セッション1
「AIバディとともにSXを加速」
-AI革命で代わる世界!持続可能な未来に向けた先進技術の活用-

「打ち出の小槌」で「高嶺」を目指す
富士通のAI戦略


富士通株式会社
技術戦略本部 本部長
岡田 英人

セッション1では、富士通株式会社 技術戦略本部 本部長 岡田英人が、「AI革命で代わる世界!持続可能な未来に向けた先進技術の活用」と題して、富士通AIの技術戦略とKozuchiやTakaneなどのAIソリューションについて説明しました。

富士通が描く
未来の人とAIの関係

2025年に創業90周年を迎える富士通は、今、その方向を大きく変えようとしています。パーパスを含めた「Fujitsu Way」を作り直し、ビジョンとして、「デジタルサービスによってネットポジティブを実現するテクノロジーカンパニーになる」ことを、共通の合言葉にしています。

具体的な方向性としては、軸足を従来型のITサービスからコンサルティング、モダナイゼーション、Uvanceという3つの成長ドライバーに移します。これらを支える5つのテクノロジーであるコンピューティング、ネットワーク、AI、データ&セキュリティ、コンバージングの中心にAIを据えて、「AIとコンピューティング」や「AIとネットワーク」といった組み合わせで提供していきます。


富士通の新しいテクノロジー戦略では、AIがテクノロジーの中核に据えている

AI技術の2030年までの展望について調査・分析すると、生成AI/LLMの課題克服やその魅力を最大限に引き出すための試みに加えて、「人とAI」や「AIとAI」のインタラクティブなコミュニケーションが重要になってくると考えられます。この調査結果を元にAIのフォーカスポイントを絞り込んだ結果、今後の注目領域として「自律化」や「AIエージェント」に注力しているところです。

最先端AIテクノロジー
「Fujitsu Kozuchi」の挑戦

富士通は2023年4月にAIエージェント「Kozuchi」を発表しました。「打ち出の小槌」にフィーチャーされたネーミングには、「あなたの願いを全て叶えます」というコンセプトが込められています。

富士通はこれまで、お客様からのRFP(提案依頼書)を忠実に作り上げる、受託開発型の仕事をしてきました。これをKozuchiでやると、入力されたRFPの要件を細分化して正しく解釈し、富士通のこれまでの実績・成果と照合し、瞬時に提案書やシステムのプロトタイプを自動生成してくれます。お客様は、自らのRFPが正しいのか直ちに検証できるようになり、富士通が不要になるかもしれません。それでも、こういう世界観を目指していきたいと考えています。


KozuchiはRFPを解釈して提案書とプロトタイプを自動作成する
Kozuchiの機能は大きく3つに分類できます。まず、映像を人の目以上に詳しく解析して正しく理解する「Vision AI」。次に、人のように予測を行える「Data Analytics」。そして、人のように判断して、法律違反やルール違反を防ぐ「Generative AI」と「AI Trust」です。

提供形態は、バーティカルなアプリケーションにAIを搭載してお届けする「Fujitsu Uvanceオファリング」、技術自体を使いたいお客様にKozuchiのパーツをそのまま提供する「Fujitsu Data Intelligence PaaS」、富士通の外でKozuchi技術をビジネス化するための、スタートアップを中心とした「パートナー様ソリューション」の3種類を用意しています。また、研究所の先端技術などを無償でお試しいただける「Fujitsu Research Portal」を用意しています。

Kozuchiを2023年に発表してから1年間の成果をまとめると、まず、これまでバラバラだったAI研究のテーマを1カ所に集められました。次に、お客様に商用化前の技術を1000件以上紹介し、高い関心を得られた技術、ライバルに負けている技術を識別できたほか、技術と技術の組み合わせが重要であることも再認識できました。さらに、「富士通もAIを持っている」という認知度の向上、スタートアップとの協業なども成果といえるでしょう。

エンタープライズ向け
大規模言語モデル「Takane」

一方で、これでは全然十分ではないということにも、お客様との話し合いの中で気づかされました。AIについてお客様からは、「社内データが膨大かつ多様な構造で扱えない」、「企業独自のルールに特化したモデルを迅速に生成できない」、「社外秘情報の取り扱いや法令/ガイドラインの遵守が心配」といった意見をいただいています。そこで私たちは、Kozuchiに続く第2弾の取り組みとして、エンタープライズ向けに生成AIフレームワークを提供することにしました。

この製品は3つの技術で構成されています。1つめは「ナレッジグラフ拡張RAG」です。社内データの検索や従業員からの問い合わせの自動化にRAGを使うケースは多くありますが、RAGは取り扱えるデータが少ないこと、検索結果が大量で必要な情報を探しにくいといった指摘もあります。そこで、文書同士の関係性の精度を高めるナレッジグラフ技術を使って1000万文字以上の大量データに対応することで検索/応答結果を大きく向上させました。

2つめは「生成AI混合」です。市場にはすでに多くの業務特化型AIが登場していますが、検索要求に最適なLLMを選び、適当なものがなければ自動でモデルを作るなど、企業ニーズに柔軟に対応できる技術が必要と考えて作りました。3つめは「生成AIトラスト」です。富士通はAI倫理を長く研究してきましたが、AIを実装していくときは倫理面のみならず品質やセキュリティの問題も解決する必要があります。そこでAI全体のガバナンスを効かせて、利用時の不安を払拭するための技術です。


3つの技術でAIの活用領域を広げるエンタープライズ生成AIフレームワーク
さて、このようにAI領域で先進的な研究開発を続ける富士通ですが、じつは私たちにはLLM研究の実績はありません。カナダのスタートアップであるコヒア社へ投資し、同社が持つエンタープライズに特化されたLLMをファインチューンして利用しています。これが、エンタープライズ向け大規模言語モデル「Takane」です

Takaneについてお客様に説明するときは、最初に汎用LLMやRAGに物足りなさを感じていないか尋ねます。それで、「こういうユースケースでの結果がイマイチ」とか「嘘を回答された」、「存在するデータを存在しないと返された」などの回答を確認した上で、それならTakaneを使ってみてその良さを確かめてください、と提案しています。

コヒア社との協業によるTakaneは2024年9月30日にリリースされました。主な特長として、日本語の理解力を測るベンチマークで日本語精度が1位であること、高度なカスタマイズが容易であること、クラウドでしか使えない汎用LLMと異なりプライベートクラウドやオンプレミスなどセキュアな環境へも導入できることなどが挙げられます。

また、Takaneはエンタープライズ向けに、先述した「エンタープライズ生成AIフレームワーク」の「ナレッジグラフ拡張RAG」「生成AI混合」「生成AIトラスト」という3機能を掛け合わせて提供していることも特徴です。

皆様との協業により、
AIで0から1を創っていきたい

AIはどういうところにチャンスがあり、どういうことができるのか。あくまで私見ですが、縦軸に富士通が大切にしている「地球環境問題の解決」「経済の発展」「ウェルビーイングの向上」という3つの価値観を、横軸に「今ある業務の効率化」「今はない新たな価値の創造」を取って、考えられるユースケースをマッピングしてみました。ここで私は、再生可能エネルギーの発電最適化や、診断・カルテ作成支援などと共に「スポーツの採点・監督」を挙げています。監督の仕事の中でも作戦立案や選手交代などはもうAIで行えるのではないか、ということです。

他にも、従来シミュレーションで数カ月かかっていた「マテリアル・インフォマティクス」の製品開発をAIで短縮することなども挙げてみました。皆様が「そこは関心ある」とか「今やっている」ことがあれば、ぜひお声がけください。


富士通技術戦略本部本部長の岡田が考えるAIのユースケース
先だってオープンイノベーションの第一人者、ヘンリー・チェスブロウと対談した際、「AI市場で勝者となるにはどうすればいいか」という質問をして、3つのポイントを指摘されました。第1に、他者に先駆けて大予算で初期投資すること。先行者がシェアを握る市場で利益を出すのは厳しいので、未踏の地で真っ先に大きく投資して一気に成果を出すべきだという考えです。第2に、ユースケースを確立すること。それも自社だけで作るのではなく、お客様と協力して、高付加価値で他者が追随できないような特定用途にAIを投入して商品やサービスを創れとのことでした。そして第3に、エコシステムを形成すること。自社だけでバーティカルなアプリケーションを作るのではなく、サードパーティが得意な分野で周囲を補完する製品やサービスを作ってもらい、エコシステム化して共同で新しい世界を創れということです。このチェスブロウの回答こそ、皆様と大いに共有したいことです。

本セミナーの目的は完成品の紹介ではなく、今までできなかったことをできるようにするパートナー探しです。皆様が、「やりたいけれども技術が足りない」テーマをお持ちなら教えてください。その問題をAIで解決し、一緒にビジネス化して社会を変革していきましょう。

アメリカではイノベーションの主役はスタートアップですが、日本ではイノベーションの主役は大企業が担うべきです。長く続いた大企業は、改善のスピードが速く、変革し、生き残るための術もあるからです。富士通は、日本を代表する大企業の皆様と一緒にイノベーションをリードしていきます。アメリカから何かを持ってきて改善する「2番手」ではなく、アメリカにないものを日本発で創る、言い換えると「0から1を創る」こと、これにともに取り組むことを最後にご提案させていただきます。

参加者の声:
富士通が培ってきた技術をどのように社会に活かすかについて、講演いただきました。 講演内容では「人とAIは能力を高め合うパートナーになる」という話が印象的でした。人とAIの会話だけでなく、人と人の会話の内容をAIが聞き、必要な資料やデータをAIが自ら考えて提示するという夢のような世界がすぐそこまで来ていることが実感できました。 また、日本でディスラプションが少ない理由としてだと感じました。 AIの技術戦略という一見難しそうな内容でしたが、平易な言葉を使って身近な事例で講演いただいたのでとても分かりやすかったです。


広報委員 株式会社エムエムインターナショナル 山宿信也
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