セッション3
SDGs達成のためのSCM
企業のサプライチェーンマネジメントに
富士通が果たす役割

富士通株式会社
執行役員EVP CSSO
山西 高志
セッション3では、まず富士通 執行役員EVP CSSOの山西 高志が「SDGs実現のためのサプライチェーンマネジメント」と題して、富士通のSCMの取り組みについて説明しました。続けて、富士通CIS事業本部エグゼディレクターの瀧澤 健が「ダイナミックサプライチェーンの実現で、サステナブル企業への変革を導く」と題し、SDGsを達成するために必要なサプライチェーンマネジメントについて解説しました。
サプライチェーンで重要性が高まる
サステナビリティ
最初に登壇したのは、執行役員EVP CSSOの山西 高志です。
富士通は2023年、サステナビリティのマテリアリティ(重要課題)を設定し、必要不可欠な貢献分野として、地球環境問題への取り組み(Planet)、デジタル社会の発展(Prosperity)、人々のウェルビーイングの向上(People)という「3つのP」と、その下の「11のサブカテゴリ」を定めました。
このようなマテリアリティを設定した富士通のビジョンは、2030年までに、デジタルサービスによる社会へのプラス・マイナスの影響をトータルでプラスにしていく「ネットポジティブの実現」です。
2025年度のKPIでは、売上・収益・利益・キャッシュフロー・EPSといった財務KPIと共に、顧客ネットプロモータースコア・従業員エンゲージメント・ダイバーシティリーダーシップ・生産性・温室効果ガスの排出削減といった非財務KPIも設定しました。トータルでのネットポジティブは、こうした領域でのKPI設定とデータ計測が実現してはじめて実現できます。
ただ、そのためには、非財務KPIが、やりがい/充実感・富士通への満足度・リード数/成約率・コスト削減といった中間的パラメーターを介して財務KPIに影響を与えていくことを、テクノロジーで解明していく必要があります。合わせて、非財務KPI側に作用をもたらす他のパラメーターについても連関を示していくことがテクノロジー企業・富士通への期待でもあります。こういったデータは情報開示してステークホルダーとの対話に活用するほか、経営判断の材料にしていくことも志向しています。

非財務KPIのパフォーマンスが財務KPIのパフォーマンスに連関する
サステナビリティサプライチェーンの実現に向けた
富士通の取り組み
ここからは、富士通全体のサステナビリティやテクノロジーの取り組みがある中での、サプライチェーンについてお話しします。
先述した「3つのP」マテリアリティの下にある11サブカテゴリの1つが「責任あるサプライチェーンの推進」です。サプライチェーン・サステナビリティに向けた2025年度までの富士通のKPIは、人権・環境・多様性の3つです。

2025年までのサプライチェーンKPIは、人権・環境・多様性の3つ
サプライチェーン・サステナビリティの課題としては、「地球環境」の観点で温室効果ガス・循環経済・生物多様性など、「リスクマネジメント」の観点でサイバーセキュリティ・コンプライアンス・人権・経済安全保障など、「レジリエンシー」の観点で地震など自然災害があります。以下、それぞれの課題と富士通の取り組みについて見ていきます。
地球環境に関しては、まずサプライチェーンのカーボンニュートラルについて、ゼロエミッションに向けた2段階の目標を開示しています。第1段階として、2030年に自社の排出(Scope1・2)をゼロにすべく再エネ100%化を進めています。第2段階として、2040年にサプライチェーン全体の排出(Scope3)でネットゼロという、国の目標を10年前倒しにした目標を設定しています。

サプライチェーンの温室効果ガス削減は可視化がカギを握る
リスクマネジメントに関しては、サイバー攻撃・サプライヤの信用・人権侵害・経済安保などのリスクを取引開始時にチェックしていても、その後の調査サイクルが年1回では不十分です。また、富士通からサプライヤに出している調査票をみても、サステナビリティ関連・BCP関連・情報管理関連・セキュリティ関連など7種類もあり、サプライヤには大きな負担です。部品メーカーなど複数の発注元があるサプライヤでは負担はさらに数倍になり、結果的にリスクの網羅性も低くなってしまいます。
リスクの網羅性を高めるには、サイバーセキュリティの強度をツールで評価し、各種調査を一元管理してサプライヤの負荷を減らして可視化を進めることや、リスクをキャッチするタイミングを短縮してアクションを早めることが求められます。ただ、リスクマネジメントはデジタル化だけで解決できる問題ではなく、啓発や統制といった従来型アプローチと組み合わせて考えるべきです。

サプライチェーンのリスクマネジメントを高度化し、リスクの網羅性を高める
レジリエンシーに関して、富士通では元々、自然災害時の初動対応に約3週間かかっていました。サプライチェーンの影響箇所の把握から、注文への影響、お客様への影響、業績への影響などの調査が全てマニュアル対応だったためです。
現在、富士通は、この3週間を4日に短縮しようとしています。このうち、STEP1として、被害を受けたサプライヤと部材を特定して影響を確認するまでの時間を、従来の6日から3時間に短縮するところまでは実現しました。2024年元旦の能登半島地震でも、当日中にサプライヤを特定して影響確認を行えています。その先、代替部材の調査と損益への影響を把握してお客様へ説明するまでは、STEP2として従来の9日を1日に短縮する計画を立てています。

サプライチェーンのレジリエンシー強化で初動対応を3週間から4日に短縮
このように、サステナビリティ経営とサステナブルサプライチェーンの運用には、企業のマテリアリティに基づいた戦略的な優先順位付けと、組織・業界・サプライチェーンを横断した協働が必要です。また、デジタルテクノロジーを活用してデータに基づく戦略立案と施策を展開していくと、社会課題の解決を企業の収益につなげられるほか、競争優位をもたらすことにもつながります。
企業にとってのサステナビリティとは
山西に続いて登壇したのは、CIS事業本部エグゼディレクターの瀧澤 健です。

富士通株式会社
CIS事業本部 エグゼディレクター
瀧澤 健
富士通は毎年、世界約700社の企業トップに「1年以内に経営にインパクトを与える外部要因」を尋ねています。今年の調査では、1位の「インフレ・金利・為替変動」と2位の「地政学的緊張・紛争」に続く3位に「AIの急激な進化」が入りました。従来ここは、「セキュリティ問題」でしたので、4位に入った「エネルギー問題」と共に、世界的にも大きな変化と認識されていることがうかがえます。
また、7~8割の企業が、サステナビリティは企業の経営テーマであり対応が必要と考えています。ただ、それがビジネスと両立して収益化できている企業は10%程度で、ほとんどは海外企業です。そこを踏まえてサプライチェーンをどう捉えていくかを今日のテーマにしたいと思います。サプライチェーンを語ることはサステナブルを語るに等しいと考えられます。
サプライチェーンの課題と解決へのアプローチ
サプライチェーンの観点から現実の課題を解決していくアプローチについて紹介します。富士通は、2024年6月にダイナミックサプライチェーンマネジメント(DSCM)という組織を立ち上げました。「変化にダイナミックに対応する」という、思いを込めています。サプライチェーンに、過剰生産・廃棄ロス・運搬手段の不足などの問題が生じたとき、サステナブルに解決するために重要なのは、状況の変化をある程度予測して「こういうときはこうする」という対策シナリオを用意すること、そのために各部門でサイロ化したネットワークを繋ぎ、バラバラなデータを集めやすくすること、そしてシナリオを最適かつ迅速に実行することの3点です。
富士通はこれを3層構造で表現し、それぞれにアプローチを提供しています。第3層は現実に製造・販売・流通など現実の世界で、これまで培ってきたノウハウをテンプレート化して簡単に実現できるようにします。第2層はデータが流通するサイバーの世界で、散在データの統合技術などテクノロジーを提供します。そして第1層が意思決定を行う「コントロールタワー」で、ここで各部門が納得できるフェアな判断を行い、統合的で最適な意思決定を行えるように特化型AIエンジンを提供します。

AIエンジンがサプライチェーン全体の意思決定を統合的に行う
1層目のコントロールタワーは、経営・供給・需要とそれぞれ相反するベクトルを持つ部門を横断して最適解を出す必要があります。ここは富士通研究所でもさまざまなAIを研究していて、例えば需要予測でも、季節性のある需要とか、ライフサイクルでの需要など、予測に最適なエンジンを動的に変えていくことがポイントです。
2層目の散在したデータを集めるところに関しては、米国のパランティア社とアライアンスを組んでいます。同社のテクノロジーは、さまざまな非構造データをある程度構造化してマッシュすることで意味を持たせ、その関連性から相関と答えを導き出していく先進的な技術です。これにより、ある部門や現場にしかなかったデータや、個人のノウハウ中にしかなかったデータが顕在化されて、意思決定の中で使っていくことができるようになります。
3層目の意思決定を業務に適用していくテンプレートは、富士通では「ユースケース」と呼んでいます。どんな会社でも、製造と販売のようにベクトルが合わない部門は、双方にフェアで納得できるデータや優先順位を出せなければ必ず衝突します。しかし、同じベクトルで見て、同じデータで話し合えれば製販の変化対応力は格段に向上します。富士通ではそうした事例のメニューを、調達・物流・設計・保守など部門別に約30種類用意していて、現在もお客様と一緒に新しいメニューを作っています。このとき、基幹となるデータに手を加えるのではなく、新しい業務としてメニューを作っていくことでスピード感を出すことが重要になります。
二刀流アプローチを提供する
「Data Intelligence PaaS」
2025年は、さまざまなレガシーシステムが更改のタイミングを迎えます。もちろん更改は必要ですが、結果が出るのは数年後で、その頃にはまた状況が変わっている可能性もあります。そこで、レガシー業務はそのまま続けながら、新しい価値を生み出せる業務をスピーディに作り上げていくことを提案しています。これを富士通では「二刀流アプローチ」と呼んでいますが、富士通にはSoEに長じたサイエンティストが多数いて、システムをお客様のところで一緒に作っていくこともできます。それで協調関係を高めながらアジャイルに進めて、業務が標準化できたら基幹システムの更改時に反映させていきます。そういう形の循環が、今後のシステム更改では主流になると富士通は考えていて、お客様にもお勧めしています。
富士通では、こうしたオペレーションをワンストップで行える、「Data Intelligence PaaS」という商品を用意しています。お客様のデータを、富士通とお客様の共同チームが1.5~2カ月の短期間で作り上げることができます。

既存システムを残して新たなシステムを構築する二刀流アプローチ
今、富士通研究所では、次のようなサプライチェーンリスクマネジメントの評価技術を考えています。まず、台風・ストライキ・地政学的リスクなどのシナリオを組み込んだサプライチェーン構成を図式化します。リスクイベントが起きると、どのサプライヤにどういう影響が出たかを把握して、経済的損失、物流やCo2排出などへのインパクトを複数パターンで考えて、どういう問題が起きるかを予測します。
そして、予測に対するアクションをリコメンドし、そのアクションでどこが改善されどこが悪化するかというような相関を調整した施策を提案してきます。意思決定者はその施策をプロットすることで、「少しコストは上がるが売上げ重視で行こう」というような決断をくだせます。これからのサプライチェーンのリスクマネジメントではこのようなアシストが必要で、そのためにも先述のようなデータ活用が重要なポイントになると考えています。
企業を超えた取り組みへ
自社の枠を超えた、業界やエコシステム全体でのサプライチェーン・サステナビリティの実現は非常に難しいテーマで、まず自らに変化対応力を付けた上で他社との関係を築く業界横断の動きが必要です。そこでは、データをどういう形で流通させるかが重要になりますので、富士通ではお客様同士のEDIを支援しています。単なる取引データを新たな付加価値とすることで新たな情報が見えてきます。
もちろん、情報のオープン/クローズには難しい問題がありますが、そういうデータが随所にあることは間違いありません。そのデータを皆様が同じ目的に向かって使っていけるようなルール作りや公平な仕訳を、富士通は中立的な立場で挑戦していきたいと考えています。

サステナブル社会では企業を超えたデータ流通の仕組みが求められる
今回の秋季大会のテーマにもあるサステナビリティというキーワード。本セッションも、富士通株式会社のサプライチェーンの事例をもとにサステナブルな社会の中の企業活動として経営やサステナビリティ企業への変革についてのお話を聞くことはできました。
前半は富士通株式会社の山西様から、サステナビリティ経営を実現するためには、サステナブルサプライチェーンの重要性が増してきているというお話を、瀧澤様からは、サプライチェーンにおける現実の課題に対して解決へ導くアプローチについてのお話を聞くことができました。
今後、企業を取り巻く環境では、サイバーセキュリティや自然災害などにサプライチェーンを取り巻く課題に対しての、現状や課題感など事例を伴いながら説明頂けた点が非常に理解しやすかったです。
また、最新の富士通の技術を用い、今後直面するであろう様々な問題を解決できるFujitsu kozushiや業務オペレーション変革プラットフォームの事例の紹介などもあったので、大変学びの多い1時間でした。
広報委員 株式会社ITAGE 長嶺博美
