LS研総合発表会2024

 2024年5月21日(火)、LS研総合発表会2024が開催されました。総合発表会は、研究分科会活動の総仕上げとなるイベントで、1年間の研究成果をLS研会員の皆様にご報告する場でもあります。 研究分科会参加者の上司・職場の方々にも会場にお越しいただき、盛況のうちに終えることができました。当日は2023年度の12の研究分科会が成果発表を行い、研究成果報告書の表彰式も行われました。

LS研幹事長 ご挨拶 : パナソニック インフォメーションシステムズ株式会社 刀根 佳久 氏
 この1年間研究活動をされた皆さま、大変お疲れ様でした。成果発表会では、12分科会の研究活動を発表いただきましたが、どのテーマも本当に素晴らしく、力のこもったもので、 皆さんの研究の様子や頑張りが目に浮かび、感動いたしました。
 ここ数年で働き方が大きく変わり、私たちの業務範囲も拡大、多忙な中での研究活動は大変であったと思います。そんな中、活動の意義をご理解いただき、メンバー同士工夫をし 助け合いながら研究活動を完遂してくださった皆様に、心より敬意を表します。研究活動で得た成果、そして大切な仲間を、ぜひ今後に活かしていただければと思っております。
 最後に、本活動に大切な社員を託してくださった上司の皆さまに心より感謝申し上げます。


LS研総合発表会2024 表彰式の様子


研究成果審査 受賞分科会

LS研幹事および富士通の企画委員により、研究成果の審査を実施し、「最優秀研究賞」1編、「優秀研究賞」3編、「独創的研究賞」1編が選出されました。この他に、当日の発表内容を評価する「発表賞」3編が選ばれました。

 Leading-edge Systems 優秀研究賞  ・DX推進におけるプロセスマイニング技術活用に向けた研究
・メタバース・Web3.0の活用による新しいビジネスモデルの研究(クラス1)
・データ利活用におけるスモールスタートとアジャイル型成長のための推進プロセスとアーキテクチャーの研究
 Leading-edge Systems 独創的研究賞  メタバース・Web3.0の活用による新しいビジネスモデルの研究(クラス2)
 Leading-edge Systems 発表賞  ・運用部門・機能のコスト評価手法に関する研究
・DX推進におけるプロセスマイニング技術活用に向けた研究
・ICTシステム運用関連業務のDX化計画立案に関する研究
LS研運営部会長 総評 : 東京海上日動システムズ株式会社 廣野 利一 氏
 研究分科会の審査は、有用性・先見性を追求しているか、良い課題設定をしているか、またその課題をどのように深掘りをして正当性を明らかにしているかをポイントに評価しています。
 今年度、最優秀研究賞を受賞した「クラウドネイティブ環境におけるシステム実装の研究②インフラ~コンテナ適用・運用~」は、成果物として作成した「コンテナ適用ガイドライン」が、 コンテナへの向き不向きが明確に表示され、QCDの観点で根拠が示されるなど、有用性の高い成果物である点を高く評価しました。また、受賞した分科会とそうでない分科会の差は、適切な仮説が立てられたか、 またその仮説に至った理由や導き出した方法がロジカルに説明できているか、さらに、仮説の検証に説得力があり有用性が感じられるかだと思います。
 ここで出会った仲間たちは、未来における貴重な財産となるはずです。ぜひこれからも、互いに切磋琢磨し、成長し続けてください。
 Leading-edge Systems 最優秀研究賞 

クラウドネイティブ環境におけるシステム実装の研究 ②インフラ~コンテナ適用・運用~

■ 研究の背景

 近年、高速化するビジネス環境に追従するためのアプローチとしてクラウドネイティブという考え方があり、クラウドネイティブを実現するための要素の一つとしてコンテナは重要な位置づけにある。 IDC Japanの調査によるとコンテナの導入を検討する企業は増加傾向にあるが、未だコンテナを活用したシステム実装を行えている企業が少ない。コンテナへの注目の高まりに反して、導入に向けた動きは活発ではない状況であると考えられる。

■ 研究のテーマ、研究アプローチ

 本分科会では、コンテナの導入が進まない要因を分析した結果、下記の問題があると考えた。
 (1) コンテナ適用をすべきか判断できない
 (2) コンテナ適用における全体プロセスのイメージが想像できない
 (3) コンテナ活用のための人材が不足している
 仮説としてコンテナ適用基準を明確にし、コンテナ運用のイメージができることにより、コンテナ活用の ハードルが下がり、企業のコンテナ導入を促進できると考えた。
 本分科会では、「コンテナ適用ガイドライン」(図①)を作成し、コンテナの未経験者でもコンテナ適用可否の判断が行えるようにした。


図①コンテナ適用ガイドライン(判定結果シート)

 ガイドラインの特徴としてQCDの観点を取り入れることで、汎用的な判断基準として利用できることを目指した。 また、オンプレミス・クラウド・コンテナの3段階による実現方法や運用時の留意点を記載することで、運用を見据えた適用可否の判断ができるツールとなった。

■ 研究成果

 実証実験としてコンテナの有識者を含む26名を被験者とし、同一条件とするために本分科会で準備した3種類のサンプルシステムに対してガイドラインの評価を依頼した。 この結果よりガイドライン適用可否の指標となる閾値を決定した。あわせて被験者からのフィードバックを受けて、運用フローを作成することでより実運用をイメージしやすくなるように工夫した。  また、被験者の自社システムを対象として再度実証実験を行い、閾値による判定結果とコンテナ有識者による想定を比較したところ、全7システム14名で同等の結果が得られた。(図②)さらに、コンテナ未経験者からは好意的なフィードバックを得ることができた。


図②コンテナ適用ガイドラインの実証実験結果

 実証実験の結果よりガイドラインの判定結果の妥当性と、活用のハードルを下げることに対する一定の有効性が認められたと考える。  今後、各企業が「コンテナ適用ガイドライン」によってコンテナ活用の実績を積むことでコンテナへの理解を深め、社会全体のさらなるクラウドネイティブ環境におけるコンテナ適用・運用の推進に寄与できることを期待している。

■ 代表者コメント

株式会社さくらケーシーエス 西浦 直樹氏

 研究開始当初、コンテナのメリットは漠然と認識しているものの、実際の導入経験をもつメンバーはおらず、分科会自体が「コンテナへの注目の高まりに反して、導入に向けた動きは活発ではない状況」そのものを表していました。 だからこそ、自分たちが何を知りたいかという視点で研究を進めたことで、有用性、先見性、課題に対する深掘りができており、有用性の高い成果物であったとの評価を頂けたのだと思います。
 研究のご支援を頂いた事務局、幹事、TAの皆様、実証実験にご協力頂いた各社の皆様、そして一緒に悩み頑張ってきたメンバーの皆さん、本当にありがとうございました。

情報化調査/LS研ICT白書
 - 会員企業におけるICT活用に関する調査 -

 LS研ICT白書は、LS研究委員会の会員企業におけるICTの活用の現状と今後を把握することを目的に調査した報告書です。Give & Takeの精神に則り、調査にご協力いただいた会員のみに配布をしております。2024年度も多くの会員の方々にご回答いただきました。ご協力に感謝申し上げます。
 今年度のICT白書では、例年の情報システム部門の定点観測に加え「生成AI活用の取り組み」を取り上げ、最近話題の生成AIに各会員がどのように取り組んでいるかを調査分析しました。

情報システム部門の組織形態の変化
  • 情報システム部門の組織形態は、本社中心の「集権型」と、事業部門中心の「連邦型」、本社と事業部門がそれぞれ独立した「分散型」の3つに分けることができる。3形態のなかでは「集権型」と「連邦型」が多い。
  • 組織形態の経年変化を見ると、戦略・企画、開発、運用のすべての機能を本社が集中管理する「集権型A」の形態は漸減傾向にあり、替わって、戦略・企画、運用を本社と事業部が分担する「連邦型A」がやや増加傾向にある。

ICT投資状況の変化
  • 2024年度の情報システム関連費用(全体)は、7割以上が増加傾向であり、年々、増加傾向が強まっている。
  • ICT投資状況の経年変化を見ると、特にサービス関連費用と社内人件費の伸びが顕著であり、投資が増加傾向と回答した会員の比率は5年間で、それぞれサービス関連費用は約1.5倍、 社内人件費は約2倍に増えた。
  • サービス関連費用の増加は、クラウドサービスなかでもクラウドストレージの需要の高まりが影響していると思われる。また、社内人件費の増加は、情報システム部門に求められる人材(役割)の多様性と、少子高齢化による労働者人口の減少やICT需要の高まりを背景とした慢性的なIT人材不足によるところが大きいと考えられる。

生成AI活用の取り組み

 生成AIは、2022年11月に公開されたChatGPTをきっかけとして、少ない情報量から人と同じような精度で多様なアウトプットを提示する新たな技術として驚きをもって社会に迎えられると共に、生産性の向上や新たな価値の創出を通じてビジネスや社会を大きく変える可能性があるとして、多くの人々から注目されるようになった。
 生成AIの技術は日々進化しており、毎日のように新たな技術や関連サービスがリリースされている。しかし、企業や組織においては、簡単な調べ物や文章の作成といった一部の適用領域を除けば生成AIの活用方法は限定的で、検討や取り組みは行われているものの、試行錯誤が続いているものと推察される。そこで、生成AIに対する会員の関心度や活用に向けた取り組みの現状を調査した。

生成AIに対する認識
回答会員のほとんどが、生成AIは社会に革命的な変化をもたらすと考えている。

生成AI活用の課題
■ 品質の向上
  • 利用者は、既製のサービス提供者による品質向上の対応を待つか、組織内または信頼できるパートナーとの協力によって独自の仕組みを構築する必要がある。
  • サービス提供者は、費用対効果の判断が伴うだけでなく、思ったような結果が出せるかどうか、実現可能性の見極めが大きな課題となる。
■ セキュリティマネジメント
  • サイバー攻撃などのAIの悪用リスクと、自社や他社の機密情報や個人情報の漏洩リスクへの不安が大きく、適切な対策が必要
■ ガバナンスマネジメント
  • 生成AIの利用(生成)において、AI生成物が他者の著作権を侵害していないかといった法規制リスクへの対策および利用者への周知が必要

生成AI活用の現状と期待

 議事録を中心とした文章の作成や要約、翻訳、プログラム作成におけるコーディング支援、チャットボットによるサポート業務などにおいて、 業務時間の短縮やビジネススピードの向上などの成果が出始めている。現状では、競争力の強化や新規ビジネスや市場の立ち上げといった新たな価値の創出につながるテーマより、 業務やビジネスのスピードアップ、コスト削減といった業務効率化を狙ったテーマの取り組みや期待が多い。  以前のDXをテーマとした調査においても同様の傾向が見られたが、短期間に実現が可能で、高い確度で成果を得ることができる施策から優先的に取り組もうとする姿勢が現れている。


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