついにWindows Vistaが地上デジタル放送をサポート開始
それはCPUやグラフィックボードに高い性能が求められることです。
ハイビジョン映像のような高精細な動画の表示は、CPUとグラフィックボードにとって大きな負荷となります。さらに、著作権保護のためデジタル放送の映像や音声信号はパソコン内部で暗号化されます。CPUは、この暗号化と復号化も行います。
これらを同時並行処理するためには、処理能力の高いCPUが必要です。さらに、CPUの負荷を分散するためにグラフィックボードにも性能の高いものを用意しなくてはなりません。
また、ハイビジョン映像を見る場合には、著作権保護のためグラフィックボードとディスプレイの両方がHDMIなどデジタル入出力できるものでなくてはなりません。
こうした条件をパソコンがクリアできるかどうか、チェックするプログラムを用意しているメーカーもあります。
「地デジ相性チェッカー」
また、著作権保護の観点から、録画した番組を再生できるのは録画したパソコンに限定されます。同じ理由で、映像の形式を変換したりすることも許されていません。また、同じパソコンでも別のHDDに移したり、HDDを交換したりすると録画されていた番組は再生できなくなります。
パソコンの機能と地デジチューナー、HDD録画を手頃な価格で実現できるメリットはありますが、現状ではやや制約も目立ちます。しかし、コンテンツの配信、コンテンツの共有、インターネットなど、ネットワークを介したほかの機器との連携はパソコンの得意とするところです。最新モデルでは、地デジ受信・録画対応が目立つようになってきており、本格的な普及はこれからといえそうです。
ネットワークでコンテンツを共有、ネットワークメディアプレーヤー
ネットワークメディアプレーヤーは全く新しいカテゴリの製品です。ネットワークに接続し、同じネットワークに接続されている機器のコンテンツを、テレビなどのAV機器で再生する機器です。
本講座の第9回「テレビとデジタル機能」で紹介したDLNA(Digital Living Network Alliance)ガイドライン対応機器が増えており、家庭内のAV機器や情報機器がLANケーブルで結ばれるようになっています。こうしたネットワークに接続して、パソコンやネットワーク接続型ハードディスク装置(NAS:Network Attached Storage)などに保存されている映像や音声、画像等のコンテンツを再生します。
自室にあるパソコンに保存してある映像を、居間のテレビの大画面で鑑賞するといったことを可能にします。
図3:ネットワークメディアプレーヤーの接続方法
現在、まだ市販されている製品はそれほど多くありませんし、ネットワークが前提となるためパソコンの周辺機器としての位置づけと考えられ、パソコンをご利用でない方には縁のない機器です。そのため、知名度も高くありませんが、家庭内のネットワークが普及するにつれ、存在感が高まっていくものと予測されます。
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デジタル放送とコピー制御
デジタル放送の映像や音声は、デジタルのままでコピーすれば品質は劣化しません。DVD/HDDレコーダやBlu-ray Discレコーダのようにデジタル録画できる機器は、放送局と同等の品質でコンテンツのコピーを作ることができます。これが、番組制作者や放送局などの著作権者にとって脅威となっています。
デジタル放送の録画には、コピー可能な回数を制限するコピー制御技術と、違法なコピーを防止するためのコンテンツや著作権保護技術が導入されています。代表的なものを紹介します。
コピーワンス
デジタル放送などのコンテンツを1回だけコピーを許可する制御技術です。
ほとんどのデジタル放送はダビング10に変更されましたが、現在でもWOWOWなどの有料デジタル放送ではコピーワンスによる制御が行われています(「第7回 デジタル放送のコンテンツと未来」参照)。
ダビング10
コピーワンスの厳しい制約を緩和したのがダビング10です。
HDDに録画したデジタル放送番組は、DVDディスクやほかのレコーダなどに9回までコピーすることができます。10回目のコピー後には元のデータが消去されます。コピーで作成したディスクからはそれ以上コピーすることはできません(「第7回 デジタル放送のコンテンツと未来」参照)。
現在、市販されているDVD・Blu-ray Disc・HDDレコーダなどの録画機器はほとんどがこのダビング10に対応しています。ただし、許可されるコピーの回数は放送局側で選択することができ、番組によって異なります。必ず10回までというわけではありません。
CPRM(Content Protection for Recordable Media)
CPRMとは、記録可能なメディアのための著作権保護技術です。
CPRM対応のDVD-RやDVR-RWなどのメディアにあらかじめ記録されている符号と、メディア1枚ごとに異なる固有のIDと、録画再生機器固有の符号の3つで、記録されているコンテンツの暗号を解読します。メディアのIDは、書き込みできない部分に記録されています。暗号化されたコンテンツのコピーはできますが、メディアのIDはコピーできません。そのため、コピーしたメディアでは暗号を解読できず、再生することができなくなる仕組みです。
CPRM非対応の録画機器やメディアでは、コピーワンス信号が付加された番組を録画することはできません。対応メディアは、パッケージに「CPRM対応」と表示されています。
AACS(Advanced Access Content System)
AACSとは、市販のBlu-ray Discコンテンツの再生と、デジタル放送をBlu-ray Discなどに録画・再生するときに用いられるコンテンツ保護技術です。
AACSではコンテンツの暗号化に使うタイトルキー、メディア固有のメディアキー、再生するドライブ装置や再生ソフト固有のデバイスキーの3つが揃ってコンテンツの暗号化が解読されます。単純にメディアをコピーしても暗号化を解除するキーがなく再生できません。このあたりはCPRMと似ています。
しかし、AACSでは保護が強化されています。タイトルキーなどが解除されてもデバイスキーを更新することで不正コピーされたディスクが再生できないようにする仕組みを持っています。録画再生機器内部だけでなく、表示出力部への保護も強化され、デジタル出力のHDCP(次項)による保護が前提となっています。アナログ出力に関しては、2011年1月1日以降に製造されるプレーヤーではアナログ出力は、SD(標準画質)解像度のみとすることなど、厳しく規定されています。
HDCP(High-bandwidth Digital Content Protection)
HDCPとは、録画再生機器やパソコンから、ディスプレイにデジタル信号を送受信する経路を暗号化することで、不正なコピーを防止する著作権保護技術です。DVIやHDMIなどのデジタルインターフェースの信号を暗号化するのに用いられます。
従来、録画再生機器の内部は暗号化技術により保護されていますが、表示部分だけは暗号化が解除され無防備な状態になっています。この表示用の信号を暗号化することで不正なコピーを防止するのがHDCPです。そのため、録画再生機器だけでなく、ディスプレイもHDCPに対応していなければなりません。ACCSでのデジタル出力では、HDCPによるには保護が必須となっています。
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視聴スタイルと録画メディアのこれから
自宅の大画面テレビだけでなく、自室のパソコンで、移動中の交通機関の中では携帯電話や携帯型音楽プレーヤーで、というように、テレビの楽しみ方は多様化しています。この多様な楽しみ方を支えるのが、Blu-ray Discをはじめとするさまざまな録画機器と録画メディアです。
次世代の録画メディアの主役といわれるBlu-rayの台頭にもかかわらず、DVD-Rメディアの販売数量は成長し続けています。しかし、DVDはBlu-rayに一本化され、従来のDVD/HDDレコーダは、Blu-ray Disc/HDDレコーダに代わっていくものと予想されます。
一方、携帯電話やカーナビなどの小型機器には、小型大容量化が進むHDDや劇的に大容量・低価格化が進行する小型メモリカードの利用が急拡大しています。例えば、SDカードは、32GBとBlu-ray Disc並の容量に達しており、薄型テレビやBlu-ray Discレコーダはもとより、ハイビジョンデジタルビデオカメラ、デジタルカメラ、携帯電話、携帯型音楽プレーヤー、カーナビ、ゲーム機、パソコンなどさまざまな分野で利用され、その汎用性をいかんなく発揮しています。
録画メディアの状況は多様化し、今後もこの傾向が続きそうです。放送の視聴スタイルや録画・再生の利用スタイル、録画の目的や手段、録画した映像を再生する方法や場所は、実に多様化しています。こうしたニーズに応える録画再生機器や録画メディアも次々に登場しています。
デジタル放送をより楽しむために、さまざまな録画メディアや機器にも目を向けてみましょう。
次回はデジタル放送講座の最終回です。インターネット放送など新しい形のデジタル放送のお話です。
参考リンク
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