2008年 31号  発行日: 2008年12月5日 バックナンバー

2008年度FUJITSUファミリ会 秋季大会
開催日:2008年10月30日 開催地:ホテル新潟

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アンケート

セッション3 「運用を起点とした事業継続マネジメント」
〜実効性・運用性の高い事業継続計画(BCP)づくりを目指して〜

伊藤 毅 氏

伊藤 毅 氏

株式会社富士通総研
第三コンサルティング本部BCM事業部 事業部長
伊藤 毅 氏

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事業継続マネジメント(BCM)導入の背景

「運用を起点とした」とあえてタイトルに付けたのは、最近、どのように事業継続マネジメント(以下、BCM)に取り組むか、特に新型インフルエンザ対応を意識した事業継続計画(以下、BCP)をどうつくるかというご質問が非常に多くなったからです。BCPも、結局は日々の運用の中で、どうやって事業継続能力を高めていくかという活動にほかなりません。そういう観点で見てみると、BCPのつくり方のみに話がいってしまい、それを日々どのように改善していくのかというところがおろそかになっています。こうしたことに対する1つのアンチテーゼとして、最近ではまず、運用を起点として考えることをお話させていただいております。これは、情報システム産業に関わる皆様から見れば、ITというのは構築するだけではなく、運用を考えないと意味がないという、まさにITサービスマネジメントの考え方と等しいものですので、その観点からは、なじみやすいのではないかと思います。

まず、BCPの考え方ですが、これは、経営者の視点から見るとリスク管理です。リスク管理には、昨今のように金融を取り巻く情勢が厳しい社会経済の環境、M&A、新商品が市場に受け入れられるかどうか、J-SOXに代表されるようなオペレーションに関わるリスクとその統制の仕組みはできているのかなど、さまざまな問題があります。しかし、このようなリスクは、それぞれの会社で、過去の経験やそれに対応するプロセスがある程度確立しているエリアです(図表1)。

経営を取り巻くリスクの種類 クリックすると拡大画像が開きます

(図表1)経営を取り巻くリスクの種類

一方、いわゆる災害事故といわれるものは、その管理の仕方や、経営資源の投入などのマネジメントがいまだ確立できていない分野だと思います。起きるか起きないかわからないことに、どこまでお金を使ったら良いのかわからない。これは経営者として、非常に正しい意識だと思います。ここに、BCMというものを考える上での課題があるのです。

ところが、発生確率とインパクトという軸で見たときに、自分たちが抱えているリスクポートフォリオがどのような状況になっているのかということは、経営者の方なら常に意識されていると思います。最近ではエンタープライズ・リスク・マネジメントの中で、それをデジタルに評価する仕組みも出てきています。リスクは企業ごとにさまざまですが、問題は、新型インフルエンザなど、管理しなければならない対象の脅威が増えたことにより、結果として発生確率が高くなっていることです。これには、テロのようなケースも含まれます。(図表2)

リスクポートフォリオの変化 クリックすると拡大画像が開きます

(図表2)リスクポートフォリオの変化

またインパクトも大きくなっています。業務が停止してしまった影響が予想もしなかったいろいろなところに、リアルタイムに出る。これはサプライチェーンの問題です。サプライチェーンというのは、そもそも極めてマーケットに最適化した形でリアルタイムにつくられていきますから、それが企業全体の効率と市場全体の効率を上げており、これ自体は否定されるものではありません。ただ、結果的にどこかが止まったときの影響が、非常に広範囲に出てしまうのも現状です。BCMへの要求が強く出てきているのは、このようなわけなのです。

私どもでは、6年ほど前からBCMの取り組みを始めています。ちなみに私は、BCMのコンサルタントと、富士通のBCMの責任者を兼任しています。このように早い段階から行ったのは、お客様からの要請の多さからでした。最近では、新型インフルエンザに対しての対策プランのご質問が非常に多くなっています。また、これは特に海外の会社からですが、地震などに対して、主要事業所や設備がなくなった場合、どうやって事業を継続するかの戦略を明確化してくれとの要請があります。起きないようにするための対策や防災ではなく、起きてしまうことを前提に、何ができるのか、いつまでに復旧できるのか、そのための手段はどんなものなのかを問い合わせてきています。一番厳しいケースでは、テスト結果の写しを見積もりに添付しろという、エビデンスを要求してきます。情報システムなら、バックアップセンターに間違いなく切り替わり、業務が復旧するまで確認できているかをきちんとした結果として出せと。これは最近、金融庁などが金融機関の検査をやる際に、BCPの有無ではなくて、いつ訓練や切り替えのテストを行ったか、その結果間違いなく予定どおり切り替わったか、切り替わらなかったとしたらその原因は何か、それはいつまでに解決する予定かなど、すべてを問い合わせてきます。このようなことが行われ始めたということが、BCPの概念が企業の中に定着し、それに取り組まなければならなくなった一番の背景だと思います。金融、半導体、自動車業界などから、徐々にこの動きが厳しくなっています。

この動きは、非常に高い技術力を持っている、生産性がすばらしい、優れた人材がいる、次々と新しい商品を開発するといった企業の価値評価につながっていきます。結果的に株価が上がる。しかし最近では、それらの継続の担保がセットになっていないと最終的な企業の評価にはつながりません。コンプライアンスの問題、環境への対応、情報セキュリティなどに加えて、特に最近要請が高いのは、事業継続についてです。いくら良いものを提供していても、非常時に止まってしまうのでは困ります。ましてや、その会社にしかないものをつくっていればなおさら、買い手側にすれば代替がきかないわけです。したがって、より厳しい要求が出てくる。要請が厳しければ厳しいほど、良い仕事をしているということです。逆に、何の要請もこないということは、平常時のビジネスが大丈夫なのかと問われていることになります。

私どもでは、3年ほど前から取引先の評価も手がけていますが、そこでは一次スクリーニングをします。われわれにとって代替がきかない会社をまず限定した上で、調査をしていきます。アンケートを出して集計するだけでも非常に手間がかかりますから、絞り込んでいくことが大切です。このように考えますと、アンケートがくること自体が、その企業に対する1つの評価であるともいえるわけです。ただ、日本の企業は、ものづくりの質が非常に高く、かつユニークで独自性の高いものをつくる方向に進んでいます。それ以外は、どんどん東南アジアに移っていることを考えると、必然的に日本の企業に対する要求は高くなってきます。ところが、日本でビジネスを展開している企業が抱えているリスクも極めて高くなっています。これは、地震が起こるためです。このはざまの中で、日本の企業はこれからどうやって事業を継続していくかということを考えなければいけないのです。行政はその認識をすでに何年も前から持っており、内閣府や経済産業省、中小企業庁が、事業継続に関してのガイドラインを出しています。さらに、自治体や地域単位での企業のBCPづくりを強く推進する動きもあります。このように、これは避けては通れない問題なのです。

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