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ほっ!とコーヒー 第17回

ローラー式絞り機付電気洗濯機
シャツもズボンもペッタンコ


お手伝いがあれほど楽しかったことは、後にも先にもなかったのではないでしょうか。
目をつぶると今も想い出します、こんもりと泡立つ渦巻きに顔を近づけたこと、なんとも爽やかな粉石鹸の香り。そしてなによりも、回転が終わってローラーの端に洗濯物を挟み込み、ハンドルをグルグル回すと出てくるペッタンコになったシャツやらズボンやらパンツやら。

そうです。ローラー絞り機の付いた電気洗濯機は、われら戦後生まれの子どもたちにとって、遊びと合体したはじめてのお手伝いだったのでした。

「ちょっとだれか、洗濯機回してくれない」という母の声に、真っ先に反応したのは、ぼくでした。と言うのも、母が子どもたちにお手伝いを言い付ける時は決まって、洗濯のほかに、玄関または庭の掃除、それにお買い物など、複数の選択肢が突きつけられるのが常だったからでした。
玄関や庭の掃き掃除は、しっかりやればやるほど際限がありません。お買い物は遊び気分で良いのですが、つい寄り道をしそうになって子ども心にも葛藤を迫るので苦手でした。
その点お洗濯は、水を張った中に洗濯物と洗剤を放り込み、スイッチをぽんと押して、あとはその前にたたずんでいれば、電気が勝手に働いてくれるのです。

ところであの渦巻きは、ずっと見ていても飽きなかったのはどうしてなのでしょうか。何だか焚き火や囲炉裏の火を、じっと眺めている時と良く似ているように思うのです。

でも楽しかったローラー式洗濯機は、あっと言う間に、脱水機付洗濯機に駆逐され、そしてそれもやがて全自動洗濯機に取って代わられ、さらには乾燥機付全自動洗濯機に覇権が移りました。いまではローラー絞り機の想い出を話しても、だれも反応してくれません。
奢れる者は久しからず、の言葉どおり、ぼくのローラー絞り機体験も春の夜の夢の如く、はるか昔の伝説になってしまったのです。


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