クラウドサービスの可用性を考える

進む基幹系のクラウド化、
「止まらないシステム」実現への3つのポイント

  • (注)
    2023年6月に日経クロステック Activeに掲載されたものです。肩書などは掲載時のものになります。

クラウドには特有の可用性の考え方がある

多くの日本企業が直面する人材不足の問題。IT部門では、長年にわたり運用してきたオンプレミスシステムを維持することが困難になりつつある。また、ハードウエアやソフトウエアに対する投資とそれらの減価償却が、企業経営の自由度を下げる要因だという認識も広がってきた。このような状況を受けて進んでいるのが、システムのクラウド化だ。基幹系システムのクラウド化に取り組む企業も増えており、この流れはさらに加速するだろう。

基幹系システムのクラウド化で重要になるのが、可用性をどう担保するかということである。多くの社内業務や顧客との取引を担ってきたシステムであるがゆえ、クラウド移行に当たっても、最低限そのサービスレベルを維持することが求められる。

ここでネックになるのは、オンプレミスとクラウドで可用性の考え方が大きく異なることである。これまでITインフラ担当者は、強い責任感と自負を持って「止まらないシステム」の実現に取り組んできたはずだ。ところが、クラウド移行後は既存の技術・ノウハウだけでは不十分になる。クラウド特有の可用性の考え方を正しく理解し、適切な形でインフラを構築・運用することが肝心だ。

もっとも、過剰に不安を抱く必要はない。現在のクラウドは、既に十分な安定性・可用性を実現しており、ミッションクリティカルなシステムを稼働できるだけの環境を整えている。活用の要点さえ押さえれば、新しい環境といえども恐れることはない。そこで今回は、クラウド特有の可用性の概要と、それを踏まえた環境構築のポイントについて紹介しよう。

押さえるべき「3つのポイント」とは

システムの可用性は一般的に「稼働率」で表現される。これは全時間に対する動作可能時間の割合で、オンプレミスでもクラウドでも同じ用語が使われる。

「ただ、クラウドの場合、標準提供される機能・サービスだけでは公表されている稼働率を達成できないケースがあります。例えば、『稼働率99.99% ※クラスタや複数ゾーンを利用した場合』というのがその例です。このクラウドサービスで稼働率99.99%を実現したければ、オプションサービスの利用費を支払わなければなりません」。そう語るのは富士通の横山 尚人氏だ。

グローバルマーケティング本部
ソリューションマーケティング統括部
横山 尚人

それではクラウドの可用性を確保する上で、注目すべきポイントはどこなのか。これについては、次の3つを確認することが重要だという。

1つ目は「サーバー単体での稼働率」である。トランザクション系のようにデータの整合性が重要視されるシステムでは、サーバー単体の可用性をできるだけ高めておくことが望ましい。そのため、ここの数字を見ることが重要なのだ。
「基幹系システムの基盤にする場合、単一のゾーンまたはサーバー単体の稼働率が99.99%に達しているクラウドサービスを選ぶことをお勧めします。同時に、SLAが達成されなかった場合の事業者側のペナルティーや、その適用条件もチェックしておきたいところです」と横山氏は説明する。

HA構成やコンポーネント冗長化も要チェック

2つ目は「HA(High Availability)構成」をサポートしているかどうかだ。HA構成とは、複数の物理サーバーを組み合わせることで、より高い可用性を実現する手法のこと。機器の故障発生確率をゼロにすることはできないため、万一故障した場合にも自動的に正常な環境を立ち上げ、システム停止期間を最小化できる環境が望ましい。具体的には、自動フェイルオーバーの仕組みなどを備えているかどうかを見ることだ。

そして3つ目が、サーバー、ディスク、ネットワークなど、システムを構成する各種コンポーネントが冗長化されているかどうかだ。中でも、ストレージシステムを構成するディスク/SSDの冗長化には注目したい。

富士通は、これら3つのポイントを満たすクラウドサービスを提供している。それが、「ニフクラ/FUJITSU Hybrid IT Service FJcloud-V」(以下、ニフクラ/FJcloud-V)である。

「ヴイエムウェア社の協力を得て開発したクラウドサービスです。オンプレミスのVMware vSphere®環境をそのままクラウドに移行できるほか、高い可用性を標準で備えているため、基幹系システムの移行に適しています。また、基盤にはインテル社との技術協業を経て自社開発された『FUJITSU Server PRIMERGY』を採用し、高信頼、安全・安心なクラウド環境を実現しています」と横山氏は紹介する。

具体的に、SLAはサーバー1台の月間稼働率99.99%を保証。クラスタ化やマルチゾーン化を行わない状態での高可用性を実現している。またHA構成も標準提供。物理サーバー故障時には5分以内に切り替えを実施し、稼働していたVMを自動で引き継ぐことが可能だ。ユーザーが複雑な環境構築作業を行うことなく、オンプレミスのホットスタンバイに相当する構成を実現できる(図1)。

図1 ニフクラにおけるHA構成(自動フェイルオーバー)のイメージホスト(中央)の物理サーバーが何らかの原因で停止した場合、ほかの物理サーバー上で自動的に仮想マシンを起動してフェイルオーバーされる。ハードウエアの故障が完全には防げない以上、止められないシステムにはこのような仕組みが不可欠となる

サーバー、ディスク、ネットワークの各種コンポーネントが冗長化されているほか、ストレージも「RAID6」相当の冗長化が施されている。これにより無停止メンテナンスを実現し、ユーザー環境への影響を極少化しているという。

標準以上の可用性を実現する構成パターンも提案

加えて、止まらないシステムの実現に向けてもう1つ忘れてはいけないのが、クラウド特有の「共同責任モデル」という概念である。

クラウドでは、サーバーなどのインフラ機器の管理・保守は事業者側が責任を負うが、どのインフラ機能をどのように組み合わせるか、設定や運用をどう行うかはユーザー側の責任範囲となる。またOSより上のレイヤーやミドルウエアも、ユーザーが設計・実装・運用しなければならない。つまり、クラウドのシステムの可用性は、クラウド事業者とユーザーが共同で実現するものといえるのだ。

「特に基幹系システムのクラウド化では、クラウドサービスの標準機能を上回る可用性が必要になることが少なくありません。そのため、この共同責任モデルを正しく理解することはとても重要です」(横山氏)

ただ、これは不慣れなユーザーにとってはなかなか難しいことだろう。そこで富士通は、ニフクラ/FJcloud-Vのユーザーに対して4つの「高可用実装パターン」を提案している(図2)。

図2 ニフクラ/FJcloud-Vにおける高可用実装パターンの例長年のクラウドサービス提供経験を基に、標準で提供されるよりも高い可用性を実現するための構成パターンをユーザーに提案している

「中でも特徴的なのは、ストレージを冗長化する際、物理的に異なるハードウエアを用いる『ディスク冗長化パターン』です。これは『標準フラッシュドライブ[A/B]』と『高速フラッシュドライブ[A/B]』というディスクコピー機能を前提としたもの。つまり、高速・高頻度な書き込み/読み込みが発生するデータベースなどの環境でのみ必要になるようなパターンといえます。このようなニッチなニーズにも応えられる点が、ニフクラ/FJcloud-Vの強みだと考えています」と横山氏。同社は、4つの高可用性パターンに関するeBook「可用性向上のポイント」やニフクラ/FJcloud-VのクラウドデザインパターンのWEBページを用意している。より詳細な内容はそこで確認してほしい。

さらに富士通は、ニフクラ/FJcloud-Vと同等の機能を顧客拠点内に展開できる「FJcloud-Outstation」も用意。「組織のルールやガイドラインにより、パブリッククラウド環境へのシステム展開が難しい」という顧客にも、クラウドの価値を届けている。仮想マシン20~30台の小規模から利用できる点が注目を集め、検討する企業は増加中だという。同社は今後も顧客の声を聞きながら、ニフクラ/FJcloud-Vのサービスを拡充していく計画だ。

基幹系システムのクラウド化に当たり、最も重要な検討事項の1つといえる可用性。「止まらないシステム」を実現する上で、今回の記事の内容を役立ててもらえれば幸いだ。

  • ※1
    本記事で紹介するFJcloud-Vは第 3 世代インテル® Xeon® スケーラブル・プロセッサーを搭載した「FUJITSU Server PRIMERGY」を採用。高信頼、安全・安心な環境と最適な移行手段を提供しています。PRIMERGYや、HCI(FUJITSU Integrated System PRIMEFLEX for VMware vSAN)に採用されている第3世代インテル® Xeon® スケーラブル・プロセッサー・ファミリーはクラウド・コンピューティング、リアルタイム分析、ミッション・クリティカルな業務の処理、ビッグデータのインサイトを提供します。データセンターの効率性および信頼性が向上し、あらゆるワークロードの処理に対応します。
  • ※2
    Intel、インテル、 Intel ロゴ、その他のインテルの名称やロゴは、 Intel Corporation またはその子会社の商標です。その他の社名、製品名などは、一般に各社の表示、商標または登録商標です。

FJcloud-Vユーザーのための可用性向上のポイント

\ こんなことが分かります /

クラウドならではの

  • 可用性のデザインパターン
  • 責任分界点の考え方

[2023年11月 掲載]

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