| 2009年 34号 発行日: 2009年10月13日 |
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「新型インフルエンザ」から学ぶ
新たな脅威から企業を守る事業継続管理
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第2章 新型インフルエンザA(H1N1)が企業に与えた教訓とは
はからずも、今回の新型インフルエンザA(H1N1)の流行は企業の対応にいくつかの課題があることを示唆しました。すでに南半球で急速な感染拡大を遂げ、WHOによれば「流行は3年程度つづく」とされています。さらには高病原性H5N1ウイルスの、人から人への感染・流行の危険性が高まる中、企業の新型インフルエンザA(H1N1)への対応を振り返り、今後どのように対応していくべきか考えておく必要があります。 |
新型インフルエンザA(H1N1)に対する企業の対応の実状
日本経済団体連合会(以下、経団連)の調査によると、国内企業の3割弱が行動計画を策定済みであるとされています。しかしその行動計画のほとんどが、鳥インフルエンザウイルス由来の高病原性の新型インフルエンザ(H5N1)を想定したものでした。H5N1がアジアで発生することを想定した国のガイドラインは、パンデミック発生時、国内で3200万人が罹患し、64万人が死亡、大流行時の企業の欠勤率を最大40%として計画を策定するよう推奨しています。個人も企業もきわめて大がかりな行動計画と対策が求められると考えられていました。
しかし、すでに述べたように実際に発生したのは低病原性の新型インフルエンザA(H1N1)でした。その結果、各企業の行動計画は大幅な修正を余儀なくされました。各企業は、行動計画を持っていたとしても想定外の事態発生によって、その場で判断し対応せざるを得なかったのが実状でした。
このような想定外の事態に柔軟に対応するには、行動計画が新型インフルエンザの特性、発生状況に臨機応変に対応できるものでなくてはなりません。あらかじめ被害を想定する固定的な対応だけではなく、柔軟な危機管理体制の構築も重要であることが浮き彫りになったといえるでしょう。 |
新型インフルエンザA(H1N1)が残した教訓
新型インフルエンザA(H1N1)の流行から得られた教訓と、そこから見えてくる課題をまとめると、大きく次の2点に集約されます。
- 構造化された行動計画による柔軟な対応
- 高病原性の鳥インフルエンザへの対策を講じながら、実際には病原性の低い新型インフルエンザA(H1N1)が流行し、そのギャップがさまざまの混乱をまねきました。原因の一つは、想定値を鳥インフルエンザに絞って決めてしまい、厳しい対策を中心に対応が講じられてしまったことです。そのために、急増する軽症患者への対応がオーバーフローしてしまったのです。
この経験から得られた教訓は、「流行の実際は、予測していたようにはならない」ということです。場合によっては想定外の別のウイルスによるインフルエンザが流行し、それに季節性のインフルエンザの流行が複合してくるという可能性も考えられます。そのため、さまざまな状況に臨機応変に対応できる構造的な行動計画が必要です。
今回流行した新型インフルエンザA(H1N1)、H1N1ウイルスの特徴は、病原性はさほど高くはないものの非常に強い感染力をもつところにあり、想定された高病原性鳥インフルエンザウイルスとの違いが、医療機関などに混乱を引き起こしました。また新型インフルエンザA(H1N1)の発生は、遠く離れたメキシコでしたが、仮に全国の主要空港に乗り入れているアジア諸国のいずれかで発生していれば、求められる空港での検疫態勢はまったく異なるものになっていたはずです。重要なことは、変化する諸要因をパラメーターとしてとらえ、想像力を最大限に発揮して臨機応変に対応できる構造化された行動計画を策定し柔軟に対応することです。
- 危機対応能力の向上
- 新型インフルエンザA(H1N1)の行動計画を策定済みの企業も、そのほとんどが訓練未実施という状況でした。新型インフルエンザが今後どのような病原性、感染力で発生するかわからないことを考えると、単に行動計画を策定するだけでなく、あらゆる事態に柔軟に対応できる組織的な能力を常にみがいておく必要があります。従業員への基礎的知識教育だけでなく、経営者層や対策担当者などの戦略を立案し、行動を統制する部署の人員に向けた高度なシミュレーション訓練も必要です。
具体的には、下記のような取り組みです。
- 年数回にわたる各部署の実践的訓練を通し、危機に対する組織的対応力の向上を図る
- 日頃から訓練を実施し、要員対応能力の強化を図る
- 教育を通じて、従業員の行動意識向上を図る
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