| 2008年 31号 発行日: 2008年12月5日 |
 |
2008年度FUJITSUファミリ会 秋季大会
開催日:2008年10月30日 開催地:ホテル新潟
[Flash/15KB/135秒] Flashによる SLIDE SHOW
|
|
セッション3 「運用を起点とした事業継続マネジメント」
〜実効性・運用性の高い事業継続計画(BCP)づくりを目指して〜
教育と訓練
BCP作成後は、訓練をやらなければなりません。訓練して、プランを見直し、良いものにしていくという改善があってはじめて、現場に定着していくのです。定着化とは、日々の現場での活動の中で、BCPがどんどんメンテナンスされる状態をつくっていくことです。最後は全社的なリスクマネジメントの仕組みに統合していく流れになりますが、それにはおそらく、5年以上、場合によっては10年くらいかかるケースもあります。ですから、BCPの取り組みというのは、長期的な計画を立てて進めていくことが前提にあります。 |
「BCPをつくりましたので、確認してください」といって、電話帳のようなものが積み重ねられることがよくあります。こんな分厚いものをつくってしまうと、いざというときに誰がどこを見れば良いのかわからないという実効性の問題が発生します。また、人事異動や人の連絡先が変わったときに、修正したくても、それがどこに書いてあり、どこまで直せば良いのかわからないという運用性の問題も出てきます。まずは運用できるようなものにしておかないと、メンテナンスもできなくなります。理想的なBCPというのは、「5W1H」がわかるものです。「いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように」やるのかということがきちんと書いてあれば良いのです。しかも、これが構造化されていることが重要です。情報システム復旧の手順書も同じですが、BCPをつくるときには、文書の構造をまず定義することが大事です。 |
具体的には、まずチームを決めることです。情報システムであれば、災害対策の本部長、全社でも災害対策本部というコントロール機能があります。システムに落とし込んで説明すると、インフラのチーム、ネットワークのチーム、生産管理や営業などそれぞれのアプリケーションのチーム、各担当のチームそれぞれが行うべき作業があるわけです。これは災害対応の時系列でつくります。発生直後、災害対策本部が立ち上がって復旧に入った段階、ユーザー部門とその確認をする段階などに区切って全体を描き、それぞれのプロセスにある箱ごとにその担当者がやるべきことを、役割ごとの個別手順として書く。重要なことは、頻繁にメンテナンスが入るような情報というのは、できるだけ外に出しておくということです(図表7)。 |
(図表7)行動計画書の構造化(例) |
ここで、必然的にツールが必要になってきます。BCPの管理ツールは、アメリカやイギリスの企業ではすでに導入し始めています。今後情報システムのリカバリー手順書のつくり直しを考える際、管理の仕組みや文書の体系、構造をどうするかということに加えて、そのようなツールも視野にいれられることをおすすめします。ツールは非常に便利なものです。単に文書管理だけでなく、ある部分だけを切り取って、その訓練をやるための支援の仕組みや、変更の際にはその担当者に向けて、いつまでにこのメンテナンスをしなさいというようなアラート機能が組み込まれています。特に金融機関が多く使っている理由は、皆がきちんと見ているか、直しているかといったエビデンスがとれるからです。 |
また、訓練にお困りの方が非常に多いと思いますが、富士通でも行っている「モックディザスタ(災害模擬演習)」という面白い訓練があります。広い会場に集まり、7、8人ずつのチームをつくらせ、何も知らせずに、いきなりスクリーン上に、「ただ今、震度7の地震が発生しました」ということをアナウンスします。10秒か20秒ごとに状況がどんどん変わっていき、それがスクリーン上に通知されます。誰がどこで倒れています、どこで火災が発生しています――。このような情報を付与することによって、人々がその状況をどう整理するのか、それによってどんな指示を出すのか、足りない情報をどうやって入手しようとするのか、それをすべてチームでやらせるのです。これは気づきの訓練としては、非常に有効です。最近では、このような演習が増えてきています(図表8)。 |
(図表8)モックディザスタ(災害模擬演習) |
ちなみに海外ですと、この訓練を、危機管理担当者だけを集めて、1週間通しで行ったりしています。中には心臓麻痺を起こすような人が出るなど、厳しいものです。ちなみにこの訓練法は、欧米のBC訓練として、一般的に行われています。 |
また、新型インフルエンザのようなものは、基本的な知識を全従業員にしっかりと知らせる必要があるので、e-ラーニングも効果的です。富士通では、新型インフルエンザに関して、全従業員にe-ラーニングを受けさせました。くしゃみや咳に関するエチケットから、実際に発生したときの対応など、すべてe-ラーニングで徹底しています(図表9)。 |
(図表9)e-ラーニング |
また、「ウォークスルー」といって、でき上がった手順書を確認する訓練や、さらに限定的なシナリオでの実施もあります。最近の新型インフルエンザのための訓練では、例えば、「2008年7月の第1週に香港で新型インフルエンザのパンデミックが確認され、フェーズが4に上がった。情報システムの構築およびデータサービス事業を展開している、東京都内に本社とデータセンターを保有している情報サービス会社A社は、予防措置として、過去3週間以内に香港に行った従業員の有無を確認し、該当者は医師の診察を受けた上でなければ出社してはならないとの通達を出した」。このようなシナリオを出していきながら、その時々に災害対策本部の方が、どのような行動をとるのかということをすべて洗い出していきます。こうして、だんだんフェーズを上げていきます。第2週には、日本で感染が広がり、従業員が休み始めた。その次になるとそれがさらに広がり、50%の欠勤が出た。このようなシナリオを次々にぶつけていきます。非常にショッキングな内容ですが、多くの気づきにつながる訓練であり、非常に重要なものなのです(図表10)。 |
(図表10)ウォークスルー(手順書確認訓練) |
昨年(2007年)と今年で、アメリカの金融業界ではストリートワイドで、全部で200くらいの金融機関が参加して、新型インフルエンザの訓練を行いました。内容は、2週間に1回、本部からアルファベットが3文字ずつ送りつけられます。そのアルファベットに該当する従業員は、その2週間、まったく会社に出てこないということを前提に、どのようなことが起きるのかを想定する訓練です。日本でも今後、このような訓練が一般的になってくると思われますが、インフルエンザに限らず、先ほどの運用の話にも関係しますが、これはトレードオフなのです。従業員の対応能力を上げていくと、文書は分厚いものではなく、ポイントだけ書いてあれば良いというようになっていきます。ですから、できるだけ従業員の教育や訓練のほうにシフトしていったほうが、結果的に運用性が上がってくるということがいえます。また、これは一種のビジネスゲームですから、いろいろな意味で従業員の能力を向上させることにも非常に有効です。 |
|
