豊かに生きる誌上セミナー HUMAN HUMAN


「編集者の視点」に学ぶ、想いが伝わる文章術
第3回:伝わる文章を書くための「編集の文法」を実例で学ぶ

エディトリアル・コンサルタントとして活躍される上野郁江さんを講師にお迎えし、「正しく伝わる文章術」について学ぶこの企画。最終回となる今回は「実践編」として、編集現場で培われたスキルを体系化した「編集の文法」をもとに、具体的な例文を交えながら、「伝わる文章」の書き方を学んでいきます。

上野 郁江

株式会社エディットブレイン 代表取締役/エディトリアル・コンサルタント
「人や会社を編集する」を掲げて、“独自性„や“強み„を引き出すエディトリアル・コンサルタント。会社経営者や個人に向けて情報発信についてアドバイスする。編集スキルを「編集の文法」として体系化し、人に伝わる文章の書き方や、編集部構築プログラムなどを提供するほか、編集者としての経験を体系化した編集思考を提唱。複雑に絡み合う事象を可視化し、新たな視点で解決するイノベーションの創出も支援し、編集スキルの可能性を社会に広げている。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程修了。一般社団法人クリエイティブ思考協会 理事。著書に『才能に頼らない文章術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)、『創造的思考のレッスン~新しい時代を生き抜くビジネス創造力』(産業能率大学出版部刊)がある。

文章基礎力を磨くための「編集の文法」

文章基礎力とは、いわば文章を書くための基本的な約束事です。こう聞くと、国語の授業で学んだ「文法」を思い出し、げっそりする人もいるでしょうが、ことさらに難しく考える必要はありません。大切なのは、読み手にとって読みやすい、最低限のルールに則った文章を書くこと。誤字や脱字をなくす、文体(「だ/である」と「です/ます」)を統一する、同じ用語については漢字/ひらがなの表記を統一するなど、当たり前のことに気を付けるだけで、文章に対する読み手の信頼感を高めることができます。
 「編集の文法」から、読みやすい文章にするためのヒントをいくつか紹介します。それぞれNGとOKの文例を比較してみましょう。



NG例も文法的に間違っているわけではありませんが、主語と述語が遠いため、最後まで読まないと意味が伝わらず、間延びした印象を与えます。
また、主語と述語が離れていると、主語と述語が正しく対応しなかったり、文章の途中で主語が変化したりと、意味の通らない文章になりやすいことも注意すべきです。



「~すること」「~という」という表現は、口語ではよく使われますが、文章で多用すると冗長な印象を与えがち。違う表現に言い換えることで、文章をスッキリさせることができます。また、「~という」を残す場合は、その意味する範囲をカギカッコで括ることで、より伝わりやすくなります。

文章表現力を高めるための「編集の文法」

文章表現力とは、文章の意味や意図を読み手に正しく伝える力。このスキルを高めることで、読み手に伝わりやすく、心を動かす文章が書けるようになります。
 「編集の文法」には、文章の構成要素である「単語」の選び方から、「文」そのものの書き方、文と文とのつながりなど「段落」レベルでの考え方まで、幅広いノウハウが含まれています。なかでも重要なものを、例文とともに紹介していきましょう。

「これ/この」「それ/その」「あれ/あの」「どれ/どの」といった指示代名詞は、文章中で多用すると、何を指しているのかがわかりづらくなるため、多用は控えるべきです。
NG例で言えば、最初の「そのコロナ禍」は省略しても意味が通りますし、「その理由」や「その結果」は、文章のつなぎ方を工夫することで省略可能です。
ただし、指示代名詞を避けようとするあまり、文章が長くなり過ぎると、かえって読みづらくなりかねません。意味がわかる範囲であれば、適度に指示代名詞を使いましょう。



「そして」「しかし」「つまり」「したがって」などの接続詞は、文と文との関係を示すためのものですが、これも多用し過ぎると、かえって伝わりづらくなります。
 特に気を付けたいのが、逆接の接続詞「しかし」の連続。論旨が二転三転して、意味が取りづらくなりかねません。また、「つまり」や「したがって」の後には結論が述べられるので、これも多用すると、どこが結論なのかわからなくなってしまいます。
 例文にあるように、接続詞がなくても意味が伝わる場合は省略したり、長すぎない程度であれば助詞を使って1文にまとめたりすることで、読みやすい文章になります

文章構成力を鍛えるための「編集の文法」

文章構成力とは、いわゆる「本文」だけでなく、タイトル(大見出し)や小見出しなども含め、文章全体を構成する力のこと。文章構成力が高いほど、文書の目的を達成しやすくなります。
文章構成力を鍛えるうえで重要なのが論理性。タイトルと小見出し、複数の小見出し間、小見出しと本文など、それぞれの関係が論理的かどうかで、読み手の理解度や納得感は大きく左右されます。
文章全体を例にすると煩雑になるので、タイトルと小見出しに絞った例をもとに、文章構成力に関わる「編集の文法」を紹介していきましょう。



NG例を見ていくと、いくつかの問題点に気づきます。まず、タイトル、小見出しともに抽象的な表現ばかりで具体性が乏しいために、全体の主旨が伝わってきません。また、タイトルとサブタイトル、各小見出しが並列的なため、全体的な論理構造が不明瞭です。
それらを改善したのが、以下のOK例です。印象が大きく変わったことがわかるでしょう。



「編集の文法」として意識してほしいのは、大きく次の2点です。
1つは「読者の興味を引くタイトルや、本文の主旨を端的に示す小見出しを付ける」。NG例では曖昧だった主旨が、OK例では明確に伝わってきます。
もう1つは「全体のテーマと論理構造を明確にする」。OK例では、伝えたいテーマをタイトルで明示するとともに、テーマを実現するための要素を各小見出しに配置。両者の論理構造が明確なため、読みやすく、主旨が伝わりやすい文章構造になっています。

おわりに:「編集執筆力」を高めるために

これまで3回にわたる連載で、「編集執筆力」とは何かから始まり、構成要素である3つのスキルや、その磨き方について紹介してきました。
編集執筆力を高める最良の方法は、自分の書いた文章を客観的に見つめ直し、添削すること。その際は、第1回で強調したように読み手を具体的にイメージすると効果的です。
添削にあたっては、ぜひ、拙著『才能に頼らない文章術』に添付の「編集の文法チェックシート」を参考にしてください。添削を続けるうちに、自分の文章の弱点が理解でき、「伝わる文章」「心に刺さる文章」に近づいていく実感が得られるはずです。

デジタル冊子

405号冊子のデジタル版は以下からまとめてダウンロード可能です。
またバックナンバー(2000年10月発行 275号以降)の会報FamilyをWeb上でご覧いただけます。

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