2007年 26号  発行日: 2007年9月21日 バックナンバー

「SaaS」生まれ変わったASP

アンケート

はじめに

SaaSはSoftware as a Service(サーズまたはサースと呼ぶ)は、「サービスとしてのソフトウェア」と訳されます。具体的にはネットワーク経由のサービスとしてソフトウェアを提供する形態のビジネスまたはビジネスモデルをいいます。1998年から2000年にかけて新規参入が相次ぎ、ブームになったASP (Application Service Provider) を思い浮かべる方もあるでしょう。ネットワークを経由してサーバのアプリケーションを使うというソフトウェアの利用形態から考えるとまったく同じです。しかし、ASPブームはその後、すぐに沈静化しました。そして数年を経て、2005年ごろからSaaSとして再び登場します。そして、今、その普及の勢いは止まりそうにありません。
(なお、本稿では1999年ごろのASPを「ASP」、2005年以降主流となった新しいASPを「SaaS」と表記します。)

第1章 ASPの発展と衰退

1999年前後、ASPは画期的なビジネスモデルとして登場しましたが、思いのほか普及しませんでした。SaaSはこのASPの新世代版です。SaaSのしくみや普及の理由を分かりやすくするために、まずは、ASPのしくみとなぜ普及しなかったかを考えてみます。

ASPのしくみ

ASPIC(ASPインダストリ・コンソーシアム・ジャパン)は、『特定及び不特定ユーザーが必要とするシステム機能を、ネットワークを通じて提供するサービス、あるいは、そうしたサービスを提供するビジネスモデル』とASPを定義しています。データセンターのサーバにインターネット経由で接続し、WEBブラウザを通じてサーバ上のソフトウェアを利用する形態です。ユーザーは、アプリケーションを利用した分だけ料金を支払います。

ユーザーにとってはソフトウェア開発・導入費用が削減できるだけでなく、保守・運用もアウトソースできることで負担が小さくなります。自社導入に比べて資金的にも人的リソースの面でも有利で、爆発的な普及が期待されました。

ASPのメリットとデメリット

ASPの最大のメリットは経済性です。コストはアプリケーションを使った分だけの使用料で済み、特別なソフトウェアやハードウェアを購入する必要がなく、ライセンス料や導入コストも不要です。サーバやソフトウェアの運用、保守、管理はASPベンダーが行うため、ユーザー側では維持管理のための人的リソースも不要です。設置スペースなどの環境コストも不要です。機器の調達、設定、ソフトウェアの導入も短期間で行うことができます。

高額なITコストに二の足を踏む中小企業にとっては願ってもない話です。 しかし、デメリットも小さくありません。ASPで提供されるアプリケーションはその多くがパッケージソフトのフロントエンドをHTML化したもので、カスタマイズや他システムとの連携を前提にしたものではありませんでした。そのため、ユーザーの業務に合わせたカスタマイズや他システムとの連携が困難でした。使い勝手や性能にも問題がありました。ネットワーク越しの利用に最適化されているとはいえず、そのネットワークも現在のように高速でありませんでした。そのため、操作性・応答性、性能が十分とは言えなかったのです。さらに、セキュリティ技術が確立されていなかったためユーザーの不安を払拭できませんでした。「これからのコンピュータはASPで」というマスコミの思惑通りにはいかなかったのです。

急速に沈静化したASPビジネス

ASPは、2000年をピークに翌年には急速に話題にならなくなります。前述したデメリットに加えて、ASPでは思ったほどコスト削減ができなかったのです。ASPの利用料金よりもネットワーク利用コストが高くなるという現実がいっきにASP普及熱を冷ましました。ASPのデメリットも経済的なメリットが大きければ帳消しになったかもしれません。しかし、操作性や応答性を求めて高速なネット環境にするとそれなりに通信コストも高価になり、経済的なメリットは消えてしまうのです。
参入した多くのASPベンダーは早々に市場からの撤退を余儀なくされました。ASPはやがて息を潜めるように、市場から静かに消えていったかに見えました。

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