2008年 29号  発行日: 2008年6月5日 バックナンバー

2008年度FUJITSUファミリ会 春季大会
開催日:2008年5月16日 開催地:帝国ホテル

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アンケート

記念講演「企業の未来に向けて真のコンプライアンスを考える」

「コンプライアンス不況」の2つの意味

『法令遵守が日本を滅ぼす』といういささか刺激的なタイトルの本を、私は昨年の1月に出版しました。この本で私が言いたかったことは、法令遵守を形式的に上から下に押しつけるコンプライアンスは、日本の社会を壊しかねない。しかし、本当のコンプライアンスとは、今の混迷している日本経済を救う鍵になるものであるということです。

郷原信郎氏1

桐蔭横浜大学法科大学院教授 コンプライアンス研究センターセンター長
郷原信郎氏

この考えの前提となるのが、“コンプライアンス=(イコール)法令遵守という考えは誤りである”ということです。このイコールはたいていの場合、不等号の意味として使われています。つまり、コンプライアンスとは、法令だけでなく、社内規則や社会規範、企業倫理のすべてを遵守しなければいけないという解釈です。私は、この「遵守」という言葉自体に弊害があると思っています。

最近、“コンプライアンス不況”という言葉がよく聞かれますが、これは2つの意味でとらえることができます。一つは、誤った法令遵守の考えから、実態と乖離している法令遵守の押しつけが経済活動を停滞させる、企業にとっては外的な要因です。もう一つは、企業内の問題です。昨今のさまざまな不祥事で、多くの企業でコンプライアンスに対して、何らかのコストをかけているのが実状だろうと思います。経済環境や企業業績が比較的良かった時代であれば、コンプライアンスのコストを保険料と思えたかもしれませんが、これからはそうはいきません。コンプライアンスをコストから付加価値に転換していかなければならない。それができないと、企業内のコンプライアンスがその企業自体を不況に陥れてしまうことになりかねません。

誤った法令遵守のコンプライアンスが経済活動を停滞させた例としては、耐震強度偽装や食品偽装の問題があげられます。耐震強度偽装さえなくせば良いという考えの下に改正された建築基準法の施行段階で、偽装が不可能な認定ソフトがまだできていないという事態は、全国で住宅建設をストップさせ、建築業界に大変なダメージを与えました。また、不二家の事件がきっかけとなった食品偽装問題では、期限切れの商品を売り、またその事実を隠したということに、世の中が大変な批判と非難を向けました。その後、さまざまな企業が社告や謹告、自主回収といったかたちで防御反応を示している最中、毒入り餃子事件が起こり、健康被害が生じているのに食品メーカーがまともな対応をとらないというような事態が生じました。期限表示や法令の遵守という方向にばかり関心が向いてしまったために、最も大切なことは何なのかということを考えないままに、業界に大変な混乱が生じてしまったのです。

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