\ こんなことが分かります /
- クラウド選定の際に考慮すべきグローバルリスク
「調達」「為替」「データ保護」 - 国産クラウドのメリット
世界情勢の影響に強いITインフラとは
「円安・円高」「データ規制」でクラウド活用“見直し”のリスク その回避策は
円安によるクラウドサービスのコスト上昇や、サプライチェーンの混乱に伴うハードウェア調達の停滞など、日本企業のITインフラはさまざまなリスクにさらされている。世界情勢がITインフラの構築や調達にもたらす影響を抑える方法とは。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)や世界情勢の不安定化、原油価格の高騰、急激な為替変動など、社会・経済環境を大きく揺るがす出来事が立て続けに起こった。「VUCA」(変動、不確実、複雑、曖昧)という言葉がある通り、現代は「不確実性」が極めて高い時代だ。特に世界規模で起こる突発的な事案が企業経営に大きく影響するようになった。
具体的な例として、COVID-19の拡大をきっかけとした世界的な半導体不足で、ハードウェアの調達に支障を来す企業が相次いだことが挙げられる。2022年に円ドル相場が円安に進行した際には、米国のITベンダーが提供する製品・サービスのコストが高騰し、日本企業のIT調達に大きな影響が及んだ。
そのような中で、企業の「デジタルトランスフォーメーション」(DX)の取り組みにおいても、機能の追加や規模の拡張・縮小が容易なシステムをいかに構築するかが、重要なテーマとして浮上している。
IT市場は、さまざまなリスクにさらされている。いかにこれらの影響を低減できるかが、企業のIT戦略の大きな柱の一つとなりつつある。では具体的にどのような点に留意すれば、予測困難なリスクを回避できるのか。
2020年のCOVID-19の拡大により、テレワーク用のITシステムの需要は急増した。その一方で、半導体不足やサプライチェーンの分断によってハードウェアの調達が停滞し、世界的に混乱が生じた。この出来事は、あらためて旧来のIT調達の在り方が持つ“弱点”を人々に意識させた。
「自社でハードウェアを購入してオンプレミスインフラに導入する」という従来のITインフラの構築方法は、「ハードウェアが調達できなくなる」という事態は想定していない。しかし新しいハードウェアが調達できないからといって、老朽化したハードウェアを使い続ければ、ハードウェアの故障やセキュリティ侵害のリスクが高まる。「企業がこうしたリスクを回避するには、自社のITインフラをオンプレミスインフラからクラウドサービスに移行するのが効果的です」。こう語るのは、富士通の竹内一裕氏(グローバルマーケティング本部 インフラ&ソリューションフォーカル統括部 デジタルインフラフォーカル部)だ。
クラウドサービスはユーザー企業が自らハードウェアを導入したり運用したりする必要がないため、ハードウェアの調達リスクを回避しやすくなる。クラウドサービスはオンプレミスインフラに比べて規模や構成の変更が容易という特徴もある。そのためビジネスを取り巻く状況が想定外に変化してしまっても、その変化に自社のシステムを合わせやすいというメリットが見込める。
ただしクラウドサービスに移行すれば世界情勢に起因するリスクを完全に回避できるわけではない。2022年は円ドル相場が円安に進んだことで、米国のクラウドサービスの利用料金をドル建てで支払っている日本企業が、利用料金の急激な上昇に悩まされることになった。
調査会社のIDC Japanが日本企業を対象に実施した「2022年国内クラウド需要調査」(注)によると、「2022年3月以降円安傾向にありますが、クラウドの利用状況や導入方針に影響はありますか?」という質問に対して「影響がある」と回答した企業が67.7%に上った。
大抵の場合、クラウドサービスの料金体系は、使った分だけ利用料金を後払いする「従量課金制」を採用している。近年では予期しない利用コスト発生を抑制するために、クラウドサービスの利用状況を慎重に管理する動きが広がりつつある。しかし利用量を想定内の水準に抑えられたとしても、為替相場が円安になれば、ドル建て払いの利用料金は増大する。
円建てで支払いができる外資系クラウドサービスの場合でも、毎月利用料金を見直して、料金改定を実施している場合がある。そのため急速に円安が進めば頻繁な値上げが発生することには変わりなく、ユーザー企業の負担は大きくなってしまう。
円安によるクラウドサービスの値上げリスクを回避する方法の一つが、「国産クラウド」の活用だ。「国産クラウドは、国内のベンダーが提供するクラウドサービスのことです。利用料金を円建てで支払うことができ、かつ為替相場の影響を受けにくいという特徴があります」と竹内氏は説明する。
国産クラウドであれば、短期間のうちに為替相場が急変したとしても、クラウドサービスの利用料金は急激に上昇しにくい。そのためユーザー企業は、クラウドサービスの予算計画や利用計画を立てやすくなる。
クラウドサービスを利用するときに生じる、「データ保護」にまつわるリスクも忘れてはならない。ユーザー企業が自社のデータを常に手元に置いて管理できるオンプレミスインフラとは異なり、クラウドサービスを利用する場合はベンダーが運用するインフラにデータを預けるため、「データの置き場所」が新たなリスクの火種となる可能性がある。
世界各地にデータセンターを置くクラウドサービスは、データを世界中のさまざまな場所に分散させて保管することが珍しくない。そのため場合によっては、データセンターが立地する国や地域の政府機関による介入を招く可能性がある。EU(欧州連合)による「GDPR」(一般データ保護規則)の施行で、こうしたリスクは広く知られるようになった。GDPRは、EU域内に個人情報を含むデータを置く場合や、EU市民の個人データを扱う場合にさまざまな規制を設ける規則で、企業が違反した場合は罰金を科せられる。
クラウドサービスを利用する場合は、こうした各国の法規則がもたらすデータ保護リスクを念頭に置く必要がある。2018年には米国において「米国クラウド法」(CLOUD Act:Clarifying Lawful Overseas Use of Data Act)が成立した。同法によって、米国内に本拠地を持つ企業の「米国外に保存しているデータ」に対して、米国政府が合法的にデータの閲覧や差し押さえを要求しやすくなった。CLOUD Actは犯罪捜査における証拠提出を目的としており、米国政府が無制限にデータを閲覧することを可能にするわけではない。「ですが外資系ベンダーのクラウドサービスで管理するデータの機密性が、外国政府の介入によって損なわれる可能性がゼロでないことを、ユーザー企業は念頭に置いておくべきです」と竹内氏は説明する。
こうしたリスクを回避するために、近年では「ソブリンクラウド」と呼ばれる形態のクラウドサービスが登場している。これはデータセンターが立地する国や地域が定めるプライバシー規制に準拠し、その国や地域の第三者機関による監査を通じてセキュリティを保証しているクラウドサービスを指す。
ソブリンクラウドはデータセンターが立地する国の中でデータを保管する点と、他国による法的規制の影響を直接受けないことを保証する点が大きな特徴だ。
富士通が、VMwareのサーバ仮想化ソフトウェア「vSphere」を基盤として提供するクラウドサービス「FJcloud-V」は、日本企業がソブリンクラウドのメリットを得られるクラウドサービスの一つだ。同サービスは日本の個人情報保護法に準拠しており、「ISMS」(情報セキュリティマネジメントシステム)や「ISMAP」(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)など日本国内の複数のセキュリティ認証を受けている。EU域内の個人データを取り扱う場合は、GDPRに準拠した形でサービス提供をしており、先に挙げたソブリンクラウドの要件を満たしている。
FJcloud-Vは国産クラウドであるため、先に述べた為替リスクによる影響を軽減できる。それ以外にも、海外ベンダーのクラウドサービスと比べてさまざまな点で強みがあると竹内氏は強調する。「クラウドサービスはデータの転送量に応じて課金されることがあり、知らないうちに利用コストがかさみがちです。FJcloud-Vは10T(テラ)Bまでデータ送出コストが発生しないので、利用コストを抑えやすいと考えています」(同氏)
竹内氏によると、FJcloud-VはSLA(サービスレベル契約)においても強みがあるという。「保証稼働率99.99%」を打ち出しているクラウドサービスの中には、99.99%を保証する条件として「複数のデータセンターを用いたクラスタ構成を組むこと」を挙げている場合がある。「FJcloud-Vはサーバ1台、単一ゾーン構成でもSLA99.99%を標準で保証しているので、高い稼働率を少ないコスト負担で実現できます(図1)」と、同氏は説明する。
FJcloud-V(図2)はサポートサービスとして、「日本語によるサポート」「メール・電話で24時間365日のサポート」が無料で受けられる。有償の「エンタープライズサポート」を契約すると、事業に大きな影響を及ぼすトラブルの問い合わせに対して、2時間以内(目標値)に初回応答を受けることができるようになる。
既に複数の日本企業が、世界情勢によるリスクを回避する目的でFJcloud-Vを導入して成果を上げている。JA福岡県協同情報センターは、DX推進のために基幹システムの移行を進めている。さまざまなクラウドサービスを比較検討した結果、為替変動によって利用料金が上昇する事態を避けるために、国産クラウドであるFJcloud-Vを採用した。
学校法人片柳学園は、オンプレミスインフラで運用していたシステムの定期リプレースに要するコストや手間を軽減するために、FJcloud-Vへの移行に踏み切った。オンプレミスのハードウェアの購入や維持に掛かっていたコストを削減すると同時に、ハードウェアの調達リスクを回避して、世界情勢の影響を受けにくく安定して運用し続けられるITインフラが実現した。
富士通は今後も日本企業ならではの強みを生かしながら、ユーザー企業のDXを支援する意向だ。「当社のクラウドサービスは10年以上の提供実績を持ち、9000社以上のお客さまに導入していただいています。企業がDXを進めるためのITインフラとして、国産クラウドのFJcloud-Vの導入を検討していただければ幸いです」(竹内氏)
[2023年9月 掲載]
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