豊かに生きる誌上セミナー HUMAN HUMAN


「編集者の視点」に学ぶ、想いが伝わる文章術
第2回:あらためて考えたい、「伝わる文章」の定義と条件

エディトリアル・コンサルタントとして活躍される上野郁江さんを講師にお迎えし、「正しく伝わる文章術」について学ぶこの企画。Family405 号に掲載した第1回では、心に刺さる文章を書くための大前提として、読み手を具体的にイメージする重要性について学びました。今回からはWebに場所を移して、伝わる文章の書き方について図解などを交えながら詳述していきます。

上野 郁江

株式会社エディットブレイン 代表取締役/エディトリアル・コンサルタント
「人や会社を編集する」を掲げて、“独自性„や“強み„を引き出すエディトリアル・コンサルタント。会社経営者や個人に向けて情報発信についてアドバイスする。編集スキルを「編集の文法」として体系化し、人に伝わる文章の書き方や、編集部構築プログラムなどを提供するほか、編集者としての経験を体系化した編集思考を提唱。複雑に絡み合う事象を可視化し、新たな視点で解決するイノベーションの創出も支援し、編集スキルの可能性を社会に広げている。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程修了。一般社団法人クリエイティブ思考協会 理事。著書に『才能に頼らない文章術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)、『創造的思考のレッスン~新しい時代を生き抜くビジネス創造力』(産業能率大学出版部刊)がある。

そもそも、「正しく伝わる」とはどういうことか

私はエディトリアル・コンサルタントとして、多くの方の文章に関する悩みを伺ってきました。本連載では、その経験をもとに「正しく伝わる文章」の書き方をお伝えしていきたいと思っています。そもそも「正しく伝わる」とはどういう状況を指すのか、明確に意識できている人は意外と少ないのではないでしょうか。
文章はコミュニケーションの道具ですから、まずはコミュニケーションとは何かを定義してみましょう。人によって様々な定義があり得るでしょうが、「思考と感情をセットにした情報を、言語や記号を用いて、視覚あるいは聴覚を介し、互いにやり取りすること」というのが私なりの定義です。(図1)。



図1:コミュニケーションの定義
コミュニケーションの目的を考えたとき、情報の伝達には「伝える」と「伝わる」という2つの段階があると考えています。まず「伝える」とは、こちらの発した情報が、そのままの形で相手に受け取られること。(図2)
「伝わる」とは、そこからさらに一歩進んで、こちらの発した意図を、相手がしっかりと受け止め、具体的な行動を促すこと。つまり、情報に込められた「こうしてほしい」という意図が相手に理解・納得され、望ましい行動へとつながって、初めて「正しく伝わった」と言えるでしょう。
これをビジネス現場に当てはめれば、上司の決裁を得るための報告書や、取引先からの契約を獲得するための提案書、集客するための案内文など、いずれも読み手に内容が理解され、目的達成まで導けてこそ、「正しく伝わる文章」と言えます。

図2:正しく「伝える」コミュニケーション,図3:正しく「伝わる」コミュニケーション

「伝わる文章」を書くための条件を知ろう


「正しく伝わる文章」とは何かを知ることで、前回、強調した「読み手をイメージすること」の重要性が理解いただけたと思います。
常に読み手を意識する「編集者の視点」から、伝わる文章について考えていくと、そこには一定の条件があると考えられます。それは、以下に掲げる5つの要素を、読み手と揃えて書かれていることです。
伝わる文章になるための5つの条件を列挙すると、以下のようになります。

1.読み手と視点(横軸)が合っている
2.読み手の求める抽象度(縦軸)と合っている
3.読み手の語彙に合わせた言葉を使っている
4.読み手の業界の専門用語を使っている
5.読み手の経験値と合っている

 まず、視点と抽象度の両軸から、読み手とコミュニケーションの焦点を揃えることで、文章がぐっと伝わりやすくなります。「視点」を合わせるには、相手の関心が結果なのかプロセスなのか、現在なのか未来なのか、など興味のポイントを理解すること。「抽象度」を合わせるには、相手がどのレベルまで具体性、詳細性を求めているかを理解することがカギとなります。
 次に、読み手の語彙や、普段から使っている専門用語などを踏まえて、それらを用いた文章を作成すること。これによって文章の理解度が高まります。逆に言えば、相手の知らない言葉や、相手の属さない業界の用語などは、できるだけ使用しないことが望まれます。
 最後に、読み手の経験値に沿った比喩や例を用いることで、文章に対する共感度が高まり、具体的な行動を促しやすくなります。

「編集執筆力」を構成する3つのスキルとは?

ここまで「正しく伝わる文章」のイメージと、そのために前提となる5つの要素のイメージについて説明してきました。ここからは、いかに実践するかを見ていきましょう。
前回、読み手の立場で考え、伝わる文章を書く力を「編集執筆力」と呼び、「文章基礎力」「文章表現力」「文章構成力」という3つのスキルから構成されることを説明しました。これらスキルについて、もう少し詳しく見ていきましょう。
まず文章基礎力とは、文字通り正しい文章を書くための基礎となるもの。「てにをは」をはじめ、文体や用字・用語など、ルールに則した文章を書くためのスキルで、個々の文単位で考えていきます。
次に文章表現力とは、読み手に意味・意図が伝わりやすい表現や、読み手の共感を得るための表現を練り上げる力。具体的には、より適切な言葉の選び方や、つなぎ方などのスキルで、単語、文、段落といった単位ごとに考えていきます。
最後の文章構成力とは、タイトルや小見出しなども含め、文章全体の構成を問うものです。とくに文章構成力が、自分の伝えたいことが誤解されずに伝わるかを左右します。文章構成力を支えるのは論理的思考力です。長い文章になるほど論理性が問われます。
これら3つスキルを磨き、編集執筆力を高めることが、伝わる文章を書くための早道です。拙著『才能に頼らない文章術』では、そのための具体的なノウハウを体系化し、31項目からなる「編集の文法」としてチェックシートにまとめました。次回は、その中から重要なものをピックアップし、例文を交えながら紹介していきます。

デジタル冊子

405号冊子のデジタル版は以下からまとめてダウンロード可能です。
またバックナンバー(2000年10月発行 275号以降)の会報FamilyをWeb上でご覧いただけます。

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