2007年 27号  発行日: 2007年12月5日 バックナンバー

2007年度FUJITSUファミリ会 秋季大会
開催日:2007年11月1日 開催地:リーガロイヤルホテル広島

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アンケート

セッション2「マツダにおける“くるまづくり革新プロジェクト”MDI(マツダ・デジタル・イノベーション)の取り組み事例」

MDIプロジェクトの特徴

以上、大体のイメージがおわかりいただけたでしょうか。皆さんの中にはこういうエンジニアリングのシステムをやっておられる方は多分少ないと思いますし、IT部門の方だけではなく、経営者の方もたくさんいらっしゃるようなので、仕事のやり方を抜本的に変えていくこのような全社プロジェクトをどうステアリングしているかといったところを、ご紹介します。

MDIプロジェクトの特徴は、まずトップダウンアプローチであることです。全社プロジェクトですから、デザイン部門、商品企画部門、設計部門、試作部門、実験部門、生産技術部門、生産部門というふうに、本部だけでも7つあるわけです。それらが同じ気持ちでやっていかないと、例えばデザインだけが頑張っていても、他がやっていなかったら目標は達成できません。「やるよ」とキックオフするためには社長の明確な意思決定がないと動きません。

MDIは96年8月にスタートしましたが、96年4月にフォードから青い目の初代社長としてウォレスさんが着任しております。彼が就任して4カ月後にこのプロジェクトのスタートの意思決定が行われました。3回くらいに分けて決裁を取りましたが、MDI-Iという第1フェーズに約400億の投資をしております。日本人の社長と違って、決断がはっきりしていました。とにかく、これはすぐやらなくてはいけない、と。当時赤字会社ですから、400億の金を出すというのは大変な話でした。社内では当然ながらほとんどの人が反対していましたし、金がないから金を使ってはいけないという空気がある中で、ちょっとおもしろいエピソードがあります。だいたい皆さんの会社も同様ではないかと思いますが、稟議を上げると、決裁する社長は「話はわかったがもうちょっとよく考えて2割オフでやれ」といったことをだいたい言われますよね。我々はそれを見越して当然水増しします。ところがウォレスさんは「わかった」といって1円も値切らなかったのです。これには驚きました。結果的にはたくさん金がかかって帳尻は合いましたけれども。

しかし、社長がやれと言っても、その下にいる役員、実際に開発部門を支えている本部長とか部長とか、本当に動くべきミドルマネージメントがほとんど全員反対だったわけです。総論は誰も反対しないし、公の場では異は唱えませんが。そういう意味でトップダウンは前提条件で絶対に必要なことですが、それだけでは物事は動きません。実際に利害を被る責任者、本部長、部長級が本気になって、しかも部門間の利害を超えて、対象部門全部が一つの大きなコンセプトの中で協力し合ってやることが必要ですが、ここに非常に苦労しました。

MDI-Iは約8年かけて第1フェーズをクローズしましたが、そういう意味では、最初の4年くらいは現実には空転していました。極論すると何もやらなかった。でも次第にそれではまずいという人も出てきて、ある一つの部門、例えばシャーシの設計部門の部長が「社長がお金をつけてくれたのだから」と頑張って、結果報告を上げてくる。シャーシがやったのならと隣の部長が頑張るという風になると、「やらねば」という雰囲気になってくる。少しずつ輪が広がって、だんだん全部に波及していきました。極端な言い方をすれば、8年間のうち前半の4年間はほとんど空転して、ああじゃない、こうじゃないという話をしていて結局は何も進まず、残り半分でがーっと一気に進んだ。そしてある程度当初の目標を、まあまあの及第点でクリアして第1フェーズをクローズし、次のステップに行こうというディシジョンをしたということです。(図表11)

MDIプロジェクトの特徴 クリックすると拡大画像が開きます

(図表11)MDIプロジェクトの特徴

MDIプロジェクトは全社プロジェクトです。一気通貫という言い方をしていますが、上流から下流まで、とにかくすべての部門が息を合わせてやっていかなければなりません。個別最適では絶対目標をクリアすることはできません。

成果のコミットメントもMDIの特徴です。先ほどお話ししたとおり、社長は1円も値切りませんでしたが、欧米の財務屋さんは非常に厳しくて、お金にはシビアです。1円まで細かくチェックします。400億使っても良いけれど、使ったらいくら儲かるのかを訊かれます。400億投資したら○年にはいくら、○年にはいくら、最終的には800億リターンが返ってきます、プラマイで400億、儲かるはずですという稟議書を書きますよね。ではどういう理屈で儲かるのかという説明を求められる。それで「わかった」となると、それを長期計画のバジェット表から差し引いていくわけです。この時点でリターンが出ると見込めると、予算が差し引かれるのです。つまり、このMDI-Iプロジェクトは財務屋さんから見れば、ディシジョンした瞬間に400億、儲かっているとされるものなのです。ですから我々も、成果を出さなければその分、自分の首を絞める。それをいきなり突きつけられますから、そうした意味でやらざるをえない構造があるわけです。

それから運営ですが、これが非常に重要なことで、ステアリングコミッティというものを開いています。関係する各部門の担当役員から、本部長、部長級以上全員、総勢40〜50人が全員集まって、いろいろなテーマで、報告会や審議、ディシジョンなどを行っています。利害がある部長連中が全部集まりますが、発言は全部議事録に載りますから、出された方針について文句があるのなら、ここで言わざるを得ません。そういったステアリングコミッティを今まで110回以上開いて、現在も続けております。このコミッティも最初はなかなか上手くいきませんでしたが、今はすっかり定常的になって、いろいろなことが決定されています。反対意見がある人はこの場できっちり言う、裏で言っても無効だということが徹底して、結果としてはプロジェクトが上手く回るようになりました。

さらに、我々はフォードグループですから、フォードとシナジーを組んでグローバル展開していくことになります。

もう一つ、MDIの遂行に重要なのが、プロセス革新、メソッド開発、ツール開発、業務適用の4つのファンクションです。プロセスをどう変えるか、絵図をしっかりと描かないと先に進みませんから、プロセス革新にはかなり注力しました。侃々諤々してシビアな表を作り、これをバイブルにしてプロセスを実現するために作り込んでいきました。このプロセス自体が現行プロセスと全然違い、やることは倍くらいになっていますから、どう実現するかを具体的な1個1個のメソッドをつくって、うまくいくと思われる手法で全部作り込んでいきました。メソッドを上手く動かすために、例えばITや実験設備、三次元設計ソフトといったツールが出てきますので、それを車の開発に少しずつ無難なところからアプライしていきます。この4つを上手く連携させながら遂行していくことが必要なのです。

よくある間違いに、他社が何かのソフトを入れて成功したという論文を読んで、うちも負けずにやろうと同じソフトを買って、「できました」というものがあります。しかし、その時に、プロセス革新とメソッド開発がすっぽり抜けているのですね。だから業務適用してもユーザーさんは全然使ってくれない。これには私どもはこだわりを持ってやってきました。

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