基調講演②「サステナビリティの取り組みについて」

サステナビリティ・トランスフォーメーションの実現に向け
金融機関が果たすべき役割とは
-基調講演「サステナビリティの取り組みについて」


株式会社みずほフィナンシャルグループ
執行役 兼 グループCSuO
牛窪 恭彦氏

基調講演の企業経営者講演には、株式会社みずほフィナンシャルグループ 執行役 兼 グループCSuOの牛窪恭彦氏が登壇。「サステナビリティの取り組みについて」と題して、金融機関の視点で考えるサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)について紹介しました。

電力の7割を火力に頼る日本の課題とは

金融は、さまざまな業種とお付き合いがある仕事です。全国に支店を持っているみずほフィナンシャルグループ(以下、みずほ)は、金融の立場からサステナビリティトランスフォーメーション(SX)をどのように見ているのか、多くの企業とどのように取り組んで行きたいと考えているのかについてお話しします。

社会課題は複雑性を増しています。気候変動対策を踏まえた「脱炭素」、生物多様性を含む「自然資本」、「循環経済」、これらを一体で捉えていくことが大事であると考えています。


脱炭素・自然資本・循環経済を一体として捉える

気候変動対策と脱炭素の取り組みは、特に日本の産業全体にとってハードルの高い問題です。日本は電力の約7割を化石燃料に依存しています。私も金融機関のサステナビリティ担当として、NGOや欧州の機関投資家とお会いすると、この問題を必ずといって良いほど指摘されます。


欧州に比べ化石燃料の依存度が高い日本

さらに、日本国内では今後、AIの普及に伴ってデータセンターの整備が必要となり、電力消費がさらに増大することが予測されています。このような状況を冷静に踏まえた上で、日本が依存している約7割の化石燃料をどのように変えていくかが問われています。

日本の脱炭素戦略:3つの柱と企業への要請

日本では経済産業省 資源エネルギー庁を中心に第7次エネルギー基本計画の議論がされようとしています。日本のエネルギー政策や脱炭素をどのように進めていくか、非常に難しいテーマですが、これを単純化すると三つの言葉で示すことができます。

一つめは「省エネ」です。日本は国際的に省エネが進んでいます。二つめは「エネルギー転換」です。脱炭素のために電力に切り替えると同時に、その電力を再生可能エネルギーで賄おうという取り組みです。三つめが排出されたGHG(温室効果ガス)を回収・相殺する「回収・オフセット」です。これら三つを組み合わせて、エネルギー転換を中心にバランスを取りながら進めていく、これがまさに日本の脱炭素戦略であると私は考えています。



脱炭素化と経済成長を両立させる三つの施策

こうした施策を実践していく中で重要となるのが、再生可能エネルギーへの取り組みです。再生可能エネルギーは非常にボラティリティ(価格変動性)が高いので蓄電池の整備が必要です。エネルギー源の切り札として燃やしてもCO2が出ない水素を活用した水素社会をどのようにして実現するかについては、国を上げて着手し始めています。さらに排出したCO2をどのようにリサイクルするかも重要なポイントです。

再生可能エネルギー・水素・カーボンリサイクルへの注力がポイント

ここまで国家レベルの話をしてきましたが、一方で個々の企業でも脱炭素に向けた取り組みが求められています。各企業の取り組みには、個社が自社努力でGHGを削減できるスコープ1・スコープ2の取り組みに加え、自社だけでなくサプライチェーン全体でGHGを削減するスコープ3があります。富士通を中心としたテクノロジーを持っているIT企業の力でサプライチェーン全体のGHGを計測・見える化し、戦略を立てて減らしていく取り組みがすでに進められています。

Scope3まで見据えた脱炭素戦略が必要

脱炭素に向けた事業構造転換を支援する
トランジションファイナンス


気候変動対策、脱炭素への取り組みは非常に難しく時間もかかります。不確実性やリスクも少なくありません。それでも、国が一貫して進めていくことを示しています。こうした中で民間企業の取り組みをより加速させるには、中長期目線の設定が重要になります。国は、2030年のGHG排出量を「2013年比でマイナス46%」にするという目標を掲げています。民間企業は、それが実現されたときに「自分の会社はこうありたい」という姿を描き、そこからバックキャスティングをして、今後3年間で実現すべきことを整理していくことが極めて大事だと考えています。


中長期的な目線で「今何をすべきか」を考える

もうひとつ。企業が事業構造の転換、トランスフォーメーションを目指す中で、これまで私たち金融機関はお客様の設備投資をご支援する際、投資の結果として収益性がどうなるかといった判断をしてきました。しかし、今後は収益性と合わせて、「サステナビリティ軸」が重要になります。脱炭素という視点に立てば、収益を上げていてもCO2を大量に排出している事業であれば、金融機関としても両手を挙げて「ぜひ投資を実行しましょう」とは言えないのです。むしろ、サステナビリティを実現するための施策を一緒に考えることが金融機関に求められるようになります。


事業ポートフォリオに金融機関はどのように対応するべきか

縦軸をサステナビリティ軸、横軸を収益性軸で区切った四象限で考えると、難しいのは右上と左下にある「収益性は高いけど、CO2排出も多い」事業と「収益性は低いけど、環境に優しい」事業です。金融機関としてどのように支援するか、その観点で大きなカギとなるのがトランジションファイナンスです。

私たち金融機関のGHG排出量の99%以上は、投資先であるお客様の排出量が占めています。お客様のCO2削減を実現することは、金融機関自身のCO2削減にもつながります。
お客様の事業転換を進める上で、最近、注目されているのがトランジションファイナンスの概念です。これは、ある程度の時間軸の中で、しっかりと脱炭素を実現するための事業構造転換を支援する金融施策です。事業構造転換の過程で一時的にCO2の排出が増えるかもしれないけれども、一定の時間軸の中ではしっかりと減らしていく、そうしたお客様の戦略を金融機関として共有し、共にこの大きな課題に挑んでいきたいと考えています。

「産・学・金・政」がスクラムを組み
地球規模の課題解決に挑む


一方でこの問題は簡単でないことも事実です。新しい技術、イノベーションが求められます。技術革新、イノベーションにはリスク、不確実性が多いので、金融の立場からすると、融資やローンの形で支援しにくい部分があります。みずほとしては、エクイティ出資と呼ばれる出資の観点でお客様のイノベーションを支援しています。
また、みずほでは、IT部門との連携ということで、富士通・IHIと共同で国が管理しているカーボンクレジットの取引を効率化する「J-クレジット」というシステムを作っています。このテーマは非常に難しく、時間もかかるので、私たち金融だけで達成できるものではありません。IT産業の果たすべき役割が非常に大きいと考えています。


カーボンクレジット取引を効率化する「J-クレジット

地球規模の課題に取り組むためには、「産・学・金・政」がしっかりとスクラムを組んで取り組むことが大切です。


脱炭素問題にもみずほのパーパス「ともに挑む。ともに実る。」を

みずほでは「ともに挑む。ともに実る。」というパーパスを掲げています。脱炭素や気候変動といった問題に対しても「ともに挑む。ともに実る。」を実現することが大事だと考えています。全国さまざまな産業のお客様とのお付き合いのある私たち金融機関が、お客様同士をつなぎ「1+1」を3にも4にもしていくことで、社会課題の解決とお客様の企業価値向上、私たちの成長にもつなげていきたいと考えて取り組んでいます。
前回号(414号)
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