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ほっ!とコーヒー 第19回

ひざっ小僧の赤チンは、勇者の勲章


昔の男子の服装は、真冬でも半ズボン。昨今のように上下きちっと防寒服で身を包むようないでたちは、むしろ弱体者と白い目で見られたものだった。そしてあらわになったひざっ小僧や腕のひじには決まって、勇者の勲章、赤紫色の赤チンが輝いていた。

赤チンとはいうまでもなくマーキュロクローム、擦り傷切り傷何でもこいという、外傷のための万能薬だ。ただし赤チンのライバル、というか強敵にはヨーチンがあって、こちらは子どもに人気がなかった。なによりも傷口に塗ると跳び上るほど痛いからだ。ヨーチンの色は茶色がかった黄色。正式名称はヨードチンキ。ヨードをアルコールで薄めた、これも傷薬だ。そういえば歯が痛いときにもヨーチンを脱脂綿に浸して付けていた。

赤チンはマーキュロクロームの水溶液で、正確にはチンキ(アルコール溶液一般をさす)ではないが、ヨーチンに対して赤いチンキということによる俗称。ヨーチンよりも穏やかな?刺激が、子どもたちの人気の秘密だ。

それにしても、いつごろから赤チンが世の子どもたちの手足から消えたのだろう。1970年代は日本で公害問題が大きな話題を呼んでいた。赤チンは劇薬ではないが、その主要な材料は水銀化合物。生産過程での有機水銀の処理が取りざたされて生産を中止するメーカーがこのころ続出。そうこうしているうちに赤チンに替わる傷薬が登場し、薬局から姿を消していった。

そういえばもうひとつ、傷薬にはオキシフルという手強い奴があった。ピンセットでたっぷりのオキシフルを脱脂綿に浸し、傷口を消毒する。すると激痛とともに傷口からブクブクと泡が噴き出してくるのだった。たいした怪我でなければここで赤チンをペタペタと塗りたくるが、傷が深くて膿みそうだと判断されるとヨーチンに手が伸びる。保健室の優しい先生の手がどちらの薬瓶に向かうか、緊張の一瞬であった。

でもまだ赤チンは生き残っている。薬局で聞いてみると置いているお店もあるらしい。一度探してみよう。勇者の証し今いずこ、と意気がってみたいけれど、そう言えば最近オイラもあまり小さな怪我をすることがなくなった。ちょっとした傷は救急絆創膏で十分だし、子どもたちも出不精で、外を駆け回ることさえあまりなくなったのだから、しょうがないか。パソコンゲームでは怪我はしないからね。


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