社内実践事例

社内システムの大規模移行に着手
富士通で進む「完全クラウド化」への挑戦

富士通は今、同社の歴史を振り返っても、前例のないほど大規模なシステム改革に取り組んでいる。国内外に640以上ある全ての社内システムを、クラウド上に移行するプロジェクトを進めているのだ。もちろんその中には、長年同社の業務を支えてきた基幹系のシステムも含まれる。移行先は、同社が2015年に提供開始したクラウドサービス「FUJITSU Cloud Service K5」。プロジェクトはまだ始まったばかりだが、すでに複数の成果が上がっているという。

  • 「FUJITSU Cloud Service K5」は、「FUJITSU Hybrid IT Service FJcloud-O」へ名称変更しました。
  • 本事例中に記載の肩書きや数値、固有名詞等は掲載日現在のものであり、このページの閲覧時には変更されている可能性があることをご了承ください。

背景

1万3千台近くのサーバをクラウドへ
大胆な取り組みの2つの目的

富士通は2015年2月、グループで稼働する国内外の全システムを、5年間でクラウド基盤へ移行する計画を発表した。対象となるシステムは約640に上り、基幹システムやレガシーシステムも例外ではない。

「これには大きく2つの目的があります」と、富士通の纐纈 孝彦氏は説明する。

第1の目的は、個別最適化によってサイロ化した社内システムを全面的に見直し、全体最適化していくことである。これによって運用コストの削減、新規アプリケーションの開発期間やコストの最小化を目指す。「掌握している国内システムだけでも、サーバ数は約1万3千台。2億~3億ステップのアプリケーションがあり、類似の機能が実装されたものがあるなど、非効率な部分も少なくありません。また開発時期によってアーキテクチャーも異なるため、個別に運用を行う必要があり、コスト増の大きな要因になっていました」(纐纈氏)。

これを受け、富士通は2009年からインフラ層の統合に着手。システムごとにサーバやストレージを用意するのを廃止し、統合されたインフラ上でシステムを構築してきた。今回のプロジェクトは、これをさらにドラスティックに推し進めるものとなる。

第2の目的は、社内実践によるリファレンスモデルの確立である。基幹システムのクラウド化では、多くの課題に直面している企業も多い。富士通は自らが大規模なクラウド移行を行うことで、課題の抽出や、解決方法の明確化を推進。そこで得た知見を、「FUJITSU Digital Business Platform MetaArc(メタアーク)」(以下、MetaArc)や、そのベースとなる「FUJITSU Cloud Service K5」(以下、K5)へフィードバックしていくのである。

富士通株式会社
IT戦略本部長
纐纈 孝彦(こうけつ たかひこ)氏

効果

動き出したパイロットシステム
導入期間は8分の1、運用工数は30%減

富士通では、今回のプロジェクトを大きく「プラットフォーム統合」「データセンター統合」「ネットワーク統合」の3カテゴリーに分け、それぞれでコスト削減目標を設定している。

「まず『プラットフォーム統合』では、アプリケーションの共通部品化や共通プラットフォーム化、構築・運用の自律化によって35%のコスト削減。『データセンター統合』では、ハードウェアとファシリティを一体化したクラウド仕様のデータセンターの確立によって50%のコスト削減。『ネットワーク統合』では、社内・商用のネットワーク統合と運用監視強化によって10~20%のコスト削減を目指しています」と纐纈氏は述べる。

パイロットプロジェクトも既に進行中だ。その1つが、2015年9月にK5上で稼働開始した予算管理システムの移行だ(図)。

パイロットプロジェクトの1つとして進められた予算管理システムのK5への移行。監視標準化と自動運用、オートスケール機能の活用、ネットワークのソフトウェア化等により、導入期間を8分の1に短縮、運用工数も30%削減されている
図 社内実践先行プロジェクト(予算管理システム)

ここではまず、全社システムを横断する監視機能の標準化と自動運用を実現。その上で、オートスケール・マルチテナント機能を装備したデータセンターにおいて、仮想プライベートホスティングの形でアプリケーションを実装している。またネットワークもソフトウェアベースへと移行し、費用と運用負荷を軽減させている。

「インフラをK5に統合したことにより、これまで4か月かかっていたシステム導入が2週間で完了しています。また、他のシステムとリソースを融通し合えるオートスケール機能によって、ピーク時を想定したリソース確保も不要になり、仮想マシン数が半減。インフラ部分の運用がほぼ不要になったため、運用工数も約30%削減できました」と、纐纈氏は言う。

プロジェクトがさらに進行すれば、アプリケーション機能の共通化、運用の自動化によるコスト削減効果はさらに大きくなると予想されている。加えて、アプリケーション作成も大きく効率化される見通しだ。ユーザー認証やセキュリティ、監視・運用、ワークフロー、データ連携といった基本的な機能が共通部品化されることで、新たな開発の必要がなくなるからだ。将来的には、消費税計算やマイナンバー管理といった機能の共通部品化も視野に入れている。

「これらの部品は商用サービス化し、お客様にも活用いただけるように提供していきます。究極的には、部品の組み合わせだけでアプリケーション構築が可能な環境が実現するはずです」(纐纈氏)

今後の展望

プロジェクトで得られた知見をMetaArcやK5に反映

このパイロットプロジェクトで得られた知見を、MetaArcやK5にフィードバックする取り組みも既にスタートしている。

まず進められているのが「セキュリティの強化」だ。ネットワークがソフトウェア化されれば、ネットワークセキュリティを担保するために、徹底したログ収集が必要になる。また運用の標準化を進めるにはOSの監視も欠かせないため、高度なログ管理機能と、監視機能の開発・実装を進めているという。

次に「サービスのメニュー化」も検討が進んでいる。一般的にクラウドサービスは、標準スペックのハードウェアで仮想環境を構築し、高い処理能力が必要な場合には、複数マシンによる並列処理を行うことで負荷分散を行っている。しかし基幹システムの中には、高い処理能力が必要にもかかわらず並列処理が難しいバッチ処理が少なくない。そこで、最初からハイスペックCPUを搭載したメニューを用意することが考えられている。

そして「可用性の強化」にも取り組んでいる。具体的には異なるロケーションに設置されたデータセンターへのオートフェイルオーバー機能を追加することで、ディザスタリカバリー対策を容易にする。この機能は今後共通化され、K5のメニューに盛り込まれる計画だ。

「他にも、大規模データの蓄積・分析を行う『Hadoop』、大量データの高速分析を実現する『SAP HANA』を、K5上で運用していきます。もちろん、ここで得られた成果は、お客様へのサービスに生かされていきます」と纐纈氏は説明する。富士通は、今後さらに加速する社内実践で獲得した知見とノウハウを、リファレンスとして顧客に提供していく考えだ。

[2016年11月掲載]

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