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第8回 薄型テレビの主役、液晶とプラズマ

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私たちがデジタル放送を見るのは目の前のテレビの画面です。現在、テレビの主流となっているのは、液晶テレビやプラズマテレビです。さらに、2011年ごろまでには、高画質・高速しかも省エネという有機ELやSEDなどの次世代薄型テレビが製品として本格的に登場しそうです。今回は、液晶、プラズマ、有機EL、SEDといった薄型テレビについてお話しします。


薄型テレビの主役、液晶とプラズマ

デジタル放送対応の大画面テレビと言えば、液晶テレビかプラズマテレビです。販売量では圧倒的に液晶テレビが勝り、テレビ出荷台数の約88%を占めます(表1:地上デジタルテレビ放送受信機国内出荷実績/JEITA)。

表1:地上デジタルテレビ放送受信機国内出荷実績(JEITA)

まず、液晶とプラズマなどの特徴を比較し(表2)、その後それぞれの表示方式の仕組みや特徴、技術動向を詳しく紹介します。

表2:各種薄型テレビの特徴
種類 消費電力 寿命 長所 短所
液晶テレビ
バックライトの光を液晶で制御して表示
・幅広いラインナップが可能な画面サイズ
・低消費電力
・黒の表現が苦手
・視野角が狭い
・動きある映像は苦手
プラズマテレビ
素子を放電により発光させて表示
× ・大画面で低価格
・動きのある映像が得意
・高いコントラスト
・明るい場所が苦手
・小型にできない
・色表現に難点
有機ELテレビ
特殊な有機物に電気を与えELパネルを発光させて表示
× ・薄型にできる
・低消費電力
・広い視野角
・応答速度が速い
・高価
・現時点では寿命に不安
SEDテレビ
電子を蛍光体に照射して発光させて表示
不明 ・低消費電力 ・現状では製品がない

<液晶テレビ>今や薄型テレビの代名詞

液晶テレビの販売台数がライバルであるプラズマテレビを大きく引き離しているのは、小型から大画面まで幅広くラインナップできるからです。例えば、シャープでは16インチの小画面から65インチの大画面まで10種類近いサイズを揃えています。対するプラズマは37インチ以上の大画面に限られます。2008年の最も売れ筋の画面サイズは32インチと言われています。2台目以降はそれより小さな画面を選ぶことが多く、そうなるとどちらも液晶テレビになってしまいます。
液晶テレビは、電圧を与えると結晶の向きが変わり光を通しにくくなる性質を利用して、バックライトと呼ばれる蛍光灯の光を遮ったり通したりして映像を表示します(図1)。

図1:液晶テレビ

通常、液晶テレビのバックライトには蛍光灯の一種が使われていますが、最近LEDも使われ始めました。LEDは長寿命、小型で、電力消費が小さく、応答性がよいと言う特長があります。水銀を使用しないことは環境対策上、優れています。
バックライトをLEDにすると、テレビ本体をさらに薄くすることができるだけでなく、バックライトのLEDを画面の部分単位で点灯または消灯することで、画面全体のコントラストを向上させたり、黒色を黒く表現できない「黒浮き」を低減させたりすることができます。
現在のところLEDバックライトの採用は、価格との兼ね合いで上位機種に限られていますが、薄型化の進展などにより2012年には液晶テレビの25%がLEDバックライトになると予測されています。
液晶テレビの短所は、応答速度が遅く、速い動きのあるシーンで残像感が出ると指摘されてきましたが、これに対しては、「倍速駆動」という技術が開発されています。
そもそもデジタル放送対応テレビでは、1/30秒ごとに偶数・奇数の走査線が交互に送信されるインターレース信号をテレビ側で1枚の画像に合成し、プログレッシブ方式に変換して1/60秒ごとに表示しています(「第6回 デジタル放送の画質と音質」参照)。
倍速駆動は、この1/60秒ごとの画面の間に、映像の動きを予測した画面をもう1枚作り、1/120秒ごとに1枚の画像を表示する仕組みです。これによって残像感を消すだけでなく、動きの速い映像をなめらかに表示することができます。1/120秒の画像の間にさらに1枚追加表示する4倍速駆動のテレビも登場しています。
液晶テレビは、圧倒的な販売量を背景にLEDバックライト、倍速駆動など技術的な革新が続いており、既に表示の仕組み上の問題点は技術的に解決され、次なる高画質化のステップに移ろうとしています。

<プラズマ>高画質・高性能、なのに相次ぐメーカーの撤退

プラズマテレビは開発・生産設備に液晶以上の投資が必要と言われ、多くのメーカーがプラズマテレビ生産から撤退する傾向にあります。2008年(1月〜11月末)の販売台数は液晶テレビの約15%です(表1)。
プラズマ本来のよさを持つ製品は、ある程度の大画面でないと作れません。それは、液晶テレビのフィルターを並べるように、プラズマで小さな画面に多数の発光素子を並べると1つひとつの発光素子が小さくなり、発光量が不足して暗くなってしまうのが原因です。しかし、大画面になればなるほど同サイズの液晶に比べて価格は安くなります。また、もともとプラズマテレビは視野角の問題もなく、動画の表示性能も高く、コントラストが大きくメリハリがあるダイナミックな映像表示が可能で、液晶テレビを凌ぐ特性があるのです。
プラズマテレビの表示は、プラズマ放電により紫外線を放出し、その紫外線で色の付いた蛍光体を光らせる仕組みで、液晶の画面表示に比べてシンプルな構造です(図2)。

図2:プラズマテレビ

従来プラズマテレビが苦手とされてきた点や短所とされてきた点は現在ほとんど解消されています。消費電力は改善が進み年間消費電力では液晶テレビを逆転する機種も現れています。明るい場所では光沢のある画面に光が映りこんで画面が見づらくなる問題も低反射モデルの登場で解消しました。ブラウン管と同様に、同じ場所に同じ表示をし続けることで画面に画像が焼きついてしまう「焼きつき」も機種ごとに対応策を施しており、通常の使用では心配するには及びません。
しかし、プラズマテレビは製造や販売からの撤退が相次いだこともあって、液晶テレビほどの革新的な技術が登場しにくいのが現状です。

役者揃いの次世代薄型テレビたち

<有機EL>最も近いところにいる次世代テレビ

有機ELの“EL”はElectroluminescence(エレクトロルミネッセンス:電界発光)の略です。特定の有機物に電気的な刺激を与えることにより発生する光を表示に利用し、低い電圧で発光します(図3)。

図3:有機ELテレビ

発色もよく、構造がシンプルで、薄く作ることができるため、既に携帯電話などの画面表示に使用されています。高精細で省エネ、しかも薄いという特長は、携帯機器の画面表示に最適なのです。携帯機器にはさらに省エネで薄い次世代ディスプレイも登場しています(参照:コラム)。
有機ELテレビは、液晶やプラズマを凌ぐ高画質で、高速な応答性能、省電力であることに加えて、表示部の構造はシンプルで薄くできる特長があります。
有機ELの大画面テレビやディスプレイの登場も期待されており、次世代薄型テレビの本命と目されています。しかし大画面化にあたって、有機物の塗布方法など、解決すべき技術的なハードルは高く、これまで展示会などで、さまざまなメーカーから大画面の有機ELテレビが展示発表されていますが、2008年12月現在、市販されているのは約20万円と高価なソニーの11インチ型1機種のみです。
しかし、上記課題点に何らかのブレークスルーがあれば一気に製品化、低価格化が進行する可能性があります。2009年に有機ELディスプレイの量産体制を稼働させる計画2011年に安価で大画面の有機ELテレビを量産する計画を発表したメーカーがあり、製品の登場もそう遠い日ではないようです。

<コラム>薄く、軽く、省エネで注目される新しいディスプレイ

バックライトが不要で、特定の光を反射する性質を持つコレステリック液晶(注1)を利用した富士通の電子ペーパーも次世代ディスプレイとして注目されています。有機ELと同様に薄く、軽く、丸めたり、貼り付けて利用したりすることが可能で、記憶素子としての特長もあり超低消費電力で携帯機器などへの応用がすすめられています。

(注1)コレステリック液晶は、特定の波長(光)のみを反射する性質があります。太陽光や蛍光灯の光が液晶に入ってくると、赤色、緑色、青色の決められた波長を反射し、フルカラーを表示しています。全ての色が反射する場合、光の3原色で私達の目には白に見え、反射しない場合は一番下の層の光吸収層の黒が見えます。

< SED >期待されながらも製品化が進まない

SED(Surface-conduction Electron-emitter Display:表面伝導型電子放出素子ディスプレイ)は、2004年以来キャノンと東芝の合弁会社で開発が進められ、2005年には商品化が予定されていました。しかし特許を巡る裁判が長引き、2007年には東芝が撤退し、製品化されないまま現在に至っています。裁判は2008年12月にキャノンの勝訴で決着しており、今後製品化が期待されています。
SEDはブラウン管によく似た表示原理を持ち、微細な色の表現力が豊かと言われています。消費電力の面でも液晶より優れており、次世代薄型テレビの主役になるとも言われましたが、圧倒的なシェアを占める液晶・プラズマに加えて、有機ELなどの強力なライバルが出現しており、今後の製品化への動きが注目されています。
SEDとほとんど同じ原理で動作するディスプレイが、FED(Field Emitting Display:電界放出素子ディスプレイ)です。FEDは、電子を蛍光体に当てて発光させる方式の薄型パネルです。自然な発色や動きの速い動画を鮮明に表示すると言われていますが、医療用への展開などが期待され、ディスプレイの量産計画までは発表されていますが、製品ならびに製品化計画は発表されていません(図4)。

図4:SED(FED)テレビ

どこのテレビでもそう変わらない?

市場にある薄型テレビはメーカー・画面サイズ・表示方式・価格どれをとっても基本性能は十分な域に達しています。表示機能や画質だけで他社と大きく差別化することは困難です。しかし、他社と差別化できなければ勝ち残れません。そうした薄型テレビ事情から、目立つようになったのが「超解像技術」と「録画機能」です。

<超解像>元の画像よりも美しくなる

量販店のテレビ売り場で「超解像」という文字を見かけるようになりました。これは画面の情報を高度な演算により補正し、精細度を向上させる技術です。DVDに録画したSD品質の映像をハイビジョンで鑑賞するのに耐える画質にまで引き上げることも可能と言われています。
超解像技術を施した画像は、SD画質のオリジナル映像では見分けられない被写体の立体感、奥行感等の質感が浮かび上がり、オリジナルの映像よりも美しくなったかのように感じられることがあります。
この超解像技術は特に業界標準という技術ではなく、メーカー各社が独自の考え方で実現しています。そのため、自社の技術の見せ所であり、他社との差別化を示す手段として、今後、メーカー各社が注力する重要な技術となりそうです。

とても便利、テレビで録画

録画機能付きの薄型テレビは、東芝、日立に引き続き、2008年冬には、パナソニック、シャープから録画機能付きテレビが登場しました。
先行している東芝、日立の製品は、いずれも着脱式HDD(ハードディスクドライブ)に記録する方式です。これらの中にはUSB端子を装備したものもあり、PC用の外付けのHDDを接続し、ハイビジョン番組の録画再生が可能なものがあります。
また、ちょっと録画しておくだけ、録画はするが一度再生したら消してしまう、そうしたニーズは少なくないため、ニュース番組などあらかじめ設定した番組を自動的に録画でき、見たいときにすぐに再生できる「今すぐニュース(東芝)」や、録画中でも番組の最初から見ることができる「追いかけ再生・同時録画再生(日立Woooシリーズ)」などが搭載されている録画機能付きテレビが登場してきました。消費者は、テレビの機種選定にあたって「液晶」・「プラズマ」、機種間のわずかな画質の違いなどを気にするよりも、前述の録画機能のほか、ダブルチューナー、インターネット、デジカメ写真などのメディアの再生など、テレビが本来持つ番組視聴以外の機能に注目するようになっています。
そんな中、Blu-ray Disk レコーダを搭載しているテレビも登場しています。基本性能では大きく他社と差別化しづらくなったメーカー各社は、放送番組視聴以外の機能のさらなる強化こそが、差別化のための重要なポイントとして、競争の生き残りを画策しています。

次回は、「テレビとデジタル機能」です。これも各社差別化を図るポイントとなります。家庭内ネットワーク視聴機能(DLNA)、アクトビラ対応、テレビと外部機器とのリンク機能についてお話します。

参考リンク

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