VMware環境に手を加えず、クラウド化する!

基幹系システムのクラウド移行を阻む「3つの壁」
その内容と乗り越え方は

  • (注)
    2022年8月に日経クロステック Activeに掲載されたものです。肩書などは掲載時のものになります。

2025年を目前に、
基幹系システムのクラウド移行が加速

新型コロナウイルスのパンデミックや激甚化する自然災害、気候変動など、様々な要因によって先を見通すことが難しくなっているVUCAの時代。このような環境の変化に企業が対応していく上では、経営を支えるITインフラを見直すことが不可欠だ。

既存の常識が通用しない時代、DXを押し進めてビジネスを変革しなければ、企業が競争力を高めていくことは難しい。それには、既存のレガシーシステムを脱却することが前提になる。デジタル人材が不足する中、運用に多くの手間とコストがかかるインフラを自前で持つことは、ビジネススピード低下の要因になるからだ。「2025年の崖」を越えるための取り組みを、各社が続けている。

この状況を受け、加速しているのがクラウドへの移行である。既に浸透している情報システムに加え、近年では業務の根幹を担う基幹系システムのクラウド移行の機運も高まっている。運用にかかる負荷やコストを削減し、ビジネスの俊敏性を高める狙いである。

もっとも、これはいうほど簡単ではない。失敗すれば業務を止めざるを得ず、顧客や取引先のビジネスに大きな影響を与えてしまう。当然、自社の信用失墜も免れられないだろう。この状況を回避し、スムーズなクラウド移行を成功させるにはどうすればよいのか。

これについてソリューションベンダーの富士通は、数々の顧客プロジェクトでの経験から、クラウド移行に伴う「3つの壁」が見えてきたという。壁とは具体的にどのようなものか。そして、壁を乗り越えるための処方箋は? 日経BP 総合研究所の大和田 尚孝が聞いた。

クラウド移行は想像以上に手間がかかる

大和田 最近はクラウド化の流れが基幹系システムにも広がりつつありますが、ここで課題を抱えている企業は少なくないようです。これについて富士通は、クラウド移行に伴う「3つの壁」があるということですが、これはどういったものでしょうか。

佐藤 3つの壁とは、これまで多くのクラウド移行プロジェクトをお手伝いしてきた当社が、お客様の課題を集約して整理したものです。

1つ目の壁は、クラウド移行には想像以上に多くの手間がかかるということです。一般的なパブリッククラウドへ既存システムを移行する場合、クラウド事業者が提供するクラウドサービスの仕様に合わせて、アプリケーションの非機能要件部分や運用方法を改修・変更しなければなりません。ネットワークにおいてもIPアドレスが変わるため、ユーザー側の環境も変更を余儀なくされます。また、移行時のダウンタイムを考慮し、どのタイミングで実施するか、利用部門との調整に基づいてスケジューリングすることも重要です。

セキュリティ面でも、自社の要件とクラウドサービスプロバイダのポリシーが合致するのかを事前にすり合わせる必要があります。そして、移行時のダウンタイムを考慮し、どのタイミングで実施するか、利用部門との調整に基づいてスケジューリングすることも重要です。

DC・クラウドサービス事業本部
クラウド戦略事業部クラウドビジネス部
マネージャー(クラウドサービス企画担当)
佐藤 哲也

大和田 それがスムーズな移行の妨げになるのですね。どのようにすれば、それを乗り越えられるのですか。

佐藤 多くのお客様は、VMware vSphere®で仮想化したシステムを運用しています。それらのシステムに手を加えることなく、容易にクラウド化できることが望ましいです。当社で提供するvSphereを基盤とした「FUJITSU Hybrid IT Service FJcloud-V」(以下、FJcloud-V)であればVMware vSphere®で仮想化したシステムをそのままクラウド化して利用し続けることが可能になります。また、インテル社との技術協業を経て自社開発された「FUJITSU Server PRIMERGY」を採用し、高信頼、安全・安心な環境と最適な移行手段を提供しています。これが解決策の軸となります。

さきほど、クラウド移行には想像以上に手間がかかるとお話ししましたが、一口に「移行」と言っても、仮想マシン1台の移行から数十台の移行まで規模感も様々ですし、無停止で移行切り替えを行いたいなど、お客様の要件も様々です。そういったお客様の要件に対し、複数の移行方式をご用意しています。

日経BP総合研究所
イノベーションICTラボ所長
大和田 尚孝氏

大和田 具体的にはどのようなものですか。

佐藤 WebブラウザやAPIを使い、仮想マシンの構成や状態をデータ化したOVFファイルをFJcloud-Vにアップロードすることで既存環境を変更せずに、1VM単位で移行できる「VMインポート」はもっともシンプルな方法です。一方で大量のVMを一気に移行したいというニーズがあれば、複数のOVFファイルをメディア郵送で受け取り、当社側でFJcloud-Vの環境に展開することも可能です。

お客様のオンプレミス環境と移行先のFJcloud-Vを仮想ネットワークで接続する「Liveマイグレーション」もあります。大規模なシステムで大量のVMを移行する場合でも、移行期間やダウンタイムを最低限に抑えることができます(図1)。

図1●ニーズに合わせた移行方式を用意 1VMを手軽に移行する方式から、複数VMを短時間で移行する方式、無停止で切り替える方式までニーズにあわせて選択できる

大和田 1つ目の壁である移行の手間に対しては、複数の移行方式を支援策としているのですね。では、2つ目の壁とは何でしょうか。

オンプレミスの「見えないコスト」と
クラウド移行のコストメリット

佐藤 クラウド移行を阻む要因として、移行後のコスト効果が分かりにくいということが挙げられます。オンプレミスとクラウドは性質が大きく異なるため、単純比較は難しいのですが、それでもコストメリットを明示できなければ予算を確保することはできないでしょう。

大和田 オンプレミスのコストとクラウドのコストを算出したら、それほど差がなかったお客様が多いということですか。

佐藤 はい、そうです。実は、オンプレミス環境では「見えないコスト」が多々発生していますが、お客様のコスト算出時には考慮されていないことがほとんどです。

例えば、ミドルウェアのライセンスコストや老朽化した機器のリプレースコスト、その際に発生する計画の時間や手間、リプレース時に一時的に必要になるハードウェアのコストなども考慮しなければなりません。

大和田 実際は、オンプレミスではそれらのコストがかかっており、クラウドではその大部分が不要になる。そのため、クラウド化のコストメリットが見えてくるのですね。

佐藤 おっしゃる通りです。設計や運用の違いによるコスト差もあります。FJcloud-Vでは基盤の完全冗長化による無停止メンテナンスや自動フェールオーバー(HA機能)が標準装備されているため、オンプレミスで同等の構成を自社で実現する場合と比較したとき、クラウド化のメリットはさらに見えてくるはずです。

オンプレミスの資産が残っても柔軟に連携可能

大和田 クラウド化のコストメリットがあらかじめ分かれば、移行のハードルは下がりますね。では、最後の3つ目の壁についても教えてください。

佐藤 様々な事情でオンプレミスに残さなければならないシステムが出てくることです。クラウド移行を大方針に掲げても、「保守契約が切れるまで残したい」「システムが古すぎて改修できない」といった理由から、オンプレミスに残さざるを得ないシステムが出てきます。これらとクラウド上のアプリをどのように連携させるかが、重要な検討事項になるのです。

大和田 オンプレミスも残しつつ、クラウド移行可能なシステムを移行してハイブリット構成にならざるをえない、ということですね。具体的には、オンプレミスのシステムとどのように連携させることができるのでしょうか。

佐藤 お客様拠点とFJcloud-Vの間をL2接続のネットワークで接続するサービスを用意しています。これにより、FJcloud-V上のシステムとオンプレミスに残るシステムを、同じ感覚で利用できます。IPアドレスが変わらないため、お客様側の既存システムの設定変更など環境の改修が不要です。

多様化する企業の要望に応じて
段階的にクラウド移行を支援

大和田 多くの企業が、クラウド移行を行う中、オンプレミスとクラウドが混在するハイブリッド環境の利用が多いのは、3つ目の壁のような背景があるのですね。FJcloud-Vはその基盤になるわけですが、実際に移行を検討する企業に対して、どのような支援を提供できるのでしょうか。

佐藤 富士通では、お客様のクラウド利用を5つの段階に分けて、ご要望に沿ったクラウド活用を支援しています(図2)。

図2●5ステップの段階移行 クラウドの小規模な利用から徐々に利用拡大を図りつつ、将来的な最終的なハイブリッドクラウド環境の最適化につなげる

この「クラウド利用5つのステップ」では、ステップ1のオンプレミスサーバーの仮想化から、ステップ2のクラウド体験・評価、ステップ3のクラウド利用の拡大、ステップ4のビジネススピードに対応するクラウド、ステップ5のクラウド利用の最適化まで、一連の流れの中で、無理なくお客様の状況に合わせてクラウドネイティブの世界に移行できるようなアプローチをステップごとに提案しています。

基幹系システムのクラウド移行は増えていますが、いきなりすべてのシステムに対してクラウドを使うのではなく、段階的なクラウド活用の中で徐々にクラウドネイティブなインフラへとシフトし、クラウド利用を最適化させていくことをお勧めしています。中でもステップ2と3は、プロセスの肝になる部分といえます。

まずステップ2では、業務の中で稼働しているシステムの中から、影響が少ないVMをクラウドに移行し、クラウドを実際に体験して評価します。FJcloud-VではvSphere環境を使っているので、オンプレミスとクラウドをL2接続できます。そのため、いきなりすべてのシステムを無理やりクラウドに移行する必要はありません。小規模にクラウド移行を実施することで、運用時の課題が可視化でき、その上でクラウドの運用ノウハウを得ることもできます。

その後、お客様がクラウドの利用に慣れてから、ステップ3でシステムの本格的な移行を行います。クラウドの移行自体は簡単ですが、移行する際にシステムのパフォーマンスや取り扱うデータの置き場所などのセキュリティも考慮する必要があります。このようなニーズに対しては、お客様所有のデータセンターなど、お客様が用意した環境内にFJcloud-V環境を構築・提供できる「FJcloud-Outstation」を活用することもできます。

大和田 クラウド移行の支援機能について、今後の強化予定を教えてください。

佐藤 ハイブリッド機能の強化として、コントロールパネルの強化や、ミドルウェアの対応強化などに加え、バックアップやDRを中心に、「既存システムの移行と段階的な最適化を容易に実現できるクラウド」という売りの部分をさらに強化します。例えばFJcloud-Outstationは、これまでシステム規模に合わせて提供してきた「Small」「Medium」「Large」の3メニューに加え、より小規模な環境を利用したいというお客様の声に応え、20~30VMから対応可能な「XSmall」を追加しましたが、こちらもエンタープライズ利用を意識したセキュリティや可用性に関する機能強化を行っていく予定です。これにより、今後も一層幅広いお客様の声に応えられるようにしていきます。

大和田 まずは最初の一歩を後押しして、そこから段階的なクラウド活用を支援するわけですね。日本企業のクラウド移行が進めば、その先のDXも加速し、日本全体の競争力強化につながっていくと思います。今日はありがとうございました。

スタートガイド

\ こんなことが分かります /

  • FJcloud-Vのメリット
  • AIを駆使した高品質な運用体制
  • オンプレミスからの移行までの5つのステップ
  • FJcloud-Vを活用した導入事例 9選
  • FJcloud-Vの提供機能

[2023年1月 掲載]

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