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第12回 新しい光メディア編の最終回は、次世代DVDのお話しと光メディアにまつわる著作権保護技術のお話しです。次世代DVDは、Blu-ray DiscとHD DVDの2規格が並立しています。両者の比較とそれぞれの特徴を説明します。 地上波デジタル放送、ハイビジョン映像、高画質ゲームと高品位な映像への関心が強くなっています。地上波デジタル放送のハイビジョン放送(ビットレート17Mbps)を2時間録画すると、約15GBの記憶容量が必要です。4.7GBを基本にするDVDでは二層記録でも足りません。そこで、より大きな容量と高速なデータ転送を持つメディアが求められています。こうして次世代DVDが登場しました。 次世代DVDの規格大容量のDVDメディア、次世代DVDと呼ばれる規格が登場しました。現在、Blu-ray DiscとHD DVDの二つの規格があり、標準の座をめぐって激しいつば競り合いを行っています。
【Blu-ray Disc】2002年6月、Blu-ray Disc Recordable Format規格に基づく次世代DVDのフォーマットが発表されました。規格制定には、ソニー、日立製作所、LG電子、松下電気産業、パイオニア、フィリップス、サムスン、シャープ、トムソンの9社が名を連ねています。
直径12cmのディスクは、CDやDVDと同じです。このサイズに、DVDの約5倍(23GB)の情報が記録されます。2層記録では最大50GBのメディアになります。 青紫レーザー光下図はBlu-ray Disc、DVD、CDの記録面とレーザー光のスポットのイメージです。ピットの密度、それに応じたスポット径の違いが分かります。Blu-rayでは、トラックピッチもCDの5分の1です。人の毛髪の直径は、大きく見えるCDのトラックピッチのさらに30倍から50倍です。 スポット径の大きさはレーザー光の波長に比例します。波長が短くなればスポット径は小さくなり、より高密度な読み取りができます。Blu-ray の青紫レーザー光の波長は405nmとDVD(青色レーザー光、450nm)やCD(赤色レーザー光、650nm)よりも短くなっています。 開口数0.85の大きな対物レンズ波長の短い青紫レーザー光を、記録面上でさらに小さなスポット径に絞り込むために開口数の大きい対物レンズを使用します。Blu-rayでは開口数0.85の超広角レンズを使用します。このレンズでスポット径を小さくします。DVD(開口数0.6)の記録容量を2倍に増大させる効果があります。ただし、盤面に非常に浅い角度で入射するため、これ以上大きな開口数のレンズは、ピックアップの物理構造の点で実現できないといわれています。 0.1mmのディスクの透明保護層(カバー層)保護層は記録面を保護するためのポリカーボネート製の透明な層で、この層をレーザー光が通り抜けて記録面を照射します。CDが1.1mm、DVDが0.6mmの厚みを持っていますが、Blu-rayでは、保護層は0.1mmと極薄になりました。 Blu-rayは記録密度が高く、小さなスポット径で高密度のピットを読み取りますので、今までのDVDで問題にならなかったディスクのわずかな傾きや反り(そり)も許されません。 メディアの構造次の図は再生専用Blu-ray Disc (BD-ROM)の構造です。記録層が表面から0.1mmの位置にあることを除けば他のDVDとメディアの断面構造は変わりありません。2004年7月に、BD-ROM Ver.1.0として片面1層25GB、片面2層50GBで規格化されています。規格化された当時はカートリッジに収納されていましたが、ハードコートなど保護層の強化により現在のように、ディスクを直接扱うことができるようになりました。人気のゲーム機プレイステーション3用として提供されるソフトのメディアはこのBD-ROMです。 Blu-ray Discの規格は光学式メディア技術の物理的限界とも、「光学式メディアの終着点」に相応しい規格として策定されたとも言われています。しかし、多層化記録や多波長化などによる大容量化、高出力化による高速記録への可能性を秘めており、さらに期待されています。 BD-R(Blu-ray Disc Recordable、追記型)記憶容量は1層記録が23、25GBの2種類、2層記録が46、50GBの2種類です。2005年にBD-R Ver.1.0として正式な規格が発表されました。メディアは次のような構造です。 BD-Rでは、シリコンと銅、二酸化テルルとパラジウムなどを組合せて無機皮膜を作り記録層としています。レーザー光の熱で金属を溶かして合金化した部分をマーク(ピットに相当)にする記録方式です。有機色素が採用されなかったのは、初期のBD-Rではメディアの製作時にスピンコート法により有機色素の塗布と0.1mmの保護層を作りづらかったという背景があります。現在では、厚さ100μm±数μmという精度の高い、均質な皮膜を形成するスピンコート法で、BD-Rメディアが製造されていますが、記録層は無機材料で構成されています。記録層はグルーブという溝と、溝の壁が左右に蛇行するウォブルによって書き込み位置を案内するしくみになっています。記録面は、密度は高くなっていますが、現行の記録可能なDVDメディアと同じです。 BD-RE(Blu-ray Disc REwritable、書換型)記憶容量は1層23、25、27GBの3種類、2層記録も46、50、54GBの3種類です。2002年6月にBD-RE Ver.1.0として規格化されています。Blu-ray Discでは最初にこの書き換え型メディアが規格化され、BD-R、BD-ROM の順に規格化されています。BD-REの書き換え回数はDVD-RWに比べて飛躍的に伸びており、メーカーによっては1万回の書き換えが可能としています。メディアは次のような構造です。 記録層はBD-Rと同じように、グルーブという溝と溝の壁が左右に蛇行するウォブルによって書き込み位置を案内するしくみになっています。記録の原理や構造はDVD-RWメディアと同じです。記録方式は相変化型です。レーザー光により結晶(クリスタル)相の記録層を加熱し、非結晶(アモルファス)相になったところで急速に冷却し、非結晶相に固定します。この非結晶相部分がマーク(ピットに相当)のはたらきをします。記録層を低温で加熱し、ゆっくり冷却すると非結晶相を結晶相に戻すことができ、消去や書き換えを行うことができます。 【HD DVD】HD DVD(High Definition DVD)は、2002年に前身となるAOD(Advanced Optical Disc)規格として提案され、2003年11月DVDフォーラムで次世代DVDとして承認されました。東芝を中心にNEC、三洋電機が参加しています。
(HD DVDプロモーショングループ設立趣旨より) 現行のDVDの延長線上の規格として開発されており、既存のDVDとの互換性を重視しながら大容量化を実現していることがHD DVDの最大の特徴です。従って、原理や構造は現行のDVDメディアと同じです。次の図はHD DVDメディアと現行のDVDメディアの断面です。 同じ構造で、大容量化を実現するために、トラックピッチを狭くし、メディアの記録密度を高くするとともに、記録再生時のレーザー光のスポット径を小さくするために、レーザー光の波長を短くし、対物レンズの開口数を大きくしています。 見方を変えると、HD DVDと現行のDVDはレーザー光の波長とスポット径が異なるだけ、メディアは高密度化されているだけということになります。これは、既存のDVDメディアの生産設備が流用できる、ドライブ装置やプレーヤーなどの機器においても既存の技術が活用できるという大きなメリットになります。 メディアの構造次の図は、再生専用HD DVD(HD DVD-ROM)メディアの断面です。 この互換性を活かしたHD DVDメディアが「コンビネーションディスク」と「ツインフォーマットディスク」です。 コンビネーションディスクとツインフォーマットディスクコンビネーションディスクは、片面に現行DVDを、裏面にHD DVDを記録するディスクで、ユーザーがプレーヤーに対応した面を選んで再生します。 左がコンビネーションディスク、右がツインフォーマットディスクです。 HD DVD-R(DVD Specifications for High Density Recordable Disc 、追記型)HD DVDの追記型メディアが、HD DVD-Rです。記録容量は片面1層記録で15GB、2層記録で30GBです。次の図のように、記録層と反射層が、0.6mm厚のポリカーボネート基盤に挟まれた構造です。 記録層には特定の波長のレーザー光に反応する有機色素が使用されます。レーザー光を照射して加熱し、有機色素を焦がしてマーク(ピットに相当)を作ります。記録層はDVD-Rと同じように、グルーブという溝と溝の壁が左右に蛇行するウォブルによって書き込み位置を案内するしくみになっています。記録の原理や構造はDVD-Rメディアと同じです。 HD DVD-RW(HD DVD ReWritable、書換型)HD DVDの書換型メディアです。記録容量は、片面1層記録で15GB、2層記録で30GBです。 記録層はDVD-RWと同じように、グルーブという溝と溝の壁が左右に蛇行するウォブルによって書き込み位置を案内するしくみになっています。記録方式は相変化型です。レーザー光により結晶(クリスタル)相の記録層を加熱し、非結晶(アモルファス)相になったところで急速に冷却し、非結晶相に固定します。この非結晶相部分がマーク(ピットに相当)のはたらきをします。記録層を低温で加熱し、ゆっくり冷却すると非結晶相を結晶相に戻すことができ、消去や書き換えを行うことができます。 競争の外側でインターネットコム株式会社と株式会社インフォプラントが2006年12月に行った「次世代 DVD 規格に関する調査」で64.3%のユーザーが次世代 DVD 規格の対立について「迷惑」と感じているという結果が出ています。同時期のインターネットコム株式会社と goo リサーチが行った調査では、回答者の約半数が「決着がつくまでどちらも購入しない」としています。 著作権保護技術デジタルデータは複製しても劣化しません。デジタルデータになった映像は、そのままの画質で複製することができます。しかも、デジタルデータはPCやネットワークとの親和性が高く、流通させやすい特徴があります。特に光メディアでは流通しているコンテンツをメディアごと複製できてしまいます。LPレコードをカセットテープに、CDをMDに形を変え、劣化を伴いながら複製するのではなく、CDの質を落とさずまるごとCDに、DVDをそのままDVDに複製できてしまいます。しかも、今日の複製機器やソフトウェアの性能はすばらしい。その結果、海賊版のようなある一定の規模を持つものから、知人友人への気軽なコピー配布のように私的複製の範囲を超えた違法コピーにいたるまで、幅広い著作権侵害が日常発生しています。 CDのコピープロテクトCDでは著作権保護に関する技術は規格化されませんでした。そのため複製横行により売り上げが低下しているとして、一部のメーカーは自社の音楽用CDに特殊な方法でコピープロテクトを組み込みました。CCCD(Copy Control CD)とよばれていますが、規格の名称ではありません。各CDメーカーが独自な手法で組み込んでいるもので、CD EXTRAをベースにしてTOC(目次情報)を改変したり、エラーセクタを挿入したりしているようです。 DVDの著作権保護技術CDのコピープロテクトの状況から、DVDでは規格の策定当初から、メディアに著作権保護技術の搭載が求められていました。 CSS(Content Scramble SystemまたはContent Scrambling System)映像コンテンツを暗号化し、その暗号鍵を複製できないエリアに記録する方法です。PCで単純にデータだけをコピーしても暗号鍵が複製されないために再生できません。DVD-Video規格に採用されましたが、1999年に解除ソフトDeCSSが開発され、その後類似ソフトが次々に登場し、事実上抑止力を失ってしまいました。その後のDVD-RやDVD-Audioでは、CPPMやCPRMなど別の技術が使われています。 CPPM / CPRMCPPM(Content Protection for Prerecorded Media)とCPRM(Content Protection for Recordable Media)は、いずれもDVDに採用されている著作権保護技術です。 CPPMではコンテンツを3つのデータで作成される「鍵」で暗号化します。 CPRMもCPPMとほぼ同じ原理です。 CPPM/CPRMでは、単純にコピーしただけでは、アルバムIDやメディアIDが異なるため再生することができないだけでなく、メディア側に記録されているMKBを更新することで、特定の機器やメーカーの製品で、記録/再生できないようにすることもできます。 メディアや機器側に固有のIDを持たせた著作権保護技術は、Blu-ray Discなどの次世代ディスクやSDカードなどのフラッシュメモリにも採用されています。 以上で応用編は終了です。
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