従業員を成長させる“魔法”の時間
1on1マネジメントのプロフェッショナルが語る これからの働き方

優秀な人材の流出をいかに食い止めるかは、人事や経営者にとって大きなテーマだ。「1on1ミーティング」は、離職防止に有効だといわれ近年注目を集めている。その意義や成功の秘策について、世古詞一氏に詳しく話を聞いた。

 優秀な従業員が突然辞めてしまう――企業にとって従業員の離職防止は大きな課題となっている。転職市場が活況な時勢では、優秀な人材ほど他社に引き抜かれる可能性も高まる。近年では、働き方改革の一環で残業時間の上限規制を実施したものの「業務量が変わらないのに残業ができない」など結果的に負担が増えているケースも少なくない。このような状況で従業員に対して何のフォローもしていないとしたら、従業員が離職を考えるのも無理はないといえよう。終身雇用の時代が過去のものとなった現在、企業は従業員との関わり方を考え直す時期に来ているのだろう。

 自社にとって必要な人材の雇用をいかに維持するかは大きな命題だ。さらに「多様な働き方」を実現するためには、個々の従業員が働くことの価値を何に位置付けているかを分析する必要がある。この解決策として期待を集めている手法が「1on1ミーティング」だ。本稿では「シリコンバレー式 最強の育て方」の著者であり、1on1マネジメントのプロフェッショナルである世古詞一氏にお話を伺った。上司と部下が1対1でミーティングする時間を有意義なものにするためのコツや、効果を高めるツールについて紹介しよう。

優秀な従業員こそ、対話が必要

 「離職や退職の歯止めがきかない」と悩む企業は少なくない。終身雇用の時代は、従業員は段階的な昇進が約束されており、転職市場も活発ではなかった。そのため当時は離職防止の対策は必要なかったといえる。時代は進み、転職は今や当たり前だ。「従業員の離職、特に優秀な人が辞めてしまうと悩む企業は多くなっています」とコーチングサービスを提供するサーバントコーチ代表取締役の世古詞一氏は語る。

サーバントコーチの世古詞一氏

サーバントコーチの
世古詞一氏

 組織は2割の優秀な人、6割の普通の人、2割のあまり働かない人で構成される「2:6:2の法則」があるといわれる。世古氏によると、日本企業の中には「あまり働かない2割」を支援するのが得意な管理職は少なくないものの、「優秀な2割」と対話する技術を持っている管理職はまれだという。

 マネジャーは、空いた穴を埋めるかのようにいかに「あまり働かない」層を「普通」に引き上げるかに注力しがちだ。しかし優秀層の自律性を信じて放任していると、転職市場が活況な時勢では引き抜きや離職のリスクが残る。さらに中間層も、昇進のポストに空きがなかったり、失敗が許されない風潮のせいで確実な仕事しか回せなかったり、といった事情で成長の機会が減ってしまっている。この状況を放置していると、優秀層は辞めてしまい、中間層は育たず、下の層は手がかかるといった状態になる。「まさに八方ふさがりです」(世古氏)

 この問題に対して世古氏が提案している解決策が「1on1ミーティング」である。月1回30分程度、上司と部下が1対1で話す時間を持つことで信頼関係を構築するのが狙いだ。この取り組みを採用しているシリコンバレーの有名企業は少なくない。離職防止にも効果が期待できるという。「優秀なエンジニアを流出させないための仕組みなのです」と世古氏は語る。

「ホウレンソウ」から「ザッソウ」と「逆ホウレンソウ」へ

 業務の進捗(しんちょく)確認が主目的となる一般的な「面談」と、1on1ミーティングは全く異なるものだという。大きな違いは「誰のための場なのか」という点だ。面談は、目標設定や評価など上司の職務をベースにした、上司のための時間である。それに対し1on1ミーティングは、部下のための時間だ。部下それぞれが個別に抱える課題や事情を取り調べのごとく「聞き出す」のではなく、自発的に「話してもらう」のである。その上で最適な支援をともに考えていくために対話するのだ。個人の生き方や個人を取り巻く環境が多様化している時代だからこそ、部下が持っている「上司が把握していない情報」を教えてもらうことが1on1ミーティングの目的だ、ともいえる。

 1on1ミーティングで話すべきテーマを、世古氏は7つに分類している。特に1~3は信頼関係構築のために、毎回実施すべきだという。「1on1ミーティングの意義は、ホウレンソウ(報告、連絡、相談)ではなくザッソウ(雑談、相談)です。部下からの報告や連絡を受けるのではなく、部下が話したいことを主軸とした雑談や相談の場としてください」(世古氏)

  • 1)雑談による相互理解
  • 2)心身の健康ケア
  • 3)部下への承認・フィードバック
  • 4)業務・組織課題の改善
  • 5)目標設定・評価
  • 6)能力開発・キャリア支援
  • 7)戦略・方針の伝達

  部下と雑談をしたり、対等の関係性を構築したりすることに苦手意識を持つ管理職は少なくない。しかし「最近の若手は“上から目線”に敏感」(世古氏)だからこそ、どうフラットに話をするかに気を使う必要がある。従来の面談では、自分より経験値のある上司に指導されるので納得感を持つことができた。つまり、上下の関係性だからこそ機能した。一方で相互理解をもたらす「雑談」や部下の自発性を引き出す「コーチング」的な関わりにおいては、対等の関係でなければうまく機能しないからだ。

 この対等な関係性を築く方法の一つが、上司が部下に情報を積極的に開示することだ。例えば部長会議の情報など、上司のみ知り得る情報について会社としての決定事項だけでなく、決定までのプロセスや現場の裏話など上司が持つ情報を漏らさず伝えるのだ。7番目に挙げた「戦略・方針の伝達」に通じるコツである。「実は会議でこういう話があって」と1対1の席で話すことで、部下の納得感も増し、部下は上司に信頼されていると感じるようになる。これを世古氏は「上司から部下に伝える“逆ホウレンソウ”」と呼んでいる。

 1on1ミーティングで重要なのは定期的な時間を確保することだ。時間を重ねるほどに部下と共有する情報が増え、気持ちの隔たりが解消でき、信頼関係の構築を実現できる。「実はこういうことがやりたい」「今の仕事にはそろそろ飽きている」「こういうことに悩んでいる」といった本音を引き出すことができ、それを解消するための支援ができるようになれば、部下のモチベーションアップや離職防止にもつながるだろう。

対話のきっかけ探しには、業務の可視化が有効

 とはいえ、1on1ミーティングの効果を理解していても、何の準備もなく部下と1対1で話すのは難しいものだ。対話のきっかけは上司が用意するとスムーズに1on1が進む。世古氏は「1on1ミーティングの前には必ず、部下のことに思いをはせてください」と説く。そのために、例えば部下の業務状況をデータで振り返ることができれば、部下の要望や悩みを推察するのに役立つだろう。

 例えば富士通が提供する「TIME CREATOR」は、PCやアプリケーションのログから、従業員がどの業務にどの程度時間をかけているかを可視化するツールだ。資料作成やコミュニケーションというように項目別に時間が分かるため「どの業務に時間がかかっているか」などが一目瞭然だ。1on1を実施するために部下一人一人の状況を把握する時間がない上司もいるだろうが、TIME CREATORを使えば短時間で状況把握ができるようになる。1on1ミーティング前にこういったデータを確認しておくことで、残業が増えていないか、業務の負担が大きくないかといった課題から心身の健康状態を予想するのに役立つだろう。特定の従業員に業務が集中していないかどうかも可視化できるため、業務量の平準化を目指す際にも有用だ。

個人PC業務状況分析画面では個人ごとのPC業務状況を可視化する。従業員自身の業務状況を振り返り、日々の業務改善に生かすことができる。

個人PC業務状況分析画面では個人ごとのPC業務状況を可視化する。従業員自身の業務状況を振り返り、日々の業務改善に生かすことができる。

アプリケーション詳細表示画面では選択した日付のアプリケーション操作状況を分単位で可視化できる。必要に応じてウィンドウのタイトルも表示が可能だ。

アプリケーション詳細表示画面では選択した日付のアプリケーション操作状況を分単位で可視化できる。必要に応じてウィンドウのタイトルも表示が可能だ。

 1on1ミーティングでは「本人に自分の業務を振り返らせるためのツール」としてTIME CREATORは有効だろう、と世古氏は語る。ただし「この情報を『この時間は何をしていたの?』と問い詰めるための材料にしてしまうと、部下は緊張してしまい、いい対話はできません」(世古氏)とアドバイスする。

 TIME CREATORのデータを見る際には、部下は無意識に時間を使い過ぎていた業務のくせに気付くために、上司は使い過ぎている作業時間を組織内で平準化するきっかけを探すために、といった使い方がいいだろう。TIME CREATORは残業申請やPC延長利用申請といった、勤怠管理システムの申請機能との連携も可能で、残業時間削減にも貢献できる。

1on1ミーティングを参考に、より良い働き方を実現する

 突然、従業員が離職してしまうような事態を防ぐためにまずは1on1ミーティングによる上司と部下の相互理解を進めるべきだ。1on1ミーティングとTIME CREATORを組み合わせれば業務を可視化できる。そうすれば業務の平準化のきっかけもつかめるだろう。

 業務の平準化のためには育児や介護などを理由に思うようなパフォーマンスを発揮できなかった従業員が、十分に活躍できる環境が必要だ。そのためには従業員のパフォーマンスを最大限に発揮させるためのテレワークのような「柔軟な働き方を実現する取り組み」は不可欠だ。組織にテレワーク制度があれば、外出先でも、育児や介護をしながらでも、従業員にとって働きやすい時間と場所を選んで業務ができる。

 富士通はテレワークに適した薄型で軽量なモバイルPC「LIFEBOOK U938/V」を提供している。軽さ799グラム、薄さ約15.5ミリと可搬性に優れ、外出先や自宅にもストレスなく持ち運べる。会社に固定席を作らないことでコミュニケーションの活性化を促す「フリーアドレス制度」と組み合わせるのもよいだろう。もちろん、社内の会議やミーティングにPCを持ち込むことも気軽になる。1on1ミーティングの場にPCを持ち込むのも有効だ。1対1で話した内容を部下自身に記録してもらうことが、対話内容を振り返り深く理解するきっかけになるからだ。

テレワークのために薄型・軽量を実現したLIFEBOOK U938/Vは気軽に持ち運びできる。「1on1ミーティングでも活用できる」と語る世古氏

テレワークのために薄型・軽量を実現したLIFEBOOK U938/Vは気軽に持ち運びできる。
「1on1ミーティングでも活用できる」と語る世古氏



 TIME CREATORで業務を可視化し、1on1ミーティングで上司と部下が対等に意見を出し合う。そして携帯性に優れたモバイルPCを使って柔軟な働き方を実現する。こうした環境を整えることは、従業員の離職防止に大きく貢献するだろう。