セッション2
富士通が取り組む攻めのモダナイゼーション

大切なのは
「経営を変える」という意識の共有
―富士通が取り組む攻めのモダナイゼーション


富士通株式会社
執行役員副社長 COO
島津 めぐみ

セッション2では、まず富士通株式会社 執行役員副社長 COOの島津めぐみが登壇。「失敗事例から学ぶモダナイゼーション成功の秘訣」と題した講演で、経営主導でモダナイゼーションに取り組むことの重要性を説明しました。続けて、立教大学 ビジネススクール教授の田中 道明氏が登壇し、「企業変革・DX・モダナイゼーション成功の要諦」と題して、従業員のマインドセットの変革することの大切さについて事例を交えて説明しました

2025年の崖が示す
モダナイゼーションの必要性

初めに島津が登壇し、富士通が自らの失敗事例から学んだモダナイゼーション成功のポイントを説明しました。

富士通が自社の失敗から学んだモダナイゼーションの成功の秘訣をお話しします。富士通のこれまでの取り組みを「失敗事例」としてお話をするのは、初めてのことです。

なぜ、モダナイゼーションが必要なのでしょうか。経済産業省は2018年のDXレポートの中で「2025年の崖」を提唱しました。日本企業のデジタル変革への舵取りがうまくいかずにDX推進が遅れると、2025年以降、日本全体で毎年12兆円もの経済損失を被ることになるとされました。これを回避するためには、DXやモダナイゼーションへの取り組みが重要となるのです。

それでは、現在のモダナイゼーションの状況はどうでしょうか。2022年に発行されたDXレポートでは、日本企業のIT投資の80%はまだ既存システムの保守・運用に向けられていて、システム刷新、つまりはモダナイゼーションには向けられていません。しかも、ITシステムを導入・活用するユーザー企業の7割がDXの必要性を感じながら、実際にDXを推進し、その効果を感じているという割合は1割程度に過ぎません。2022年時点ではモダナイゼーションもDXも、進んでいない状況でした。

さらに、スイスの国際経営開発研究所(IMD)が発表する世界デジタル競争力ランキングの2023年版レポートによると、日本は64カ国中で32位。しかも、毎年ランキングが下がり続けています。これが、日本の状況です。

「Road to 3X」のもと
お客様のDX・SX・GXを支援する

こうした状況の中での富士通の取り組みを振り返ります。富士通は、実はメインフレームやUNIXサーバーの出荷台数がピークを迎えていた1994年頃からすでにモダナイゼーションに着手していました。これまでにメインフレームの約9割、UNIXサーバーの約8割をオープン系のシステムやサーバーに置き換え、そして、2022年2月14日には、ついにメインフレームとUNIXサーバーの販売終息を発表しました。メインフレームは2030年に、UNIXサーバーは2029年に販売を終了し、その後5年間は保守対応となります。

富士通が販売終息に踏み切った背景には、世の中のDX推進をもっと強力に後押ししたいという想いがありました。「Road to 3X」というキーメッセージを掲げ、モダナイゼーションによってDXはもちろん、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)とGX(グリーン・トランスフォーメーション)を合わせた「3X」の推進を強力にご支援しようと現在も取り組みを進めています。

4000以上に膨れ上がったシステムを
スリム化する特命プロジェクト

ここからは富士通の失敗事例について説明します。富士通は1935年の創業以来、通信、メインフレーム、パソコン、携帯電話、ソフトウェア、データセンター、システムインテグレーションなど多種多様な事業を世界中の国々で展開してきました。その結果、事業が非常に複雑になり、部門・部署やユニットごとに個別最適化されたITシステムが4,000以上も導入・活用されるようになりました。全社的なIT戦略の長期ビジョンが確立されていなかったために、システムの全体像が膨れ上がり、運用・保守に費用も人手も必要でした。TCOも明確でなく、責任者(システムオーナー)不在のシステムが散財している状態となってしまったのです。

こうした中、先に説明したモダナイゼーションにも取り組み、さらに2000年代初頭には、この状況を打破すべく全社IT・経営変革の特命プロジェクトを立ち上げました。経営とITの一体化を掲げ、システムのアーキテクチャの統一という大きな目標を掲げて、当時の経営陣に巻き込みながら推進したのです。

ところが、CIOが交代したことを契機に特命プロジェクトは自然消滅し、その後、解散してしまいました。これが富士通の経験した失敗です。


熱心に語る島津

先にITがあるではなく
「経営を変える」ことがポイント

特命プロジェクトは、なぜ失敗したのでしょうか。当時のコーポレートのミッション「ITにより、業務プロセスを変え、会社のリズムを変え、事業モデルを変え、経営を変える」を読むと、失敗の本質が見えてきます。

「ITにより」と先に「ITありき」なのです。つまり、特命プロジェクトは経営ではなくIT主導で進められ、経営の意志が反映されずに継続性がなかったといえるでしょう。さらに、特命プロジェクトということで取り組みの目的が全社員に共有されていなかったことも要因と考えられます。全社レベルでのコミュニケーション不足がありました。
ITは確かに重要ですが、あくまでもツールです。やはり、最初にITがあるのではなく、まずは「経営を変える」、そして、経営を変えることで事業を変えて、全社のリズムを変えて、プロセスも変えて、そのためにITも変えていく、それが正しい姿だと考えました。そして今、富士通は再度、4,000以上のシステムを75%削減し、約1,000にまで縮小することに取り組んでいます。

さらに富士通では、2019年に代表取締役社長に就任した時田のもと、「パーパスドリブン経営」にシフトしました。今の富士通は事業・制度・企業文化のすべてがパーパスの実現に向いています。「One Fujitsu」という考えのもと、データドリブン経営の実現、オペレーショナルエクセレンスの追求、縦割りの企業文化を徹底的に打破することで、全社モダナイゼーションに再挑戦しています。

このOne Fujitsuの取り組みでは2021年から2028年にかけて、日本国内だけでなく海外拠点やグループ会社も含めグローバル共通のシステムにしていくことが示されました。CRMを統一化するOne CRMを2022年に、ERPを統一化するOne ERPを2024年10月に終え、すでにグローバルで共通システムが稼働開始しました。

富士通のモダナイゼーションへの取り組みは、まだまだ道半ばともいえますが、強い意志を持ってこれを完遂させます。大切なのは、先に「経営を変える」という気持ちを持つことです。この学びをファミリ会の皆様と共有したいと考えています。

企業を取り巻く競争環境の変化
商品ではなくエコシステムを巡る戦いに

島津の講演に続いては、立教大学の田中氏が登壇し、企業変革・DX・モダナイゼーションの成功の要諦を説明しました。


立教大学
ビジネススクール教授
田中 道昭氏

多くの企業は自社を取り巻く市場環境、競争環境の変化ついて考えなくてはなりません。現在、多くの企業は「新たな競争の脅威」に直面しています。ガラケー時代の携帯電話で世界シェアの約40%を獲得していたノキアは、iPhoneが登場した際に、「競合にはならない」と判断しました。しかし、その後、スマホシフトの波に乗り遅れたノキアは衰退していきます。そのとき、ノキアの経営層が従業員に送ったメールの内容が「競合他社はデバイスで私たちの市場シェアを奪っているのではありません。エコシステム全体で私たちの市場シェアを奪っているのです」というものでした。

この言葉に象徴されるように、現在は、さまざまな市場で商品を巡る戦いからプラットフォーム、さらにはエコシステムを巡る戦いが繰り広げられています。皆様の企業が属する市場でも競争の条件、競争の質が変わってきているのではないでしょうか。

Amazonのジェフ・ベゾス氏が
銀行をデジタル化するとしたら何をするか

それではノキアは、どのようにして復活を遂げたのでしょうか。ノキアの再生には「三種の神器」があったとされています。「パラノイア楽観主義」、「シナリオ・プランニング」、そして「起業家的リーダーシップ」です。このうち、最も重要なのが起業家的リーダーシップです。これは、社員一人ひとりが、あたかも起業家のようにリーダーシップを発揮するマインドを持つという意味です。
ノキアの復活の要諦は、「社員マインドセットを起業家マインドセットに変革したからだ」と言えると思います。

次ぎにシンガポールに本社を置く世界最強のデジタル銀行とされるDBS銀行についてお話しします。この銀行は、どのようにして、世界一のデジタル銀行になったのでしょうか。その理由は、DBS銀行の経営陣が「Amazonのジェフ・ベゾス氏が銀行をデジタル化するとしたら何をするだろうか」を徹底的に議論して、それを実践したからだとされています。
その視点にたって、企業変革やDX、モダナイゼーションを成功させたいと思うなら、自社のトップにジェフ・ベゾス氏が就任し、デジタル化に取り組むとしたらどのようなことをするかを考えてみてください。

具体的にDBS銀行がどのようなことを実践したのか。そのポイントは3つあるとされています。

●会社の芯までデジタルに
●自らをカスタマージャーニーへ組み入れる
●社員2万2000人のスタートアップに変革する

成功の秘訣は3つめの企業文化の刷新です。企業文化を「社員2万2000人をスタートアップ」に変革したのです。ノキアとDBS銀行の共通項は、従業員のマインドセットの変革です。ノキアは起業家的リーダーシップのマインドセットに、DBS銀行はスピード重視のスタートアップのマインドセットに変革したことが成功の要諦でした。


身振り手振りを交えて説明する田中氏

モダナイゼーションを
成功に導くポイントとは

もう一つ、マイクロソフトの事例をお話しします。マイクロソフトも現在のCEOでサティア・ナデラ氏が就任する以前は失われた10年と言われるほどに業績が低迷していました。どのようにして復活を遂げたのでしょうか。
やはり、企業文化の大改革があったのです。「従業員のマインドセットを固定マイドセットから成長マインドセットに刷新」したのです。

固定マインドセットとは「努力しても変わらない」というような固定的な考え方です。成長マインドセットとは「自分の能力は経験によって変わる」といった考え方です。成長マインドセットを持つ人の特長は「素直さ」があることです。素直な人は努力が報われことを信じ、努力もするので成長します。反対に素直さを失うと、残念ながら成長がストップしてしまいがちです。マイクロソフトは、社員のマインドセットを成長マインドセットに変革したから復活を遂げたのです。

3つの企業の事例を踏まえて、モダナイゼーション成功の要諦について考えてみます。モダナイゼーションにはトップダウンとボトムアップの取り組みが必要です。

ただし、最初は経営トップ主導で業務の変革と一体となって進めるトップダウンのリーダーシップが必要です。しかし、トップが声高に叫べばモダナイゼーションが成功するとは限りません。ボトムアップリーダーシップも必要です。スタートアップのように一人ひとりがスピーディなマインドセットにリセットしない限り成功しないのがモダナイゼーションです。

このように、モダナイゼーションの成功にはトップダウンとボトムアップの両方が必要です。企業がDXや変革、そしてモダナイゼーションを実現するために必要なことは何か。「起業家マインドセットに変革する」、「スタートアップのようなスピード感を持ったマインドセットに変える」、「成長マインドセットに変化する」、そして「トップダウンとボトムアップのアプローチをすること」。
これらが、モダナイゼーション成功の要諦なのです。


参加者の声:
富士通モダナイゼーションの取組みについて富士通COO 島津様と立教大学教授田中様のセッショは、初公開の富士通の失敗事例も踏まえた内容でした。
富士通で最初にDXを進めた時は、特命プロジェクト、戦略的視点無し、ITありきの改革だったため、社員もそんなプロジェクトを知らないまま自然消滅したそうです。そのため今回は、島津様がトップダウンで戦略を掲げて前回を省みて「One富士通」の取組みとしてのDXをひっぱられているとのことでした。田中教授からは、企業のDXを成功させるポイントは「企業文化の改革」。「社員のマインドセットを「固定」から「成長」に変えること」が必要で、DXを前向きに考えられる気持ちを育てることが重要だというお話がありました。


広報委員 FITEC株式会社 星さゆり
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