2007年 26号  発行日: 2007年9月21日 バックナンバー

「SaaS」生まれ変わったASP

アンケート

SaaSの特徴

SaaSの技術的な特徴に触れておきましょう。
ASPではパッケージソフトをネットワーク経由で利用する形態に近いものでしたが、SaaSアプリケーションはネットワーク利用を前提として設計・開発されています。そこに活用されている注目の技術がAjax (Asynchronous JavaScript and XML※) です。AjaxはWebブラウザでの表示部分を含めたWebアプリケーションの作り方の名称です。通常、Webブラウザはリンクやボタンがクリックされてはじめて画面全体を表示しなおす動作をしますが、AjaxはXML形式のデータをJavaScriptで処理して、バックグラウンドでサーバとやりとりして「動的に」ページ内容を変更できるようにします。クリックしてからHTTPのリクエストをサーバに送ってデータの戻りを待って動作するのではなく、ユーザーの操作に応じてJavaScriptを通じて事前にバックグラウンドでサーバからデータを入手することで、ユーザー側のスムーズな動作を実現します。Ajaxは、ネットワーク越しに操作するSaaSのアプリケーションの操作性や応答性を劇的に向上させました。

テナンシーモデルにもSaaSの特徴が現れています。ASPでは、ユーザーごとにサーバ環境を割り当てるシングルテナントでした。SaaSはマルチテナントです。複数のユーザーでサーバやデータベースなどを共有します。また、すべてのユーザーが同じバージョン、同じコードのアプリケーションを使用するようになっています。これをシングルインスタンスといいます。これは、数人規模の小さな企業でも数千アカウントを契約した大企業でも、すべてのユーザーがまったく同じアプリケーションを使用できることを意味します。データの属性情報であるメタデータによりユーザーごとのカスタマイズも可能になっています。
ベンダー側は、マルチテナントにより、ハードウェア、ソフトウェア費用、運用管理費用を抑え、スケールメリットの最大化を図り、シングルインスタンスの実現によりアプリケーションのアップグレードやパッチ適用などを一括することができ、保守・管理・運用の負荷も大幅に軽減できます。

「カスタマイズ」、「既存アプリケーションとの連携」もASPとは大きく変わっています。SaaSは多くの場合、顧客企業の既存アプリケーションやSAP、Oracleなどのパッケージ・アプリケーションとの連携を可能にするAPI (Application Programming Interface) がベンダーから提供されています。また、SaaSアプリケーションと連携して動作可能なアプリケーションを他社が構築できるプラットフォームが提供されています。これらによってパートナー企業やユーザーが新たなアプリケーションを開発したり、カスタマイズや他システムと連携したりすることが可能になります。

さらに、こうして開発されたアプリケーションがSaaSベンダーの開設するWebサイトで公開され、ベンダーの提供するアプリケーションとマッシュアップさせて利用することができるようになっているものもあります。SaaS大手Salesforce.comの日本のWebサイトには、こうしたアプリケーションがおよそ100本(2007年8月末現在)登録されています。

こうしたシステムの柔軟性は、従来のASPが既存のシステムとの連携ができなかったために導入を見送った大企業にもSaaS導入を促すことになり、中小企業から大企業までというユーザー層の広がりを実現し、今日の急速な普及の原動力となっています。

※Ajaxは、次号(eふぁみり27号)のUpToDateで紹介する予定です。

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