セッション5
ヘルスケアの未来へ   ~イノベーションを牽引する人財の育成~

ビジョン×価値観×レジリエンスを引き出す力
新しい時代のリーダーに求められる資質


医療法人社団鉄祐会理事長
日本医療政策機構理事
経済同友会 規制改革委員会委員長
武藤 真祐氏

セッション5では、医療法人社団鉄祐会理事長 日本医療政策機構理事 経済同友会 規制改革委員会委員長である武藤 真祐氏が「ヘルスケアを通じて解決したい課題、実現したい社会とは」と題して、レジリエンスとリーダーシップについて説明。続いて、富士通株式会社 CHRO 平松 浩樹とリーダーシップ人材の育成をテーマに対談しました。

人材育成において重要な
レジリエンスとリーダーシップ

「レジリエンス」とは、環境学で生態系の環境変化に対する復元力のことです。最近では「レジリエンス」が精神的な回復力を示す言葉として使われています。
なぜ、レジリエンスが必要なのか。それは現代社会がストレス社会だからです。


なぜレジリエンスが必要なのか

失敗したりうまくいかなかったりしたときにネガティブな感情の「種」が生まれ、不安や怒りの感情が反芻されるような悪循環に陥ることがあります。


ネガティブな感情の悪循環から脱出することが必要

こうしたときに重要なのは、「ネガティブな感情を認知すること」です。また、「空が暗い、雨が降りそうだ、傘を持っていこう」というキーワードから「空雨傘」と呼びますが、空が暗いという「事実」、雨が降りそうだという「解釈」、傘を持っていこうという「実行」を分けて考えているか、また人に話すときに3つを分けているかを考えることも大切です。「空雨傘」をきちんと整理し、事実からいきなり行動にジャンプしていないかといったことをきちんと抑えることが大切です。

ネガティブな感情を起こすメカニズムも同じです。何かネガティブな体験をしていて(事実)、そこで自分が何らかの解釈(解釈)をし、その解釈がそのものはネガティブな解釈をしているので制御できなくなったり悲しんだりします(実行)。ネガティブな体験はさまざまで、ある体験をするとこの人はネガティブな感情になりやすいなど、人によってパターンがあります。自分についてもどのパターンが出やすいのか、もしくは今、ネガティブになっているのはこのパターンがでているからだと考えるだけでも、ネガティブなループを抑制できるようになるでしょう。


自分のネガティブな感情が、何によって引き起こされているかを考える

さらに、大切となるのが、レジリエントマッスルとを鍛えることです。「自己効力感」というポジティブな心理能力をいかに持てるか、もしくは部下の人に持ってもらえるかがリーダーシップ、もしくは自主性やオーナーシップに繋がると思います。

自己効力感を養う方法としては、自分の成功体験となる小さなヒットを積み上げていくことが重要です。いきなりホームランは打てないけれども、小さいヒットを積み重ねて成功する。それがロールモデルです。皆さんにとっての良いロールモデルを探すことは重要であり、他人からの励ましや頑張っていく高揚感は重要です。


自分の成功体験となる小さなヒットを積み上げていくことで自己効力感を養う

リーダーシップはチャレンジを与えることで生まれる

私がリーダーシップを意識したのは、マッキンゼーで「マッキンゼー・スクール・オブ・リーダーシップ」を行ったときです。それは、選抜された大学生を20人集め、マッキンゼーのコンサルタント2人と外部のメンター3人を1チームに付け、マッキンゼーのコンサルタント10人が大学生のリーダーシップを育てるという贅沢なプロジェクトです。大学生からは「新しい携帯電話を作りたい」といったアイディアがだされ、それを当時に携帯電話キャリアのトップにプレゼンさせると、やはり、厳しい指摘が入ります。プレゼンした学生たちは落ち込みますが、そのときに、そこから這い上がってくる学生もいます。

そのときに、「リーダーシップというのは、今までやってきたことで得たものではなく、チャレンジを与えることで生まれてくるものだ」と強く感じました。つまり、チャレンジがないところにリーダーシップは生まれないのです。それが原点になって、ヘルスケアにおけるリーダー人材を育成するNPO法人を立ち上げています。このようなプログラムを通じてチャレンジを与え、1人でもいいから真のリーダーが生まれたら、それで世の中良くなるのではないかと期待していす。

解決策を生み出す人財に必要なのは
「主体的」に取り組む力

武藤氏の講演に続いて、富士通株式会社 CHRO 平松 浩樹が登壇。「テクノロジーを活用して解決策を生み出す人財像を考える」をテーマに武藤氏と対談しました。


富士通株式会社
CHRO
平松 浩樹

平松:事前に生成AIへ「解決策を生み出す人財像とは何?」と聞いてみました。その答えは大きく3種類あって、技術的スキル、問題解決力と想像力、コミュニケーション力とコラボレーション力、この3つを主体的かつ総合的に活用できる人財だと返ってきました。そこで気になったのは主体的という言葉です。決まったことを粛々と定型的に行うような仕事は、今後AIが担うようになります。これから求められるのは、「まさに主体的に動ける人材です。

武藤氏:日本企業に、主体性のある人材が少ないと感じるのであれば、そういう人たちが活躍できる場が少ないのかもしれません。上司が部下の主体性を引き出してあげられていないこともあるでしょう。

平松:富士通がジョブ型の人事制度に移行した理由は、ポスティングを大幅に拡大して人材の流動性を高めることでした。「パーパスカービング」というプロジェクトを実践し、社員1人ひとりのパーパスをそれぞれが言語化していく取り組みも進めました。自分の価値観や経験を見つめ直し、共有することで、オーナーシップ度が上がったと感じています。結果的にポスティングには20代以上に50代が手を挙げ、リスキリングの学びにも積極的に取り組んでいます。

武藤氏:富士通の「パーパスカービング」は素晴らしい取り組みです。小さい頃からのストーリーを社員に書いていただき、その中で形成されている3つの重要な、自分が大事に思うキーワードを発表していただき、どうしてそういう価値観が生まれたのか、みんなに開示するというものですよね。なかなかできないことです。

私が在籍していたマッキンゼーではプロジェクトごとにチームが作られ、上司がどの部下をチームに入れるかを決めていきます。選ばれない人はどこからも声が掛からず、一方で優秀な若手は次々に誘われても断ることがあります。「あなたのような上司とは働きたくない」と拒否できるのです。


熱く語る武藤氏と富士通 平松CHRO

富士通でも同様のことは起きているのではないでしょうか。部下が上司を選ぶ時代に来ているのです。「会社のために人がいる」時代から「人のために会社がある」時代へ変わっています。「その社員が何をやりたいと考えているのか」、「どういう価値観を持っているのか」を大切に考えない、理解しようとしない企業には、もはや良い人材は集まりません。

平松:社員1人ひとりがオーナーシップを高めていくことが大事なのと、リーダーが変わっていかないといけないことを強く思っています。今はまさに先行きが不透明で、テクノロジーの進化も著しい時代です。リーダーにはメンバーがわくわくするようなビジョンを描くこと、それを皆が共感するような言葉で語れることが必要です。

ビジョンを持ち価値観を共有し
一貫した行動をとる

武藤氏:リーダーには、ビジョンと価値観が必要です。例えば、アメリカの軍隊では上官になるにつれてリーダーシップを徹底的に学びます。そのリーダーシップには、ビジョンと価値観が求められます。ビジョンはどちらかというと到達目標に近いものです。一方、価値観は個人が大切にしているものです。リーダーには、この価値観を共有することが求められます。そして、一貫した行動です。ビジョンを持ち、価値観を共有し、一貫した行動をとることが求められているのです。

平松:富士通のリーダー育成の取り組み事例を紹介します。富士通には60ぐらい事業本部がありますが、そこの本部長に「本部のビジョンを語れるようにしてください」と伝えても、それほど積極的にはやってくれないと感じていました。そこで、「今から1カ月後に5人ずつ集まっていただき、1人あたりスライド3~4枚で、あなたの組織のビジョンを5分間で語ってください」と伝えたのです。つまり、本部長が5人ずつプレゼンテーションし、お互いに採点してお互いにコメントを書いて、最後は順位を付けてフィードバックするという取り組みです。コンサルティングファームの専門人材にも参加してもらいファシリテートしていただきまた。それぞれの結果を本部長自らが本部に持ち帰り、メンバーに「ビジョンはわかりましたか」、「共感しましたか」などサーベイを取って、それもあわせてフィードバックしました。

この取り組みでわかったことは、さまざまな人材の成長やオーナーシップ、リーダーシップなどを開発するときには、フィードバックや内省など、さまざまな刺激がないと惰性になってしまうということ。同じようなメンバーで同じようなことをやっていると効果が期待できないのです。まさにダイバーシティで、属性や性別だけでなくバックグラウンドや価値観、経験などが多様な人たちとさまざまなコミュニケーションをして、その関係性の中で自分を見つめ直す機会を意図的に作っていかないとならないと感じました。

レジリエンスの能力をうまく引き出すことが
リーダーには求められている

武藤氏:私が一般的な医師とは変わった道を歩み出したきっかけは、まさにバックグラウンドや価値観、経験などが全く異なる人たちと出会ったからです。周囲には研究者か医師しかいない環境の中で、何人ものビジネスパーソンと出会い、話をしたことが刺激になりました。人は良いチャレンジを与えるときちんと考えて何とか乗り越えようとします。このレジリエンスの能力をうまく引き出していけるかが、今の時代、上司に求められていると思います。

富士通という、ある意味でジャパニーズ・トラディショナル・カンパニーがさまざまな新しい取り組みを実践していることを改めて知り、大きな会社でも変われると感じることができました。ぜひ皆様の会社もトランスフォーメーションへの第一歩を踏み出していただきたいと思います。

参加者の声:
ご自身が医師であり、経営者であり、アントレプレナーでもある武藤先生と、入社から人事一筋の富士通株式会社の平松CHROの対談でしたが、自身の興味と合致していたため非常に内容が興味深く、ついつい引き込まれてしまいました。
前半は、武藤先生がどのようにして、お一人の医師から現在の立ち位置になられたかという経緯や、先生が実際に日頃から取り入れていらっしゃる習慣や考え方をご教示いただきました。
その中でも特に印象に残ったのが、一日が終わりに自身のやる事や考えを日記やメモに残し、月単位で目標を定め、年単位で振り返りを行う習慣をされているとのことでした。
私自身、いままでそのような習慣がなく、ただ日々過ごすだけでしたので、この習慣は是非取り入れたいと思いました。
後半は平松様から、富士通は大企業でありながら、社員自ら学ぶことなどに対して手を挙げてオーナーシップを高める取組の紹介があり、一人ひとりが主体性を持って日々取り組まれている企業なんだなと思います。
また、武藤先生からは、従来あった会社のための社員がいるという価値観から、社員のために会社があるという価値観に変化しているという話がありました。私自身も企業の人事担当者なので、この言葉は肝に銘じ、今後は社員自らが目的を持って輝かせることができるような企業になっていく必要があると感じました。


広報委員 株式会社ITAGE 長嶺博美
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