セッション6
「物流の2024年問題」や気候変動への対応

共同輸配送プラットフォームで実現する
持続可能なロジスティクス


Sustainable Shared Transport株式会社
代表取締役社長
高野 茂幸氏

セッション6では、Sustainable Shared Transport株式会社(以下、SST) 代表取締役社長 高野 茂幸 氏が「持続可能なサプライチェーンを支援する共同輸配送プラットフォームについて」と題してBtoBの分野でも取り組みが進められている共同輸配送について講演。続いて、富士通株式会社 EVP 古濱 淑子と企業や業界の垣根を超えた物流をテーマに対談しました。

物流関連法の改正、2024年問題、環境対策
物流業界を取り巻く現在の状況は

初めに高野氏が登壇し、物流業界を取り巻く現在の状況と共同輸配送の取り組みについて説明しました。

これから、物流に関連する3つ法律が変わります。そのうちの一つ「改正物効法」は、荷主となり得る全ての企業とその商流に規制が課せられる改正です。


2025年度、2026年度に改正が予定されている物流に関する3つの法律

物効法の改正、その中で示されたCLO(チーフロジスティクスオフィサー)の役割、物流2024年問題、そして環境問題という現在の物流業界を取り巻く諸問題を俯瞰して、各企業がどのような状況に置かれているのかを説明します。
改正物効法は、2024年の5月公布されました。具体的にどのようなことが新たに課せられるのかはこれから決まってきます。現在、国土交通省だけではなく、経済産業省、農林水産省も参画して法律の中身を詰めています。


2027年度までの改正物効法に関するスケジュール

2025年度から努力義務が課せられ、2026年度からはCLOの選任、中期計画の提出、定期報告の義務が課せられる予定です。CLOの選任、荷待ち時間を最大2時間以内にすることなどが、わかりやすい義務として課せられます。CLOには、物流効率化の計画を策定して提出すること、ドライバーの負担等を軽減する方針と具体的な管理体制を整備することが求められます。ドライバーの運送荷役等の効率化のために必要な業務の実施、荷待ち時間を2時間以内にするよう荷主企業と交渉することも求められます。


CLOが果たすべき業務内容

物流2024年問題は、ドライバーの年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されることによって発生する諸問題の総称です。超過勤務の上限は設定されることで、どのような影響があるのでしょうか。これまでなら東京・大阪間の約500キロの距離を1人で担当し、行って1日休んで夜に帰ってくるという非常にハードな仕事をこなすドライバーがたくさんいました。これが、年間の労働時間から逆算すると、簡単にはできなくなります。平日の年間労働日数で同様に続けてしまうと超過勤務時間の上限を超えてしまうのです。結果的に東京・大阪間を1人のドライバーで担当することが難しくなりました。ドライバーを交代し、短い労働時間としなくてはならないのです。物流は40~50%以上が人件費なので、これまで1人で担当していた仕事を2人にするとコストが1.5倍以上になります。荷主様にとっても現実的ではありません。どうするか。それが、SSTが取り組んでいる「共同輸配送」です。

共同輸配送を実現することで
約40%のCO2排出削減を実現

物流セクターの環境問題も大切です。産業全体で言うと、物流業界のCO2排出量は20%程度ですが、物流工程で発生するCO2は非常に減らしにくいのです。他の産業に比べ減らし方が難しく、技術的にも遅れているのが実態です。

物流のCO2排出量削減で効果的なのは、モーダルシフトです。例えば、トラックをやめて鉄道にすることが非常にシンプルです。鉄道にすることで、単純に距離あたりのCO2排出量は85%も低減できます。しかし、残念ながらJR貨物の線路にはそれほど余裕がありません。民間と同じ線路を使っていますので、そんなにプラスで運べないのです。
そこで、共同輸配送です。例えば、何台かチャーターでトラックを用意し、最後の1台には3パレットしか荷物がない場合、3パレット以外を共同輸配送とするだけでCO2排出量は約8割も減らせます。国土交通省も40%以上の積載率を7割ぐらいまで改善できたら、それだけでも4割以上もCO2排出量を低減できるとしています。


パレットによる混載配送をすれば、トラック1台分の荷物あたり約40%のCO2排出削減を実現

SSTが取り組むのは、商業貨物における共同輸配送を1つの選択肢として利用していただけるようにすることです。これまでは、荷主企業から配達先までを中小事業者が2トンや4トンのトラックで運んでいました。それを繰り返すと積載効率も悪くなります。積み合わせができる新幹線の駅のような幹線発着拠点を作り、拠点間はダブル連結トラックなど太く走らせるのが得意な事業者に定時にしかも荷物を「座席予約制」で運んでもらいます。拠点までの域内配送で小さく細かく早く集荷・配送する業務は地方の中小事業者に願いし、棲み分けを行うことで効率的な物流を実践します。それを支えるのが富士通のデジタルプラットフォームです。共通のオープンなプラットフォームで、データ形式は物流情報標準ガイドラインを使います。そして、隣の荷主の荷物データが見えないように、アクセス権限のコントロールも徹底します。

これまで物流と商流のデータ連携ができてないところが問題でしたので、物流と商流のデータがリアルタイムで繋がり、商流で受発注したデータがそのまま物流の納品のデータも一気通貫に繋がると、納品された荷物に対して検品の必要がなくなり、グロスな検品で大丈夫になります。


SSTが目指しているリアル×デジタルのオープンプラットフォーム

SSTでは今、毎日トラック16台ぐらい走らせ、実際にパレットの荷物をお預かりし、実サービスとしてスタートさせています。2025年3月にはこれを40線便ぐらいにまで増やしていきたいと計画しており、JR貨物やフェリーも使いながら、北海道への共同輸配送も実現させていきたいと考えています。

業界と業界の間に課題がある
企業を超えた取り組みが不可欠

高野氏の講演に続いては、富士通株式会社 EVP 古濱 淑子が登壇。業界の垣根を超えた物流の標準化・効率化をテーマに高野氏と対談しました。

古濱:物流事業者だけでなく荷主となり企業を含めて、物流の効率化に対して、何らかのアクションが必要なときにきているのですね。


高野氏と富士通株式会社 EVP 古濱 淑子

高野氏:物流事業者が「人手不足で大変ですから明日から値上げしてください」というのは簡単ですが、それでは抜本的な解決にはなりません。荷主の皆様に、まず関心を持っていただくことがスタートラインです。多くの企業には物流部門があり、責任者もいらっしゃると思いますが、当社の事業のサプライチェーンは大丈夫なのか、3年先や5年先を見据えたときどのくらいの物流費用で調達や配送ができるのだろうかといったことが、今後は経営課題としてなってくると考えています。そういったことを視野にアクションを取っていただく必要があるでしょう。

古濱:富士通のサステナビリティ担当役員の山西もここにいます。富士通のロジスティックスに関する取り組みについて簡単に説明をお願いします。

山西:富士通でも共同輸配送を試し始めています。共同輸配送をやるとカサプライチェーン全体のカーボンニュートラルにも近づいていき、働き方改革にもつながり、コストダウンにもなります。財務と非財務と両方に効果があるという認識で、今後も進めないといけないテーマだと考えています」
(富士通株式会社 チーフ・サステナビリティ&サプライチェーン・オフィサー 山西 高志)

古濱:SSTに共同輸配送を依頼すると、実際にどの程度のCO2排出量の削減効果が期待できるのでしょうか。

高野氏:どれぐらい減らせるかは、一概には言えないのですが、効率の悪いところであれば半減できると思っています。物流のCO2排出量を下げる方法は大きく分けて3つあると思っています。1つめは、運ぶ手段はCO2を排出しない方法に変えること、2つめはCO2を排出しない水素のようなエネルギーに変えることです。ただ、この2つは難しく、モーダルシフトはチャレンジですが、そんなにキャパシティはありません。そこで3つめの選択肢として、物流の効率を上げる共同輸配送が注目されているのです。

古濱:各企業が共同輸配送をやるときにも、一気にサプライチェーン全体を見直すというのではなく、ステップ・バイ・ステップで取り組んでいけると思います。ただ、ハードルが高い取り組みに感じる部分もあるとは思いますが、どうすればいいのでしょうか。

高野氏:貸切チャーターの運び方を否定するつもりはありません。ただ、これからは荷主と物流事業者が一体となって、さまざまな選択肢から自分たちのサプライチェーンに合った物流の方法を選んでいく時代になってきています。その意味で、今の物流事業者が集まって新しいリソースを生み出していく取り組みとして、共同輸配送をご提案しています。

古濱:リアルとデジタルがうまく融合するところが鍵だと考えています。共同輸配送が進んでいけば、どのような世界が実現されると思いますか。

高野氏:法律改正でも「荷待ちを2時間以内にしなさい」というルールができそうですが、それは実際に5時間ぐらい待たされているドライバーが多くいるからです。なぜ起こるのか。商流取引のEDIデータと物流データが繋がっていないからです。そのため商流で1度完結した後に物流にFAXを流すということが平気で日常的に行われているのが今の実態です。商流データと物流データがわずかずつでも繋がるようになると実作業面での無駄が少なくなります。日本では、その改善余地が大きいと考えており、それができる商流物流一体型のプラットフォームを用意していきます。

古濱:富士通でも「Fujitsu Uvance」を立ち上げ、社会課題を解決していこうとしています。業界と業界の間に課題感があります。今回の物流問題も、荷主、物流業者、その先のユーザー企業との間に課題があり、そこを埋めていくことは一企業だけではできません。業界の壁を越えて、交わりあって作っていく具現化の1つのステップと思っています。「Fujitsu Uvance」というシステム作るだけでは動かなく、共感をいただいて一緒にビジネスを進めて初めて変わっていく世界だと思います。

参加者の声:
物流の2024年問題はNwesにもなっていますので知っていたつもりでした。Sustainable Shared Transportの高野社長より「インパクトの大きさを持ち帰ってほしい」というメッセージからスタートしました。
物流総合効率化法が2025年は努力義務、2026年には義務となるが、荷主である企業も物流統括責任者の配置など対応を求められることは知りませんでした。また直近では、ドライバー勤務時間見直しによる影響が、早くも2025年の年明けから発生するだろうということでした。
業界としてもこの状況にだた手をこまねいているわけではなく、複数の会社荷物を取り扱う共同物流や、地域と地域の間に中継基地局(ハブ)を置くことによる効率化でドライバー不足の解消とあわせてCo2削減も目指し動いているとのことでした。
物流により企業だけではなく私たち個人の生活が成り立っているため、自分ごととして向き合うべき課題であると再認識したセッションでした。


広報委員 FITEC株式会社 星さゆり
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