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ほっ!とコーヒー 第16回

駄菓子屋さんよ! 永遠に


こう見えてもご幼少のみぎり、オイラが行きつけの駄菓子屋は3軒、いや4軒あって、そのいずれの店にも、そこはかとない独特な匂いがあったものだ。店の名前はゲンジマとサカイ、あとのふたつはもう覚えていない。

駄菓子屋の楽しみは大きくふたつ。ひとつは選ぶ楽しみ、いまひとつはクジ付菓子である。10円で1時間余、店内を徘徊してもおばちゃんは怒らない。10円で一世一代の勝負をかける醍醐味を味わえる。そう、10円は偉大な存在だったのだ。

学校から帰ってランドセルを玄関に放り投げた瞬間、宿題など世間の雑事はすっかり頭の片隅から失せ去るのが、当時の子どもたち共通の生態であった。
 手の汗でヌルヌルになった10円玉に万感の想いを込め、ガタピシの引戸を開ける。やたら低い天井から、はだか電球がひとつゆれているだけの暗くてせまい店内も、子どもの眼には至上のテーマパークと映っていたものだ。
 壁から天井から床から、フ菓子やゼリー菓子、当たり付ガムや安物のチョコが吊るされ懸けられ、積み上げられている。ここは一種の胎内巡り、不思議と気持ちが安らぐ空気に充ち満ちていた。

季節毎に商品内容が変わるのも楽しみのひとつ。学校でも家庭でもない、オイラが季節を感じ取ったのは駄菓子屋さんからであったかも知れない。お正月には凧や独楽、羽子板や福引きもあった。夏休みが近づくと蝉用のトリモチや魚捕り用のたも網、さまざまな花火、そして安物の水中眼鏡や浮袋も店先にゆれていた。
 季節とともに年齢とともに、いつも町の中心であり続けたのが駄菓子屋さんだった。

ところが中学生になってお小遣いが20円になった途端、駄菓子屋から足が遠のいてしまったのはオイラだけのことだろうか。今では20円も持っているオイラが、どうしてガキどもの群れる駄菓子屋に出入りしなければならないのか、と思ったのだ。
 駄菓子屋卒業。思えばそれは、子どもが大人へと成長していくための第一歩だったかも知れない。そして、ふと立ち止まり、90度道を曲がって向かった先が、1枚20円のお好み焼きをその場で食べさせてくれる、やや格上の駄菓子屋さんであった。
 思えば情けない。でもあの店はあの頃のオイラの憧れだったんだもの。


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