デバイス&ソリューション導入事例

医師全員に配布したタブレット端末を活用し、
電子カルテの院外参照ソリューションを構築

 広島県の市立三次中央病院は、1994年にオーダリングシステム、2008年には電子カルテHOPE EGMAIN-GXを導入するなど、院内のICT化を積極的に進めてきました。2012年に全国初の試みとして医師全員に個人用のタブレット端末を配布して診療や日常業務に活用しています。同年10月からは富士通のモバイルソリューションシステムを先行的に導入して、タブレット端末での電子カルテ参照を可能にしました。

医師の診療のサポートと満足度向上のため個人用のタブレット端末を配布

市立三次中央病院
院長
中西 敏夫 氏

 広島県三次市は島根県と隣接する県北に位置し、中国自動車道などが東西南北に走る交通の要となっています。市立三次中央病院は、県北地域の中核病院として、救急医療を一手に担うとともに、がん拠点病院、圏域唯一の周産期医療など高次医療にも対応します。さらに地域医療支援病院として近隣医療機関と連携した医療を展開しています。
 同院では、2012年6月に適切なタイミングでの意思決定や必要な情報参照を行う環境を整えるため、62名の医師と管理職全員にタブレット端末を配布しました。機種は、急速に普及し医療分野での導入事例も増えているiPadで、通信費を含めてすべて病院側が負担しています。タブレット端末導入のねらいについて中西敏夫院長は、「タブレット端末を医師一人ひとりが持ち、場所に縛られずに情報収集や活用ができるような環境を整えることにより、適切な診療をサポートすることです。なにより、医師にも人気の高い端末を病院として提供することで、モチベーションを高めて働きやすい環境を提供することです」と説明します。

タブレット端末で電子カルテ参照可能なモバイルソリューションシステム

 同院では、このタブレット端末の活用法の1つとして、電子カルテの情報をモバイル端末で閲覧可能にする富士通のモバイルソリューションシステムを2012年10月から先行的に導入しました。
 モバイルソリューションシステムは、AndroidまたはiOSを搭載したタブレット端末やスマートフォン向けに用意された専用アプリケーションから、電子カルテの情報を参照するシステムです。診療記録から検査データ、診断画像、熱計表まで参照でき、院外や電子カルテ端末のない病室などでも、患者さんの状態を正確に把握することができます。
 また退院サマリや代行入力の内容などに対して、医師による承認処理を可能にしています。
 さらに、電子カルテ側から発信したTodoメッセージを、モバイル端末側で受信する機能も用意されています。

リアルタイムに実施が確認できることで医療の質と安全性が向上

市立三次中央病院
副院長
永澤 昌 氏

 モバイルソリューションシステムのメリットについて、中西院長はこう述べています。「学会などで遠方に出張した場合に、急に電話がかかってきても、検査結果やカルテの内容を参照しながら話をすれば、誤った情報が伝達されることもなく、医師は適切な指示を出すことができます。実際にこのような使い方が頻繁になされているかどうかというよりも、何かあったときにいつでもカルテが見られるという安心感が、非常に大きいと思っています」
 また気になっている患者さんや、術後の患者さんなどの状態を、朝の出勤前、夜間、休日中などに、わざわざ病院まで来ることなく簡単にチェックできるのも、大きなメリットとして挙げられています。
 永澤昌副院長も、緊急の用途より、出張中に入院患者さんの状態をチェックする使い方が中心だと言います。「緊急の電話を受けて参照するというより、患者さんの状態を毎晩チェックするために使っています。特に、自分の指示がきちんと実施されているかどうかが確認できるのは、便利だと思います。 指示と違ったことが行われていれば、改めて指示を出し直すこともあります。これができるようになったことで、患者さんに対する安全性は飛躍的に高まりました。今までは、それを確認する手段がまったくなかったのですから、雲泥の差だと思っています」と、院外からカルテが参照できる利便性とともに、モバイルソリューションシステムの活用が、医療の質や安全性の向上につながっていることを実感されています。
 さらに、患者さんに対する説明にも、モバイルソリューションシステムは有用だといいます。電子カルテの端末がない病室などでも、タブレット端末を持って行くことにより電子カルテの内容を見せながら患者さん自身の状態を説明することができます。その際、同じタブレット端末の画面を使って手術の写真などを続けて表示させれば、治療に対する患者さんの理解の助けになります。

情報セキュリティには十分な配慮が必要

市立三次中央病院
医事課係長
池田 義樹 氏

 モバイルソリューションシステムは、Wi-Fi、3G、LTEなどの回線を経由し、インターネットを介して、電子カルテの情報にアクセスします。そのため、なりすまし等の不正アクセスへの対策として、VPNを用いることで安全性を確保しています。また、各端末の機体番号をあらかじめ登録して端末自身の認証を行うほか、機体番号と利用者のID・パスワードをクロスチェックすることでなりすましや紛失・盗難時の情報漏洩を防止する仕組みを採用しています。医事課の池田義樹係長は「1人1台の運用ですので個人の管理が重要ですが、パスワードの漏洩防止など運用面での対策も行っています」とセキュリティへの取り組みを説明しています。
 特にタブレットやスマートフォンなどのモバイル端末では、紛失や盗難などによる情報の漏洩が、大きな課題となります。しかしモバイルソリューションシステムは端末アプリケーションでセキュリティを担保するため、閲覧データを逐次消去しており、データは原則として端末内に保存されません。さらに同院では、遠隔で端末をロックしたりデータを消去したりできる、回線キャリアの提供する24時間対応の契約にも加入しており、万が一にも端末から電子カルテのデータが漏洩するようなことがないよう万全のセキュリティ対策が講じられています。

BCP対応端末としての機能も検討

タブレット端末で院外からでも
電子カルテ情報を閲覧が可能

 さらに同院では、災害対応を目的として、2013年4月にHumanBridge BCPソリューションを導入しました。同院に導入されている電子カルテシステムHOPE EGMAIN-GXの診療データを、富士通のデータセンターへのバックアップと並行してSS-MIX形式で保存します。これによって、仮に病院のシステムがダウンしてしまうような大きな災害時でも、ネットワーク回線が復旧すればインターネット回線(IPSEC-VPN)経由でSS-MIX標準化ストレージから患者さんの病名や処方歴、検査データ、アレルギー情報などの最低限の診療情報を取り出すことができます。
 このSS-MIX Web参照用の端末として、同院では、すべての医師に配布されているタブレット端末を採用しました。機動性の高いタブレット端末なら、避難所をはじめとする被災地のあらゆる場所からアクセスできるため、患者さんは継続的に医療を受けることができます。

  • カルテ/オーダ参照機能

  • グラフによるバイタル
    確認画面

  • 患者掲示板画面

  • 画像参照画面

  • HumanBridge BCP
    ソリューションの画面

  • BCPの患者情報参照画面

バイルソリューションシステムによる電子カルテの閲覧

会議のペーパーレス化や患者さんへの説明にもタブレット端末を活用

 タブレット端末は、電子カルテの閲覧以外にも幅広く活用されています。まず、会議資料をすべてタブレット端末に送信することで、会議の完全ペーパーレス化を実現しました。診療の場面においても、タブレット端末は有効活用されています。「iPadにはカメラがついているので、患者さんの顔の腫れなどの臨床像を簡単に撮ることができます。画面も大きくきれいに表示されます。
 また、「ガイドラインをはじめとする資料の活用にもよく使っています。患者さんにガイドラインを示して『あなたはここに該当しています、だからこういう治療を行います』という説明をしています。そのほかにも、薬の使い方に迷ったときや学会での知見を確認したいときなども、手元ですぐに調べられます。あらかじめダウンロードしてあるデータ、メモとして保存してあるデータもありますし、インターネットにつないで検索することもできるので、非常に便利です」と、永澤副院長は診察室でのタブレット端末の利用について説明しています。

プログレスノートのキー画像はストレスなく閲覧可能

 ユーザーから高い評価を得ているモバイルソリューションシステムですが、唯一の問題として画像データの閲覧に時間がかかる点が挙げられています。特に多列CTの画像などは枚数が非常に多いため、ダウンロードに時間がかかってしまうといいます。
 ただしこの問題点は、運用により回避することが可能です。まず、気になる患者さんの画像データをあらかじめ設定して呼び出しておけば、閲覧までの時間は短縮されます。また、放射線科医による読影レポートに、キーとなる画像を貼り付ける作業を行えば、そのレポートと画像は、ストレスなく画面に表示されます。

モバイルソリューションシステムの地域医療連携への活用に期待

診察室ではタブレット端末でインターネットの情報なども
駆使して診療に活用

 同院では、モバイルソリューションシステムの活用範囲をさらに拡大し、地域医療連携に利用することを検討しています。
中西院長は、「モバイルソリューションシステムの導入以来、連携先の診療所や施設などから、うちにも利用させて欲しいというという問い合わせが頻繁に届いています。連携先に患者さんを紹介する際には、診療情報提供書にいろいろと記載しなければなりませんが、 iPadなどのモバイル端末で電子カルテの内容を見ることができるようになれば、個々の先生方が自分にとって必要な情報を詳細にチェックできるようになります。今後は地域医療連携のツールとしての使い方を視野に、運用などを細かく詰めていかなければならないと思っています」と、モバイルソリューションシステムの地域医療ネットワークヘの拡大を展望します。
 モバイルソリューションシステムの導入により、電子カルテの情報を24時間、院外からでも参照できるようにすることで、医療の質の向上、患者さんの安全の向上へとつなげた同院。今後はモパイルソリューションシステムの利用範囲をより拡大させることで、中核病院としての地域へのさらなる貢献が期待されます。

市立三次中央病院モバイルソリューションシステム構成図

市立三次中央病院様 概要

所在地 〒 728-8502 広島県三次市東酒屋町531
TEL 0824-65-0101
FAX 0824-65-0150
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