コンピュータ講座 応用編 会報トップへ戻る
本ページの内容をPDFファイルでダウンロードできます >> PDFダウンロード
「コンピュータ講座 応用編」でのご意見やご要望をお寄せください >> アンケート
第1回  |  第2回  |  第3回  |  第4回  |  第5回  |  第6回  |  第7回  |  第8回  |  第9回  |  第10回  |  第11回  |  第12回

第9回 幅広いニーズ、PCだけじゃないHDDの用途

ディスク編の最後の回は、PCの外側で活躍するHDDのお話です。たとえば、ネットワークに直接つないで使うストレージ装置があります。また、HDDはPC以外の機器にも内蔵されるようになっています。携帯電話や携帯型音楽プレーヤー、DVD/HDDレコーダ、カーナビなど身近なところでさりげなく働いています。こうしたHDDの働きぶりを紹介します。


ネットワークとHDD

サーバの台数が増えると、ディスク装置の利用率がサーバごとに大きく差が出たり、ディスクのバックアップ作業がサーバごとに発生したりして、ストレージの管理も効率が悪くなります。そこで、各サーバに分散したストレージを統合して共有すれば、ストレージ全体の利用率や管理の効率を改善することができます。
個人ユーザーにおいてもネットワークの急速な普及、HDDの低価格化・大容量化、画像や映像などデータの大型化などにより、ストレージの効率的な運用が求められるようになっています。
こうした流れを背景に、ストレージ製品の主流は、PCやサーバに内蔵したり直接つないだりするタイプから、SAN (Storage Area Network) やNAS (Network Attached Storage) といったネットワーク接続型に移行しつつあるといわれます。とくに、NASは価格が手ごろで、設定や取り扱いが簡単、付加機能も豊富、機器もコンパクトで、個人ユーザーに人気があります。

SAN(Storage Area Network、サン)

PCとサーバをつなぐLANとは別に、サーバとストレージを専用ネットワークで接続した環境を「SAN」と呼びます。ストレージ専用ネットワークとそれに接続した各種のストレージ装置の総称で、複数のサーバが複数のストレージ装置を共有します。クライアントPCからは巨大なストレージを持つサーバを利用できることになります。


SANの接続形態

各機器の接続には、データ転送効率が高い「ファイバーチャネル」を利用します。ファイバーチャネルを使用するSANを、FC-SANと呼びます。全二重通信で、送信と受信を同時に行うことができる上に、通信速度は高速で、1Gbps、2Gbps、4Gbpsの規格があります。8Gbps以上の次世代規格もすでに承認されています。

SANは、ストレージ装置として専用ネットワークを組むだけの機器構成が必要です。おのずと大規模なストレージ環境となります。それだけの規模とデータ量がないと、SANを構成する意味がなく、個人ユーザーがSANを構築する例はまれです。
最近では、SANとNASを融合するような構成も出始めています。


SANとNASの融合の一例

NAS(Network Attached Storage、ナス)

NASはLAN(TCP/IPネットワーク)に直接つないで使うストレージ装置です。ファイルサーバとして機能するアプライアンスサーバ(※1)です。同じLANに接続されたPCからは、共有ディスクとして扱うことができます。
NASは、CPU、HDDコントローラ、HDD、LANインターフェース、拡張用インターフェース(ほとんどの場合USB)、基本ソフトを収録したROMなどで構成されています。基本ソフトとしてLinuxを使う製品が多く、Samba(※2)やNetatalk(※3)などを組み合わせて、WindowsやMacintoshとのファイル共有を可能にしています。

※1:特定の用途に機能を絞り込んだサーバのこと、「専用機」ともいえる
※2:Linux (UNIX) とWindows間でファイルの共有を行うソフトウェア
※3:UNIX上でAppleTalkによるサービスを提供するソフトウェア


NASによるファイル共有

NASの特徴は、導入、運用、管理が簡単なことです。専門のネットワーク技術者のいない環境でも手間をかけずに使えるように工夫されています。たとえば、個人ユーザーやSOHOなどの小規模事業者が主なターゲットとなるエントリーモデルでは、購入後、箱を開けてLANに接続した後、クライアントPCから専用のセットアップツールを実行するだけです。
LAN上のNASが自動検出され、PCのドライブとしてマッピングされます。これだけで、共有ディスクとして使用できるようになります。まるで、外付けHDDのUSBインターフェースがLANに変わっただけと感じられるくらいです。
個人のユーザーを主なターゲットとしたモデルでは、付加機能も充実しています。たとえば、PCを起動することなく、NASのUSBコネクターに接続したメモリやデジカメのデータをNASにコピーしたり、NASにテレビ番組を録画して、HDDレコーダとして使えたりするものもあります。プリントサーバ機能を内蔵している製品もあります。

容量拡張のためNASにHDDを増設する場合も、増設用の外付けのHDDをUSBケーブルでNASに接続して、簡単な設定を行うだけです。
手軽・簡単を絵に描いたようなNASのエントリーモデルですが、ストレージとして頼りないことも確かです。HDDに障害が発生した場合の信頼性がまったく保証されていないことです。複数のPCで共有するNASが故障すると、影響は甚大で、場合によっては業務が停止してしまうこともあります。
その点で、エントリーモデルに多いHDD型のNASよりもサーバ型のNASは安心です。複数のHDDを搭載し、万一の障害発生時にもデータが消失しないようにRAIDを組み合わせて使用します。HDDの数を増やすことで、より多くのデータを格納できるだけでなく、RAIDとの組み合わせで、信頼性や耐障害性を高めることができます。
このように複数のHDDを搭載するNASは筐体も大きくなり、一般的なPCサーバに近い形になります。運用・管理も、「手軽さ」や「簡単さ」よりも、「確実性」、「信頼性」、「耐久性」が求められます。
NASは、エントリーモデルのHDD型では20,000円台から、多くの製品がラインナップされています。実際の導入時には、バックアップの方法やRAID使用の可否などデータの保全の視点で製品を選定することを推奨します。

NASとSANはストレージとネットワークという共通要素はありますが、内容はまったく異なります。最後に、SANとNASの違いを表にまとめました。

SANとNASの特徴的な違い
  SAN NAS
定義 サーバとストレージを専用ネットワークで接続した環境。 LAN(TCP/IPネットワーク)に直接つないで使うストレージ装置。
利用方法 巨大なストレージを持つサーバとして利用する。 共有ディスクとして直接HDDを利用する。
ネットワーク ファイバーチャネルなどのストレージ専用ネットワーク。 TCP/IPネットワークのイーサネット。
ファイルシステム SAN接続のディスク装置内にはファイルシステムはなし。ディスク装置に接続するサーバにファイルシステムが存在する。 NAS自身が装備。
データ転送 ブロック単位(通常1つのファイルは、1つまたは複数のブロックで構成される)。利用効率が高い。 ファイル単位。ファイル名や共有名などファイルを特定する呼び名で管理している。
コスト   既存のネットワークに接続するだけ、エントリーモデルでは、20,000円台から。

iSCSI(internet Small Computer System Interface、アイスカジー)

FC-SANが主流といわれる中で、IPネットワークをデータ経路として利用する「IP-SAN」が注目されています。LANの世界で実績のあるTCP/IPとイーサネットをSANに応用しようとするものです。SCSIは、HDDインターフェースのSCSIです。iSCSIは、このSCSIの命令をIPパケット上にカプセル化して、ネットワーク経由で送受信してHDDをコントロールするプロトコルです。既存のIPネットワーク用機器(スイッチやケーブル)を使ってSANを構築できますので、導入コストを抑えることができます。

iSCSIでは、データのやりとりを、ファイル単位ではなくディスクのブロック単位で行います。ファイルよりも細かい単位でデータをやりとりできるので、パフォーマンスの向上が期待できます。本格的な普及はこれからです、転送速度もGbitネットワークが主流となって実用域に達しており、期待度の高い技術です。

身近なところで活躍するHDD

HDDは主としてPCの記録装置として使用されていましたが、今日では携帯音楽プレーヤーやデジタルビデオカメラなどPC以外のさまざまな機器に組み込まれるようになっています。動画や音楽のネット配信、デジタル放送、カーナビなど、一般の家庭においてもPC以外での大容量ストレージの需要は小さくありません。この需要に応えているのが、HDDです。

搭載機器
HDDサイズと容量
HDDの搭載効果
HDDレコーダ
3.5インチHDD
250〜1000GB
記録装置が磁気テープからHDDに代わり、 これまでのVHSより記録できる容量が増え、高速な頭出しや早送りなど、利便性が向上している。ハイビジョン放送の録画など、大容量化へのニーズが高く、2006年8月で最高1TBのHDDを内蔵した機種がある。
携帯電話
0.85インチHDD
4GB
大容量のデータを保存でき、サイズは携帯のデザインを損なわないように小型になっている。今後はワンセグ放送の録画などの需要も高まり、大容量化が進むと思われる。
カーナビ
2.5インチHDD
20〜40GB
HDDの内蔵により、大容量データが記録でき、細かな情報を提供できるようになった。地図データやナビソフトのアップデートも可能になる。音楽や映像・画像データを保存することもできる。
携帯型音楽プレーヤー
1〜2.5インチHDD
4〜60GB
収録できる曲数が飛躍的に増加した。10,000曲を超える楽曲データを持ち歩くことができるようになり、映像データを持ち歩くことも可能になり、画像再生機能も持つ機種も増えた。
デジタルビデオカメラ1.8インチHDD
30GB
ハイビジョンなど大きなデータ容量を必要とする映像を、手軽に撮影、保存できるようになった。テープではできない長時間記録が可能になった。

PC用途以外のHDDといっても、基本的な構成はPC用と変わりはありませんが、要求される仕様にはかなり違いがあります。
AV機器用HDDでは、途切れずに記録再生することが優先されます。PC用HDDは、データが正常に読み書きできるまでリトライを繰り返し、ようやく読めたデータは安全なセクタに記録しなおすまでの処理を自動で行います。ところが、AV機器では音声や画像などを途切れずに記録再生する「ストリーミング保証」が重要です。多少のデータ欠損はホスト側で補償できますから、PC用HDDのようにリトライを繰り返さず、一定の動作を行った後は、読めなかったことをホストに伝えて先に進みます。
また、AV機器用HDDは騒音についての条件も厳しくなります。音を楽しむためのAV機器では、HDDにも静粛性が強く求められます。HDD動作音源になるモーターの回転音やシーク音、ランプロード方式HDDのヘッドの退避音を可能な限り小さくすることが求められます。現在では、流体軸受けの採用でモーターの回転音は問題にならないレベルになっていますし、シーク音や退避音についてはアクチュエータの加減速の方法を工夫して騒音を低減させています。また、ユニットのケースに制振板を張ったり、プリント基板の下に防音シートを敷いたりして、装置全体としての静粛性改善が図られています。
車載用HDDでは厳しい使用温度範囲が要求されます。PC用HDDの使用温度範囲は−4〜+55℃、車内の温度は−40〜+80℃になることが予想されます。一般用途のHDDでは、この範囲で正常な読み書きは保証できません。そこで、HDD内部の温度センサーを利用して動作に制限を加えるなど、実用上大きな問題が出ないように工夫しています。
本質的に耐環境性の優れたHDD開発も進められていることはいうまでもありません。

これからのHDD

以下の図は、あるメーカーのHDDの容量の変化を示すグラフです。


HDDの記憶容量の推移 (ISDL Report No. 20050903001)


記録密度の推移(ISDL Report No. 20050903001)

HDD誕生以来、容量の増加は8000倍、記録密度の増加は1億倍です。しかも、この先も同様の増加を望む強いニーズがあります。すでにデータは大型化しています。たとえば、デジタル放送があげられます。標準画質で2時間番組を録画するとファイルの大きさは約4GBですが、地デジのハイビジョン放送では2時間録画で15GBに達します。ビジネス環境においても、e文書法、日本版SOX法、フォレンジクス(※4)などが、巨大なストレージ容量を必要としています。
ディスク編の最後に、これからのHDDを、「大容量化」・「高速化」・「小型化」をキーワードにしてお話します。

※4:フォレンジクス:サーバやPCのログ、ユーザー履歴、アプリケーションの動作や通信内容を保存し、情報漏洩などの事故の際にシステムの利用状況を証拠として活用する技術。

大容量化

大容量化の切り札と目されているのが、垂直磁化といわれる記録方式です。
従来の面内記録方式では、信号磁石が互いに向かい合って磁力を弱めあう性質を持っています。この方式で記録密度を高くするためには、磁区(1ビット分の記録に使う磁気スペース)を小さくすることになります。ところが、小さくなると常温で記録磁界を保てなくなる熱ゆらぎという現象が起き、記録できない状態に陥ります。結果的に、面内記録方式の記録密度の限界は200Gbpsi前後といわれており、現在はすでに100Gbpsi程度を超えています。

垂直記録方式では、隣り合う信号磁石がお互いに強め合う性質を持ちます。信号情報が垂直に記録されるために、記録面の磁区のサイズが小さくなります。熱ゆらぎを起こさないように、磁区を垂直方向に広げることができますので、情報を高密度に記録できるようになり、大容量記録を実現できます。
垂直記録方式はHDDの小型、大容量化を実現する技術です。すでに0.85インチをはじめとする小型HDDで製品化されています。この技術があらゆる磁気ディスクサイズに展開され、HDDの大幅な大容量化が期待されています。

速度の向上

HDD自体の動作速度は、小型化、高密度記録、回転数の増大で、着実に高速化されていきます。一方、HDDとPCの橋渡しをするHDDインターフェースの性能向上が目立ってきています。HDDインターフェースとして最も普及しているATAは、Ultra ATA/133(転送速度133MB/sec)の後、パラレル転送の限界を超えるために転送方式をシリアルに変更しました。インターフェースの名称はシリアルATA(SATA、Serial ATA)となりました。2003年のUltra SATA/1500(転送速度150MB/sec)、2004年のシリアルATA IIでは転送速度300MB/secに高速化されるとともにNCQ (Native Command Queuing) などの技術を取り入れ、HDDの総合的なパフォーマンスの向上が図られています、2007年には転送速度が600MB/secへと引き上げられる予定です。詳しくは、コンピュータ講座応用編8回目ディスク編をご覧ください。

さらなる小型化へ

HDDの小型化は耐衝撃性の向上、省電力化、動作速度の高速化をもたらすとともに、HDDの新しいニーズを作り出します。HDDのディスクが0.85インチにまで小さくならなかったら、携帯電話にHDDが内蔵されることはありませんでした。小型化は、HDDの多用途化を促進し、多用途化がより小型化を求める循環になっています。
世界最初の磁気ディスクRAMACのディスクサイズは24インチ(大人用自転車のタイヤのサイズと変わりません)、そして現在最も小さいディスクは、100円玉とほとんど変わらない0.85インチ(2.1センチ)、容量は4GBです。サイズは28分の1、容量は800倍です。
これは垂直記録方式による高密度化記録がもたらしたものです。このまま進化を続ければ、2010年には1Tbpsi(テラビット/平方インチ)も可能といわれています。

これからもデータは増加の一途をたどり、記憶装置へのニーズはますます高くなります。RAMAC以来、常にディスク装置のキーワードは「大容量化」・「高速化」・「小型化」でした。これからも変わらないでしょう。しかし、垂直磁化方式による記録の高密度化は、3つのキーワードへの有望なソリューションです。この技術が製品化されたことで、HDDはまたひとつ壁を越えたように感じられます。

次回からは光記憶装置を中心にしたメディア編です。

ページの先頭へ
タイトル一覧
CPU編
     
バス編
   
     
ディスク編
   
 
第9回   幅広いニーズ、PCだけじゃないHDDの用途
   
メディア編
   
     
ページの先頭へ
All Rights Reserved, Copyright(C) FUJITSUファミリ会