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いまどきの“音楽配信”入門



いま巷では“音楽配信”が話題になっているようです。そもそも音楽配信が日本で最初に話題になったのは1997年以降、3年ほどの期間だけでした。ほとんど定着することなく、一旦は下火になってしまいましたが、その後は米国での著作権問題の成り行きなどを、日本の業界もじっと見守っていたわけです。そしていよいよ今年になって、まるで思い出したかのように、さまざまな報道が音楽配信のニュースを流しはじめました。確かに忙しい現代人にとって、レコード店、否CDショップに足を運ぶのはおっくうなもの。もしネットで直接、デジタル楽曲を手に入れられるというのなら、それは大きな魅力にちがいありません。それではいったい、日本の音楽配信はいま、どのくらいまで進んできているのでしょうか。いったいなぜ急に音楽配信が普及しはじめたのでしょうか。

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音楽配信の歴史をひもといてみる

米国でインターネットによるデジタル楽曲の配信がはじまったのは1990年代も終りごろ。さすがに世界の音楽大国です。やがてその波は日本にもやってきて、国内でも1997年にミュージック・シーオー・ジェーピーが、1999年にはソニー・ミュージック・エンタテインメント(SME)などが音楽配信を開始しました。当時音楽配信をはじめたのは音楽制作会社、CD販売会社がほとんど。2000年4月、東芝EMIが椎名林檎の新曲を無償でダウンロード提供し、2週間でおよそ25,000件がダウンロードされたことが話題になったのを覚えている方も多いでしょう。

一見順調なすべり出しであるかのように思えた音楽配信業界でしたが、まもなくさまざまな問題が噴出し、ほとんど普及しないまま、2002年以降は音楽配信が巷間で話題になることはありませんでした。

その理由は大きく分けると3つほどあったようです。

  1. 音楽配信会社の問題
    当時の音楽配信はCD販売会社が行なっており、新曲プロモーションのツールとしての位置づけが顕著でした。また自社レーベルのアーチストや曲など、ラインナップが偏っていて、ユーザーに拡がりができなかったことです。

  2. ユーザーの使い勝手の問題
    配信プラットフォームやフォーマットが統一されておらず、ユーザー側の選択肢が考慮されていませんでした。加えて、1曲あたりの値段が平均して350円と高く、購買意欲をそそらなかったこともかなり、ユーザーの足を引っ張ったようです。

  3. ITインフラの問題
    ナローバンド時代には1曲のダウンロードに10分以上も掛かってしまうことさえありました。つまり今日のようにブロードバンドが普及するまでは、基本的に大容量のデジタルデータを配・受信する環境ではなかったのです。
    ひと言で言えば、音楽配信を実施するには、企業もユーザーもインフラも、当時はまだまだ未成熟であったといえるでしょう。

一方、本家の米国では、P2P(Person to Person)でのMP3ファイル交換の違法問題、すなわち著作権問題が大きな話題になっていました。そもそもこの問題をクリアしなければ、だれでも簡単に、かつ安価に音楽を手に入れることができる、という音楽配信のメリットは、その根底から足をすくわれてしまうはずです。結局後発組の日本は、米国の動向をただ見守るしかなかったというわけです。

米国の著作権問題に対するひとつの結論は、ライセンス管理機能を持った配信方式を採用することでした。つまり曲をダウンロードした後、回数に制限をつけてコピーできるようにすることで著作権を守るという考え方です。こうした制限を設けることでCDとの差別化を確保し、ユーザーの選択肢を拡げる道を選びました。しかしP2Pによる音楽配信を不正コピーによる著作権の侵害と考えるか、それとも音楽普及のために必要な時代の流れと捉えるかについては、いまだに意見が大きく分かれているようです。

またもうひとつの課題、つまりファイル形式やプレーヤーソフトの違いによって、デジタルデータがパソコンや特定の再生機器でしか聴けないという制約は、企業努力もあって徐々に解決しつつありますが、まだまだ十分とはいえない状況にあるようです。この問題はわれわれにとって切実です。音楽配信を試してみようか、どのプレーヤーを選ぶか、などを決断する場合にもっとも重要な選択肢のひとつだからです。


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iTMSショックがもたらしたもの

本場米国で突然、音楽配信の歴史を変える事件が起こりました。アップル社のiTMS (i Tunes Music Store)の登場です。それは2003年5月のことでした。なんと配信開始直後、1週間で100万曲を販売したといわれています。

パソコンメーカーとしてはウィンドウズ陣営に押されていたアップル社が、どちらかといえばサイドビジネス的なこだわりで開発したのがiTMSでした。iMACシリーズに添付アプリケーションとして搭載されたiTunesは、起動すれば簡単にネットを通じて楽曲を購入できる仕組みになっていました。しかしiTMSがヒットした理由はそれだけではありません。iPodというまったく新しい音楽ツールを開発したこと、そしてそれまでよりも格段に緩いライセンス制約でレーベルを越えて幅広くの楽曲をラインナップさせたこと、1曲99セントという低価格に設定したことなどに爆発的な成功の要因があります。

iTMSのヒットを皮切りに、その他の企業も競って低価格化、高サービス、曲数の拡大を推し進めました。これが現在の米国の音楽配信市場の基盤となったわけです。現時点での米国の音楽配信事情は、無料で楽曲を手に入れることができるP2Pサイトと、有料で楽曲をダウンロードするiTMSなどのサイトが、利用者数において拮抗しているといわれています。ということは、有料であっても魅力的なサイトなら、音楽配信サービスは十分ユーザーを確保できることが実証されたといえるでしょう。この流れが果たして日本でも通用するのか、非常に興味をかき立てるテーマではないでしょうか。

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iTMSの日本上陸で音楽配信業界はどう変わる?

ことし2005年8月5日、アップル社のiTMS-JAPANが日本でサービスを開始しました。アップル社の発表によると、開始4日間で100万曲を販売したということです。

iTMSのサービスを利用するにはiTunesが必要ですが、Mac版はもとよりウィンドウズ版も無料でダウンロードできます。ちなみにiTuneの対応OSは、MacならOS10から、WindowsはXP以降からですのでご注意ください。

Web上のストア内には常時、全世界100万曲のコレクションが用意されていて、24時間簡単に自分のPCにダウンロード可能です。1曲の値段は150円(中心価格)、購入前に30秒間試聴できるので、曲名だけでは不安という向きには購入前に確かめることもできます。またプロモーション用に無料のダウンロードができる楽曲も数曲用意されています。

ダウンロードした楽曲は、パソコン内に保存するかポータブルプレーヤーであるiPodやオーディオCD、MpegCDにコピーして聴くことができるというわけです。自分だけのオリジナルCDコレクションを、iTunesひとつで作成できるわけです。

いよいよ上陸してきたiTMSに対し、日本の音楽配信会社の方もただ手をこまねいているわけではありません。現在日本でサービスを行っている有料音楽配信サイトは、おもなもので8社あります。

Mora(運営会社:レーベルゲート)、bitmusic(ソニー・ミュージックネットワーク)、Yahoo!ミュージックダウンロード(ヤフー・ジャパン)、@MUSIC(エイベックス)、na@h!(ビクターエンタテイメント)、MSNミュージック(マイクロソフト)、OnGen(USEN)、music.co.jp(ミュージック・ドット・ジェイピー)です。

それぞれサービス内容と曲数、一曲あたりの価格、ライセンス方式(コピー回数)などに違いがあります。またiTMSの開始を受けて一斉にサービス内容を変更しているので、必ずしも現状を表しているものではありませんが、それらのサイトのうち1万曲以上収録しているものだけを選んで、参考までに一覧表にしてみました。ただしサービス内容のデータが流動的であるため、サイト名は伏せておきます。

主な有料音楽配信サービスサイト一覧
サイト名 ファイル形式 収録曲数(約) 一曲あたりの価格 コピー可能回数
iTMS AAC/MP3 100万曲 150円(中心価格) iPodに5回、CD-Rコピーは無制限
A社 ATRAC3 20万曲 99〜368円 3回
B社 ATRAC3/WMA 10万曲 99〜368円 楽曲による
C社 ATRAC3 10万曲 99〜380円 3回
D社 ATRAC3 9万曲 99〜368円 3回
E社 ATRAC3 4万曲 158〜210円 3回

各サイトから楽曲をダウンロードするときは、それぞれ専用のダウンロードソフト、プレーヤーソフトが必要で、また選曲方法、ダウンロード方法、購入の仕方にも違いがありますので、サイトの説明に従って下さい。

購入までのおもな流れ

いきなり8月にオープンしたiTMSの、収録曲数100万曲、コピー回数、一曲あたり価格を比べると違いは歴然ですが、今年から来年にかけておそらく、各社ともiTMSを猛追することになるのは必至です。

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ファイルを制する者は、音楽配信を制す

先の表のファイル形式欄に書かれているATRAC3、WMAとは配信時の音楽ファイル形式のことです。この音楽ファイル形式を選ぶのが音楽配信初心者にとっては、おそらく一番頭の痛い問題でしょう。しかし逆にいえば、このファイル形式の違いを理解しさえすれば、音楽配信サイトの選択はもとより、ポータブルプレーヤー選びのためのハードルもほぼクリアしたのに等しいとさえいえます。

ネットで手に入れた楽曲をPCに取り込むときにはファイルを変換して保存しなければなりません。PCで聴くだけという人は多くないでしょうから、ファイルのことを理解しておく必要があります。

現在日本で発売されているハードディスク型ポータブルプレーヤーで使われているフォーマット形式はさまざまで、ユーザーにとっては1番気になる問題です。パソコンでCDを録音したり、サイトからダウンロードした楽曲を保存したりする場合、どのファイル形式を選ぶかは、その後自分がどんな機器を使って音楽を聴くのか、あるいは複数のプレーヤーを使用するのかなどと深く関連しているからです。これまでわれわれは好きな楽曲をCDで購入していたので、基本的にはCDを持っている限り楽曲はオリジナルを保っていました。ところが音楽配信サイトから楽曲をダウンロードするようになると、もともとの音楽ファイル形式を自分のパソコン環境やライフスタイルに合わせなければなりません。つまり最初にダウンロードしたファイル形式が自分だけのオリジナルになるわけです。このことを良く理解して音楽ファイル形式を選ぶ必要があります。

従来の携帯プレーヤーと音楽配信型プレーヤーの違い
おもな音楽ファイル形式
ファイル形式 解説
MP3 もっとも普及しているファイル圧縮形式。ほとんどのプレーヤーで再生できる。圧縮効率は中程度。(ビットレート:16k〜320kpbs)
AAC アップル社のiPod専用のためにつくられたファイル形式で、他社のほとんどの機器では再生できない。
ただし圧縮効率が良く、音質も良い。(ビットレート:16k〜320kpbs)
アップル社のiPodでは他に、Applelosslessなどの無圧縮形式のファイルもある。(ビットレート:500k〜1100kpbs)
ATRAC3 ソニーとアイワによってMD用に開発れたファイル形式で、汎用性が低いのが欠点。ただし曲の切れ目のない再生が可能。(ビットレート:66k・105k・132kkpbs)
ATRAC3plus ATRAC3の進化形式であるATRAC3plusはさらに音質に優れているが他社プレーヤーには対応していない(ビットレート:48k・64k・256kpbs)
WMA WindowsMedia Audioの略。マイクロソフト社の開発したWindowsの音楽ファイル標準形式で、アップル社とソニー社以外のメーカーが対応可能。音質はAACと同程度に優れている。(ビットレート:48k〜192kpbs)
WAV 音質を損なわないで録音できる無圧縮形式。(ビットレート:1411kpbs)
Ogg Vorvisオープンソース形式で開発された形式。音質はMP3よりも高いが対応プレーヤーはまだ少ない。(ビットレート:32k〜512kpbs)

ちなみに、ファイル形式の最後に明記した(ビットレート:000kbps)とは、1秒当たりのデータ量です。ビットレートの値が大きいほど音質は良く、その代わりファイル容量が大きくなります。音質を重視する場合は容量の大きいファイル形式を選択し、限られたハードディスクの中に大量の楽曲を格納したい場合は容量の小さいファイルを選択するといいでしょう。

こうして見ると、ほとんどの機器に対応している音楽ファイル形式としてMP3を選択するのが一番賢いのでは、と思われるかも知れません。しかし“大人の音楽好き”としては、便利さや汎用性よりも、再生時の音質、そして鑑賞スタイルにこだわりたいもの。その上MP3はコピーの度に音質が劣化していくことも覚えておいて下さい。

まずは音質の秀逸さ、そして再生プレーヤーのデザイン性を考え、そしてもうひとつはメーカーの音楽業界での将来性を考慮するのが当然のことではないでしょうか。

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ファイルとプレーヤーの相性

いくら大量の楽曲をコレクションしても、実際に聴くことができなければ何にもなりません。手持ちのプレーヤー、またはこれから購入しようとしている機器がどのファイルに対応しているかを知らなくてはなりません。

ファイルとプレーヤー(メーカー)との相性は以下の通りです。しかしこれも音楽配信戦国時代の最中で、続々と新製品が登場してきますので、まずはご自分で確かめる必要があることはいうまでもないでしょう。

ポータブルプレーヤーと対応する音楽ファイル
メーカー名・製品名 対応ファイル
MP3 AAC WMA WAV ATRAC3 Ogg その他
アップル/iPod × × × Apple Lossless
ソニー/ネットワークウォークマン × × × × ATRAC3plus
松下/SV-SD90/100V × × × 独自AAC
リオ・ジャパン/Rio Unite130 × ×  
東芝/gigabeat F/Gシリーズ × × ×  
※「日経ベストPCデジタル」2005年9月号参照
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音楽配信新時代の到来

かつてのウォークマンの登場の時や、レコードに代わってCDやMDが世界を席巻した時と同じように、音楽配信とポータブルプレーヤーがわれわれのミュージックライフを大きく変えていくことは、もはや間違いないでしょう。社団法人日本レコード協会が去る8月に発表したところによると、2005年の上半期の音楽配信売上は141億円だったそうです。そのうち、インターネットによる音楽配信が5億3800万円、携帯電話によるオリジナル楽曲およびいわゆる着メロなどの関連コンテンツの売上が135億9000万円だったそうです。携帯先行ではじまった日本の音楽配信市場ですが、この8月にiTMSがオープンし、またそれに刺激された日本の各社が新サービスを一斉に展開しはじめたことを考慮すると、いったい今年の下半期の音楽配信売上はどれほどになるのでしょうか。音楽好きにとっては想像もつかないほど面白い時代がやってきそうです。音楽配信の新時代の到来で、われわれの音楽鑑賞のスタイルはいま、大きく変わろうとしています。

注意:音楽配信サービスによって購入した楽曲データは、個人的に観賞する以外の目的に利用することは法律的に認められていません。
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