パネルディスカッション
サステナビリティ・トランスフォーメーションに関する喫緊の課題にフォーカス
~SX×地域課題×AI~
ICTを活用した課題解決のためのアプローチや課題について議論

業界・企業の枠を超えた連携で
社会課題解決と経済成長の両立に挑む


パネルディスカッションの様子

パネルディスカッションでは、日本たばこ産業取締役会長で経済同友会筆頭副代表幹事の岩井 睦雄氏、みずほフィナンシャルグループ執行役兼グループCSuOの牛窪 恭彦氏、経済産業省GXグループ参事官環境経済室長の若林 伸佳氏をパネリストに迎え、サステナビリティ・トランスフォーメーションの実現に向けてどのような取り組みが求められているかをテーマに活発な議論が交わされました。モデレータは、富士通株式会社 EVP CDXO・CIOの福田 譲とCEO室長の西 恵一郎が務めました。その模様を紹介します。

2050年には現在の1.5倍の電力消費量に

まず、経済成長にともないエネルギー消費や環境負荷が増大する中、重要性が高まっている取り組みについて意見交換が行われました。
西:「経済成長とエネルギー消費の現状、そして課題について、どのようにお考えでしょうか



モデレータを務めた富士通CEO室長 西 恵一郎

若林氏:「各国が気候変動対策だけでなく、経済成長と産業競争力の強化を同時に進めています。GXとDXを同時に進展させている状況です。今後はさらに電力消費の大きなAIの活用が進み、各国ともにデータセンターの電力需要をどう賄うかが課題になります。日本の電力需要は、年間約1兆kWhですが、2050年にはデータセンターだけで新たに5000億kWhの電力が必要になるとされています。つまり、現在の1.5倍の電力需要をどう賄うのか、脱炭素電源を集中投下していく必要があります」。



経済産業省 GXグループ 参事官 環境経済室長 若林 伸佳氏

西:「経済成長にともない電力消費が増大していきます。エネルギー消費の抑制やエネルギーの転換などが求められる中、トランジション・ファイナンスの重要性もますます高まると考えられます」

牛窪氏:「トランジション・ファイナンスは、経済を転換していく原動力になります。個々の企業においては、自社の電力消費が将来的にどのように減少していくのかというストーリーを、どのように投資家や環境団体のNGOの方々などに示し、理解してもらえるかがポイントになります」。



みずほフィナンシャルグループ 執行役兼グループCsuO 牛窪 恭彦氏

岩井氏:「多くの企業にとっては、サステナビリティと経済成長の両立、経済的価値と社会的価値の両立をきちんと考えることが大切です。そして、企業の中長期的な取り組みが社会的にどのようなインパクトを与えるかを測定して投資評価につなげていくことが重要になると感じています」



日本たばこ産業 取締役会長/経済同友会 筆頭副代表幹事 岩井 睦雄氏

企業や業界の枠を超え
地域課題も視野に入れた取り組みが不可欠

続いては、企業や業界、地域の枠組みを超えて経済成長とサステナビリティをどう両立していくか、その重要性について意見が交わされました。

福田:「富士通が、さまざまなかたちでサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)への取り組みを進めるにあたって感じていることは、今、多くの企業が直面している課題は自社が属する業界だけでも、もちろん自社だけでも解決できないということです。エコシステムやコミュニティの形成が不可欠です。場合によっては国も超えて、グローバルでルールを可視化し、標準化して取り組まなくてはなりません。例えば、脱炭素の取り組みでは、サプライチェーンに参画する個社がそれぞれ自社の排出量データを提供し、それらを活用するような枠組みが必要です。富士通はサプライチェーン全体のCO2排出量を可視化できるプラットフォームを作ります。そこで貢献したいと考えています」



モデレータを務めた富士通EVP CDXO・CIO 福田 譲

若林氏:「さまざまな課題が業界や企業だけで解決できない状況にあるのは、まさにその通りで、同時に地域課題も考えなくてはならないと感じています。地域の経済成長とサステナビリティをどう両立するのか。例えば、企業は脱炭素電源を得られる地域にデータセンターなどの立地を考えています。北海道にRapidusが来るのも、再エネ電源を活用できるからです。地域の経済成長とサステナビリティの両立の視点では、脱炭素電源がある地域にしっかりと産業を根付かせていくことが大切になると考えています」

岩井氏:「グローバルな視点では、歴史や地域、先人の知恵、自然との共生などを取り戻していかないといけないと考えています。葉タバコ農園があるアフリカのマラウィに実際に行くと、自分たちの産業を大切に考えて取り組んでいる方々に多く出会います。今の時代だからこそ、ITやDXによって世界中の遠隔地とも連携ができます。他の国々や地域と連携して、エコシステムを作っていくことができるのは、まさにテクノロジーの力です。可能性が広がると考えています」
牛窪氏:「日本全体で脱炭素を実現しようとすると、電力、鉄鋼、石油精製で70%から80%を削減できる計算になります。ただ、それらの業界だけで取り組みを終わらせるのではなく、国を挙げて取り組むことが必須です。そのためには地域の取り組みが極めて大切です。最近では、循環経済を地域で創り出そうといった動きもあるようです。分散電源を地域で活用する、資源リサイクルなどで町や市を超えて広域連携するといった取り組みあり、さらに規模が大きくなっていくと思います。こうしたことを金融面のみならず、アイデアなどの面でも支援できればと考えています」


業界・企業の枠を超えた連携で
社会課題解決と経済成長の両立に挑む

企業や業種・業界の枠を超えた連携や共創を実現するために必要となる取り組みについても意見が交わされました。

西:「富士通もUvanceのもと、サプライチェーンのCO2排出量可視化のプラットフォーム構築をはじめ、MONAKAという消費電力の少ないデータセンター用のプロセッサーを開発していくなど技術的なチャレンジにも取り組んでいます」

福田:「環境問題も循環経済も可視化と連携が大切です。その連携を実現するにはITが大きな役割を果たします。先だって、ファミリ会の方にも大勢ご参加いただいて、約70社、200名弱のITエンジニアを集めたハッカソンを開催しました。テーマは、生成AIを使って『10年後のNIPPONをデザインしよう』というものです。このハッカソンを通じて、多くの参加者の方々に『どうやって企業や業種の枠を超えて共創すればいいのか』を体験していただきました。富士通は今後も、こうした共創の機会をファミリ会の力をかけ合わせて提供していきます。そして、富士通として『新しい形でのインテグレーター』としての価値を発揮していきたいと考えています」

若林氏:「今後、サプライチェーン全体の脱炭素化は重要なテーマになります。富士通が取り組むサプライチェーン全体のCO2排出量を可視化するプラットフォームの構築、その見える化基盤に多くの企業が参画し、CO2排出量をより簡易に測定できるようにすることは大きなチャレンジです。非常に時機を得た取り組みであると同時に、やはり連携や共創といった繋がりの重要性がますます高まっていくと考えています」

牛窪氏:「脱炭素への取り組みでは、異なる産業間での連携が極めて大事だと思います。一方で同業種・業界の中でも『一緒にできること』は多いのではないでしょうか。CO2排出量などのデータを集めて標準化して見える化までは協調領域として一緒に実践し、そこから先のデータを新しいビジネスに活かす取り組みは競争領域とする。業種・業界の垣根を越えた連携・共創を考えると同時に、同業他社の中で協調領域と競争領域を切り分けることが大切になってくると考えています」

岩井氏:「地球規模の社会課題が山積し、テクノロジーはますます進展していく、そうした中では企業の枠組み自体がなくなっていく時代にあると感じています。その中で未来を見た時に、自分たちは何者で何をやるべきなのかということを、他の企業や他者との連携の中から見い出していくことが大切だと思います」

最後は、西の「我々は大きな課題にチャレンジしています。その課題解決に向けて、今後も業種・業界・企業の枠を超えてディスカッションしてきたいと考えています」という言葉でパネルディスカッションは幕を閉じました。

前回号(414号)
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