2008年 30号  発行日: 2008年9月19日 バックナンバー

社会全体で取り組む「ユニバーサルデザイン」

アンケート

第1章 ユニバーサルデザインとは

ユニバーサルデザインとは、製品、サービス、建物などを、あらゆる人が共通して使用・理解できるようにする考え方です。米国の建築家であり工業デザイナーであった故ロナルド・メイス(Ronald L.Mace)氏が1985年に提唱しました。

ユニバーサルデザインの背景

ユニバーサルデザインとバリアフリーを同義ととらえている方が多いので、このユニバーサルデザインの発祥から説明しましょう。

1960年前後「ノーマライゼーション」の登場
発祥は1960年前後の北欧、デンマークの「ノーマライゼーション(normalization)」にあります。福祉の面で北欧は先んじており、障がい者と健常者とは、区別されることなく、共に社会生活を送るのが望ましいとされてきました。そこで、障がいがありながらも、普通の市民と同じ生活ができるような環境づくりの考え方として生まれたのが「ノーマライゼーション」です。
1970年代「バリアフリー」の登場
やがて1970年代になって「バリアフリー」の考え方が登場してきます。この言葉は、文字どおり、段差などの「バリア(障壁)」を取り除く考え方です。根底には高齢者や障がい者の社会受け入れがあります。特に米国では、ベトナム戦争で障がいを負った帰還兵を、いかに社会復帰させるかが課題となっており、そのための施策の1つでもありました。
「バリアフリー」から「ユニバーサルデザイン」へ
バリアフリーが高齢者や障がい者を対象としたものであるのに対し、ユニバーサルデザインはその対象をより拡大したものです。年齢、性別、国籍、身体的な能力などの違いに関わりなく、より多様な人々が対象です。 また、バリアフリーでは後から障壁を取り除いたり、特殊設計を施したりしますが、ユニバーサルデザインでは、予めさまざまな人が使える製品や施設を設計し、提供します。

ユニバーサルデザインの定義

ユニバーサルデザインを提唱したロナルド・メイス教授は、アメリカのノースカロライナ州立大学のユニバーサルデザインセンターを拠点に、この考え方の定義の中心的役割を担いました。教授自身も、9歳でポリオを発病し、酸素吸入しながら電動車いすを使って生活していました。障がいを身近に感じ、障がいを特定の人の問題と考えるのではなく、けがや高齢化などを含めた多くの人に関わる問題であると考えました。こうして出来上がった定義が以下の文章です。
The design of products and environments to be usable by all people, to the greatest extent possible, without the need for adaptation or specialized design.(改造もしくは特別な設計の必要なく、可能な限り、すべての人に利用可能な製品及び環境のデザイン)。

ユニバーサルデザインの7原則

定義を具体的に理解するために、ユニバーサルデザインには以下7つの原則が付されています。

  • 原則1/公平な使用への配慮
    どのような人にでも公平に使えるものであること

  • 原則2/使用における柔軟性の確保
    多様な使い手や使用環境に対応でき、使う上での自由度が高いこと

  • 原則3/簡単で明快な使用法の追求
    製品の使い方が明快で、誰にでも積極的にすぐ理解できること

  • 原則4/あらゆる知覚による情報への配慮
    必要な情報が、環境や使い手をめぐる能力に関わらず、きちんと伝わること

  • 原則5/事故の防止と誤操作への受容
    事故や危険につながりにくく、安全であり、万一の事故に対する対策を持つこと

  • 原則6/身体的負担の軽減
    体に負担を感じないで、自由、快適に使えること

  • 原則7/使いやすい使用空間(大きさ・広さ)と条件の確保
    使い手の体格や姿勢、使用状況に関わらず、使いやすい大きさと広がりが確保できること

世界をリードする日本の工業製品

ユニバーサルデザインの考え方は海外からもたらされたものであり、日本人はそれに追随しているばかりに聞こえるかもしれません。ところが、ユニバーサルデザインの具体的な製品になると、日本は海外に先駆けて量産し、リーダー的な役割をしています。「障がいの有無、年齢、性別、人種等にかかわらず多様な人々が利用しやすいように」というユニバーサルデザインは、宗教的、人種的影響が他国よりも少ない理由もあり、日本から世界に向けて発信している文化と言えます。

ユニバーサルデザインの自動販売機

従来よりも飲み物の取り出し口が上に配置されている自動販売機が多くなってきました。これがユニバーサルデザインの一例です。しゃがみこむ必要がなく、楽な姿勢で飲み物を取り出すことができます。車いすの使用者、足腰が弱くなった人やけがをしている人の体への負担を軽減できます。
また、飲み物を購入するためのボタンを、上段と下段の両方に配置しています。上段のボタンに手が届きにくい車いすの使用者や子どもにとっても、押しやすいように配慮されています。

ユニバーサルデザインの駅

駅では、エレベーター、エスカレーター、階段など、利用する人が自分にあった手段を選択できることが大切です。現在、車いすを使用する人、ベビーカーを押している人、足をけがした人、足腰が弱くなった人、スーツケースやキャリーカートを引いている人など、さまざまな人にとって利用しやすい駅が多くなってきています。さらに、音声で操作や到着階をガイドする、扉が前後にあり方向転換しないで通り抜けられるようにスルー方式を採用する、などの工夫がされています。
転落防止柵を設けたホームも多くなりました。誤ってホームから転落する事故を未然に防ぐことができます。

[コラム] わが国のIT戦略とユニバーサルデザイン

工業製品や環境への配慮と共に、政府は積極的にユニバーサルデザインに取り組んでいます。

例えばIT戦略。ITは難しいという印象が強く浸透してしまった現状に、「ITを使えない人を出さない」という意図から、ユニバーサルデザインの概念が国の政策にも取り入れられています。具体的には、2001年に策定した「e-Japan戦略」により、世界最先端のIT国家になることを目指してきました。さらに、2006年以降は「いつでも、どこでも、何でも、誰でも」ネットワークに簡単につながる「ユビキタスネット社会」を実現するため、「u-Japan戦略」を策定し、2010年までにICT(情報通信技術)の構築を目指しています。

政府のIT戦略を受け、情報機器に関連する、多様な人に配慮した規格が制定されており、これらは、国や自治体の調達の際の基準としても利用されています。



ユニバーサルデザインの基本的視点が、JIS Z8071(高齢者及び障害のある人々のニーズに対応した規格作成配慮指針)で定められています。また、製品・サービス開発の基本指針(共通指針)と、個別製品分野の設計指針(情報処理装置、ウェブコンテンツ、電気通信機器、事務機器)は、JIS X8341-1,2,3,4,5(高齢者・障害者等配慮設計指針)で定められています。

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