2007年 27号  発行日: 2007年12月5日 バックナンバー

2007年度FUJITSUファミリ会 秋季大会
開催日:2007年11月1日 開催地:リーガロイヤルホテル広島

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アンケート

セッション3「フィールド・イノベーションとビジネス・フィールドワークのご紹介」

事例に見る事実認識の問題点

ここまでビジネス・フィールドワークの概要をお話しさせていただきましたが、実際の事例を5つほど、ご紹介したいと思います。

「事実(現場の実態)は公式な手順とは異なる」という、最初の事例です。あるお客さまの営業アシスタント業務をフィールドワークさせていただきました。業務フローに沿っていけば契約書、請求書作成の一連の流れは大体数時間で終わるはずなんです。ところが実際に現場では3日もかかっていたということが現場観察して如実にわかりました。

25物件ほどが付随しているある一つの商談に、営業のAさんはお客様から言われて25物件別々に契約書・請求書を作っていました。これを受けたアシスタントBさんも25物件ごとにそれぞれ作成する。かなり古いシステムのため複製機能がなかったり、契約書から請求書への親子作成機能がない等、仕方のない面もありますが、フィールドワーカーからは大変さが見えます。でも、実際にやっている方は慣れ親しんでいて当たり前だと思っていますから、25物件を全部入れていくわけです。ところがその後やはりお客様から25物件を一つにしてくださいと言われました。当然Bさんはやり直し処理に入る。でき上がった契約書と請求書は相当分厚い。Aさんがこれをチェックして、付せんを貼る作業に1時間ほどかかりました。しかもせっかくそこまでやったのに、この後、契約料の変更があって、また再作成になる。こういうことがよく起きているわけです。システムの使い勝手とか、紙の資料が多くて手作業が多いとか、例外処理が飛び交って非常に手間がかかるといった、本当に大変な現場の実態がありました。

次は、ある金融業の営業部門での「事実と事実認識は異なる」という事例です。フィールドワークに先立ってまず背景情報を確認しました。ここではすべての商談情報を現地で入れ、すべて情報を一元管理して本部で分析するという基本的な設計思想がありました。ところが、現場であまり入力していない。公式な手順どおりにいっていないことを本部の方は気づいているのですが、原因がわからない。 実際に現場を見る前に現場管理者の方にインタビューしました。そこでわかったことは、基幹システムの商談情報入力と仮計算を使っていない。理由は簡単で、操作性が悪く、とても現場じゃ入力できないということだったんです。そこから現場観察すると、いろいろわかってきました。まず、現場の方々の意識の問題です。受注率が大体2割で、8割が敗退。しかも敗退の理由が大体価格負けで、理由もわかってしまっている。分析する必要なんかないではないか、だったら入力してもしょうがない…という考え方になってしまっていたわけです。(図表7)

ある金融業の営業部門 クリックすると拡大画像が開きます

(図表7)ある金融業の営業部門

とはいいながら、各グループでローカルにそれぞれ独自項目は管理しているんですね。ACCESSで共有したり、仮計算という機能には自前でPCツールを使ったりということを、実際に現場ではやっているわけです。この場合、事実認識を起点にして操作性の悪さの改善を図っても、現場で使われない、受け入れてもらえません。操作性うんぬんの前に本部と現場で管理する項目が既に違う、ギャップがあるという事実をきちんと踏まえて、それを起点に考えていくことが必要だと考えます。

もう一つの事例です。「常識や習慣など、ふだん気づかないところに貴重な事実がある」というものです。これはまた別の金融業の店舗業務のケースですが、ここでは店舗でカウンターに着く人を一線と呼んでいます。その一線の後ろでフォロー作業する方々を二線と読んでいます。その二線の後ろで承認作業等々をする方を役席と言っています。そういう3階層になっているわけです。

仮説としてこのお客様が持たれていたのは、一線、二線がネックになっていて効率化が必要だろうということでした。フィールドワークを実施してみると、確かに一線、二線でも細かいところでは課題がありました。ですが、一番大きなボトルネックになっていたのは役席の方の作業だったのです。役席の方を非難しているわけではなくて、役席の方にあまりにいろいろな作業が舞い降りている、忙しくて仕方ない。そこで全体的な流れを阻害してしまっているということなんです。

一例を挙げますと、ATMが故障すると、直す権限は役席の方しかないので、いちいち席を立つわけです。これで一線、二線で承認をもらおうと思っていたラインに待ちが発生しますし、急ぎの承認等は支店長のところまで行くなど、流れがかなり乱れてきます。ところが、お客様の認識は「役席が忙しいというのは当たり前なんだ、以上」という感じですね。役席が忙しいのは常識。そこを見直してみようという起点に立てなかったんですね。

また、このお客様では、印鑑を照合するのに書棚からわざわざ分厚い印鑑簿を持ってきて、それをめくって裏書きされていました。第三者から見るとすぐに不思議に思うことなので、後でうかがうと、オンラインシステムが入る前は変更事由があると印鑑簿の用紙の裏に記入していたそうなんです。ところがオンラインシステムが入った後も、なぜかそのまま裏書き作業を続けていた。不思議ですが本当の話で、言われるまで気づかなかったということなんですね。実際、裏書きすること自体は別に大した時間ではありません。ただ、それが全店舗・全行でみると、ものすごい時間になる。習慣化されて気づかない中に改善の種があるのです。

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