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第7回 ストレージの主役ハードディスク

ハードディスクは、この5年間で1GB(ギガバイト=10億バイト)あたりの単価が10分の1に下がり、今や個人のPCに1TB(テラバイト=1000GB)の容量を持つHDD(ハードディスクドライブ)を搭載することも難しいことではありません。家電製品でさえ1TBのハードディスクを内蔵するものが市販されています。
今回からは三回にわたってこの「ハードディスク」の現状とこれからについて解説します。一回目はハードディスクの基礎的な知識、二回目はハードディスクと結びつきの深いインターフェースとRAID、三回目は拡大するハードディスクの用途とこれからのディスクに関する技術について解説します。


ストレージとは何か

ストレージは「保管、倉庫、貯蔵庫」という意味です。PCでは情報を永続的に保存しておくための外部記憶装置のことをいいます。今日、企業においては、e-文書法や個人情報保護法などにより、これらのストレージシステムが存在感を増しています。膨大なデータを、完全な形で保存しておくこと、そのために耐障害性の高いシステムにしておくことが求められています。
ストレージ機器として、磁気ディスクではHDD(ハードディスクドライブ)、光ディスクではCDやDVD、MO、磁気テープではDAT・LTOがあります。この中で中心的な存在がHDDです。PCの性能向上を上回る勢いで高速化、大容量化、小型化、低価格化が進行しています。1GBあたりの単価は、この5年で10分の1近くにまで下がっており、1ユニットあたりの容量は最大1TBと他のストレージ機器を寄せ付けないパフォーマンスを持っています。
こうしたHDDの進化は、ストレージシステムに変化をもたらしています。従来、HDDからテープへのバックアップが常識であったものが、HDDの大容量と低価格化が急速に進んだために、HDD→HDD→テープにしたり、場合によってはテープに保存せず、HDDをバックアップとして保存したりする例もあります。
今回は、HDDの現状や新しい技術を知るために知っておきたいHDDの基礎的な知識として、内部構造を紹介します。

HDDの構造をおさらい

すでにHDDの構造は、基礎編(第7回目補助記憶装置)で説明していますが、おさらいを兼ねてさらに詳しく説明します。

HDDユニット

HDDは通常、上図のようにほぼ密閉されたケースに収められています。これはHDD内部をクリーンな状態に保つためです。HDDの磁気ディスクの盤面でデータを記録するトラックの幅は0.5µm(マイクロメートル=1000分の1mm)、HDDのヘッドはディスクが回転している間、空気流により浮き上がってディスクに接触せずにデータの読み書きを行いますが、このときのヘッドとディスク面の隙間は10〜30nm(ナノメートル=100万分の1ミリ)です。人の髪の毛の直径は約50µmです。フィルターを通ったタバコの煙の粒子の直径が約1000nm(1µm)〜100nm。病気の元になるウイルスの小さいものでさえ直径は約200nmです。ヘッドとディスクの隙間はそれらよりもずっと小さいのです。つまり、煙の粒子が1個付着しただけで読み書きできなくなるくらいなのです。

そのために、HDDは半導体なみのクリーンルームで製造され、外気との気圧差を吸収するために呼吸穴はありますが、ほぼ密閉されたケースに収められています。
次図はHDDのケースを開けたところですが、万一、このようにHDDのケースを開けてしまったら、ほとんどの場合このHDDは使用できなくなってしまいます。

内部の構造

  1. 磁気ディスク(プラッタ)
    アルミ基板やガラス基板に磁性膜を塗布または蒸着した円盤です。
    この円盤の表面に磁気ヘッドでデータが書き込まれます。
  2. ヘッドスライダ
    磁気ディスクに磁気情報を書き込む記録ヘッドや読み込みを行う再生ヘッドと、ディスクから浮上するためのABS(Air Bearing Surface)が一体化されたものをヘッドスライダといいます。アクセスアームの先端に取り付けられています。
  3. アクセスアーム
    ヘッドスライダを所定の読み取り位置に移動させるためのアームで、アクチュエータによって移動します。
  4. アクチュエータ
    アクセスアームを動かすための駆動装置で、ボイスコイルモーターという特殊なモーターを使用します。
  5. スピンドルモーター
    磁気ディスクを毎分4000〜15000回転という高速で回転させるモーターです。
  6. コネクター
    PCのマザーボードのインターフェースに接続するための端子です。ATAやSCSIなどの規格があります。信号や電力を入出力するための接続口です。詳しくは次回、インターフェースで説明します。

磁気ディスク

磁気ディスクはデータを記録・保持するHDDの要となる部品です。アルミ基板またはガラス基板がベースになっています。
アルミ基板は軽量で安価、加工性に優れておりデスクトップ用の3.5インチHDDに多用されていました。一方、2.5インチ以下の小型HDDでは、ガラス基板が使用されています。硬く、強度に優れており表面が滑らかという特長があります。これは平滑な面が要求される高密度の記録に向いています。そのため、最近は3.5インチでもガラス基板が使用されるようになっています。

ディスクの構造

磁気ディスク上のデータ記録エリアは次のような構成になっています。

  • トラック
    レコード盤の溝と同じですが、螺旋ではなく同心円になっています。この同心円をトラックといい、このトラック上にデータが記録されます。
    トラックに沿った方向で1インチあたりの記録容量を、線記録密度といいます。bpi(bit per inch)で表します。また、半径方向でのインチあたりのトラックの本数をトラック密度といいます。tpi(track per inch)で表します。また、1平方インチ内の記録容量を、面記録密度といい、bpsi(bit per square inch)で表します。線記録密度×トラック密度で計算することができます。上記、3種の記録密度はいずれも、inch(インチ)の代わりにmm(ミリメートル)で表すこともあります。
  • セクタ
    トラックは、上右図のように半径方向(放射状)に数百個に区切られています。区切られた一画をセクタといいます。HDD内部では、このセクタ単位でデータを読み書きします。1セクタは512バイトです。セクタの番号は、トラック内の最初のセクタが「1」です。
    フォーマットされていないハードディスクには、このセクタが存在しません。OSに適した方法でフォーマットすることで、トラック上にセクタの区切りを作り、データを読み書きできるようにします。
    また、磁気ディスクの盤面にごく小さなキズができると、そのキズの部分はデータの読み書きができなくなります。このようなセクタを「不良セクタ」といいます。
    不良セクタは、ハードディスクをフォーマットする際に自動的にマーキングされます。Windowsでは「チェックディスク(Chkdsk)」で検知することもできます。不良セクタは使用不能です。そのセクタにデータがあった場合、そのデータは失われます。しかし、HDDには、不良セクタ用に予備のセクタが装備されているので、多少の不良セクタが発生してもハードディスク全体の記憶容量には影響ありません。
  • クラスタ
    セクタの集合をクラスタといいます。実際に512バイトを超えるひとかたまりのデータは、セクタではなく、複数のセクタの集合であるクラスタ単位で管理されます。
  • シリンダ
    磁気ディスクが複数ある場合に、同じトラック番号の集合のことをシリンダといいます。
    HDDは何重にも重なった磁気ディスクにヘッドを合わせてデータの読み書きを行います。一度のデータアクセスは、一枚の磁気ディスクに対してのみ行っているのではなく、同時に他の磁気ディスクに対してもアクセスしています。要するに、1トラック単位ではなく、その上下すべてのトラックにもアクセスしているわけで、重なったトラックを筒状に読み込んでいます。シリンダには番号が付けられます。最外周のシリンダの番号を0としています。
  • ゾーン
    外周へ行くほどセクタの幅が広がっています。これは、最内周のセクタには本来の線記録密度どおりにデータが記録されますが、最外周では本来の線記録密度より低い密度でデータが記録されることになり、効率が良くありません。
    そこで、外周側のセクタ数を内周側のセクタ数よりも多くすることで、できるだけ線記録密度を均一化するようにしています。ディスク上のトラックを同心円状にいくつかの領域(ゾーン)に分け、外周に近いゾーンほど1トラック当たりのセクタ数を増やします。この記録方式を「定記録密度(Constant Density Recording)方式」と呼びます。

  • ヘッド
    磁気ヘッドの詳細は次項で説明しますが、ヘッドは磁気ディスクの記録面と同じ数だけ装備されています。どのディスク面かはヘッド番号で指定します。最上面の磁気ディスクを読み書きするヘッドの番号が「0」です。
  • CHSパラメーターとLBA
    HDD内の磁気ディスクの、任意のセクタの位置を表すのに、CHSとLBAという二通りの方法があります。
    CHSは「シリンダ番号」、「ヘッド番号」「セクタ番号」の頭文字です。どのディスク面(ヘッド番号)の何番目のトラック(シリンダ番号)の何番目のセクタ(セクタ番号)かで指定する方法です。
    LBA(Logical Block Addressing)はすべてのセクタに通し番号を付けて、その番号を指定する方法です。IDE規格とPCのBIOSの間で生じていたアドレッシングの非効率を解消し、管理できる範囲を超えることができるようにしたものです。
    HDDとPC間ではLBAでやりとりすることはありますが、HDD内部ではCHSでアドレッシングが行われています。

磁気ヘッド

磁気ヘッドは、ディスクにデータを記録したり、記録したデータを読み込んだりするための装置です。
下の図の左側が書き込み、右が読み込みです。

書き込み時には磁気ディスクの磁化の方向は一定に揃っていますので、ヘッドに電流を流して発生する磁気によって磁化の方向を変えます。読み込み時には、磁気ディスク上の磁化の方向を読み取ります。例えば、S-SやN-Nなど同極の場合には、MRヘッドでは電気的な抵抗値が大きくなるので、これを読み取って「1」と「0」の信号にします。

磁気ヘッドの種類

磁気ヘッドには次のような種類があります。

  • AMR(Anisotropic Magneto Resistive:異方性磁気抵抗効果)ヘッド
    磁性体に磁界が加わったときに生じる電気抵抗の変化を利用して、データを読み取ります。磁界による抵抗の変化率は3〜5%といわれます。AMRヘッドは、ノイズの影響を受けにくく、読み取り精度が向上し、記録密度の高いディスク面の読み取りが可能になりました。面記録密度は1Gbpsi(Giga bit per square inch:ギガビット/平方インチ)にまで対応しましたが、トラック幅が1µm近くになる2Gbpsiあたりが限界とされ、現在では使われていません。
  • GMR(Giant Magneto Resistive:巨大磁気抵抗効果)ヘッド
    AMRヘッドと同様に、磁性体に磁界が加わったときに生じる電気抵抗の変化を利用して、データを読み取ります。抵抗の変化率が6〜11%といわれ、AMRヘッドに比べて大幅に性能が向上しています。高感度でしかもノイズにも強いのが特長です。60Gbpsiにまで対応し、100Gbpsiも実用域といわれます。
  • TMR(Tunnel Magneto Resistive)ヘッド
    GMRヘッドに取って代わり、今後主流になると考えられています。GMRヘッドと同じく4層構造のMR素子を使用しますが、非磁性層に絶縁材料を使用することで、トンネル効果により、GMRヘッドよりも高い電圧差を生じさせることができます。抵抗の変化率が20%といわれ、面記録密度はTbpsi(Tera bit per square inch:テラビット/平方インチ)レベルが期待されています。

なぜヘッドを浮き上がらせるのか

磁気ディスクの回転による空気流でヘッドを浮き上がらせています。なぜそうしなければならないのでしょうか。
接触式では、ヘッドや高速に回転するディスクの物理的な耐久性を確保することが困難です。接触による摩耗や摩擦による発熱、スピンドルモーターへの負荷、ヘッドを移動させるアクチュエータの負荷、読み取り速度などあらゆる面で接触式は不利です。
非接触式にすることで、ディスクをより高速に回転させることができ、読み書きも高速化できます。ヘッドとディスクの摩擦による発熱もありません。しかし、メリットばかりではありません。ディスク上の記録が高密度になればなるほど記録された磁気は微弱になります。この微弱な磁気を正確に拾うためにはヘッドとディスクの隙間を極限まで小さくする必要があります。その結果が、10nm〜30nmという数値です。

なぜヘッドは浮き上がるのか

HDDの磁気ヘッドは実に微細です。「HDDユニット」の内部構造の図に見えているアクセスアームの先端のヘッドスライダという四角なチップの中にヘッドが組み込まれています。浮き上がるのは、ヘッドだけでなくこのヘッドスライダ全体です。

ディスクの回転による空気の流れが、ヘッドスライダの先端の傾斜している部分に流れ込み、わずかにヘッドスライダを持ち上げます。その様子を横から見ると下の図のようになります。

ABS(Air Bearing Surface)は、ディスクの回転による空気流でヘッドスライダ全体が浮き上がるような形状に加工してあります。
スライダの大きさには何種類かありますが、比較的多く利用されているのがピコスライダと呼ばれるもので、長さ1.25mm×幅1mm×高さ0.3mm、質量は1.1mgです。最も小さいフェムトスライダでは、長さ0.85mm×幅0.7mm×高さ0.23mm、質量は0.4mgです。この小さなスライダが風を受けて10〜30nm浮き上がるのです。

ヘッドが浮き上がれないときは

ディスクの回転中は空気流でスライダが浮き上がりますが、回転していないときは浮き上がりません。そのときには、ヘッドがデータ領域を傷つけないように、データ領域外にヘッドを退避させ、ディスクに接触させておいたり、またはディスクから物理的に浮かせておいたりします。

  • CSS(Contact Start Stop)
    回転していないときにはディスクに接触させておく方法です。ディスクの内周部にヘッドの退避エリアがあり、ディスクが回転しないときはそこにスライダが移動します。飛行機の離着陸と同じように、ディスクの回転に応じて徐々に浮上または着地します。
    逆にヘッドを浮かせておく方法もあります。これが次に説明するランプロードです。
  • ランプロード
    磁気ディスクの外側にランプロードという機構を設け、回転が止まるときには、そこにヘッドを退避させ、ディスク面から浮かせておきます。



    右の白い部分がランプ機構です。ディスクが回転していないときは、ヘッドの先に付いたタブをランプに引っかけるようにして、ヘッドを浮かせておくようになっています。

アクセスアームとアクチュエータ

データの読み書きを行うために、ヘッドを所定の位置に移動させるための駆動部分です。
駆動には、VCM(ボイスコイルモーター)という専用のモーターが使用されます。ステッピングモーター(※1)も使われていましたが、HDDの小型化、高速化に伴って姿を消し、現在ではほとんどがこのVCMを使用しています。
高速でヘッドを動かすため、限られた電源電圧の中で大きな駆動力が要求されますので、VCMコイルには低抵抗で軽量な線材を効率良く巻くことが要求されますし、磁石には、小さな容積で大きな磁束密度を発生する希土類磁石が使われます。

※1:ステッピングモーター:一般のモーターのようにぐるぐる滑らかに回転するのではなく、一定の角度単位で回転する。このときの回転角を正確に制御することができ、アームの出し入れのような制御を行うのに適している。

スピンドルモーター

磁気ディスクを回転させるためのモーターです。読み取り速度や精度に影響しますので、高速でかつ回転数が安定していなくてはなりません。
故障が少なく、寿命が長いDCブラシレスモーター(※2)が使用されディスクをダイレクトにドライブしています。回転数の制御は、モーター内に発生する逆起電力を利用するセンサーレスモーターがほとんどです。最近ほとんどの軸受けには、流体軸受けを使用し、低騒音化、耐衝撃性を高めています。

※2:DCブラシレスモーター:ブラシはDC(直流)モーターの電磁石の極性を切り換える機構。最近では、ICなどで切り換え制御を行うことでブラシがないモーターが多く使われている。寿命が長い、ノイズが出にくいなどの特長がある。

HDDは最新のテクノロジーの集合体です。磁気、電気、電子工学、制御工学、空気流体力学、摩擦、潤滑、ナノ技術にいたるまで実に多くの先端技術の成果がHDDに活かされています。
まだ説明しておきたいことが沢山ありますが、次回以降で徐々に説明します。

今回は、HDDの基礎的な知識として内部構造の説明にとどめました。この知識をベースに、次回はHDDのインターフェースとRAID、次々回は拡大するHDDの用途とこれからの技術へと続きます。

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