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第12回 インターネット放送とこれからのデジタル放送

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デジタル放送について、仕組みや放送の種類、受信方法、楽しみ方までいろいろな角度からお話してきました。今回は、電波ではなくインターネットを経由して放送(配信)されるコンテンツや配信の仕組みについてお話しします。また、デジタル放送講座の最後に、デジタル放送の現在と将来として、これまで触れていなかったデジタルラジオ放送と地上デジタル放送普及の現状、デジタル放送の将来についてお話しします。


多様なインターネットのコンテンツ配信

インターネット上でのコンテンツ配信(放送)が脚光を浴び始めています。代表的なコンテンツ配信サービスとデータ伝送の方法、データの提供形態を紹介します。

インターネットの代表的なコンテンツ配信サービス、テレビ・ラジオ・動画共有

<インターネットテレビ>

国会や地方自治体の議会、モーターショーなど大規模なイベントがインターネットの動画で生中継されていることをご存じの方も多いと思います。インターネットを経由して映像番組を見ることができるようにしたサービスをインターネットテレビと呼んでいます。
行政、企業、学校、団体、有志、個人など実に多様な運営者によって放送されています。国会中継のような情報番組から国内外のドラマやすでにテレビ放送された番組など、さまざまな種類の番組を、生中継からオンデマンド(保存されているコンテンツを選んで視聴する方式)までさまざまな提供形態で見ることができます。
パソコンや携帯音楽プレーヤーなどにダウンロードして視聴するビデオキャストもインターネットテレビの1種といえます。
インターネットテレビは、国内だけでなく海外の番組も視聴できます。情報収集のみならず生きた教材として外国語の勉強にも役立つでしょう。

図1:インターネットテレビ 衆議院TV

受信にはブロードバンドでインターネットに接続されたパソコンと映像を再生するためのソフトが必要です。携帯電話やインターネットに接続可能なデジタルテレビの一部の機種でも視聴することができます。

参考:インターネットテレビ関係のWebサイト
インターネットテレビ 「INTERNET-TV」
イカ天!世界のネットテレビガイド
世界のテレビ

<インターネットラジオ>

インターネットテレビに対して音声だけを放送するインターネットラジオもあります。音声データを配信するサービスです。iTunesなどの音楽配信サービスとよく似ていますが、音楽だけでなく、ニュースやトークといったラジオの放送番組と同様のコンテンツを配信している点が異なります。受信には、ごく一部に専用受信機が市販されていたり、携帯電話で受信できるインターネットラジオ局もありますが、現状はパソコンでの受信がほとんどです。

図2:インターネットラジオ Yahoo Music Sound Station

インターネットラジオ放送局は世界中で数千局あるといわれます。放送の形態や内容もさまざまです。SHOUT castのように通常のラジオ放送と同じように音楽だけを終日流し続ける放送形態もあれば、ポッドキャスト(Podcast)のように特定の携帯音楽プレーヤー向けにダウンロード方式で音声を配信する形態もあります。国内のラジオ局や大手レコード会社、Yahooなど大手ポータルサイトが運営するインターネットラジオ局は一般のWebサイトと変わりませんが、音声を専門に配信するだけでなく、音楽や映像の配信サービスも行い、場合によっては動画共有サービスをかねたものも見かけます。

参考:インターネットラジオ関係のWebサイト
インターネットラジオ Yahooカテゴリ
世界のインターネットラジオを聴こう/motto!!
Most Popular SHOUTcast Radio Stations
アップル - iTunes - Podcasts - 何千もの無料のPodcastを楽しむ。

<動画共有>

ユーザーがアップロードした動画を配信するサービスです。Webサイトで見たい動画を選んで視聴する点ではインターネットテレビと変わりませんが、動画共有ではコンテンツがユーザー自身から供給されることが特徴です。

図3:動画共有サイトYouTube

動画の視聴は動画再生ソフトがインストールされたパソコンで行いますが、携帯電話やインターネットに接続可能なデジタルテレビの一部の機種でも視聴することができます。
動画共有サービスでは、アップロードされた動画に対して、視聴者がコメントやタグを付けたり、お気に入りの動画を自分のブログに貼り付けたりできる機能があり、こうしたインターネットの双方向性が利用者から高い支持を得ています。
個人の投稿だけでなく、映画の予告編やテレビ番組の告知、新製品のプロモーション、企業や団体の広報活動など娯楽以外の利用も活発になっています。2008年のアメリカ大統領選挙ではYouTube上に開設されたチャンネル「You Choose '08」が大統領選挙の事実上のポータルサイトになるなど、大きな存在感を持つようになっています。

参考:動画共有サービスのWebサイト
YouTube
ニコニコ動画

それぞれに強み、コンテンツ配信の3つのデータ伝送方式

インターネットでのコンテンツ配信は、ブロードバンド接続とIP(インターネットプロトコル、インターネットで使われるデータ送信の方式)を利用して行われています。次の3つの方式があります。

<マルチキャスト方式>

マルチキャストはネットワークの通信方式の一つです。受信者をグループごとにたばねて、グループごとに番組を送信します。ネットワークを流れる情報量をむやみに増やすことがなく、送受信機器の負荷が双方とも軽く済むという特徴があります。
受信するためには、マルチキャスト対応のルータ、専用のセットトップボックスまたは対応するテレビが必要です。

図4:マルチキャスト方式

この方式では、現在、「ひかりTV」(NTT)、「ひかりone」(KDDI)、「BBケーブル」(BBTV)、「GyaOネクスト」(USEN)などがサービスを行っています。

<クライアントサーバ方式>

サーバとクライアントが1対1で通信する方式です。クライアントの要求に応じてサーバがデータを返信する仕組みで、ほかの伝送方式に比べて安定した通信が可能です。しかし、サーバの受け持つクライアント数が多くなると、処理が追いつかなくなり、通信のための待ち時間が長くなったり通信ができなくなったりすることがあります。
受信するためには、パソコンまたはサーバにリクエストを送信できる機能を持つテレビやセットトップボックスが必要です。

図5:クライアントサーバ方式

インターネットテレビ、インターネットラジオ、動画共有サービス、音楽や映像配信サービスはこのクライアントサーバ方式で動作しています。

<P2P(Peer to Peer、ピアツーピア)方式>

サーバから発信されたデータをクライアント同士がバケツリレーのようにして伝送する方式です。コンテンツを配信するサーバは少数のクライアントに送信するだけで、後はクライアント同士がデータを中継して伝送します。そのため、サーバ機器への負荷が軽く、その分低コストで運用することができます。また、クライアント同士が複数の経路でつながるためネットワーク障害に強いという特徴があります。
受信はパソコンで行います。視聴者自身が次の視聴者にコンテンツを送るためのP2Pクライアントソフトをインストールして視聴します。インターネットのブラウザで視聴する場合は自動的にダウンロードして組み込まれるようになっているようです。

図6:P2P方式

日本国内では、 Yahoo動画のプロ野球中継で採用されているほか、テレビ局や大手広告代理店によりP2P放送の実験が続けられています。海外ではJoostが有名で、米国内では現在放送中のテレビ番組が配信されています。

受けてから見るか、受けながら見るか、コンテンツデータの提供方式

<オンデマンドとライブ>

オンデマンドは、視聴者が好きなときに、あらかじめ用意されたコンテンツの中から好きなものを選んで視聴する方式です。インターネットテレビや動画共有、ポッドキャストなど、多くの動画・音楽・映像の配信方式がオンデマンド方式でコンテンツを提供しています。
一方、ライブは、衆議院TVの生中継や、通常のテレビやラジオの番組のように番組表の時刻通りにリアルタイムで配信する方式です。コンテンツのデータを受信しながら再生するストリーミング方式で配信されます。

<ストリーミングとダウンロード>

コンテンツのデータの送り方に、ストリーミングとダウンロードの2通りがあります。ストリーミングは、コンテンツデータを受信しながら同時に再生する方式です。データの受信を終了するまで待たずにコンテンツを楽しむことができます。ほかにも視聴者のハードディスクなどにコンテンツが保存されないことから著作権保護の観点からメリットがあります。ライブ方式の配信はもとより、インターネットテレビや動画共有など動画配信サービスの多くがこの方式で番組を提供しています。
一方、ダウンロードは、コンテンツを視聴者のハードディスクなどの記憶装置に保存し、それを読み出して再生する方式です。携帯型音楽プレーヤー用の有料の音楽配信サービスや、有料の動画配信サービスで採用されています。データをすべて受信してから再生するため、視聴までに時間がかかりますが、いったん保存したコンテンツは何度でも繰り返して視聴することができます。

デジタル放送の現在と将来

デジタルラジオ、実用化に向けて試験放送中

デジタル放送の最後に、デジタルラジオ放送に触れておきましょう。デジタルラジオはCD並みの高音質音声と文字・写真などの静止画、簡易動画を含むデータ放送を行っています。現在は、首都圏の一部と関西圏の一部市で実用化試験放送を行っています。
デジタルラジオ専用受信機は市販されていないため、受信にはデジタルラジオチューナーを内蔵した携帯電話か、デジタルラジオ対応のパソコン用USBチューナーを使用します。
2009年6月現在、NHKをはじめ、TBSラジオ、文化放送、ニッポン放送、デジタルラジオ推進協会など11の放送局が放送を行っています。

図7:クラシック専門デジタルラジオ放送局 OTTAVA

参考:デジタルラジオ関係のWebサイト
クラシック専門デジタルラジオ放送局OTTAVA

本放送は2011年7月開始の予定ですが、テレビのようにアナログ放送を停波して置き換えるのではなく、現在のAM、FM、短波放送はそのままで、それらに次ぐ第4のラジオ放送となる予定です。
本放送は、実用化試験放送とは別の周波数帯を使用する予定になっています。周波数が変わってしまうため現在の受信機が使えなくなります。本放送に使用する周波数も決定していないため受信機の開発もままならないのが実情です。周波数帯の決定、受信機の開発・販売・普及と、デジタルラジオ放送が市民権を得るまでの道のりは、まだ遠いように感じられます。

道のりは半ばを超えた、地上デジタル放送の普及度

アナログ放送停波、デジタル放送完全移行まで1000日を切っています。
2009年5月、総務省は、同年3月現在、地上デジタル放送受信機の世帯普及率が60.7%に達したことを明らかにしました。同年1月末時点の49.1%から、2ヶ月間で大きく伸びています。
普及率が急伸した要因としては、1月からアナログテレビ放送の画面右上に「アナログ」の文字を常時表示するようになったこと、年末のデジタル家電製品の販売不振の影響で、薄型テレビの在庫処分が行われ、価格が大幅に下落したことなどがあると考えられています。
さらに、強力な後押し策が登場しました。5月15日にスタートした、省エネ家電の購入促進、経済の活性化、地上デジタル放送普及を目的としたエコポイント制度です。エアコン、冷蔵庫、地上デジタル放送対応テレビ購入者には、さまざまな商品やサービスと交換可能なエコポイントが付与されます。地上デジタル放送対応テレビは、画面サイズに応じて7000点〜36000点、購入時にリサイクルを申し込むとさらに3000点が付与される制度です。地上デジタル放送普及にはずみがつくと関係業界から大きな期待が寄せられています。
2009年7月以降、アナログテレビ放送の一部の番組において、地上デジタル放送の画面の縦横比に合わせるため、アナログ放送の画面は上下に黒い帯が入ります。アナログ放送の視聴者には心理的な効果を与えることになると思われます。
デジタル放送受信機の普及率は今後、さらに速度を増して向上すると予想されます。

より楽しく、より便利に

これからのテレビ番組は、電波だけでなく、ケーブル、インターネットの動画配信サービスなど、さまざまな経路で家庭に届けられ、視聴者は自分のライフスタイルに合わせて楽しめるようになると予想されます。リアルタイムに視聴するときは電波で、時間をずらして見たいときには動画配信を、過去の放送分もまとめて見るときはオンデマンドと、選べるようになるでしょう。
インターネットテレビや動画共有サービスの個人が制作したビデオ、通常放送や専門チャンネルの番組にいたるまで、番組の選択の幅も広がります。デジタル放送のデータ放送にオンデマンド映像配信サービスの入り口を表示し、そこで見たいコンテンツを選んで視聴するような、放送と通信が一体化したサービスが研究されています。また、視聴中の番組の字幕情報を基にデジタル放送のEPG(電子番組表)から関連する番組を検索し、おすすめ番組として表示するサービスなども研究されています。
2011年にはBSアナログ放送も終了します。そこに生じる空き周波数帯に対しての新規BSデジタル放送事業者の公募には空きチャンネル数の3倍に及ぶ28の民間事業者と放送大学学園から申請があったといいます。映画・音楽・スポーツ・通販・アニメ・教育・子供向けなど多彩なコンテンツを持つ事業者が申請者リストに名を連ねており、コンテンツのさらなる充実が期待されます。
さらに次世代デジタル放送として注目したい技術がスーパーハイビジョンです。現行のフルハイビジョンの16倍の7680×4320ピクセルの解像度と22.2チャンネルの音声が、どのような画面と音場を再現するのか今のテレビからは想像さえできません。
また、Javaアプリを放送して受信機で実行する、「Javaデータ放送」の実用化に向けての研究も進められています。テレビにキーボードやマウスを接続して文字入力や選択操作を行ったり、字幕の文字の大きさを変えたり、読み上げたり、パソコンにデータを送るなど、ホームネットワーク機器との連携も期待されます。
デジタル放送はますます楽しく便利になっていきそうです。これからどのように進化していくのか、目が離せそうにありません。

地上デジタル放送を中心にデジタル放送のいろいろな側面を紹介してきました。デジタル放送をより楽しんでいただくための一助となれば幸いです。

参考リンク

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