700グラム台の“超軽量ノートPC”が
ビジネスシーンにもたらす「驚き」
――本田雅一氏が「LIFEBOOK U937」を徹底レビュー

わずか約799グラムの軽さを実現した法人向けノートPC「LIFEBOOK U937」を富士通が発表した。日々さまざまな最新IT機器に振れているITジャーナリストの本田雅一氏は、本機をどう評価するのか。モバイルワークなどを行うビジネスパーソンの視点で徹底レビューする。

 ここ数年、PCというジャンルに関しては“驚き”をあまり感じたことはなかったのだが、今年1月に富士通が発表した「LIFEBOOK U937」は、ちょっとした驚きだった。驚いたのは、13.3型という、ビジネスパーソン向けとしてはジャストサイズのディスプレイを搭載し、フルサイズのキーボードを搭載しながら約799グラムの軽さと15.5ミリの薄さを実現していたからだ。

LIFEBOOK U937

 いやいや、同クラスの軽量PCなら、これまでにもいくつかあっただろうと言うかもしれない。しかし、法人向けモデルのLIFEBOOKシリーズで超軽量モデルが登場したことが驚きだったのだ。

 富士通の法人向けPCは、ごく一部の製品を除いて質実剛健なモデルが多い。法人で求められるのは性能だけでなく、耐久性なども加味されるため当然と言えば当然だ。法人ニーズを取り入れている富士通のPCは、所有感や“愉しさ”よりも、機能性や耐久性が重視されていることを初めから期待されている。

 しかし、一方で富士通が作るコンシューマー向けPCには、遊び心とも言うべき要素が含まれていた。80年代に市場を驚かしたFM TOWNSまで遡る必要もなく、軽量PCという切り口ではFMV LOOXシリーズを提供し、小型・軽量PC市場に一石を投じてきた実績がある。

 では、そんな富士通の発表したU937を少し驚いたと書いた理由は、富士通製の法人向けPCに必要とされる要素を盛り込みながらも、そこにコンシューマー向けPCとしても通用するスペックが盛り込まれていたからだ。

著者プロフィール

本田雅一(ほんだ・まさかず)
PC、IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、モバイル、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフと、関連する技術、企業、市場動向について。知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。

法人向けモデルに求められる要素を維持しつつ、徹底的に軽量化

 例えば前述したFMV LOOXシリーズは、いまはなきTransmetaというCPUベンチャーが設計したCrusoeという省電力プロセッサを基に新規設計されたのが始まりだった。中でもLOOX Sは画面サイズ、キーボードともに小ぶりだったが、80年代にヒットしたOASYS Pocketをほうふつとさせる携帯性を備え「PCを持ち歩く時代」を先取りした製品だった。

 小型かつ軽量というジャンルでは、富士通は過去にいくつものチャレンジを行い、いくつもの歴史的モデルを輩出してきた。しかし、一方で“小型化”にこだわらないモデルは、あえて最軽量クラスを狙わず、耐久性や各種ポート類、コネクタ類の充実したアフォーダブルな製品を提供することで多くの法人需要を満たしている。

 驚いたと書いた理由は、コンシューマー向けと法人向け、両方のニーズを満たしつつも、LIFEBOOK史上圧倒的に軽量なボディを実現していたからに他ならない。富士通のモバイルPCは「小さいもの」に軽量さを追求した製品はあったが、本機のようにビジネス向けモバイルPCとしての“ど真ん中”と言えるサイズでの超軽量は指向していなかった。

 サイズが大きければ剛性は確保しやすいが、製品の底面積が増え、さらに薄いボディでカバンへと入れやすく設計すると、どうしても剛性・耐久性に影響が出やすい。法人向けとして適切なコストと耐久性を確保した上で設計すると重くなる。

 どこまで軽さについて追い込むかはメーカー自身のポリシーもある。これまでの富士通ならば、ここまでの軽量化は行っていなかったのではないだろうか。また、長時間駆動を希望する場合はオプションの大容量バッテリーを選べば、本体重量は944グラムになるものの標準モデルの2倍以上のバッテリー駆動時間(公称値)を実現できる。

 これだけならば、従来よりも軽量化されたノートPCでしかない。しかし、U937は法人向けモデルに求められるいくつかの要素をクリアしながら、これだけの軽量さを実現していた。つまり製品の品質基準に関しては何一つ変えることなく、法人向けモデルに求められる頑丈さや耐久性などは従来モデルと同様のまま、設計の見直しと新素材の採用によって軽量化したのだ。

剛性・耐久性も確保――ビジネスユースの要求に応える“安心感”

 U937が軽量な理由は1つだけにとどまらない。ディスプレイは同じ13.3型のSシリーズよりも20%軽く、0.4ミリ薄いコンポーネントを採用。さらに内蔵バッテリーはPETラベルによるフレームをバッテリの骨格とすることで、剛性確保のためのボックス構造を排除して軽量化に成功している。プリント基盤も層数は変えずに軽量化したり、ACアダプターの小型化で軽量化を果たしたりしているという。

 軽量化は何か1つの軽い部品で達成できるものではなく、ネジ1本やネジ本数などはもちろん、基板上に実装する部品の重さも勘案しながら設計されるものだ。そうした軽量化に関する多様な取り組みを行った上で、799グラムのスペックを実現した。

 超軽量・薄型モデルと言われると剛性や耐久性に不安を覚えるだろうが(実際、手にしてみるとその軽さに“心配”する気持ちはさらに大きくなるだろう)、天板に対する200kgf(重量キログラム)の全面加圧試験や高さ76センチからの水平落下試験をクリアしており、従来の富士通製モバイルPCと比べて勝るとも劣らない頑丈なボディだ。

 剛性感に関しては耐久試験そのそのものよりも、実際に手にしたときの“硬さ感”や打鍵時の感触のほうが重要だが、打鍵時の剛性に関してはむしろ高く、キーボード全体のアセンブリがしっかりと隙間なくシャシーと結合されており、超軽量モデルで想像しがちな不安感は一切なかったことを報告しておきたい。

外部ポートを豊富に確保 「アダプター忘れ」で困らない

 キーボードはおそらく、従来の13.3インチモデルと同じコンポーネントだろうか。

 近年主流となっているアイソレーションキーボード(キーの間に隙間があるデザイン)は、薄型設計のものが多く、PC全体の薄型化というトレンドもあってショートストローク化が進み、タッチもシャープな固い打ち味のものが多くなっている。

 U937は本体の厚みを15.5ミリと薄型化しながらも、1.2ミリというストロークを実現し、打鍵時に指へと伝わる衝撃もソフトに仕上げている。もちろん、フィーリングには好みもあるだろうが、超ショートストローク、シャープだが固い打鍵感といったトレンドに違和感を抱く人も少なくない。そうした意味では、多くの人に違和感なく使ってもらえるキーボードに仕上がっている。

 キーボードはユーザーインタフェースの代表として真っ先に取り上げたが、面積を広く取ったタッチパッドを含め、外部ポートを犠牲にしていない点も強調しておきたい。

 入出力ポートやメモリカードスロットなどを省略すれば、デザインがスッキリするだけでなく薄型化や高剛性化が取り組みやすい。開口部が小さくなるためだ。もちろん、800グラムを切るような超軽量クラスともなれば、コネクターそのものの重量も気になってくる。

 例えば有線LAN。近年のトレンドを踏まえるならば、無線LANを基本として有線LANはUSBポートなどに接続するアダプターで解決すれば良いという考えもあろう。しかし、アダプターはアダプター。直接つながらないのだから、ユーザーがアダプターをどこかに置き忘れてしまえばつながらないことになる。

 無線LAN環境が完璧ならば問題はないが、場所によっては無線LANがまったく使いものにならず、有線LANを通じてやっとインターネットへのアクセスを確保するといったことも、出張が多い筆者のような立場では少なくない。これは忙しく飛び回るビジネスパーソンでも同じだろう。

 筆者自身、有線LANに助けられたことは何度もある。本機では、ビジネスの現場において取り返しのつかない事態が起きる前に、より確実なインターネットへの接続経路として有線LANコネクターが薄型ボディーに内蔵されていることは高く評価したい。ポートは本体外に引き出して使う凝ったギミックを与えることで、薄型設計との両立を果たしている。

  • LIFEBOOK U937の外部ポート(1)
  • LIFEBOOK U937の外部ポート(2)

法人向けPCの「定番リスト」に

 無論、富士通ブランドのPCだけに、これまで富士通が法人向けに提供してきた独自開発ソフトウェア、ソリューションなどの要素はニーズに応じて取捨選択が可能だ。例えば、筆者が試用したのは指紋認証モデルだったが、よりなりすましを防ぐべくセキュアな認証を求める場合、手をかざすだけで個人を認証する手のひら静脈認証センサー対応モデルも用意されている。

 富士通オリジナルのセキュリティソリューションとしては、秘密分散ソフトによる重要文書の安全な格納、リモートデータ消去や利用者の離席を検知して自動的に画面をオフにするといった仕組みなど、常に携帯して持ち歩くコンピュータには必須のソリューションも選択可能となっており、よりセキュアな利用環境を整えられる。

 本機のハードウェア仕様は、その薄型軽量の追求とは裏腹に、やや保守的に見える部分もあるかもしれない。例えば入出力ポートなどは数年先を見すえた上で、もっと整理してもいいのではないか? と考える人もいるだろう。

 しかし法人向けモデルは多様な現場に対応しなければならない。持ち歩くことが多ければ、当然ながら顧客やパートナーのオフィスでの作業なども考えられる。そうした意味でも本機は、PCを使って日々の仕事をこなすビジネスパーソンにはバランスの良いつくりになっている。

 軽量化による負担軽減と業務に支障をきたさないハードウェア仕様、そして使い勝手、堅牢性の確保。レガシーを尊重すべき部分と技術的に攻める部分を見極め、メリハリをつけて最終的な製品へと落とし込まれている。

 導入コストさえ見合うのであれば、モバイルワークが必要な部署に配置する定番モデルとして採用リストのトップに並ぶ製品に仕上がっている。

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