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UP TO DATE バランス・スコアカード
〜企業変革のための導入のポイント〜

株式会社 富士通総研
第一コンサルティング本部
金融コンサルティング事業部   金高 篤氏


1.バランス・スコアカードとは

バランス・スコアカードとは、1990年代初頭にハーバード・ビジネス・スクールのロバート・キャプランと経営コンサルタントのデヴィッド・ノートンが発表した経営管理手法で、その大きな特徴である「4つの視点」 (財務、顧客、業務プロセス、学習と成長) については、皆様もよくご存知と思います。

具体的には、例えば富士通総研では、バランス・スコアカードとは、「ビジョン・戦略の実行をマネジメントし、遂行するための経営管理および業績評価に関する考え方と仕組み」と定義しています。つまり、企業の定めたビジョンや戦略を絵に描いた餅にすることなく、戦略目標やKPI(主要業績評価指標)(*) 、具体的な施策などに落とし込んで、実際に遂行し、着実に成果を上げて行くためのツールという位置付けです。

4つの視点は、バランス・スコアカードの名称の通り「バランス」を表現している (例えば、次のような事項間のバランス) と、言われています。[図1]

[図1] 4つの視点とバランス
  • 財務と非財務
  • 過去〜将来
  • 内部と外部
  • 株主・顧客・従業員等のステークホルダー

これらは、日本的な経営の現場では、極めて常識的で新味の無い切り口のようにも感じますが、当時の米国では、主に財務を中心とした短期的な業績を表す経営指標が使われていたという背景があります。1980年代の日本企業の成功と躍進の影響を受けて経営システムの革新を図ったとも言われ、その意味で、極めて大きなコンセプトの転換であったと考えられます。

なお、4つの視点の間には、学習と成長→業務プロセス→顧客→財務という因果関係が存在し、これがバランス・スコアカードの基本的なフレームワークを形作っています。[図2]

[図2] 視点間の因果関係

ここで大切なのは、タイムラグがあっても、最終的には財務の視点において成果を発現することが必要ということです。例えば、学習と成長の視点としては重要であっても、財務的に明らかな成果が発生しないような事項は、取り上げるべきではありません。将来の財務的な成果を得るため、タイムラグを許容したうえで、顧客を中心とした業務プロセスや組織としての学習と成長のために先行投資する、というイメージです。

また、企業の属する業種や提供商品・サービスの内容等によっては、顧客・業務プロセス・学習と成長の各視点の区別が必ずしも明確でないケースもあります。このような場合には、自社にとって最適な視点に分類するという観点が重要です。更に、これら一般的な4つの視点で不十分であれば、独自の新たな視点を創設する等、視点自体を加除修正することも考えられます。

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2. バランス・スコアカードの導入手順とポイント

バランス・スコアカードの導入手順は、例えば、以下のようになります。[図3]

[図3] バランス・スコアカードの導入手順

(1) フレームワークの策定

  • 目的の確認
  • 戦略等の確認と対象組織や範囲の確定
  • 各視点の定義

(2) 戦略マップの作成

  • 戦略目標の設定
  • 戦略目標の各視点への配置 (マッピング)
  • 戦略目標間の因果関係の確定 (リンク)

(3) スコアカードの作成

  • 指標の収集
  • KPI(*)と先行指標の設定と目標値の決定
  • 施策の策定

なお上記では、戦略は既に明確に策定されているものが存在する (経営計画書等) と想定していますが、不明確な場合等は別途策定する必要があります。また、戦略マップの作成作業のステップで、戦略の問題点が明らかになった場合等にも、戦略の修正や再策定などが必要になることがあります。

我々は、バランス・スコアカードを導入する際のポイントは、以下の点であると考えています。

  • 自社の戦略等について、よく確認すること。
  • 導入する組織や範囲について、よく検討すること。
  • 戦略目標やKPI(*)は、極力絞り込みをおこなうこと。

バランス・スコアカードは、概念自体は極めてシンプルで自由度の高い経営管理手法です。よくご質問を頂戴する「導入の際のテンプレート」などは、実際にはあまり必要ないと思いますが、戦略や組織等に対する深い検討は非常に重要になります。また、既存の経営管理や業績評価の仕組みとの調整も必要で、フレームワーク策定の段階が一番重い作業です。これが不十分であると、戦略マップやスコアカード作成の段階で、議論が迷走してしまう場合があります。

また、戦略目標やKPI(*)の絞り込みは特に重要です。例えば、一般的には、KPI(*)の数は、各視点4〜5個、合計20個程度が望ましいと言われます。この数は少ないようにも感じますが、バランス・スコアカード導入の目的である戦略の実行とは「何をやるのか」ということであり、選択と集中の考え方が不可欠です。これから将来に向けて、何を捨て、何を優先してやっていくのか、そして中長期的にどんな財務面の成果を得ようとしているのかという因果関係が必要です。

「バランス」という言葉のイメージから、全社の全ての事柄を1枚のバランス・スコアカードの枠組みに盛り込んで取り扱うことができるような誤解を与えているケースが見受けられます。例えば、財務数値に直結しにくいインフラ的な業務の評価は、バランス・スコアカードを策定するレベルを全社から何段階か落とし、また対象範囲を限定することで、対処します。


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3. バランス・スコアカードの導入効果

バランス・スコアカードの導入効果としては、主に次のような点が挙げられます。

  • 戦略の展開と可視化の実現
  • 定性的な項目を含めた総合的・多面的な業績の評価
  • バランス・スコアカードを作成する過程でのコミュニケーション効果

バランス・スコアカードでは、特に戦略マップを作成することにより、戦略の展開・可視化と因果関係の明確化が実現されます。戦略マップは、縦軸に4つの視点のエリアを設定し、そこに戦略目標を配置 (マッピング) 、更に戦略目標間の因果関係をリンクで繋いで表現した簡単なチャートです。[図4]

[図4] 戦略マップのイメージ

スコアカードは、縦軸に4つの視点を、横軸に戦略目標、KPI (主要業績評価指標) (*)、目標値、 (先行指標、目標値) 、施策等を配置したマトリックスの形式で構成されます。スコアカードでは、定性的な項目もスコア化することにより、定量的な項目と同様に評価することが可能となり、総合的・多面的な業績の管理ができるようになります。また、KPI(*)に加えて、その先行指標も設定することで、より早い段階でいろいろな打ち手を考えることが出来る (将来管理) とも言われます。[図5]

[図5] スコアカードのイメージ

そして、例えばこのような戦略マップとスコアカードを作成する過程では、通常、企画部門・営業部門・製造部門等の組織横断的なプロジェクトの組成が必須であり、そこでおこなわれる戦略レベルから施策・実行レベルまでの種々の議論を通じて種々のコミュニケーション効果が得られます。

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4. 富士通の取り組みと今後の展開

次に、バランス・スコアカードに関する富士通の取り組みを、ご紹介します。

(1)HPS (ハイペリオン・パフォーマンス・スコアカード)

バランス・スコアカードを実際に構築・運用するためのツールとして、HPS (ハイペリオン・パフォーマンス・スコアカード) を、ご用意しています。HPSは、バランス・スコアカードにおける戦略マップやKPI(*)の目標達成状況等をグラフィカルに表示する機能を持ち、ビジネス・コックピットとして有効にお使い頂けます。

(2)バランス・スコアカードのコンサルティング

富士通グループでは、バランス・スコアカードの導入に関する各種コンサルティングを実施しています。例えば、我々富士通総研金融コンサルティング事業部では、金融機関向けにバランス・スコアカードの導入検討を支援した実績があり、現在は本格導入を視野にいれて経営管理システム全般の再構築を支援しています。
また、明示的な「バランス・スコアカードのコンサルティング」というものだけでなく、例えば「IT投資の評価」プロセスや「コールセンター等のシステム導入効果検証」等の案件に、バランス・スコアカード的な考え方を組み込んでソリューションを構築しているケースも多々あります。

バランス・スコアカードは、経営管理ツールとして日本の各種業界に十分定着しつつあると感じています。近頃は、メーカー・流通業等はもとより、金融機関や病院、そして地方自治体等の公的機関における導入事例も、増加しつつあるようです。
今後は、単にバランス・スコアカードの導入を図るだけでなく、導入後の経営成果の検証と修正・再構築、バランス・スコアカードも含めた経営管理全般の高度化という次なるステップをも視野に入れて、ソリューションを検討する必要があると考えています。


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【用語解説】

KPI (主要業績評価指標)
業務の結果を直接表現し、戦略目標の達成度を測定するのに最も適した指標。成果指標、成果尺度等とも呼ばれる。

(監修: 編集委員 千葉 哲氏   旭電化工業株式会社)

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