日々速度を速めている情報通信社会の進化。20世紀の終りから今日までのわずか10年間を振り返っただけでも、私たちの日常生活はまったく様変わりしてしまった。その主役はインターネットと携帯電話。そして今また、新たな進化の兆しが芽生えつつある。それがIPフォンだ。
驚異! IPフォンは毎年二ケタで利用率が増加
最近ではほとんどのISP(Internet Service Provider)に加入すると、IP電話サービスが"おまけ"で付いてくるようになった。IPフォン専用の電話番号「050」番もそれほど珍しいことではなくなって、IP電話はいよいよ本格普及時代にはいった。
とは言えまだまだIPフォンの使用、導入に二の足を踏んでいる向きは多い。ただ"安い""新しい"だけでは動かないのが今どきの日本人。20世紀末からの約10年間、IT革命というすさまじいばかりの地殻変動の中で、新技術、新製品の大津波に翻弄され、かなりの痛手を蒙ってきたからだろう。
IPフォンの普及もそんな事情を反映して、急激な普及にはいたっていないかのように見える。ところが、今年3月の総務省の発表によると、IPフォンの平成16年12月末現在の利用者は全国で約782.9万件、対前期比11.4%の大幅増加であるという。同省によれば増加の要因は「IP電話サービスが主にプロバイダ(ISP)等のインターネット接続サービスとセットで提供されていることや、IP電話の利用料金が安いことにある」としている。
表1.IP電話の利用状況
3月4日総務省発表。
平成16年度第3四半期(12月末現在)でのIP電話の利用数について電気通信事業者よりの報告を受けて、取りまとめたもの。
また、あるアンケート調査によれば、インターネット特にブロードバンドを利用しているユーザのおよそ半数あまりが、利用しているかどうかは別としてすでにIPフォンに登録しているともいう。
もしそれが事実なら、実は意外に多くのIPフォンユーザが、すでに水面下でその恩恵にあずかっていることになるのだ。
IPフォンは、大企業は言うまでもなく、特に中小企業で導入する傾向が強い。その最大の理由は、社内通話や同じプロバイダを使ったもの同士では通信料金が無料だから。IPフォンは安さが最大の魅力ということは間違いない。しかし果たしてそれだけなのだろうか。
IPフォンの仕組み
そこで、これまでの一般回線電話とIPフォンを、その仕組みに遡って検証してみよう。いったいIPフォンには、どんな特長があり、そして何がお得で便利なのか。デメリットは本当にないのだろうか。
一般回線電話はご存じ通り、NTTがまだ電電公社の時代、百年あまりの年月をかけて全国に張りめぐらせた電話線による電話網である。音声を電気信号に変え、その微弱な信号を遠方まで届けるためにいくつもの交換機を経て声を繋いでいるため、距離と設備に応じて通話料が課金される仕組みである。
インターネット時代になって、パソコンが通信手段の一方の主役に躍り出てきた。インターネット回線はここ数年来のブロードバンド化で一気に大容量のデータが送れるようになり、そのデータの中には画像はもとより音声データも含まれている。ここからインターネットを利用するインターネット電話と、ブロードバンドを利用するIPフォンが登場してきた。
インターネット利用者の多くがブロードバンド化している現状から言えば、インターネット電話とIPフォンとの違いはほとんどなくなってきていると言うべきかも知れない。
さらにインターネットを介さないでまったく独立したIPフォン専用線、IPネットワーク網を使ったIPフォンも登場している。これはパソコンの有無とは無関係に一般加入電話と同じ電話機同士でのみ通話するIPフォンである。
広い意味でIPフォンと言えば、ブロードバンドを利用したインターネットIPフォン(インターネット電話)とIPネットワーク網を利用するIPフォンが含まれている。
図1.IPフォン・インターネット電話・一般回線電話の仕組み
最近のIPフォン(インターネット電話も含まれる)の大きな特長は、パソコンを持っていなくても通話でき、特別な設備がなくてもこれまで使っていた電話機さえあれば利用できるところにある。
かつてインターネット電話といえば、パソコンとパソコンで音声を送受信しあって通話するという、どこか暗いイメージをぬぐえなかった。しかしパソコン同士による通話(PC
to PC)も、あるいはパソコンと電話機(PC to Phone)も、そして現在のIPフォンの主流である電話機同士(Phone to Phone)の場合も、基本的には何も変わっていない。回線がブロードバンドであれば音声データが送れ、それを電話機で送受信するだけなのだから。
考えてみれば、ブロードバンドの普及がインターネット網への常時接続を可能にさせたのはIT社会の実現にとって画期的なことだった。それはつまり、距離による課金はほとんど問題にならなくなり、また利用時間による課金も大幅に低下させることになったからだ。
IPフォンが、NTT回線に頼らず専用線であるIP網を使うことによってさまざまな利用者メリットを提供できるようになったのは、ひとえにブロードバンドの普及の恩恵に拠っている。
インターネットの常時接続が可能になっているということなら、すべてのIPフォンによる通話も常時接続できるはずなのだが、実際にはそうは行かない。たしかに同じプロバイダ加入者同士なら長時間通話が無料になるが、他のプロバイダ同士の通話の場合、NTTを含めた一般回線電話網を介していることが多いからだ。IP電話も完全に固定料金制にはならず、多くのIPフォン業者が生まれるわけがここにある。
メリットとデメリットを知っておこう
IPフォンの主なメリットを挙げると、
- 通話距離、時間にかかわらず大幅に通話料金が安くなる。
- 同じプロバイダ加入者同士の場合、何時間通話しても無料。
- 別のプロバイダ加入者からの電話を受けた時でも、電話をかけた側の通話料金が安くなる。
- いままで使っていた電話機をそのまま使える。
- いままで使っていた電話番号がそのまま使える。また「050」で始まるIPフォン専用の電話番号が割り当てられる。
同じプロバイダに加入しているもの同士なら通話は無料、というのは考えれば考えるほど大きなメリットで、企業が着々と導入に踏み切っている一番の理由である。
さらに現在では、大手のプロバイダが相互にIPフォン回線の乗り入れを許容しあっている。IPフォンのグループ統合が進めば、別のプロバイダ加入者同士でも通話無料というケースが増えてきている。
IP電話のプロバイダ別料金体系表(2005.3月現在)
社
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プロバイダ初期費用
|
月額料金
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機器レンタル(月額)
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通話料金(3分)
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050
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A社
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0円
|
0円
|
890円
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7.5円
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有
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B社
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800円
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0円
|
780円
|
8円
|
有
|
C社
|
0円
|
280円
|
280円
|
8円
|
有
|
D社
|
500円
|
280円
|
280円
|
8円
|
有
|
E社
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500円
|
380円
|
490円
|
8円
|
無
|
F社
|
500円
|
280円
|
無
|
8円
|
有
|
G社
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0円
|
0円
|
300円
|
8〜32円
|
無
|
*初期費用は既に加入している場合無料。その他NTT契約料、局内工事料は別途必要。
*月額料金にはNTT基本使用料は含まれていない。
*いずれの料金も消費税は含まれていない。
もうひとつの大きなメリットである、PCが介在しないでもIPフォンを利用できる、というのは、企業と違って常時パソコンにふれているわけではない一般家庭にとって朗報かも知れない。しかしこれには、若干の誤解もある。というのも、最初にIPフォンを導入する時にはブロードバンドに接続するパソコンでの設定準備が必要の場合があるからだ。一度設定してしまえば、あとは基本的には電話機同士だけで通話できるが、まだまだパソコンから完全に独立しているとは言えない。プロバイダによって設定方法、登録方法に違いがあるので、詳しく聞いた方がよい。
メリットばかりでなく、IPフォンのデメリットも知っておくことは大切。良いことずくめではないことを知っておかなければ、導入してから戸惑うことになる。デメリット対策も含めて挙げてみると、
- 市内通話は料金が高い場合がある。
→対策:市内通話は一般加入電話を使用する。ただし市内外とも同じプロバイダ同士なら通話無料。事前に、かける相手によって電話番号を電話機に登録しておいたほうがよい。
- IPフォンからは緊急電話(110番、119番)が使えない。
→対策:一般加入電話を併用すること。緊急の場合には110番をかければ、自動的に一般加入電話に切り替えてくれる。
- パソコンとIPフォンを同時に利用している場合、サイズの大きいデータを送受信すると、IP電話による通話に不具合が発生する時がある。
→対策:大きいデータを送受信する必要がある場合には、IPフォンの前後に行なうのが望ましい。
- 一般加入電話の場合に比べ、IP回線への接続機器の変更つまりはプロバイダの変更に手間が掛かる。
→対策:IPフォン普及期の過渡的な問題で、止むを得ない。
- プロバイダが違う場合は無料通話にならない。
→対策:それでもIPフォンの場合は一般加入電話よりも半額以上安くなることがある。
- ブロードバンド回線に不具合が生じた時には通話が不可能になる。
→対策:大規模災害などの理由で回線が切れれば通じないのは、無線でない限り電話回線の場合どれも同じ。IP網自体にトラブルが起こる可能性も考えて、一般加入電話には必ず加入しておくこと。また登録するだけで基本料金が掛からないプロバイダもあるので、同時に加入しておくこともできる。この場合、常時接続しているプロバイダの回線が知らないうちにトラブルを起こしていたため、自動的に一般加入電話回線で通話してしまい、高額な通話料が請求されることを防ぐ意味もある。
一番の課題はISP選び
現在ではほとんどのプロバイダがIPフォンサービスを提供している。料金体系や所属するIPフォングループ、組合せサービスや通話品質などなど、いちいち比較するときりがない。ユーザの悩みは結局、プロバイダ選びなのではないだろうか。
そこでIPフォン導入に興味を持ったら、まず最初に、現在加入しているISPが提供しているIPフォンサービスについて問い合わせることをおすすめする。というのも、初期費用や組合せサービス(マイラインや携帯電話契約上の割引サービス)を考えると、新規に契約するよりも安くなるかさほど変わらないことがしばしばだからだ。それに、ISP側も他社に移られないよう配慮してくれるはずだから。
その上で、一般加入電話と併用することは必須。さらに慎重な向きには、加入無料で使った分だけ料金を請求されるIPフォンに登録しておけば万全だろう。
通信技術はまだまだ進化している。今IPフォンに変更しても、また近いうちに新しい、優れた通信技術が開発されるかも知れない、という危惧は当然だれもが抱いている。しかし現実に、毎月数万円にも達する通信料金にあえいでいるユーザは多いはず。1年間にすると数十万円の出費を抑えられるとすれば、IPフォンに切り替えるメリットは大きい。
それに、IPフォン専用番号「050」に一般加入電話からかけてきた相手も、通常より通話料金が安くなるとしたらどうだろう。無料通話の0120はお客にメリットはあるけれども料金は企業持ち。でも050なら、どちらの懐にも優しいというもの。
あなたもそろそろ、IPフォンの導入を考えてみますか。
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