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第5回 デジタル放送を受信する

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これまでに、地デジを中心にデジタル放送の仕組みや技術のお話をしてきました。今回からは、地上デジタル放送の実際の視聴についてお話をします。まずは、デジタル放送を視聴するのに必要な設備や機器について解説します。アンテナやチューナー、デジタルテレビ、セットトップボックスなどについて、知っておきたい基礎的な知識と選び方について説明します。


地デジを視聴するためには

最近、NHKの画面に「アナログ」と表示されるようになり、デジタル化を急かされているような気がしないでもありません。家電店では2011年のアナログ放送終了を見越して、地デジ対応の薄型テレビ商戦の真っ最中です。「今のテレビは使えなくなりますよ」、「アンテナも新しくしないと」という極端な話を聞くこともあります。
しかし、アナログ放送は3年後に終了しますが、アナログテレビが使えなくなるわけではありません。1〜12チャンネルのテレビ放送だけしか視聴できない場合は別ですが、UHF(注1)のテレビ放送、例えば東京では東京メトロポリタンテレビジョン(MX-TV)や神奈川県ではテレビ神奈川(TVK)などが受信できていれば、現在使用中のアンテナを継続して使用できる可能性もあります。
まずは冷静に、地デジを視聴するために必要な機器や設備を検討しましょう。機器や設備と言っても、アンテナとテレビまたはチューナーがあれば、地デジは受信できます。今回はそれらについてのお話です。

注1 UHF(Ultra High Frequency):極超短波。波長が短くアンテナが小型化できるので移動通信に適する。

電波の入り口、アンテナとその周辺

アンテナは変えなくてはならないか

アンテナは、テレビ放送電波の入り口です。いったん設置すると、ほとんど気にすることがないので、新たに対応が必要となるとあわててしまうかもしれません。
地デジは、アナログテレビ放送の13〜64チャンネル(UHF)を使用します。従って、現在、これらのチャンネルが視聴できていれば、地デジでもそのままアンテナを利用できる可能性があります。アンテナにはデジタル用やアナログ用の区別はなく、受信する周波数によって適合する、しないが決まるからです。
ただし、次のような場合も考えられます。
アナログから地デジへの移行で放送所や中継所が移転したため、電波の強さが変わってしまったり、視聴できるギリギリの電波の強さだったところでは、デジタルになると全く視聴できなくなることがあります。デジタル放送電波は映るか、映らないか二者択一に近い性質があります。アナログのようにノイズ混じりでも何とか視聴できると言ったことがありません。
アンテナが適合していない場合もあります。UHFアンテナには3種類あります。13〜64チャンネルのUHFのテレビ放送の範囲を全部カバーするものと、13〜44チャンネルをカバーするものと、31〜62チャンネルをカバーするものがあり、外観から見分けることができません。
地デジのチャンネルとアンテナが適合していないと受信できません。地デジが映らないときには、アンテナの周波数範囲を確認し、さらに向きを調整し、それでも映らないときはアンテナをより感度の高いものに変更する必要があります。

地デジのアンテナとは

UHF用アンテナは次の図のような形状のものが一般的です。この形のアンテナを八木(やぎ)アンテナと呼びます。日本人の発明によるもので、世界中でテレビアンテナや無線通信に使われています。正式には二人の発明者の名前から八木宇田アンテナと言います。各部の仕組みも簡単に紹介しておきます(図1)。

図1:八木アンテナとその仕組み

八木アンテナは、構造が簡単で、軽量で性能も優れていますが、今日では、高性能なだけでなく外観デザインも優れたアンテナが次々に発売されています。衛星放送用アンテナとともにベランダに設置したり、都市景観や外観を重視する住宅では、小型で目立たないもの、外観デザインを考慮したものが求められるようになっているのです(図2)。

図2:地デジ対応テレビ用アンテナの一例

なお、電波が強い地域にお住まいの場合には室内アンテナで受信できることもあります。

同軸ケーブル

アンテナの周辺で、日頃目にすることの少ない同軸ケーブルとブースター、分配器に触れておきます。UHF帯の電波は同軸ケーブルを通っている間にも急激に減衰(げんすい、信号が弱くなること)しますので、同軸ケーブルやブースター、分配器の役割は重要です。
同軸ケーブルはアンテナとテレビの配線に使用するケーブルです。電波によってアンテナに生じる電気信号はマイクロボルト(100万分の1ボルト)単位の実に微弱なものです。ケーブルの中のわずかな電気的な抵抗や途中で飛び込む雑音は無視できません。抵抗が小さくなるように太い銅線を使い、途中で雑音を拾わないように芯線を編み線でくるむ構造になっています(図3)。
UHF帯のように高い周波数ではできるだけ太い同軸ケーブルを短く配線するのが理想です。

図3:同軸ケーブルの構造

ブースター

ブースターはアンテナで受信した電波を増幅する装置です。プリアンプと呼ぶこともあります。通常はアンテナのすぐ下や屋根裏などに設置されており、あまり目にすることはありません(図4)。
電波は届いているが弱い、または1本のアンテナから多くのテレビに信号を分配する、アンテナとテレビを結ぶ配線が長い場合などに設置します。
元々電波が強いところにブースターを設置すると、電波の強い放送局の信号がより大きく増幅され、その影響で近いチャンネルの弱い放送局が受信しにくくなることがありますので、何でも取り付けておけばよいと言うわけではありません。

図4:ブースター(マスプロ電工株式会社VUBCB33GN)

地デジでは、放送局からテレビなどへ常にファームウェアのアップデート信号などを送っています。そのため、テレビとブースターの電源が連動するようになっていると、テレビの電源をオフにしたときに、ブースターが働かず信号を受信できなくなります。そのために地デジのブースターは24時間電源オンにしておく必要があります。

分配器

リビングルームのテレビやHDDレコーダ、子供部屋のテレビなど、1本のアンテナで受信した信号を複数のテレビや録画機器に分配するときに使うのが分配器です。家の中の部屋ごとにテレビアンテナ用のコンセントが用意されていたりしますが、これらは天井裏などに設置された分配器によって、屋外のアンテナからの同軸ケーブルが分配されたものです(図5)。
信号は分配した分だけ弱くなります。極端な場合、2つに分配するだけでそれまで視聴できていた一部のチャンネルが視聴できなくなることもあるくらいです。従って分配数はできるだけ少なくするようにします。しかし、テレビの数だけアンテナを建てるわけにもいきません。そこでブースターと組み合わせます。信号が弱まる分をブースターで補うのです。
分配器は便利ですが、別の分配方法もあります。同じ部屋の中で、壁のアンテナコンセントからテレビ、HDDレコーダ、チューナーなどに配線する場合です。それらの機器のアンテナ入力と出力端子を数珠つなぎに配線する方が、分配器を使うよりも有利なことがあります。こうした機器のアンテナ入力端子と出力端子の間にはLNA(Low Noise Amp、低雑音アンプ)と呼ばれる増幅器が入っており、入力・出力端子間で信号が弱められることがないのです。チューナーを増設したら一部のチャンネルが観られなくなったという場合には配線方法を検討してみるとよいかもしれません。

図5:分配器

分配器は電源に配慮する必要があります。BSやCSのパラボラアンテナには電源が必要です。これらのデジタル放送の電波は受信したままでは周波数が高いため、アンテナに内蔵されたコンバーターで低い周波数に変換して同軸ケーブルに送っています。このコンバーター用の電源が必要なのです。この電源はBS、CSチューナー、HDDレコーダやテレビがアンテナ端子から同軸ケーブル経由で供給しています。図5の分配器の「電通」は、この電源を分配出力端子から送り込むことができるという意味です。全端子からできるものと1端子だけから供給できるものがあります。
このアンテナ用の電源は、設定を誤るとBSチューナーとテレビの両方から同時に電源が供給され、保護回路が働いて電源供給が停止したり、電源を供給している側の機器をオフにすると他の機器でBSが観られなくなったりします。分配器への接続には電源供給への配慮を忘れないようにしなくてはなりません。

映像を見るための機器、テレビとチューナー

実際に映像を見るための機器についてのお話です。
「デジタル放送対応テレビ」、「デジタル放送チューナー」、「録画機器のチューナー」、最後に「ケーブルテレビ」の順に紹介します。

デジタル放送対応テレビ

2008年8月現在、新しくテレビを購入するとなると、デジタル放送対応チューナー内蔵の薄型テレビ以外に選択肢はありません。
家電販売店の店頭では見かけなくなりましたが、デジタル放送対応チューナーがついていないテレビもごく一部で販売されています。低価格が売りの液晶テレビもあります。こうしたアナログチューナーのみを搭載したテレビには2006年6月以降、工場出荷時に2011年アナログ放送終了告知シールの貼付が義務づけられています。また、地デジ対応テレビには、地上デジタル対応ロゴマークが貼付されています。購入時に確認しておきましょう(図6)。

図6:アナログ放送終了告知シールと地デジ対応ロゴマーク

ブラウン管テレビも店頭から姿を消しています。すでに国内で製造しているメーカーはありません。業界団体JEITA(電子情報技術産業協会)は2009年に国内テレビ市場でブラウン管テレビの販売台数がほぼゼロになると予測しています。
地デジを楽しむためのテレビの選択にあたっては、次の表のキーワードに注目してください。店頭に並ぶほとんどのテレビに標準装備されているスペックですが、通販や特別に低価格なものを購入しようとするときには仕様を確かめるようにしましょう。思わぬ落とし穴があります。地デジ対応でもデータ放送が受信できない低価格テレビもあります。

キーワード 備考
大画面 従来の画面(縦横比4:3)よりも高さのある画面サイズを推奨。目安として+7インチ。従来が29型なら36型以上。32V型だと画面の高さが、以前の画面より低くなり、画面は小さく感じられる。奥行きが小さいのでほぼ同じ場所での設置も可能
ハイビジョン フルハイビジョンを推奨。地デジは1440×1080ピクセル、BS・110°CSデジタルは1920×1080ピクセル。16〜32型で主流の画面サイズは1366×768。22、24型の一部と37型以上では標準が1920×1080ピクセル。ピクセル数が多いほど精細度は高い
チューナー 地デジと、BSデジタル、110°CSデジタル放送の3波チューナー内蔵を推奨。アンテナなどに費用はかかるが、BSデジタル放送は民放キー局系が無料で視聴でき、110°CSデジタル放送でも一部、番組が無料のものがあり、地デジ以上の高画質放送が楽しめる
倍速表示 (液晶テレビ) 液晶の映像は1秒間60枚の画像を表示している。この1枚1枚の画像の間に中間の画像を作り、映像を120枚の画像で表示する。残像感がなく、動きの速いシーンやテロップなどを滑らかに表示できる。1秒間に240枚を表示する4倍速も登場している
HDMI(注3) 最低1個、できれば複数のHDMI端子装備を推奨。Blu-rayやHDDレコーダ、デジタルビデオカメラなどのデジタル映像機器の映像・音声をデジタル信号のままでやりとりするため、信号の劣化がなく、高品質な映像・音声を入出力できる
LANコネクター LAN端子を装備したもの。DLNA(注4)対応を推奨。ネットワーク経由でPCやデジカメ、デジタルビデオカメラ、携帯音楽プレーヤーなどと接続して、映像や音声、静止画などをやりとりできる。今後、対応機器が増えてくるとさまざまな応用が可能になる

注3 HDMI(High-Definition Multimedia Interface):デジタル映像機器の録画や再生のための映像・音声をデジタル信号のままでやりとりするための規格

注4 DLNA(Digital Living Network Alliance):LANを使って映像や音声、静止画などをやりとりするための規格

デジタル放送チューナー

地デジを視聴するための最もローコストな方法が、単体で販売されているデジタル放送チューナーとアナログテレビの組み合わせです(図7)。

図7:アナログテレビ+デジタル放送チューナー

政府は、地デジ普及のため5,000円程度で入手できる簡易型地上デジタル放送チューナーの開発をメーカーに呼びかけています。
アメリカでは、2009年2月にアナログ放送が終了しますが、60ドル(約7,000円)台のデジタル放送チューナーが登場しています。日本でも、アナログ放送終了が迫る頃には価格競争になる可能性はありますが、2008年8月現在、店頭に並ぶデジタル放送チューナーの価格は1.6万円〜8万円です。ハイビジョン映像出力、BS・110°CSデジタル放送チューナー搭載の有無、データ放送への対応が価格に反映されているようです。
1万円台のデジタル放送チューナーは簡易型です。電子番組表や字幕放送には対応していますが、映像出力はアナログ放送と同じ標準画質です。データ放送、双方向サービスには対応していません。しかし、アナログ放送と同じ感覚で番組が見られればよいという人は案外少なくありません。簡易型チューナーには番組を見るために必要な機能が装備されており、そうした視聴者には最適な選択です。

録画機器のデジタルチューナー

HDDレコーダやBlu-rayレコーダなどの録画機器内蔵のデジタル放送チューナーとテレビを組み合わせる方法があります(図8)。

図8:アナログテレビ+デジタル放送チューナー

デジタル放送チューナーは、将来テレビを買い換えると不要になるかもしれませんが、録画機器ならテレビとは別にそのまま使い続けることができます。ハイビジョン対応やBS、110°CSデジタルチューナー、HDMI端子などはほとんどの機器が装備しています。デジタル放送チューナーの高いものとあまり変わらない価格で、「録画機能付きのデジタル放送チューナー」を入手できると考えれば、かなり有利な選択肢です。

ケーブルテレビ(CATV)で地デジを見る

ケーブルテレビを通してデジタル放送を受信することもできます。ただし、ケーブルテレビには以下のような2つの方式があり、それによって必要な機器が異なります。ケーブルテレビ局ごとに決まっており、現在のところ契約者がどちらかを選択できるようにはなっていません。

パススルー方式

ケーブルテレビ局が受信した地デジの電波をそのまま伝送する方式です。地デジを視聴するために、契約者は地上デジタル対応テレビやデジタルチューナーなどを用意し、ケーブルテレビからの出力をアンテナ端子に接続します。ケーブルテレビ局はアンテナの代わりになるだけですが、地形や建物の関係で地デジが受信できない場合やアンテナを設置できない場合に、安定した電波を受信できるメリットは小さくありません。そのため、この方式は難視聴対策として利用されるケースもあります。アンテナ端子に複数のテレビなどを接続できるのもこの方式のメリットです(図9)。

図9:ケーブルテレビ(パススルー方式)

ケーブルテレビ会社としては、ケーブルがアンテナの役割しかしないパススルー方式では料金を高く設定できない悩みがあるようです。

トランスモジュレーション方式

ケーブルテレビ局が地デジの電波をケーブルテレビに適した信号に変えて伝送します。変化された電波は契約者宅に用意されたSTB(セットトップボックス)(注5)でテレビ放送の信号に戻します(図10)。

注5 STB(Set Top Box):ケーブルテレビ会社などから送られてくる放送信号を、一般のテレビで受信できる放送信号に変換する装置

図10:ケーブルテレビ(トランスモジュレーション方式)

この方式は、ケーブルテレビ会社専用のSTBが必要になりますが、そのままアナログテレビで受信できるものもあります。STBには録画用のHDDを装備したものもあります。地デジだけでなくBSデジタルなど他の放送も同じ方法で送信することができるというメリットもあります。しかし、テレビ1台にSTB1台が必要になります。複数のテレビでSTBを共有することはできません。
ケーブルテレビ会社としては、地デジだけでなくBSやCSと組み合わせて有料チャンネルの視聴者を増やしたいところなのでトランスモジュレーション方式を勧めたいように見えます。

地デジ、いっそうの普及には

2008年6月にインターネットコムとgooリサーチが行った「テレビに関する調査」によると、前年に比べ若干減少したもののブラウン管テレビの所有者は74.4%を占めています。4軒中3軒の家にブラウン管テレビがあるわけです。すでに家電店の店頭から姿を消しつつあるブラウン管テレビが、台数から考えれば家庭ではまだ主流であることがうかがわれます。
アナログ放送終了まで3年をきったにもかかわらず、普及の道のりはまだ厳しいようです。普及にはテレビやチューナーなど機器の低価格化、ダビング10をはじめとするデジタル録画再生機器の使い勝手の向上、ネットワークやITとの連携、高齢者世帯や低所得者世帯へのデジタル切り替え支援策などがいろいろなところで語られています。
さまざまな施策があるにもかかわらず、家庭ではいまだにブラウン管テレビが主流であり続けているのは、デジタル化を強力に動機づけるコンテンツやサービスが見あたらないからではないでしょうか。現在のテレビ番組はデジタル放送の持つ能力のほんの一部しか使っていないように感じられます。デジタル放送ならではのコンテンツ、双方向だからこそ実現できる魅力的なサービスが求められるところです。
次回は、「デジタルの画質と音質」で、デジタルハイビジョンの画質と音質のお話です。
デジタル放送のパフォーマンスをフルに引き出し、魅力的で、実用的なコンテンツやサービスを探すために、よりいっそうデジタル放送への理解を深めていくことにしましょう。

参考リンク

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