過去の連載

コンピュータ基礎講座

コンピュータ講座応用編

インターネット講座

アンケート

第3回 いろいろなデジタル放送

PDFダウンロード

ほとんどの新聞のテレビ欄が複数のページになっています。アナログテレビ放送に加えて、地上デジタル放送、BSデジタル放送、CSデジタル放送と放送の種類が増えて、番組が1ページに記載できなくなったのでしょう。これらの各デジタル放送は、同じデジタル放送と言っても少しずつ、その放送の仕組みや番組、運用方法が異なっています。4つのデジタル放送の概要と特徴をデジタル放送に多い衛星放送の特徴を交えて紹介します。


4つのデジタル放送

現在、デジタル放送には次の4種類があります。人工衛星を使った「CSデジタル放送」、「BSデジタル放送」、「110°CSデジタル放送」と、地上波を使った「地上デジタル放送」です。

ところで皆さん、人工衛星には、通信衛星(Communication Satellite)と、放送衛星(Broadcasting Satellite)があるということをご存知でしょうか?

そう、CSは「Communication Satellite(通信衛星)」の略で、電話会社など通信事業者の通信サービスや世界中の拠点間を結ぶ企業や官公庁などのネットワーク通信を中継するために打ち上げられる人工衛星です。CSデジタル放送はこの衛星の通信機能の一部を放送に利用しています。そしてBSは「Broadcasting Satellite(放送衛星)」の略で、BSデジタル放送を中継するための専用の人工衛星です。

それでは、4種類のデジタル放送を一つひとつ見ていきましょう。

図1:CS・BS・110°CS・地上デジタルの運用イメージ

図2:2007年8月に打ち上げられたBSAT-3a

9年間稼働して寿命がきたBS放送の中継に使われている放送衛星BSAT-1bの後継機で、2007年11月より稼働
(株)放送衛星システムBSAT-3a 打ち上げについての技術説明資料より
http://www.b-sat.co.jp/contents.html

表1:アナログ放送と4つのデジタル放送(2008年現在)
放送開始年 放送の呼び名 放送方式 中継局 番組提供者
〜2011年 地上アナログ NTSC アナログ地上波 2011年をもって終了予定
1996年〜 CSデジタル DVB-S 通信衛星 SKY PerfecTV!
2000年〜 BSデジタル ISDB-S 放送衛星 NHK、WOWOW、民放各局  他10社12局
2002年〜 110°CSデジタル ISDB-S 通信衛星 e2 by スカパー!
2003年〜 地上デジタル ISDB-T デジタル地上波 NHK、民放各局  他

CSデジタル放送

CSデジタル放送は、現在、SKY PerfecTV! が放送を行っているデジタル放送です。映画・音楽・スポーツから趣味・実用にいたるまで約300チャンネル(ラジオを含む)に及ぶ分野別の専門チャンネルで構成されています。

視聴するチャンネルを月ごとに契約するだけでなく、料金を支払って見たい番組を購入するペイパービューと呼ばれる従量制料金システム、著作権保護のための「コピーワンス」に加えて番組によっては録画自体ができない「コピー禁止」などのコピー制御機能といった独自の技術やサービスが組み込まれています。しかし、ハイビジョンへの対応は、2008年秋からとなっており、高画質化への対応は遅れ気味です。視聴するためには専用のアンテナとチューナー、そして視聴契約が必要です。

CSデジタル放送は、日本のデジタル放送としては最も早い1996年に放送が始まった関係からか、後発の他のデジタル放送が日本独自の放送方式を採用しているのに対し、CSデジタル放送はヨーロッパの衛星デジタル放送のDVB-S方式を採用しています。1996年には国内ではまだ放送方式の規格が固まっていませんでした。

CSデジタル放送用の人工衛星は、JCSAT-4AとJCSAT-3Aの2機が赤道上の東経124°と128°で稼働しています。

BSデジタル放送

BSのデジタル放送が開始されたのは2000年12月です。NHKが3チャンネル(BS1、BS2、BS-Hi)、WOWOWに加えて、TBS系のBS-i、フジテレビ系のBSフジ、朝日放送系列のBS朝日、日本テレビ系列のBS日本、テレビ東京系列のBSジャパン、東北新社の衛星放送事業部が運営するスターチャンネルで放送が開始されました。2007年12月からはスターチャンネルがスターチャンネルハイビジョンと名称変更されたのとともに、日本BS放送、ワールド・ハイビジョン・チャンネルが加わり、放送事業者数は10社12局になっています。

BS放送に使われる衛星は、高度約36,000km、赤道上の東経110°の軌道上で稼働しています。地球の自転と同じ周期で公転(地球の周りを回っている)しているので地上から見ると一点に止まっているように見えます。

現在、BSデジタル放送に使われている人工衛星は、BSAT-2a、 BSAT-2c、BSAT-3aの3機です。

110°CSデジタル放送

2002年、SKY PerfecTV!を中継するCSデジタル放送とは別に、もう一つのCSデジタル放送が始まりました。従来のCSデジタル放送と区別するために110°CSデジタル放送または広域CSデジタル放送と呼ばれています。

SKY PerfecTV!2、プラットワン、epの3社で放送が開始され、2004年にはWOWOWもWOWOWデジタルプラスという名称で加わりましたが、集約が進みSKY PerfecTV!110にまとまり、2007年に「e2 by スカパー!」に名称が変更されて現在に至っています。ごく一部のショップチャンネルを無料で視聴することができますが、ほとんどが契約の必要な有料のチャンネルです。2008年6月現在約70チャンネルが放送されています。ハイビジョン放送も行われています。

このCSデジタル放送は赤道上の東経110度に位置する通信衛星によるデジタル放送です。2000年に打ち上げられたJCSAT-110が稼働しています。BSと衛星の位置が同じなのでアンテナの向きも同じです。また、放送方式もBSデジタル放送と同じISDB-S規格なので、110°CSデジタル放送用アンテナやチューナーにはBSデジタル放送の受信に対応したものも少なくありません。

地上デジタル放送

地上デジタル放送は地上の放送局、中継局を通じて放送されるデジタル放送です。2003年12月1日に東京・名古屋・大阪のNHKと民放16社で本放送が開始されました。その後、放送エリアは拡大され、2008年3月現在で全世帯の93%が視聴可能になっていると言われます。

デジタル放送としては最後発なだけにDVDをしのぐ高画質なハイビジョン、5.1チャンネルサラウンドや多国語ステレオなど高品質・多機能音声、電子番組表(EPG)、データ放送、電話回線やインターネットによる双方向サービス、ハイビジョン1番組と標準画質3番組を切り替えて運用できるマルチ編成、移動体向け放送のワンセグ、同一周波数によるネットワーク構成の実現、コピー制御、字幕放送など、デジタル化による可能な限りの機能が盛り込まれています。

現時点でデジタル放送の機能としては世界最高のレベルにあると言ってもよいでしょう。世界各国が競ったブラジルのデジタル放送方式では、欧米を破って日本の地上デジタル放送の規格が採用されています。

現在、急速に普及している地上デジタル放送ですが、それでも当初の見込みよりはやや遅れ気味のようです。2011年のアナログ放送終了までにすべての地域で地上デジタル放送を視聴可能にすることを目標に普及活動が進められていますが、2008年3月の民放連の地上デジタル放送世帯普及状況調査では世帯普及率は43.3%、2008年末には6割程度を見込むとしています。

図3:「地上デジタルテレビ放送世帯普及状況調査」の結果について

(社)日本民間放送連盟(http://www.dpa.or.jp/news/news080626.htmlからリンク)

行政、関係団体からは、2007年12月に格安チューナーの開発奨励のためのガイドラインが発表されました。2008年4月にはパソコン用地上デジタル放送チューナー開発販売を解禁、6月には総務省が生活保護世帯へ地上デジタル放送の簡易型チューナーを無償配布する方針を固めました。7月には従来1回きりだったデジタルコピーを、9回までのコピーと1回のムーヴ(別のメディアへの移動)を可能にするコピー制限緩和策ダビング10の運用が開始されています。1年足らずの間に、さまざまな施策が矢継ぎ早に発表され、実施されています。これらの成果が今後どのように出てくるか注目されます。

デジタル放送と人工衛星

デジタル放送で特徴的なのが、4つのデジタル放送のうち3つまでが衛星により中継されていることです。デジタル放送が人工衛星を使うのはなぜか、特徴を交えながらお話しします。

衛星を使う放送の特徴

放送に使われる人工衛星のはたらきは、地上にあるテレビ電波の中継所と同じです。地上での放送局と中継所を結ぶ通信回線の代わりに放送電波が使われます。そもそも、デジタル放送の中継に人工衛星が使われるのは、デジタル放送自体の歴史が新しく、広い周波数幅を利用できる周波数帯が、地上波では使いにくい高い周波数しか空いていなかったこと、しかも光に近い性質を持つその高い周波数帯が衛星と地上との通信や放送に有利であるためです。

衛星を使う放送では地上波の放送に比べて非常に高い周波数を利用します。地上デジタル放送の周波数は最高で760MHzですが、BS放送の場合、11〜12GHzという高い周波数を使います。これくらい高い周波数では、電波の伝わり方が光に近く、直進性が強くなり、太陽の光と同じで障害物のない高いところから送信すれば地上の広い範囲に届きます。実際に、BSもCSも1機の衛星で離島まで含めた日本全国をカバーしています。

図4:人工衛星による放送のカバーエリア

表2:デジタル放送の周波数帯と周波数幅
放送の種別 周波数
(GHz)
周波数間隔
(MHz)
1チャンネルの
周波数幅
(MHz)
ビットレート(注1)最大
(Mbps)
CSデジタル 12.268〜12.733 30と40 27と36 約34
BSデジタル 11.72748〜11.99600 38.36 34.5 52.17
110°CSデジタル 12.291〜12.731 40.00 34.5 約39
地上デジタル 0.473〜0.767 6.0 6.0 23.3

注1 ビットレート:1秒間に送信することができる情報量のこと。数値が大きければ大きいほど情報量は大きくなり、映像の精細度や音質が向上する。

高い周波数帯を利用すると、1チャンネルあたりの周波数幅を広くすることができる利点があります。470〜770MHzを利用する地上デジタル放送の1チャンネルの周波数幅は6MHzです。利用する周波数に対する周波数幅の比率は0.8〜1.5%です。これをBSデジタル放送の11GHz帯に当てはめると0.8〜1.5%は88〜165MHzにもなります。周波数が高くなると利用できる周波数幅も広がるのです。実際のBSデジタル放送や110°CSデジタル放送では1チャンネルは34.5MHzで、地上デジタル放送の5倍以上の周波数幅を使用しており、その分、より多くの情報を送信することができます。つまり、人工衛星を使う放送は、より高品質の映像や音声を放送できるほか、多チャンネル化も可能なのです。

また、地震や風水害など地上の災害の影響を受けにくいのも特長の一つです。どこかの地上局が稼働していれば、衛星に向けて電波を送り全国に放送することができます。

一方、厄介な点もあります。

人工衛星打ち上げ後に故障すると修理ができません。そのために、衛星に予備の設備が搭載されているだけでなく、複数の衛星が同じ軌道上に待機してバックアップを務めることができるようになっています。

また、打ち上げのリスクが大きいこともあります。衛星は10〜15年ほどの設計寿命に達する前に次の衛星を打ち上げられることになっていますが、2001年にはBSデジタル放送用の予備衛星BSAT-2bが、2007年にはCS放送用のJCSAT-11が、それぞれ打ち上げに失敗しています。失敗すると衛星の製作に1年以上を要します。いままでに放送に支障をきたしたことはありませんが、地上波では起こりえないリスクです。

衛星1機で全国をカバーするため、地方局の収益源であるローカルな広告が集まりにくいという問題があります。また、全国一律に受信できるとなると著作権や肖像権の問題が生じます。例えば、日本テレビをキー局とするNNS(Nippon Television Network System)は、佐賀県、宮崎県、沖縄県に系列局がありません。同様に、JNN、FNS、ANS、TXN注2にも系列局のない地域があります。こうした場合、系列局の地上波で自由に放送できても、全国を一律にカバーする衛星放送では、系列局のない地域にも放送されてしまうために、番組によっては、著作権者や出演者の肖像権の関係で放送できない場合があります。著作権者や出演者が番組の提供先であるキー局とその系列局以外への放送を許可しない場合があるのです。

デジタル放送が人工衛星を利用して発展してきた背景までをご理解いただけたでしょうか。
ところで、今後のデジタル放送はどう発展していくのでしょう。

注2:JNN(JapanNewNetwork、キー局はTBS)、FNS(Fuji Network System、フジテレビジョン)、ANN(All-nippon News Network、テレビ朝日)、TXN(TV Tokyo Network、テレビ東京)

デジタル放送の展望

地上デジタル放送と・CS・BSデジタル放送のすみ分け

地上デジタル放送は、2011年以降、現在のアナログ放送に代わってテレビ放送の中核を担っていきます。ワンセグも加えて便利さや手軽さでは他のデジタル放送をしのぎ、アナログテレビ放送の後継として、4つのデジタル放送の中で最も多くの視聴者を獲得することになります。しかし、アナログ放送の延長ととらえる視聴者は、データ放送や双方向サービス、電子番組表などのデジタル放送ならではのサービスよりも、テレビのリモコンのスイッチを入れて使い慣れたチャンネル番号を押せば目的の番組が視聴できるような気軽な視聴方法を求める傾向があると思われ、複雑な機能や高度なサービスが利用されるようになるまでには、かなりの時間を要すると予想されます。

CSデジタル放送は、SKY PerfecTV!のハイビジョン化が遅れているものの、多数の専門チャンネルにより、映画や音楽、プロ野球やサッカーファンなど強いニーズを持つ視聴者を集めることに成功しています。雑誌で言うならスポーツや自動車などの専門誌に相当します。お金を払ってでも視たいという強い動機を持った視聴者です。ジャンルを広げていけば着実にこうした視聴者を増やしていくことはできそうです。

BSデジタル放送はというと、WOWOW、スターチャンネルハイビジョンのような有料放送や全国一律に放送できるNHKはメリットを享受できていますが、民放キー局系列は苦戦しています。手軽さや親しみやすさでは地上デジタル放送に一歩譲ります。また、前述の著作権や所蔵権の関係で放送できないものがあったり、広告も全国一律ですから限られます。地上波とは異なる情報系の番組やテレビショッピング、さらに地上波で放送された番組のタイムシフト視聴に活路がありそうです。

さらに新しいデジタル放送

2011年にアナログ放送が終了することは、普及活動も盛んで多くの人の知るところですが、アナログ放送終了とともに新たな実験放送が始まることはあまり知られていません。「次世代衛星放送」、「高度BSデジタル放送」と呼ばれる新しい放送です。

先に述べたように、人工衛星を利用したデジタル放送は、地上波よりも、より高品質の映像や音声を放送できるのです。そこで、2011年に終了するBSアナログ放送で空く周波数帯と、世界無線通信会議で日本に追加割当されたチャンネルを合わせて計 7チャンネルを活用する新しい衛星放送が、2025年の実用化を目指して実験が進められることになっています。一部で高度BSデジタル放送の実験的な仕様が発表されています。その仕様によれば、画素数は今のフルハイビジョンの4倍、音声は22チャンネルです。映像はスーパーハイビジョンとなり、映画館なみの高精細画質と音響が楽しめることになりそうです。

しかし、インターネットや携帯電話によるネットワークという強力なライバルたちが勢いを増している今日、画質と機能の追求だけでは限界があるように思われます。コンテンツの充実、サービスの拡充、ネットワークの強化などが求められています。現在のデジタル放送は、こうした要求に対して大きな可能性を秘めているように感じられます。今後も、もう少しデジタル放送について掘り下げていきましょう。

参考リンク

「デジタル放送講座」に関するアンケートを実施しております。ご協力お願い致します。

アンケート