第10回 ブラウザとWebアプリケーションWeb2.0と言われ始めて既に5年。インターネットは大きく変わりつつあります。Webページはあらかじめ用意された情報を表示し、別のサイトへのリンクを持つだけでなく、見る人に応じて表示するコンテンツを変え、アプリケーションが動作し、さまざまなサービスを提供するようになりました。インターネットが、一人ひとりのビジネスや生活の道具となってきたのです。今回はインターネット講座の最終回として、インターネットを通じて提供されるさまざまなサービスやアプリケーションを紹介し、その利用法と、Webサービスの現状と将来を考えます。 【今回登場するキーワード】
カスタマイズとガジェットで自分専用ポータルサイトブラウザを起動した時に、Yahoo!やMSNを表示するのは今でもポピュラーですが、最近では一人ひとりが異なるWebページを表示することも目立つようになりました。ある人は、ニュースやブログの更新情報など情報中心で、別の人は電卓や時計などツール中心でというように、使う人の目的や用途に応じて表示をカスタマイズしているのです。ブラウザを起動して、閲覧を開始するときに表示するWebサイトをポータル(玄関)サイトといいます。 自分専用のポータルサイトを作るポータルサイトとして人気が高いのは、代表的な検索サイトであるGoogle、Yahoo!、MSN(Microsoft Network)サーチでしょう。この3つの検索サイトはいずれも表示をカスタマイズできるようになっています。iGoogle、MyYahoo!、Windows Liveと言う名称でサービスを行っています。いずれも、ユーザー登録を行って、アカウントを取得するだけでWebページをカスタマイズすることができます。 上記の画面に対して、背景の画像とタイトルバーやタブの配色をセットにした「テーマ」を選び、さらに標準のコンテンツの一部を削除し、新たに選択したコンテンツを配置した結果が次の画面です。ニュースの速報、業界関連の記事、ブログ更新情報、TODO、カレンダーなど、ビジネス中心のページです。 さらに、ページを追加(タブを追加という)して、ツール類をまとめました。仕事中に必要になることが多い辞書・電卓・メモ・カレンダーなど、小道具中心のページです。 コンテンツが多数用意されているため選択するのに迷うかもしれませんが、その時間を除けば30分ほどで2つのページを作ることができました。コンテンツの追加、削除はリンクやボタンが用意されており、配置の変更はドラッグ&ドロップで行うことができます。操作も実に簡単です。ただ、コンテンツを増やしすぎると、表示に時間がかかります。1ページ当たり5、6個程度にしておくのが良いようです。 Windows LIVEは、MicrosoftのWebサービスの名称です。MyYahoo!も同様に、Yahoo!のWebサービスの名称です。以下はカスタマイズしたMy Yahoo!の例です。 以上の三社のサービスの間には大きな差はありませんが、用意されているコンテンツの質と量、カスタマイズの操作性で、現時点ではiGoogleが一歩抜きん出ています。 こうしたWebページに配置されるコンテンツのうち、ニュースやブログなどのようにリンク先の情報を表示するのではなく、時計やカレンダー、メモ、TODOリストなど、何らかの処理を行うプログラムをガジェットとかウィジェットと呼んでいます。次にこのガジェットとウィジェットについて解説します。 ガジェット(gadget)とウィジェット(widget)「ガジェット」も「ウィジェット」もパソコンのデスクトップ上やブラウザの中で動作する小さなソフトウェアのことです。AjaxやJavaScriptで作られています。 ウィジェットはウィンドウとガジェットの造語と言われています。呼び名が違うだけで機能や動作は同じです。GoogleとMicrosoftはガジェット、Yahoo!とAppleはウィジェットと呼んでいます。ここからは、両方をまとめてガジェットと表記します。 ガジェットは小道具の意味です。カレンダーや時計、電卓、インターネットの検索、付箋紙やメモといったシンプルな機能を持ったプログラムです。 ガジェットにはパソコンのデスクトップで動作するものとブラウザで動作するものがあります。ブラウザで動作するものは各社のホームページで動作します。デスクトップで動作させるためには、ガジェットを動作させるための専用のエンジンが必要です。
ガジェットは仕様が公開されているため、JavaScriptやHTML、XMLについての知識があれば、自作も可能です。各社のガジェットギャラリーには、多くのユーザーの手による自作のガジェットが登録されています。 次の画面はWindows Vistaの例ですが、画面の右端の領域がサイドバーです。ここに、ダウンロードした時計や電卓、天気予報、交通情報などのガジェットを登録しておきます。常にデスクトップに表示されていますので、別の作業の途中でも必要な時に利用できます。 こうしたガジェットは、時計やカレンダーから、天気予報、ニュース、テレビ番組表、アニメーションキャラクターなど、幅広い範囲のソフトウェアが投稿されています。 Webメールを見直すhotmailやyahoo!メールは、フリーメールとも呼ばれ、無料のメールアドレスとして多くのユーザーを集めました。使い捨てのアドレスとしてスパムメールの送信に利用されることも多く、イメージは良くない場合があります。こうしたメールの多くは、ブラウザでメールの送受信を行う仕組みで、これらをWebメールと言います。 このWebメールが今、大きく変貌しています。その顕著な例をGoogleに見ることができます。Googleが提供するメールサービスのGmailは、1アカウント当たりのメールボックスの容量は6GB、1回当たりの添付ファイルの容量は20MB、スパムフィルターを標準装備し、SSLに対応するなど、企業やプロバイダーが社員やユーザーに提供するメール環境をしのぐ仕様です。このようなGmailが無料で提供されているのです。 Gmailは、Webメールだけでなく、POP3、SMTP、IMAPにも対応し、中にはPC用のメールソフトでも実現していないような便利な機能を備えています。以下はGmailの主な機能です。
Web2.0の波に乗ってGmailは急速に利用者を拡大しており、Gmailによって家庭からでも職場からでも、携帯電話で出先からでもシームレスにメールを送受信できるようになっています。メールサービスとしての注目度も高く、強力なスパムフィルターを利用する術などのノウハウがネットや書籍で多数紹介されています。 プラットフォームになったブラウザ冒頭でも述べたようにブラウザはもはや見せるだけ、表示するだけでなく、道具として利用し、仕事や生活に直接的に役に立つものとなっています。ブラウザがOSのようにソフトウェアのプラットフォームとなっているのです。 ブラウザで使うビジネスツール今日ではGoogleのWebサイトを単なる検索エンジンと考える人は少なくなっています。GoogleはWebサイトに多くのサービスを用意し、その姿はWebサイトの統合環境と言っても良い状況です。しかもほとんどのサービスを無料で利用することができます。 このGoogleのサービスの中にはMicrosoft Officeと同じ用途のアプリケーションである、「Googleドキュメント」が含まれています。Googleドキュメントは、Microsoft WordやExcel、PowerPointの機能や操作性には及びませんが、文書作成や表計算として必要十分な機能を備えています。機能によっては、インターネット経由で操作していることを忘れるほど滑らかに動作します。 こうしたWeb版のOffice suits(以降はオンラインOfficeと呼びます)はGoogleに限りません。オンラインOfficeは、ワープロ・表計算・プレゼンテーションをはじめとするアプリケーションがひと揃い用意されており、無料で、かつ日本語が利用できるものだけでも、Thinkfree、glide、Zohoなどがあります。IBMやAdobeでもオンラインOfficeを無償で提供しています。 いずれもMicrosoft Officeのデータ、例えばdocやxls、pptなどの読込・書出し、PDFへの書出し機能を備えており、オンラインの強みを活かした他のオンラインアプリケーションやWebサービスとの連携機能は優れています。ワープロ文書とブログ、スケジュール機能が連動したり、動画や画像とのリンクが簡単にできたりします。
こうしたアプリケーションの無償提供の背景には、OfficeソフトとしてMicrosoftの圧倒的な優位性があり、PCインストール版では困難なシェア拡大を、ネット上で実現しようとする動きのように見えます。オンラインOfficeは、Microsoft Officeの機能を追いかけているだけで、超えるまでは至っていません。無料であること、オンラインで動作し、ソフトのインストールが不要であることは魅力ですが、Officeは生産性ツールと呼ばれることもあり、それなりの成果に結びつくだけの魅力がなければ、企業が一挙に採用に踏み切ることはないと予測されます。その意味で、オンラインOfficeのシェアがMicrosoft Officeを超えるのはまだ先の話でしょう。 ネット越しに情報共有Webアプリケーションはネットワーク経由での情報の共有や連携が得意です。これらの機能が活きている「オンラインカレンダーサービス」と、Webで共同作業ができる「Wiki」を紹介します。 カレンダーをオンラインで共有インターネット経由で、互いの日程を見ながら会議や打ち合わせ日程を決めることができるのが、カレンダーサービスです。GoogleやYahoo!などの大手ポータルサイトはもちろん、カレンダーサービス専門のWebサイトやSNS、オンラインOfficeの一機能としてカレンダー共有サービスは数多く提供されています。 ユーザー登録した後、Webサイトの自分専用のカレンダーにスケジュールを記入します。カレンダーには、設定した期日が近づくとPCや携帯にメールで知らせたり、携帯電話からスケジュールを確認できたりする機能があります。また、職場・地域活動・家庭などそれぞれ専用のカレンダー作成し、同僚・知人・家族といった範囲限定でカレンダーを公開することで、関係者との情報共有が可能になります。さらに、天気予報やイベント情報などインターネットの情報の貼り付け、RSSフィードによるブログやニュースの更新情報の表示、Outlookやグループウェアのスケジュールとの同期、自分専用のポータルサイトやブログへのスケジュール表示など、カレンダーを中心にした実にさまざま機能が装備されています。 共同作業Webページ、Wiki前述のカレンダーと組み合わせて利用すると便利なのが、Webページ上で共同作業を実現するWiki(ウィキ)です。Wikiは、Wiki上で作成したコンテンツに対して、複数の人間の手で追記・変更・訂正・削除などの編集を行うことができます。巨大なオンライン百科事典Wikipediaは、この仕組みを利用して、数多くの読者が共同で記事を執筆編集することでBritannicaをはるかにしのぐコンテンツを作り上げました。 Wikiページの作成はWebページの作成と同じです。機能として文字サイズや色、リスト表示や表、画像や動画、リンクなど、通常のホームページ作成ソフト並みのHTML文書の作成・編集機能を備えています。これに説明やメッセージを書き込むためのコメント機能や、文書の公開設定、メンバーごとの編集権限の設定機能を備えています。 Wikiは、もともとソフトウェア開発プロジェクトの関係者間で手軽に情報交換をするために開発されましたが、現在では、個人から学校、企業、団体、官公庁、政府機関など利用が拡大しており、コンテンツを一般公開し、Wikiで小説を作ったり、専門書籍並みの趣味のサイトを作ったりしている例もあります。 例えば、ネットワーク越しで企画書を共同制作する場合に、従来はメーリングリストや掲示板、フォーラムなどで協議して、メールにファイルを添付して配布したり、ブログで公開したりして完成に近づけていました。 以下は代表的なWikiのサービスです。
WebサービスWeb2.0の流れの中で、インターネット上にはさまざまなWebサービスが提供されており、すべてを語りつくすことはできません。ただ、最後に、実用的に利用できるオンラインストレージとファイル転送サービスを紹介します。 オンラインストレージオンラインストレージとは、インターネットを通じて大容量のデータ保存領域を提供するサービスです。インターネットに接続できれば、どこからでも自分のファイルを保存したり読み込んだりすることができます。 オンラインストレージサービスは、多機能・大容量化が進んでいます。先鞭を付けたのがMicrosoftです。無料で取得できるWindows LiveのIDを所有していれば、インターネットに接続されたどのPCからでも、5GBのディスクスペースに画像や動画、 Officeドキュメントなどを保存できるサービス「SkyDrive」日本語版を提供しています。音楽データなら約1000曲、平均的サイズのオフィス文書で3万個、1200×1200ピクセルの画像で3万点以上が保存可能と言われています。 ただ保存するだけでなく、家族や友人・知人など範囲を設定して保存したファイルを公開したり、共有したりすることができます。保存した内容をブログからリンクを張って公開することもできます。例えば、旅行先で撮影したデジタルカメラの画像をすべてオンラインストレージに保存し、家族と共有し、その中の一部を自分のブログで公開したり、一部を友人に公開したりすることができます。画像はSkyDriveでサムネール表示され、簡易なアルバムとして機能します。 ファイル転送サービスメールに添付できない大容量のファイルを送信しなくてはならない場合、FTPサーバが利用できればいいですが、自分にも相手にもそうした環境がない時に、便利なのがファイル転送サービスです。 ユーザー数の多い「宅ファイル便」(ファイル転送サービス)を例にすると、ユーザー登録した後、転送するファイルをサーバにアップロードします。アップロードが終了すると、送信相手にメールで通知されます。相手は、受け取ったメールに記載されたリンクをクリックしてURLにアクセスし、ファイルをダウンロードします。サーバからは発送者に開封メールが届きます。メールに記載されるURLは乱数で作成され、類推できない文字列になっています。ダウンロードする場合にパスワードやログインIDは必要とせず、簡単な操作でファイルを受け取ることができます。 セキュリティ面の不安はありますが、URLは毎回自動生成、ファイルのやりとりにはSSLを使用、同時に複数の相手に送信した場合には異なるURLを送信、アップロードしたファイルは期限付きで保管し、期限が来ると自動的に削除するなどの配慮がされています。 前述したオンラインストレージでもファイルの公開や共有機能を利用してファイルを渡すこともできますが、この場合は、相手にも同じサービスのIDが必要になります。ただ、ほとんどの場合、取得に時間も費用もかかりませんので、その場でIDを取得してもよいでしょう。
変化するWebサービスとアプリケーションの将来個人で利用する場合には問題はないとしても、オンラインOfficeが便利だからと言って、すぐにでもビジネスや企業で利用できるかというと、話はそう簡単ではありません。 おさらい
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