*本講座は4回連載です
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文章作成は仕事の基本。論理的な内容を正確に伝達し、残しておくためには、やはり文章が一番です。現代人は書くことが苦手といわれますが、考えてみれば毎日の業務日誌やメールのやり取りも同じこと。文章を書かない日など、一日もないといってよいかもしれません。本講座は、「FUJITSUファミリ会2009年度論文 執筆の手引き」をもとに、日常のビジネスシーンで役立つ文章作成力と一般的な論文作成のためのポイントを4回連載でご紹介していきます。ぜひこの機会に文章作成力に磨きをかけてみてください。


第4回 推敲のススメ

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《第4回のねらい》
今日から使える「文章作成力」最終回は、文章を提出する前に必ず行っていただきたいことを解説します。本講座第1回から第3回を通して、「わかりやすい文章を書く」ということを解説してきました。最終回の今回は、1度書き終えた文章を見直す「推敲」のポイントについてご紹介します。


1.推敲とは

推敲とは、「詩や文章を作るにあたって、その字句や表現を練り直したりすること」と辞書にあります。中国唐の詩人が自分の句の表現に迷い、人に問いかけたことに由来する、中国の故事からきた言葉です。

推敲の目的は、論理の矛盾点や飛躍している箇所、誤記や誤字などを修正することです。筆のおもむくままに書き連ねると、表現が重複していたり、つい盛り沢山な内容になることがあります。文章を書き終えたら、少し時間を置いて推敲することで、よりよい言い回しを思いついたり、誤字・脱字などのケアレスミスを見つけることができます。1日くらい時間を置いてから推敲をすると、違う視点で見直すことができることもあります。文章を幾度も練って「推敲を重ねる」ことで、読み手の心により響く、また書き手の思いがより正確に伝わる文章に仕上げましょう。

2.簡潔にする推敲

  • 「重複」
    同じ意味の言葉が重なっていることです。「頭が頭痛」「馬から落馬」などです。これらは笑い話として有名ですが、探してみると案外あるものです。


    推敲前    昼休みは電気を消灯してください。

    推敲例    昼休みは消灯してください。


    推敲前    彼はその事業を立派に成し遂げ、大成した。

    推敲例    彼はその事業で、大成した。


  • 「重ね言葉」
    1つの文章に同じ言葉が繰り返し出てくることです。やむを得ない場合もありますが、できるだけ避けるようにしましょう。特に、近い位置にあるとくどくなり、論旨が曖昧になる場合があります。


    推敲前    毎日受け取る膨大な量の情報。
      膨大な量の情報の取捨選択は容易ではない。

    推敲例    毎日受け取る膨大な量の情報。その取捨選択は容易ではない。


    推敲前    多くのお客様から、そのご質問が多くあります。

    推敲例    多くのお客様から、そのご質問があります。


3.自然な表現にする推敲

  • 「助詞の羅列」
    「○○の○○の○○の」のような助詞の羅列が含まれる文章は、読み手に書き手の意図が正しく伝わらない場合があります。助詞の見直しをする際は不要な羅列がないかを確認しましょう。


    推敲前    本プロジェクトのリーダーの部長との打ち合わせの中で・・・。

    推敲例    本プロジェクトのリーダーである部長との打ち合わせで・・・。


    推敲前    本日のセミナーの担当講師の山田氏の助言を参考にする。

    推敲例    本日のセミナー担当講師山田氏の助言を参考にする。


  • 「修飾語の位置」
    修飾語は、修飾したい語のそばに置くようにしましょう。離れていると、何を修飾したいのか、曖昧になってしまいます。


    推敲前    本日、同時に演習問題と実践問題を行う。

    推敲例    本日、演習問題と実践問題を同時に行う。


    推敲前    一番その製品で恩恵を受けるのは、利用者であるべきだ。

    推敲例    その製品で一番恩恵を受けるのは、利用者であるべきだ。


  • 「統一」
    漢字、用語、文体等を統一することも重要です。主に以下のような点に注意しましょう。

    <漢字・ひらがな>
    漢字とひらがなの両方で表記できる言葉は、どちらかに統一しましょう。例えば、「明らか」「あきらか」、「皆様」「みなさま」「暫く」「しばらく」等です。一般に漢字は堅く、ひらがなは柔らかさを感じますので、文章の内容によって使い分けをすることをお勧めします。「御多幸」「有り難う」「~の様に」等は、一般的にひらがな「ご多幸」「ありがとう」「~のように」で表記されることが多いです。

    新聞社や出版社が監修・発行している用字用語集を利用して用語統一をはかるのも1つの方法です。

    最近は、アルファベット3文字の用語も増え、それに伴いカタカナも多く使われます。大前提として、理解してほしい単語には注釈をつける、ルビをふるなど、読み手にストレスを感じさせない読みやすさを意識することが大切です。

    <用語>
    用語も同じです。例えば、電気製品の取扱説明書に、よく「本取扱説明書(以下、取説)」とあります。この表記以降は「取説」に統一されなければなりません。「取扱説明書」は表記が統一されていないと、それ自体の信頼性が疑われてしまいます。

    <文体>
    「~です」「~ます」の文体を「敬体」、「~である」の文体を「常体」といいます。「敬体」と「常体」の混用は避けましょう。

    「私の父は警察官です。市民を守る父が、私の誇りである。」この文章は、「敬体(です)」と「常体(である)」の混用です。敬体はやさしく丁寧な印象、常体は簡潔で言い切る印象を与えます。それら文体が入り混じる文章は、読み手に混乱を招きます。
    しかし、1つの書類で敬体と常体を混用するケースもあります。報告書などの文中に箇条書きを入れる場合です。報告書では、「○○を報告します」などと前文を敬体で書いても、報告内容を箇条書きで「1.今回の対応は○○であった」「2.次回の対応を○○とした」と常体で書くことがあります(後述の推敲例「情報セキュリティ強化に関する対策」を参照)。ただし、こうした場合でも、敬体と常体は明確にすみわけ、同じ段落での混用は避けましょう。
    敬体と常体は、書こうとする文書の種類、内容にあわせて使い分けてください。

  • 「誤字」
    推敲の役割の1つに、誤字の発見があります。今ではほとんどがワープロソフトを使用しての文章作成といっても、過言ではありませんが、誤変換という落とし穴があります。変換時に迷ったときは、辞書を引く習慣を身につけましょう。
    誤字は、読み手の気持ちを冷めさせます。それどころか書き手の見識さえ疑われかねません。自分自身の推敲では見落としてしまうことも多いので、一度書き終えた後に、どなたかに読んでもらうことも誤字を防ぐ1つの方法です。

    いくつかの例をあげましたが、句読点の使い方や接続詞の使い方と同様、推敲に明確な決まりはありません。単純な誤記、誤字はもちろん、作成過程では気づかなかった論理的な飛躍のチェック、文章表現のわかりにくさなどを読み手の目で確認することが大切です。

4.実践(推敲をしよう)

それではこれまでのポイントを意識しつつ、文章の推敲例を見てみましょう。

〈例文〉

企業で最も大切な事として、コンプライアンスとCSRが良く取り上げられる。其のひとつに、個人情報の取り扱いについても上げられる。膨大な量の個人情報の作業を取り扱う熟達したエキスパートであっても、作業手順書に従わない勝手な判断での作業は危険である。

〈推敲例〉

企業でもっとも大切なことに、コンプライアンスとCSR(企業の社会的責任)よく取り上げられる。個人情報の取り扱いもそのひとつである。膨大な量の個人情報を取り扱うエキスパートでも、マニュアルにない作業は危険である。

例文は122文字。推敲例は106文字。約1.3割の文字量削減です。思い切って削除した部分もあります。読み手の頭に入りやすくなるよう、できるだけスリムにスッキリとした文章にしたいものです。

<課題文>
情報セキュリティに関する問題が多くのニュース番組でよく取り上げられ、問題提起されることが多くなっている。企業にとって情報漏洩は、イメージダウンにとどまらず企業の存続自体を危うくします。社有ノートPCの運用、管理に関する規定を以下に記します。社員の皆様の毎日の対策励行が情報漏洩を防ぎます。励行することをお願いします。
社有ノートPCは施錠管理します。社有ノートPCのチェーンロック施錠管理を徹底してください。チェーンロックがかからない社有ノートPCは専用ロッカーで一括管理すること。各部署、保有台数は責任者が徹底管理し、記録すること。キーは責任者が一括管理してください。
社有ノートPCの社外持ち出しは、各種パスワードの設定がされていること、暗号化ソフトがインストールされていること、そして、持ち出し許可シールが貼られていることを条件に許可します。返却されたPCは責任者が確認してください。
また、リムーバブルメディア等の取り扱いは、原則使用を禁止します。やむを得ず使用する場合は、目立つよう規格のストラップをつけ、ファイルやフォルダにパスワードロック等の保護対策を実施してください。

課題文は、最初の改行を境に2つの要素を持つ文章です。改行前は情報セキュリティに関する話、規定作成の理由、社員への遵守要望です。改行後は具体的な話です。肝心なのは改行後の文章のようです。しかし、1度読んだだけでは頭に入りません。確認のため読み直しても、よくわからない文章です。

推敲にはこれが正解というものはありません。できるだけわかりやすい文章にすることを心がけて、課題文を推敲してください。

次に課題文の推敲例をあげます。

<推敲例>
情報セキュリティ強化に関する対策

情報セキュリティがニュースでよく取り上げられます。企業にとって情報漏洩はイメージダウンにとどまらずに、存続をも危うくします。情報漏洩防止のため、下記のとおりノートPCの運用、管理に関する社内規定を作成しました。規定遵守をお願いします。

  1. ノートPCの管理に関して
    1. 1) チェーンロックを徹底し、キーは責任者が一括管理する
      チェーンロックがかからないPCは専用ロッカーで一括管理する
    2. 2) 責任者は台数を確認し記録する
  2. ノートPCの社外持ち出しに関して
    ノートPCの社外持ち出しは、以下の条件にて許可する
    返却後、責任者は台数を確認し記録する
    1. 1) 各種パスワードが設定されている
    2. 2) 暗号化ソフトがインストールされている
    3. 3) 持ち出し許可シールが貼付されている
  3. リムーバブルメディア等の使用に関して
    原則使用を禁止する。やむを得ず使用する場合は、以下を遵守する
    1. 1) 規格ストラップを装着する
    2. 2) ファイル、フォルダはパスワードロック等の保護対策を実施する

本連載講座第4回は「推敲のススメ」として、見直しの大切さを解説しました。推敲の心がけは、読み手に「読んでもらう」「理解してもらう」ための配慮を忘れない、ということです。物事を伝える際に最も大切なことは、読み手の立場にたってみることです。小説やコラム、新聞、小論文など、さまざまなジャンルの文章を読んでください。その際、書き手の意図が正確に伝わってくるかを意識してみましょう。
全4回の連載をとおしてお伝えしたかったことは、「書き手の意図を伝える」ためには「読み手の立場にたつ」ことが大切、ということです。その配慮がますます文章作成力を向上させ、読み手に真意が伝わる文章へと成長させてくれるでしょう。

[コラム] 漢字とひらがなのバランス

慶應義塾大学創始者の福沢諭吉は、文章を書く際は「漢字とひらがなのバランス」の大切さを提唱したといわれています。 時代とともに文章の「漢字比率」が低くなってきています。1900年頃小説では4割あったものが、1950年頃では3割に減ったと、元産業能率大学教授の安本美典氏が発表しています。

現在は、インターネットの普及により、世界の情報が目まぐるしく飛び交っています。その量も膨大です。「漢字とひらがなに加え、カタカナ(アルファベット)とのバランス」も大切な時代になったということでしょうか。

日ごろ目にするWebサイトは、高齢者や障がい者といった方々にも“使いやすい”よう、ユーザビリティガイドラインに沿ってつくられています。文章に関していえば、“万人に読みやすく”ということです。例えば、文字の判読が難しい方のために、文字を読み上げる機能が用意されています。自動的に読み上げるので、訓読み・音読みがある特定の漢字は、ひらがなで記載する、などといった対応もされています。

文章を読むメディアが多様化している現代では、それぞれの読みやすさが存在し、また、読みやすさそのものも時代の流れとともに変化しているのかもしれません。

今日から使える「文章作成力」
第4回 「推敲のススメ」のポイント


  • ●推敲は文章作成の必須事項。自分が納得するまで確かめる
  • ●読み手への配慮で、文章作成力がアップする

【参考文献】

  • 江川 純(レポート・小論文の書き方 日経文庫)
  • 野村 正樹(ビジネスパーソンの書き方入門 日経文庫)

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