2007年 26号  発行日: 2007年9月21日 バックナンバー

「SaaS」生まれ変わったASP

アンケート

第4章 SaaSの課題と将来

日本郵政公社がSalesforceの採用を決めました。短期間のシステム構築とマッシュアップが決定打になったとされています。普及と参入が進み、順風満帆に見えるSaaSですが、問題点を指摘する声も少なくありません。SaaSに指摘される課題と将来性を考えます。

SaaSに指摘される課題

SaaSでは、ベンダーが提供するソフトウェアを基本的にはそのままで利用することになります。ASPと比べれば、SaaSのカスタマイズ機能は大きく向上していますが、それでも自社システムなみに自由な機能拡張ができるわけではありません。また、自社内の既存システムとの連携という点も自社システムが有利なことはいうまでもありません。では、どのようなアプリケーションがSaaSに向いているかというと、

  • 複雑なカスタマイズや他システムとの連携を必要としない
  • コア業務ではなく、コモディティ化した業務
  • 利用ユーザー数の増減が頻繁に起こりやすい
  • 高額なライセンス費用を必要とするソフトウェアでないと実現できないとされる業務

ユーザーの業務内容に深く結びつく本格的なERPは、上記の条件の4つ目に該当するとしても、カスタマイズや他システムとの連携が複雑になることが予想され、SaaSでの実現は困難を伴う可能性があります。導入に当たってのリスクもあります。マルチテナントでの運用が前提となっているSaaSでは、利用が集中してサーバが高負荷になったり、当のユーザー以外の原因による不安定動作や不具合、事故の影響が生じたりすることがないとはいえません。自社システムであれば、決算などの重要な時期にはシステム更新を避けるなどの措置がとれますが、SaaSではそうはいきません。ベンダーは性能と可用性を提供するために最大限の努力をしているはずですが、実際にどのレベルまで保証されるか、万一障害が発生した場合の対応と補償を考慮しておく必要があります。

コストについても一概にSaaSが有利とは言えません。SaaSは、初期コストは安価に済みますが、その後は継続的に料金を支払いが生じます。基本的な使用料だけなく、モバイルやオフライン・アクセスといった追加機能、業種固有の機能、規定の容量を超えるストレージ容量、プレミアム・ヘルプデスク・サポートの料金は追加負担となります。一方、自社システムは導入までに多額の費用がかかりますが、使用開始後のコストは比較的低く済みます。ただし、システムの運用・管理コストや設置スペース、電源、空調などの環境コスト、ハードウェアの保守、バージョンアップ、ユーザー・サポートのコストも忘れてはなりません。月刊Computerworld 2007年5月号に掲載された記事「ROI(投資利益率)で決める「SaaSか? 自社運用か?」」(http://www.computerworld.jp/news/sw/63131-1.html)に規模別に長期コストの比較例が掲載されていますので、参考にしてください。

SaaSの可能性

Salesforce.comの日本法人である(株)セールスフォース・ドットコム 代表取締役 宇陀社長は、「これからはPaaS (Platform as a Service)を積極的に進めていく」と語っています。富士通もSaaSプラットフォームの構築を進めていることはすでに説明したとおりです。ベンダーは、アプリケーションの提供だけでなく、その動作の土台になっているプラットフォームの提供に動き始めています。プラットフォームは、企業が必要とするシステムを構築するための土台です。いろいろなコンポーネントを組み合わせて、この土台に載せることで効率的なシステム構築が実現します。Salesforce.comのApexプラットフォーム上では、Salesforceへの機能追加、カスタマイズされた機能、サードパーティによるアプリケーション、他システムとの接続からGoogle AdWordsやOracleのアプリケーションやSAP ERPにいたるまでさまざまなアプリケーションが動作すると言われています。SaaSベンダーにとって、自社のプラットフォームをユーザー企業の標準とすることは、パソコンのOSを握るのに等しく、自社の将来がかかる重要なステップアップ戦略です。

プラットフォーム提供という先進的な動きだけでなく、SaaS本来のアプリケーション提供というビジネスモデルにも十分な成長の可能性があります。先に紹介した「ASP/SaaS実力診断ガイド」(http://www.itagent.ne.jp/index.php)をご覧になると、多くのソフトウェアベンダーがSaaSに参入していることがわかります。2010年には、SaaSの市場規模が1兆5千億円に達するという予測もあります(2007年ASPIC JAPAN)。次のグラフが示すように、システム導入担当者の関心も高いことがわかります。

ROI(投資利益率)で決める「SaaSか?自社運用か?」:ソフトウェア&サービス - Computerworld.jp
(IDG Japan Webmedia 2007年4月24日)より転用
http://www.computerworld.jp/news/sw/63131-1.html

SaaSは、最近耳にする機会が多いEnterprise 2.0の中で重要なサービスと位置づけられています。Enterprise 2.0はWeb2.0をビジネスに適用する考え方で、企業版Web2.0と考えるとよいでしょう。その中で、企業内のblogやSNSなどの「ソーシャルネットワーク」、「Enterprise Search」と並んでSaaSは重要なサービスとされているのです。

迅速なシステムの導入、人員の増減への柔軟な対応、不要になればすぐに停止可能なサービス、カスタマイズ、システム連携など、SaaSは、変化の激しいビジネス環境のニーズにマッチした俊敏なIT運用を可能にするビジネスモデルです。パッケージソフトを駆逐しかねない勢いで普及しており、今後もこの勢いは止まらないでしょう。SaaS普及やその先を見越した企業間の合従連衡も盛んで、システム担当者でなくても、SaaSか目が離せません。

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