基調講演①「JTグループのサステナビリティ戦略について」
社会貢献のインパクトをどう評価するか
JTグループの実践から見えてきた
サステナビリティ戦略成功の道筋

日本たばこ産業株式会社 取締役会長
経済同友会 筆頭副代表幹事
岩井 睦雄氏
基調講演の企業経営者講演に登壇した日本たばこ産業株式会社 取締役会長で経済同友会筆頭副代表幹事の岩井 睦雄氏は「JTグループのサステナビリティ戦略」と題して、JTグループのサステナビリティ領域での3つの取組事例と見えてきた課題について説明しました。
マテリアリティに基づく
25項目のサステナビリティターゲットを策定
たばこの根源的な価値とは「生活になくてはならないもの」ではなく、「なくても良いが、人間にとって何か必要なもの」です。この考えに基づき、JTでは物質的な価値ではなく、「心をほっと一息させること」や「心を豊かにさせること」を、商品を通じて提供してきました。そして、この考えをさらに深掘りして2022年にパーパスとして「心の豊かさを、もっと。」を掲げました。

JTグループのパーパス
AIの進化とともに人間疎外が進んでいく中、心の豊かさがもっと大切になってくるのではないか、その時にシガレットだけではなく、色々な事業で心の豊かさを提供していきたいと考えました。
そして、パーパスを実現していくための重要なテーマを「自然との共生」、「お客様の期待を超える価値創造」、「人材への投資と成長機会の提供」、「責任あるサプライチェーンマネジメント」、「良質なガバナンス」に定め、5つのマテリアリティ(重要課題)として整理しました。さらに5つのマテリアリティを実現するために、それぞれの重要課題に基づく25項目のサステナビリティターゲットを策定しました。

マテリアリティに基づく25項目のサステナビリティターゲット
現在、JTでは2050年までのカーボンニュートラルの実現を宣言し、そこからバックキャストして、2030年までに50%を再生可能エネルギーで賄うようにする目標を立てるなど、具体的な計画・道筋をつけて、自分たちでモニタリングして実践しています。
サステナビリティの観点で
JTが実践している3つの取り組み事例
サステナビリティの観点でJTが取り組んでいる具体的な3つの事例をご紹介します。ひとつは、たばこの最も重要な原料である葉たばこに関するグローバルでの取り組みです。
葉たばこはアフリカ諸国で重要な作物です。JTとしても品質や価格が安定したものを調達していくことが大切です。一方で、アフリカ諸国の葉たばこ農家は非常に貧しく、子どもを学校に行かせるよりは働かせようと児童労働の問題が指摘されています。JTでは、こうした問題をなくしていくための活動に注力しています。

アフリカ諸国の葉たばこ農家における児童労働問題への取り組み
例えば、ARISEという活動では、国際労働機関(ILO:International Labour Organization)やアメリカの大学と一緒に、子どもがきちんと学校に通えるようにする児童労働撲滅プログラムを実践しています。さらに、JTではコミュニティにおいて衛生的で健康的な生活が送れるように、効率的で農薬をあまり使わない葉たばこの作り方を指導しています。コミュニティが豊かになれば、子どもの教育もしっかりとできるようになることを信じ。その活動を10年以上にわたってマラウィやザンビアなどで実践してきました。
2つめの事例は国内での取り組みです。紙巻きたばこを製造するには、どうしても紙が必要不可欠です。たばこそのものだけではなく、パッケージにも紙を使います。紙の原材料はこのように木材です。自分たちが商品に使用している木材という資源を、どのように再生していくかを考えることも当社にとって重要なサステナビリティへの取り組みです。そこで、全国に9カ所の「JTの森」を作り、山林を守る活動に取り組んでいます。

国内には「JTの森」が9カ所ある
北海道では積丹町と一緒になって、森林の保全協定を締結して、植林やメンテナンスをしています。単純にお金を出すだけではなくて、社員または関係者が年に何回か下草を刈りに出向き、自分たち自身もその活動に参加することで共感を持ち、大切さを肌で感じることが大切だと思っています。毎回100名くらいの従業員が参加し、現地の方から指導をいただきながら作業するというコミュニティ活動にもなっています。

ピースウィンズ・ジャパンとJTとの取り組み
3つめは、特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパンとの協業による取り組みです。ピースウィンズ・ジャパンの活動は、おもに国際人道支援や災害緊急支援が中心ですが、最近では野良犬の殺処分ゼロを目指す取り組みなど活動の幅を広げています。
JTでは、JTグループのコミュニティインベストメント基本方針の中で、「格差是正」、「災害分野」、「環境保全」の3つを重点領域とし、グローバルな社会課題および地域特有の課題を踏まえたプログラムを国内外のさまざまな団体とのパートナーシップを通じて実践しています。
ピースウィンズ・ジャパンでは、能登半島地震が発生した2024年1月1日の夜にはヘリコプターを飛ばして現地に入り、どこで何が足りないのか調査しました。国や行政より早く現地に入る、そんな機動性のある団体です。それができるのは、普段から災害があったらどう活動していくべきか訓練をされているからです。我々も有事の時に何かをやるのではなくて、平時の彼らの訓練を支援させていただいています。
従業員の内発的動機の醸成
社会貢献のインパクトという成果の「見える化」が課題
JTのサステナビリティに関する取り組みについて説明しましたが、こうした取り組みを実践していく中で見えてきた課題もあります。

JTの現状の課題
まずは従業員の内発的動機の醸成です。一連の取り組みはJTのサステナビリティ本部が中心となって寄付を募ったり、活動に参加する従業員を集めたりしていますが、なかなか従業員が内発的にJTの森に出向いて作業をしようという状況にはならないのが実情です。
そこで、従業員にいかに内発的に取り組んでもらうか。現場に行き、普段とは違う人たちと接することによって自分本来の仕事の中にも創造性が生まれてくるでしょう。従業員がいかに内発的にサステナビリティの活動と自分の仕事を結び付けられるか、内発的動機の醸成が課題であると感じています。
2つめは、サステナビリティに関わる取り組みはいずれも息の長いものが多く、短期的・直接的・財務的なリターンを得るのが難しいことも課題です。財務的にはマイナスになっているかもしれないが、中長期的に社会にはこれだけの貢献をしているというインパクトを、企業の収益性とは異なる軸でどう評価するか、企業自体がしっかりと認識・理解し、把握しておくことが大切です。企業として市場と対話する際にも、長中期的な社会貢献という側面が正当に評価されるようなスタンダードができてくると良いと思っています。
JTでは現在、「成果の見える化」に向けて試行錯誤をしながら取り組んでいます。収益は上げていなくても社会にこれだけ貢献しているというインパクトの測定方法については、他方面からのご協力を仰ぎたいと考えています。今後、色々な企業の方々と対話をしながら、作り上げていきたいと考えています。
