「テレワークは難しい」に社労士が意見 今、中小企業が捨てるべき固定観念

働き方改革の一環として注目を浴びるテレワーク。いざ実施しようとするとあれもこれも対応しなければというイメージがある。だが、本当はもっとシンプルに考えるべきものだという。企業が考えるテレワークに対する誤解について説明しよう。

テレワークがある企業は人気があり採用への応募も増加する

■テレワークが進まないのは、制度やセキュリティの問題ではない

フランテック社会保険労務士事務所 毎熊典子氏

 「最近、テレワークという言葉をよく耳にしますが、実施しているのは大企業が中心で、中小企業はまだ足踏み状態なのが現実です」。こう始めたのは、社会保険労務士として活躍する傍らで日本テレワーク協会 中小企業市場テレワーク普及・定着推進部会の人材サブ部会 部会長も務めるフランテック社会保険労務士事務所代表 特定社会保険労務士の毎熊典子氏だ。
テレワークを実施することで従業員は場所に縛られた働き方から解放され、個人にとって働きやすい環境で仕事ができる。また、通勤にかかっていた時間を仕事やプライベートの時間に充てられる。従業員の満足度とパフォーマンスを向上させるきっかけにもなり、期待できるメリットは大きい。だが制度、ルールの見直しやリモートで問題なく業務を遂行できる環境を整えなければならないなど、大掛かりなイメージが先行しているようだ。これに対して毎熊氏は次のように言う。

 「テレワークはあくまでも働き方の手段の一つにすぎません。労務制度、社内ルールの見直しやファシリティーの準備が必要など、企業は大げさに考えていますが、もっと気軽に始められるものなのです。例えば海外企業と取引があり、時差の関係で夜遅くにしか連絡が取れないため自宅で対応する。これもテレワークの一つの形です。いつ来るか分からない連絡をただ会社で待ち続けるのではなく、自宅対応とすることで従業員の負担も軽減できるでしょう。テレワークを大事と捉えるのではなく、目の前の困ったことを解決する方法と考えると、もっと気軽にテレワークを始められるのではないでしょうか」(毎熊氏)

■テレワークに対する企業の誤解

 ただテレワークを始めるとなると、既定の就業規則を見直す必要があるのではないだろうか。そう尋ねると、毎熊氏は「必ずしもそうではありません」と返す。

 「会社全体の制度としてテレワークを始めるのであれば、就業規則を見直す必要があります。しかし、ある従業員が親の介護などで出社が難しくなったため一時的措置としてテレワークでの勤務を認めるといった場合、本人と労働条件などについて話し合い、個別に合意できていれば既定の就業規則とは多少異なった勤務形態であっても構わないのです」(毎熊氏)

 つまり、会社の制度としてテレワークを始めることになった段階で就業規則を見直せばよいのであって、「就業規則を見直さなければテレワークを始められない」というのは誤解である。
セキュリティについても同様だ。自宅で機密性の高い情報を扱うのであれば事前に何らかの対策を考える必要はあるが、報告書や企画書など比較的機密性が低い資料の作成などであれば、高価なセキュリティソリューションを導入するまでもないだろう。セキュリティリスクが高い業務については今まで通り社内で対応し、そうでないものはテレワークで対応するといった考え方もできる。

 「テレワークは事前準備が大変で、何から手を付けるべきか分からないという相談をよく受けます。それに対して、まずはトライアルで始めてみることをお勧めしています。トライアルであれば大掛かりな準備は必要ありません。強いて挙げるならノートPCが挙げられます。従業員の負担を考えると、できるだけ軽くて丈夫で持ち運びやすいノートPCを支給する方がよいでしょう」(毎熊氏)

 例えば、富士通はテレワークに最適な法人向け超軽量のモバイルノートPC「LIFEBOOK U938/V」を提供する。かばんに入れてもかさばらない薄さと、約799グラムという指先でも持てるほどの軽さが特長だ。
カスタムメイドにより手のひら静脈センサーも搭載可能だ。第三者に盗まれる恐れがあるパスワードの代わりに本人しか使えない手のひらの静脈による認証によってOSやシステムにログインできるため、情報漏えいのリスクも低減できる。
さらに、PCの紛失や盗難時の情報漏えいを抑止するソフトウェア「Portshutter Premium Attachecase」(ポートシャッター プレミアム アタッシュケース)も標準搭載する。ローカルデータを意味のないデータに変換した上でスマホとPCに分割保存し、両者がそろわなければデータを復元できない仕組みだ。外出先での情報漏えいリスクを防げ、データの持ち出しを心配する必要はない。

「こんなに薄くて軽いPCなら、かばんにも入れてかさばりませんね」とコメントする毎熊氏

■与えられた1年間の猶予、この間で中小企業が考えるべきこと

 働き方改革関連法では、「残業時間の上限規制」や「5日以上の年次有給休暇取得の義務化」など、企業が対応すべき項目は幾つかある。だが中小企業に限り、項目によっては1年間の猶予が与えられたものもある。
1年後までに対応すればよいのではと気楽に構えている企業もあるだろう。だが、そう言ってはいられない。働き方改革関連法の施行に伴う労働基準法の改正により、政府のスタンスがこれまでと大きく変わるのだ。
「雇用契約は雇用主と雇用者間の問題である」というのがこれまでの政府の雇用に対する基本的なスタンスだった。しかし、これでは現状は変わらないと考え、これからは行政が労使関係にも積極的に介入するようになる。
「残業時間の上限規制」を守らない企業に対しては、労働基準監督署の指導が入る。それでも改善されない場合は、事業主は書類送検され、違法事例として厚生労働省のサイトで社名が公開される。要するに“ブラック企業”というレッテルを貼られるということだ。1年間の猶予期間終了後は中小企業も例外ではないため、この間に準備を進めておく必要がある。
中小企業が積極的に働き方改革を進めるべき理由は、それ以外にもあるという。

テレワーク推進賞受賞者に送られる表彰盾

 「中小企業が人手不足などで悩む中、求職者にとっては就職売り手市場にあります。求職者はできるだけ労務環境の良い企業に就職したいと考えますが、特に若手人材は働きやすい職場環境づくりに積極的な企業に集まる傾向にあります。最近は『テレワーク適用可』と募集要項に書くと人材が集まりやすいという話も聞きます。日本テレワーク協会が2000年から実施する『テレワーク推進賞』の優秀賞に選ばれた中小企業の中には、1人の募集枠に対して600人の応募があったという例もあるようです」(毎熊氏)

 働き方改革を実行するには制度やセキュリティなどと考える前に、まず組織の根本的な考え方を改める必要がある。

 「これからは長時間働く従業員ではなく、短時間で成果を出す従業員が評価されるようになります。企業は、従業員が集中して業務に当たれ、しっかりと成果を出せる環境を整備することが重要です。ある企業は60時間分の固定残業代を払いながらも残業時間を25時間以内に抑える試みをしたところ、個人の成果や売り上げが下がることはなかったそうです。これからの働き方へシフトするには、まず組織や経営トップが考え方を変える必要があります。それができない企業は競争力を失っていくのではないでしょうか」(毎熊氏)

■今、経営者が改めるべきテレワークとの向き合い方

 働き方を変えようと奮闘する中小企業は多い。ただ、順調に結果につながっている組織もあればそうでない組織もあるという。両者の違いはどこにあるのだろうか。
それは、テレワークなど働き方を変える有効手段をうまく活用しているかどうかにある。毎熊氏も指摘するように、テレワークというと難しく考えがちだが、要は一つのワークスタイルだ。それを理解している組織は、人手不足の中でも柔軟に対応できる。
最近は、家族との時間を大切にしたいと地元で働くことを希望する求職者が増えているという。企業がテレワークという働き方を提示できれば、そういった層も取り込める。遠方にいても普段のコミュニケーションはチャットツールなどでも可能で、相手の様子を見ながら話したければSkypeを利用するといった方法もある。
従業員を多く抱える大企業であれば、コンプライアンスなど事前に検討すべき項目も多いだろう。だが、中小企業であればもっと気軽にテレワークを始められるはずだ。毎熊氏によると、テレワークは組織の経営課題を解決するための一つの手段だという。これからは、そういった視点に経営者が気付けるかどうかが重要になるだろう。