第2回 デジタル放送とはBSデジタル、地上デジタル放送など、デジタル放送という言葉は、日常で耳にする機会が増えてきました。ところで、テレビ放送の何がデジタルなのでしょうか。1953年以来親しまれてきたアナログのテレビとは、どう違うのでしょうか。今回は、アナログ放送とデジタル放送の技術的なあらましと、デジタル放送とはいったい何か、これからのデジタル放送講座で、頻繁に登場するいくつかのキーワードをおりまぜて解説します。 はじめに、テレビのアナログ放送について説明します。次に、アナログ放送との違いを比較しながらデジタル放送の仕組みを解説します。 アナログテレビ放送2011年7月24日に停波するアナログ放送は、50年以上にわたって使われ続けている技術です。テレビ放送開始、モノクロからカラーへ、ステレオ放送、文字多重放送、衛星放送、アナログハイビジョンと今日に至るまで磨かれ続けてきた技術です。デジタル放送を説明するのに当たり、テレビ放送の仕組みがわかりやすいアナログ放送を最初に説明します。 映像と音声は別々に取り扱う音声はマイクで収録されて電気信号に、映像はビデオカメラで撮影されて電気信号に変換されます。それぞれ音声信号、映像信号と呼びます。どちらもアナログ信号です。これらの信号を遠くまで送信するには、信号を運ぶための搬送波(キャリアとも言う)と呼ばれる電波と混ぜあわせます。混ぜあわせた電波がテレビ放送の電波です。 もう少し詳しく放送電波をみてみましょう。 明るさ、色の差、同期の3つからなる映像信号映像信号は、2つの信号に分けて送信されています。映像の明るさを表す輝度信号と、映像の色を伝えるのは色差(しきさ)信号です。さらに、輝度信号には同期信号という映像の位置を表す信号が含まれています。前項のアナログテレビ放送の図中で映像信号の搬送波で送信されるのが同期信号を含む輝度信号、輝度信号から3.58MHz上の搬送波で送信されるのが色差信号です。 アナログテレビの仕組み次の図は、映像と音声信号の流れを中心に作成したアナログ放送用テレビの構造です。 デジタルテレビ放送デジタル放送にはいくつかの種類がありますが、放送の仕組みがわずかずつ異なります。ここでは地上デジタル放送を例に説明します。 最初に映像も音声もデジタルに変換カメラの映像やマイクの音声はアナログ信号です。デジタル放送では、これらのアナログ信号をデジタル信号に変換します。これをA-D(Analog to Digital)変換と言います。次の図のような3つのステップで行われます。 大容量化をコンパクトに。情報圧縮実際の音声や映像信号は、符号化と同時にデータ圧縮が行われます。実際の圧縮技術については回を改めて紹介します。 映像・音声・データを一つにまとめて変調地上デジタル放送では、圧縮された映像と音声信号、文字放送・字幕・データ放送・静止画なども同じ信号の中にまとめられます。これらを伝送用の信号の規格であるMPEG-2 TSと言うデジタル信号にまとめます。これを多重化と言います。 MPEG-2 TSを搬送波と混ぜあわせます。アナログと同じでこれを変調と言います。地上デジタル放送はマルチキャリア方式という大量の搬送波を使う変調方式を使います。アナログテレビ放送の搬送波は映像と色、音声の3本ですが、地上デジタル放送は1つのチャンネルで最大で5617本使います。1KHz弱の間隔で搬送波を用意し、1本の搬送波に1個のデジタル信号を割り当てます。しかも1本の搬送波で複数のビットを送信できるようにしています。この方式を多値変調方式と言い、地上波デジタル放送では、16種の値(4ビット)または64種(6ビット)を1本の搬送波で1度に送信する効率的な仕組みになっています。 1チャンネルを14に分割地上デジタル放送も1チャンネル分の周波数幅はアナログ放送と同じ6MHzですが、この6MHzの幅を428KHz幅ごとに14に分けて使っています。区分けされた周波数幅の1つ1つをセグメントと言います。14セグメントのうち1セグメントだけは隣のチャンネルとの混信防止のために空けておくことになっており(ガードセグメントと言います)、実際の放送の1チャンネルは13セグメントです。 デジタル放送では信号を圧縮することで1セグメントだけでも動画を放送することができます。4セグメントを束ねた428KHz×4=約1.7MHzの周波数幅があれば標準画質のテレビ放送ができます。6MHzの周波数幅の中では標準画質なら同時に3つの番組を放送できることになります。12セグメントをまとめて使用すればハイビジョン映像で放送することができます。 注1:地上デジタル放送は、地上アナログ放送と同一番組を1日の3分の2以上の時間放送しなければならないことになっています。これをサイマル放送と言います。 次の表はセグメントの組み合わせによる放送の形態をまとめたものです。ビットレートは1秒間あたりの動画の情報量です。数値が大きいほど高精細な映像になります。ちなみにVHSビデオは約2Mbps、DVD-Videoは最高で約10Mbpsです。
注2:参考値、他の2つとは変調方式などが異なりますので同一条件での数値ではありません。 セグメントに分ける方法を採用したのは、ハイビジョン、移動体、標準画質、データ放送など多様なテレビへのニーズを考慮したためと推測されます。世界中で日本だけが採用している方式です。 デジタル放送はゴーストに強い?地上波放送では、送信アンテナから発射された電波が、建物や山などで反射や回り込みが発生し、同じ電波が複数の経路で受信アンテナに届くことがあります。経路の長さが異なるために、受信アンテナに届く時間にズレが生じ、その結果、受信映像が二重、三重になるゴーストという障害が発生します。 デジタル放送は「ゴーストがない」のが特徴と言われることがあります。実は、世界のデジタル放送の中にはゴーストに強くない方式もありますので、ゴーストに強いのは日本の地上デジタル放送の特徴です。 アンテナはアナログと同じ地上デジタル放送はUHF波(473.0〜767.0MHz)を使用しますので、UHF帯対応のアンテナであればアナログ放送用と同じアンテナで受信できます。ただし、アンテナは送信所の方向に向けなくてはなりません。地域によってはデジタル放送とアナログ放送の送信所が異なる場合がありますので注意が必要です。 アナログでは受信できるのにデジタル放送は全く受信できない場合には、電波の強さが受信限界を下回っている可能性があります。室内であればアンテナを屋外に設置する、屋外のアンテナは向きや位置を調整する、またはより高性能なアンテナに変える、ブースターを設置するといった対策が必要な場合があります。アンテナについては回を改めて説明します。 デジタルテレビの仕組みこれまで説明したように放送局から送信されてくる電波に載って運ばれてくる信号が異なるのでアナログ放送専用のテレビではデジタル放送は受信できません。次の図はデジタル放送対応テレビの構造の例です。 デコード(D-A変換)された後の映像信号と音声信号は、アナログ放送対応のテレビと同じ構造で、ブラウン管や液晶、プラズマなどの表示装置とスピーカーを駆動します。 デジタル放送の特徴前項でデジタル放送の仕組みのあらましを説明しました。ここでその特徴をまとめておきましょう。 周波数の有効利用デジタル信号の圧縮技術によってハイビジョン映像や5.1チャンネル音声などの情報量の大きな信号を、アナログテレビと同じ周波数帯幅で放送することができます。また、混信に強いため、アナログ放送のように隣接するチャンネルの周波数を混信防止だけのために空けておく必要がありません。また、アナログ放送電波の中継では、受信周波数と送信周波数は別々でなければならず周波数を2チャンネル分使用します。同じ周波数では回り込みや反射などで自分が送信した電波を受信してしまい信号の質が低下したり、発振と呼ばれる現象を生じたりして、場合によっては中継施設にダメージを与えかねません。ところが、地上デジタル放送では、先に述べたガードインターバルのように目的の信号だけを取り出しやすい仕組みなどにより同一周波数による中継ができるようになっています。これをSFN(Single Frequency Network)といい、日本の地上デジタル放送が採用している変調方式の大きな特徴です。 高精細・高画質・高音質解像度は最大で1440×1080、ビットレート16.8Mbpsのハイビジョン映像が放送されています。大画面でも美しく高精細な映像を楽しむことができます。ゴーストなどの受信障害に強いのも特徴です。音声も劣化が少なく、アナログ放送ではモノラルの二ヵ国語放送かステレオのどちらかしか放送できませんでしたが、デジタル放送ではステレオによる二ヵ国語放送や5.1chサラウンドによる放送も可能です。 多彩な放送サービス音声や映像とともにデータも同時に送信できるので、これらのデータを利用した電子番組ガイド(EPG)の番組表や番組情報、ニュースや天気予報などのデータ放送が行われています。放送中の番組の解説や関連情報がデータ放送で配信されています。デジタル放送対応のテレビを電話回線やインターネットに接続し、視聴者参加型クイズやアンケートの投票を行うことができます。特殊な例では、データ放送を利用してテレビや録画装置などの機能改善や不具合の修正を行うファームウェアの配信も可能になっています。機器の主電源がオンになっており、電波が受信できる状態であればユーザーは全く意識することなくファームウェアが最新の状態に更新されるようになっています。デジタル放送は従来の放送の枠を越えた多彩なサービスを実現しています。 多様な放送形態デジタル放送では、高画質なハイビジョン放送から、1つのチャンネルで3つの番組を放送可能なマルチ編成、地域に合わせた情報を配信可能なデータ放送、携帯電話などの移動中にも安定した映像を視聴可能なワンセグなど、伝送方式の異なる様々な運用形態で番組を提供することができます。 テレビは新しい情報端末デジタル放送は、放送局でアナログ信号からデジタル信号への変換から、テレビの中で映像信号に復元されるまでがアナログ放送と異なっていることがおわかりにいただけたでしょうか。 参考リンク
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